男の娘が美醜貞操逆転のあべこべファンタジー世界から脱却しようと足掻く話 ~それでもスカート履くのを止められない~ 作:シエスタさん
無事に野菜泥棒、ナズナを捕まえることに成功した。
これまでの抵抗の特徴からも、彼女が今回の事件の犯人である事は確定的だろう。
後は彼女を農村まで連行し、確認を取り、ギルドへ引き渡すだけなのだが……。
「お嫁!さん!ごっこなんて!リリだって!したこと!無い!のに!」
「おらおらー。転がれー蹴とばすぞおらー」
「ひえぇ……!ぼ、暴力反対ッス~!」
既に現場である廃屋でリリとルルによる尋問……?
いや、拷問……やっぱり尋問かも……。
兎に角独断で尋問が開始されていた。
簀巻きにされリリとルルの間を蹴り転がされひたすら往復させられる責め苦。
うん、これ尋問じゃないな。
「堪忍!堪忍ッス!は、話し合いを所望するッスよ!」
「うるせー!そういうのはおにーさんの指の味をリリに懇切丁寧にレビューしてからする話よ!」
「そもそもこの件をギルドに報告すれば男性への加害で死罪かよくて終身鉱山送り。泣いても喚いても無駄。ぶち転がす」
「そ、それは……!赤ちゃんに化けてるあっしも、幻術で作ったあっしの偽の嫁さんも全然嫌がらないからいいかなって……あひぃん!」
リリの鋭いローキックがナズナの尻に炸裂する。
これでは埒が明かない。
さっさと間に割って入り、本題に入る。
「あー、待って待って。ちょっといいかな。ナズナちゃん……だっけ?君が野菜泥棒の犯人で間違いないのかな?」
素直に認めるとは思えないが、一応そう尋ねる。
言質を取れれば話は早いんだけど……。
「へ?あー……いやぁ?あ、あっしは野菜泥棒なんて知りやせん……」
ガァン!
廃屋に放置されていたのであろう。
古びた椅子がルルの足技により、木っ端微塵になる。
ちょっと行儀悪いよ。
「ひぃ!あっし!あっしッス!野菜を盗んだのはあっしなんスよぉ~!だから蹴りだけはご勘弁を~!」
話、思ったより早かった。
こうなれば後は農村へ報告し、ギルドへ引き渡してクエスト完了だ。
彼女には悪いが、怪しげな術を使う以上このまま連行させて貰うことにしよう。
その旨を告げた所、瞬く間に青ざめたナズナは陸に上がった魚のように飛び跳ね始めた。
「ま、待ってくださいッス!話を!話を聞いて欲しいッス!これには聞くも涙語るも涙の事情が……」
「おにーさん、なんか五月蠅いからこの獣人、猿ぐつわして運んでもいーい?」
「同意」
「ノォォォォ!」
必死に身を捩らせ、周囲を転がり跳ね回るナズナ。
身の危険を察知した芋虫のようだ。
あまりに惨めな姿に少しばかり同情してしまう。
「わかった、わかったよ……。聞くだけ聞いてあげるから……」
とはいえ、話を聞いたところで罪は罪だ。
どうしようもない。
主な罪状は野菜の窃盗なので賠償金を払えば何とかなる可能性はあるが……。
見た所無一文だろう。正直ここからどうにかできるとは思えない。
「あ、ありがとうッス!話すと長くなるッスけど……」
「手短に話す。ハリーハリー」
ダンダンとルルが床を踏み鳴らす。
というかさっきから君、機嫌物凄く悪くない?
「ひぃ!だ、騙されたんスよ!人間の女連中に!この辺のダンジョンに財宝がある、一緒に一山当てようって!体よく使われた挙句に気絶させられたッス!分け前どころか服以外の持ち物全部奪われたんスよ~!」
早口で捲し立てるナズナ。
その必死な形相には嘘を付いている様子は微塵も感じられない。
「あ、あ~……そ、そうなんだ……」
「おーう……ちょっとわかる……」
とここで、毒気を抜かれたらしい二人の手が止まる。
うーん。どこかで聞いたような話だ。
この世界の人間の女性冒険者達がヤバい人揃いのように思えるが、案外そうではない。
開拓都市では普通に色目を使われたり、ナンパされることもあるが、大半は話の分かる人たちだ。
中には強引な人もいるが……。
そういう人相手にはリリとルルの肩を抱いて見せるとハトが豆鉄砲を喰ったような表情で去っていく。
……いつも女避けに使ってごめんね、二人とも。
「それは……確かに気の毒な話だね」
話が逸れた。確かにあり得ない話ではないと身をもって知っている。
しかし、それでも。
「だからといって独断で見逃すのもなぁ……」
盗んだ野菜の弁償。そもそもの窃盗罪。
捕まらないために抵抗した際、生まれた被害者たちへの見舞金。
「これらを考えると君のやった事は許されないよ。ちゃんと罪を償わないと」
「それを承知で!お願いッス!後生ッス!そ、そうだ!身元引受と保護観察更生制度!ギルドにはあれがあるッス!と、取引を所望するッス!」
保護観察更生制度。喧嘩っ早かったり何かとダンジョンや依頼先でのトラブルの多い冒険者に対する一種の救済措置。
パーティー単位やもっと大所帯のギルドなどが責任を持ち、うちで面倒を見ますので……。というものだ。
当然、期間中の再犯はパーティーやギルド全体まで責任追及が波及する。
そもそもだ。
