美醜も貞操もあべこべなファンタジー世界を脱却しようと足掻くメンタルおっさん男(の娘)の話   作:シエスタさん

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11話 休日を過ごそう

 薄暗い洞穴。我が寝床に侵入してきた不遜の輩。

 人間とかいう忌々しい種。そのオスと近しい矮躯の癖に漂うメスの匂い。

 大きな目に、ひしゃげていない鼻筋。か弱きオスの個体を不出来に真似た姿。

 色黒ながらも戦場を舐め腐っているかのような、無防備な卵を想起させる滑らかな肌。

 今まで蹴散らしてきた人なる女どもも、忌々しい存在であった。

 とはいえ、こやつらは醜い。あまりにも醜い存在。

 眼前に佇むは醜悪極まりない二匹のインプ。

 

 「初手の~!グルームリゾナンスぅ~」

 

 その片割れが地の底から響くような忌々しくもおどろおどろしい声で呪文を放つ。

 その瞬間、全身が悪寒に包まれ、まるでこの世界に自分とこの怪物二人しか存在しない悲痛な寂寞感に襲われる。

 

 「ぶるぐぐあぁ!」

 

 人より遥かに巨大なサイズのアルマジロ。

 その巨体から周囲の壁を揺さぶるほどの絶叫を繰り出す。

 直後、体を丸め眼前の目標に体当たりを敢行。早くあの悪鬼どもを滅さねばならない。

 

「むーん。えいっ」

 

 しかし乾坤一擲の攻撃も虚しく、何処をどう蹴ればそうなるのか足払いの要領でアルマジロは空を舞った。

 我が身に起こった出来事に脳の処理が追い付かない。

 

「はいはーい、隙だらけ~。プチファイア。ファイア。ファイアにファイア、メガファイア~」

 

「合間に連打連打連打~なんか魔法の力を込めた~ハイキーック!」

 

 熱い。熱い。熱い。

 自慢の殻、装甲が焼け爛れ、ひび割れてゆくのを感じ、最後には強烈な衝撃がわが身を襲う。

 その瞬間、自分の身体が崩れゆくのを理解する。

 このダンジョンで生まれ落ち、これまで負け無しだったはずなのに、こんな小童どもに負けるとは……。

 かくして洞窟エリア一帯の主であるアルマジロはドロップ品を遺し、敗れ去ったのだった。

 

 

 

 

「ってのが昨日のダンジョン攻略だったんだよね~!」

 

「ルルの足技は日に日に鋭さを増す。絶好調、ぶいっ」

 

「んだよ!アウリィって兄さんの話はどうしたんだっつーの!」

「君たちの事はどうでもいいって!あのお兄さんの話を聞かせてよ~!」

 

 方々からヤジが上がる。

 ここは冒険者ギルドに併設された酒場。

 そこでは新進気鋭の実力派コンビ、リリとルルを中心に冒険者達が話に花を咲かせていた。

 

「おにーさん?それもう!リリとルルが戦ってるのを、見るからにハラハラした様子で見守ってくれてたよっ!手なんて組んじゃったりして!」

 

「終わったら駆け寄ってきて怪我はない?って心配してくれた。敵を殴った手を取って傷が無いか見てくれちゃったりも~?したり?」

 

 

「ひゃあ~、羨ましい!」

「あ、ありえねー……!そんな男マジでいるのかよー!」

「え?え?手、手!どうだったの?柔らかかった?硬かった?どっち~!?」

 

 とはいえ話題の中心はこの場にはいないアウリィ。

 最近裏通りのギルドのアイドル的存在になりつつある、世にも珍しい亜人とパーティーを組む男。

 ここ数週間の彼らの活躍の合間に他の冒険者とギルド内で鉢合わせる事は数知れず。

 無表情ではあるものの、柔和な声で挨拶をしてくれるギルドのオアシス。それが現状、彼の亜人冒険者達からの評価だった。

 

 

「ああ……!いいわぁアウリィ様……!アラクネの私にも気味悪がらずに挨拶してくれるもの。……ねぇ、どういう経緯でパーティーを組むようになったの?」

「あっ、それ私も気になる~!普通、男の人に話しかけるなんて通報されたり訴えられたりしそうで怖くない?私達コボルト族なんて男性の衣服に毛が付いた時点で魔法鑑識からの微物検査コースだもん」

 

 散々肩で風を切り、派手な口上を上げていたリリが明らかな動揺を見せ、口を噤む。

 

「むぐっ!?え、あ、あ~……それはどうだったかな~?」

 

「ふっ、内緒。でも強いて言うなら、お兄さんとの出会いでルルの半分はお兄さんになった。ふふっ」

 

