美醜も貞操もあべこべなファンタジー世界を脱却しようと足掻くメンタルおっさん男(の娘)の話 作:シエスタさん
「パーティー昇格の為対人戦も視野に入れた依頼の遂行~?」
いつもの裏通り冒険者ギルド。
そこで提示されたクエストにリリは素っ頓狂な声を上げた。
「そうだ。お前らもそろそろルーキー脱却だろ?北の未開エリアは広大だが、パーティーのランクに応じて立ち入りを許可されているラインっつうのがあんだよ」
仏頂面のまま手元の書類を捲る受付のおじさん。
手渡された書類には昇格に十分なスコアを示す内容が記されていた。
日々のダンジョン攻略で獲得するドロップ品の納品だけでも金銭だけでなく、十分な功績を得ていたらしい。
「開拓都市から遠くなればなる程、危険は増える。もしかしたら都市が介入できない場所で冒険者同士のいざこざが起こる可能性すらある。これはそのための措置なんだよ」
「その際に自分の身を守れるか。そして人を相手取れるか。その試験というわけですか」
「そう。そうだよ。中々聡いじゃねえか」
その言葉に満足したかのようにおじさんはにやりと笑って見せた。
少し機嫌が良くなり、紙を捲る手つきが早くなる。
「確かにルル達、そういう経験はない。上手くやれる自信は、なくもないとはいえない。あるともいえない」
「うへぇ~、ちょっと面倒そう……盗賊捕まえろとかそんなんだったりするの?というか、ダンジョン勝手に挑んじゃいけないとか今知ったんですけど!」
一方でルルは不安気……不安気に?首を傾げており、リリは唇を尖らせて文句を垂れている。
かく言う僕はと言えば正直不安だ。
矢面に立つのは二人。僕はいつも通り後方支援……と言っても邪魔にならないように見ているだけ。
人を相手にした時、果たして冷静でいられるのか。
二人が人を傷つける様子を躊躇せずに見ていられるのか。
出来れば避けて通りたい道だが、そうもいかないのが悩ましい所だ。
「僕もちょっと対人は……二人に積極的に人を傷つけて欲しいとは思いません」
その言葉を待っていましたとばかりにおじさんが笑みを深めるのが見て取れる。
なんとあくどい笑いだろう。
「そういうお前らに朗報だ。お相手はただの野菜泥棒。ダンジョン近郊だがただの平和で小さな農村だぞ?良かったな、盗賊じゃなくて」
「「野菜泥棒?」」
二人の声が重なるのを聞きながら、僕も首を傾げる。
「野菜泥棒……ですか?」
「そうさ、いくら経っても解決しないから依頼として上がってきやがった」
野菜泥棒って。しかも小さな農村ときた。
普通、同じ村人同士の犯行だとあっさりとバレてしまうだろうし、村八分のリスクが尋常じゃなく高い。
一方、外部の犯行だとしたらそれはそれで謎だ。
小さな農村で何度も盗みを繰り返す。しかも野菜を狙い続ける理由がわからない。
余程食い扶持に困った者の犯行だろうか。
単純に村人達に捕まっていないだけでも不可解な話だ。
「犯行は村の人間じゃねえ。外部の者。居場所も凡そ見当がついている。外れの廃屋に潜伏している可能性が高い」
「成る程。しかしそれ程の情報が揃っていながらどうして……」
思いついた疑問を口にする。
もし冒険者崩れが盗みに走ったとしても、何故に野菜泥棒?