「ちょっと都合良すぎない~?同情はするし、庇ってあげたい気持ちも少しは出てきたけどさぁ……」
「この事件で発生した賠償金に保釈金。元が野菜だから金額は大した事が無いにしても、流石にルル達が払う道理はない」
これだ。リリ達の言う通りなのだ。
元々身内であるパーティーメンバーがやらかしたのなら庇い、お金を立て替えるなりする意味はわかる。
だが、今回のケースはギルドも想定していない制度の使い方になるだろう。
「だから取引!取引なんスよ!所詮抵抗だって幻術で追い払っただけに過ぎないッス!罪は軽いはずッスよ!話だけでも!」
取引?現状、彼女に出せるものと言えば純粋な労働力でしかない。
ただ、それも真面目に罪を償い、何かしらの労役に就けば解消される話だろう。
それが多少過酷であろうとも。
「……テレビ」
「……!?」
ハッと息が止まる。
今、ナズナは何といったか?前世でしか聞かない、そして存在しないはずの……。
「電話!掃除機!え、えーと……れ、冷蔵庫!か……家電?ってやつッスよね!?」
わあわあと立て続けに聞き馴染みのある単語を列挙するナズナ。
リリとルルの二人は困惑した表情を浮かべているが、自分にはわかる。
「そ、それ……!ナズナ!その言葉、知ってるの!?」
つい声を荒げてしまう。
その様子を見たナズナは三白眼を更に細め、口角を釣り上げる。
「へ、へへ……。し、知ってるッスよ!お兄さんに見せた幻術。あれは本人の記憶を元に幻を見せていたッス!」
成る程。しかし感触や匂いまでそれらしい感覚があった。
それはナズナがそれほどの術の使い手だからなのか、僕の故郷への郷愁がそうさせたのか。
……あるいは幻術への耐性が異様に低かったのか。
「実際はこの廃屋の中で虚構の景色を見せていたに過ぎないッスけど……お兄さんが口走っていたワードにはちょいと聞き覚えがあるんスよ!」
「……!く、詳しく教えてくれない!?一体どこでその言葉を知ったの!?」
心臓が早鐘を打つ。まさかここで日本へのヒントを掴むことになろうとは……。
「ちっちっち。お兄さん。焦っちゃ駄目ッス。だから取引って言ったじゃないッスかぁ」
そう勝利を確信したかのようにナズナは笑って見せる。
ふてぶてしさと軽薄な笑みからは全面的に信用できない何かを感じる。
「要求は……何?」
しかし、今の自分にはあまりに魅力的な話であるのも事実。
リリとルルには悪いけれど、ここは話だけでも聞きたい。
二人に目配せすると、困惑した表情ながらも首肯を一つ返すだけだった。
どうやら静観し、話の行く末を見守ってくれるらしい。
「要求は単純にして明快!二つだけ!一つ!賠償金立て替えて欲しいッス!これは後でちゃんとお返しするッス!ちゃんとお兄さんの役に立ってお返しするッスよ!」
「……もう一つは?」
「もう一つも簡単!お兄さんのパーティーに入れて欲しいッス!保護観察の件もあるし、この哀れで可哀そうなナズナちゃんを引き取って欲しいッス!」
成る程。そう来たか。
確かに無理でも無茶でもない話だ。
普段のダンジョン攻略はリリとルルの二人が無双してしまうので、お金にも余裕がある。
パーティーにプールしてある資金も十分。
後は二人がどう判断するかだが……。
「幻術で撃退したって事は甘い夢のままで止める事も出来るって事ッス……。つまりは……わかるっすよね?」
「……!ふぅん。あんた話がわかるじゃない」
「……パパプレイ、所望」
「よっし……!取引成立ッス……!」
考え込んでいると二人は簀巻きのナズナを部屋の隅に追いやり、いつの間にやら話込んでいた。
ヒソヒソ声は聞こえるが、内容までは窺えない。
どう二人を説得しようか?
とりあえず声をかけようとした矢先、二人は満面の笑みでこちらへ向き直った。
「おにーさんがナズナをパーティーに入れるってのならリリは文句ないわ!歓迎するわよ、ナズナ!」
「ようこそナズナ。お兄さん、ルル達はナズナを歓迎する」
「あ……ああ、そうなんだ。良かったよ、二人とも好意的で。でも急だね、もっと渋るかと思っていたよ」
そういうと、境遇に共感した。見捨てられなかった。等とはぐらかされてしまった。
それでもなんだかんだ話は纏まったらしい。
僕だって二人には、前世の記憶、そして未だに日本の面影を追い求めている事を話してはいない。
そうなればまずは謝罪だ。迷惑をかけた農村、そして冒険者ギルドへ謝って回る必要がある。
「ウヒョー!これで自由の身ッス!それどころかイケメンのお兄さんのいる職場までゲット!やっぱり最後に笑うのはこのナズナッスよ~!いやー指しゃぶがうやむやになってよかった~!」
……これから大丈夫かな。
書き溜めが無くなったのと、推敲や展開を練る時間が欲しくなったので、毎日連載は一旦ここまでとさせて頂きます。
とはいえ、元は1/3程しか無かった文章を一気にここまで膨らませられたのは今までの皆様の反応があったからこそでした。ありがとうございます。
引き続き、どうすれば面白いものを提供できるか?読んでくれる人が楽しめるか?を考え続けたいと思っております。