 一方のルルは意味深な発言で場をかき乱す。

 勢いを増す追及。加熱する憶測。

 裏通りの冒険者ギルド。そこに所属する大勢の亜人を巻き込んだガールズトークは混迷を極めるのだった。

 

 

 

 

 

「えーっと、調味料はこれでいいかな。食材はドロップ品が見込めるから最低限でいいとして……」

 

 今日は冒険、ダンジョン攻略はお休みの日。

 僕は開拓都市の中で買い出しを行っていた。

 資金面にはかなり余裕が出来、二人の装備も更新したばかりだ。

 もう初級冒険者の卒業は近いと言って差し支えないだろう。

 

「こっちは……あまり行かない方がいいね」

 そんな中迎えた休日。

 最初は買い出しだけでも護衛と称して二人が付いて回る事が多かったが、今日は違う。

 表通りと裏通り、その中間の店をメインに回る事を約束に一人でショッピングというわけだ。

 裏通りの奥に行き過ぎると厳しい罰則を前にしても極端に走る亜人がいるかもしれない。

 表通りだと何かあった時に広すぎるのもあり、駆け付けられない。

 そういった要素からだ。

 だから通るのはそれほど大きくない商店街のような道。

 

 

「でも久しぶりの買い物、楽しいな……。あっ、これ……」

 

 ショーウィンドウに並んだ可憐なスカート。

 自然と目が奪われてしまう。村で頻繁に渡されていた下品で派手派手しいものとは違う、清楚な一着。

 前世がいい年こいたおっさん、しかも不細工だったとしても。

 今世はスカートをはき続けてきた自分の容姿を慰めにする程のナルシズムを拗らせてしまった少年だ。

 羞恥心や自分自身の疑念はあるが……。正直に言うと欲しい。履いてみたい。

 既に頭の中で手持ちの衣服やアクセサリーとのシミュレーションが始まり、止まらない。

 

「お金は……全然余裕あるちょっとだけなら……」

 

 前世は男だっただろう!?と必死に呼びかける理性も僅かにあったが、それはそれ。これはこれ。

 僕の足はふらふらと店内へ引き寄せられて行くのだった。

 

「いらっしゃいませー!何かお探しですか?あら、素敵なお方ですね~。でも当店をご利用頂けましたらもっと素敵に!ご予算からお伺いしてご用意する事も出来ますよ!」

 

 それほど大きくはないが小奇麗な店内。

 そこで出迎えてくれたのは人間の女性だった。

 

「えっと、あの。飾ってあるあのスカートが気になりまして……」

 

「はいはい!あちらのスカートですね!試着からでも構いません、どうぞごゆっくり……」

 

 結果的に言えば最高のショッピングだった。

 

「ふへ……、買っちゃった」

 

 親切な女性店員。最初は体格差と、村の女性と変わらない歪な顔のパーツ、分厚い筋肉に気圧されたが接客は丁寧そのものだった。

 スカートを試着した僕を見て一瞬惚けているのを目撃してしまったけれど、そこはプロ。

 買う意思を示すと淡々と会計を済ませてくれた。

 

 なんというか、村の女性たちって半端に手の届く位置に男性がいるから露骨に嫌らしい態度が出ていたのだろうか?

 恋愛経験は二度の人生においても乏しい自分にはわからないが、そんな気がする。

 

 その後もナンパしてくる人間の女性をやんわりと断り何事も無く別れたり、裏通りへ戻る際に緑の皮膚を持つゴブリンの少女とすれ違い様に挨拶をすると目を丸くされたり。

 

 やはりこの世界が自分の知る常識と何となく違うのだなと実感しつつ、リリとルルと合流予定の冒険者ギルドへ戻る。

 もしも地球に、日本に還れる事があっても僕はスカートを履くのだろうか。

 それは今考えても詮無き事だろう。

 

 

 ちなみに試着したスカート、物凄く気に入った。とても可愛い。

 自分で選べる事がこんなに楽しいだなんて。

 とても気に入ったので、そのまま履いて冒険者ギルドに戻ったら亜人冒険者全員が大歓声と共に湧き立つ羽目になった。

 リリとルルはちょこっとだけ怒った後はスカートをガン見していた。

 まあ……ちょっとくらいならいいだろう。

 

 「お前さんなぁ……。もうちょっと冒険者ギルドには冒険者っぽい服装で来るべきだろ……」

 

 それでも受付のおじさんには釘を刺されてしまった。反省。

 

 

 これが何てことない、この世界で今を生きる僕の、平和な日常の一コマ。その一つ。

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