「ここからが厄介な話でな。捕まえようとした村人や冒険者は既に何人かいるんだよ。でも全員戦闘不能にさせられて帰ってきた。怪我一つねぇがな……」
と、まるで怪談話をするかのように声色を下げ、おじさんは言う。
「恐ろしい事に還ってきた連中、暫く気が触れちまうんだよ。この前帰ってきた人間の女パーティー連中なんて、全員が全員、時折亜人になっちゃう!だなんて赤子のような発作を起こすようになっちまった……怖ぇだろ?」
ま、一週間もしたら直ったんだがな。とケロリとした調子で語る。
亜人になるって……。正直既に亜人である二人と、忌避感を持たない自分には怪談話としては二流もいい所だ。
「それで亜人のいる裏通りのギルドに話が来たってわけですか」
「おうよ。別に怪我させられたわけでも、ましてや命を取られたわけでもねぇ。どうしても脅威レベルは低く見積もられているってわけだ」
「なーんだ!それなら大丈夫そうじゃん!ふん縛って取っ捕まえちゃえばいいんでしょ?」
「腕試しには丁度良さそう。気が楽になった」
さっきまでとは打って変わり、闘志に燃える二人。
これなら血なまぐさい話にならずに済むだろう。
僕としてもこれなら望むところだ。
野菜泥棒相手にも取っ組み合いで勝てる気はしないので、結局の所、二人任せになってしまうのだが……。
「じゃあそのクエストやります。受注させてください。二人もいいよね?」
「おっけー!リリに任せて!よゆー!よゆー!」
「むん。頑張る。これでもっと強い敵のいるダンジョンに行けるようになるしやる価値、アリ」
「おっし。じゃあ受注って事で。こっちが村の地図だ。よろしく頼んだぞ」
そう言って割と大雑把な地図が手渡され、それを大事に仕舞い込む。
「いやー良かった良かった。お前らが引き受けてくれて一安心だわ。なんたって被害者には亜人だっているんだもんな、ガハハ!」
「「え゛っ」」
何それ聞いていない。
「ちょ、ちょっと待ってください。そうなると話が変わってくるじゃないですか」
この段階に置いても一応僕はまだ大丈夫だ。
亜人……となると女性しか存在しないので、亜人になるだなんてうわ言を宣うようになるのは困ると言えば困る。
が、まるで女のような男になった身だ。本物の女の子になる幻覚、ショックと言えばショックだろうが……。
「僕は大丈夫かもしれませんが、リリちゃんとルルちゃんは……!」
その内直るとはいえ、二人が精神的にでも傷つくのは出来れば避けたい。
そう声を荒げようとした瞬間、手で制される。
「まあ待て。何も俺だって無策でまだまだひよっこのお前らにこの依頼を斡旋したわけじゃねえ」
力強く、真剣な表情でこちらを見据える。
その眼力に気圧され、自然と拝聴する姿勢となってしまう。
「亜人の連中も同じく一週間程度うなされる羽目になった。だが、その時のうわ言……いや、戯言かな?まあいいわ、それ。なんて言ってたと思うよ?」
「何て言ってたって……」
「亜人なんて生まれつきの話だし、ねぇ~?」
「うーん、予測不能」
「それがな、私の王子様がいなくなる~。だとか、人間の女に浮気された~。だとか宣ってんだよ」
今度は先ほどと違い、あきれ果てたような口調。
おじさんはなんとも投げやりな態度になってしまった。
「いや、おかしいだろ。お前ら亜人に男性のパートナーなんているわけねーだろって話だよ。世の男性百人中、百人が人間の女選ぶわ。なーにを見せられたのか興味の欠片もねぇけどよ……」
呆れ交じりのため息がおじさんから零れる。
「確かに、亜人の未婚率なんで100%だもんね、100%」
「うむ。国営精子バンクで高いお金を払えば子供は作れる。でも結婚なんてリリの大好きな御伽噺レベル。眉唾」
「なんでそこで喧嘩売ってくるのよー!」
「せ……精子バンク?いや、それよりもなんで僕らにこの話が?」
なんか闇の深そうなワードが聴こえたが今はそれどころではない。
流石に達成の見込みがあるからこそ依頼を振られているのだろうが、内心穏やかではいられない。
「これ、お前らならなんとかなるんじゃないかって話が持ち上がってな。ほら、その。リンゲージって奴。それでなんとかなるだろ」
「「あ~、はいはいはい……」」
そこ、ハモらないで欲しい。
どういう事?
「つまりどういう事ですか?」
僕を見るおじさんの温度感が一段階下がるのを自覚する。
「聡くねえなあ。つまりだな、王子様、そこにいるから何とかなるだろって話だよ」
「「確かに~」」
……ハモらないで欲しい。
――でも。
「た、確かに……?」
二人から伝わる想いがそれを無下に否定することを許してくれない。
「そ、確かに~ってことで。じゃ、依頼。よろしくなっ!」
そう言う事になった。
初の対人依頼、こんなのでいいのだろうか……。
な、なんて丁寧な伏線回なんだ……。
あ、ちなみに精子バンクのくだりはそのうち回収します。しないかもしれません。