男の娘が美醜貞操逆転のあべこべファンタジー世界から脱却しようと足掻く話 ~それでもスカート履くのを止められない~ 作:シエスタさん
鬱蒼と木々の生い茂る森林地帯。
その魔力溜まりであるダンジョンに僕たちは挑んでいた。
立ち入りを許可された範囲で比較的難易度の低いエリアを選び、ナズナとの連携を図るのがダンジョン攻略の目的である。
「アウリィさん。さあ、さあ。この結界の中へどうぞッス!敵からの視認性が大幅に低下する上に防御力もしっかり完備のナズナ特別製結界ッスよ!」
ここ数日はこのような連携と実力の向上の日々。
その中から導き出された結論から言えば、ナズナはかなりの有能だった。
事前に張ってくれた結界のおかげで今までとは違い至近距離で戦闘を見守る事が出来る。
それどころか料理の仕込みをしていてもへっちゃらな程の精度だ。
これは……物凄く助かる!
流石に魔法を使った料理の仕込みは集中力を要するので、リリとルルの戦闘中には到底着手出来なかったから。
ナズナ自身も札と結界を用いた拘束技や幻術、狐火など単純な火力よりも搦め手に特化した戦闘力と技量を見せつけている。
流石中級冒険者の肩書は伊達では無い。
ついでに言えば結界の中から送る僕の声援も馬鹿に出来ない。
普通なら真剣勝負の合間に異性からの声援なんてノイズになるのだろうが……。
少なくともリリとルルに関して言えば、明確に戦闘力にブーストが掛かっている。
ちらちらとこちらを窺っている事も多く、気は散っているのかもしれないが、それを凌駕する効果だと思う。
ただ困ったことに――。
「っと!危ない危ない!……っておにーさん!?ごめんね、ぶつかる所だったかも!」
「う、うん。結界があるから大丈夫だよ!……頑張って!」
至近距離で戦闘を見守れるという事は。
「はー!必殺さまーそるときっく!ちぇりやー!」
「わっ、それは……。うぅ……」
彼女らの頻繁にかつ、無防備に晒される箇所を目撃してしまうという事。
今更だけど、なんで皆してミニスカートで戦っているのさ!?前も突っ込んだ気がするけど!
蹴りを放つ度、大きく回避する度、スカートが捲れ上がり、奥の純白が嫌でも目に入る。
「居た堪れない……。みんな真面目に戦っているのになんて愚かなんだ、僕は……」
かといって「下着が見えて恥ずかしいので目を閉じて待っています」だなんて。
そんな馬鹿な話があっていいはずもない。
万が一の際には結界に誘導したり、手持ちのポーションを持ち出したりとやる事だってあるはずだ。
落ち着け、前世と今世を合わせれば親と子どころか、下手をすれば祖父と孫……。
祖父と孫、祖父と孫……。
「アウリィさん、どうかしたッスか?」
「うわぁ!」
気が付けばナズナがこちらの顔を覗き込んでいた。
どうやらいつの間にか戦闘は終了していたらしい。
周囲ではリリとルルがドロップ品を回収しているのが見える。
自分は完全によそ見をしていたのだ、何と情けない……。
「あ、ああ。大丈夫だよ、ナズ……ナ……」
そう返事をし、ナズナを見やる。
元からだらしなく巫女服を着崩している事がよくあるのだが――。
今回は戦闘に次ぐ戦闘で最早胸元まではだけてしまっている。
「おっと、あっしとしたことが……。お見苦しいものをお見せしてしまいやした……すいません」
農村でムキムキマッチョの女性の上裸なら何ども見たことがある。
というか見せつけられたことがある。
だが今のナズナのように、こちらを慮り気まずそうに仕舞い込む仕草はこの世界では初めて見る光景だった。
農作業で火照った身体を冷ますためならともかく、この場で身体を見せつける理由なんて無い。
そういう女性から男性へのセクハラを考慮しての対応なのだろうが、僕からすればそれは恥じらう乙女以外に見えない。
「……あ、いや。だ、大丈夫、だよ」
何が大丈夫なのか。
最早何を言ってもしどろもどろ。
回収を終えたリリとルルを労う頃にも、一度向けてしまった意識は戻らず。
結局帰るまで気まずい感覚を抱えたまま、挙動不審な仕草は直せなかった。
「うーん。これはどうにかしないといけない」
翌日。宿の一人部屋で一人ごちてみる。
今日のダンジョン攻略はお休み。というわけで朝っぱらから思案に耽っているのだが……。
そろそろ安い一軒家でも借りて拠点を構えるべきではないだろうか?という話を以前した事がある。
三人はまさか男性の僕からその提案が出るとは思わなかった。と言っていたが――。
今ならその言葉の意味がわかる。
だが、今更あの話を無しでというわけにもいかないだろう。
なにせ提案自体は諸手を挙げて涙と共に賛同されたからだ。
今更異性として気になっちゃうのでやっぱ無しでとは……、言えない。
「そもそも三人というか、亜人皆が可愛く見えちゃう事を言ってないんだよね……」
人間の女性は前世で言う所の男性ボディビルダーに胸などの女性の特徴がくっついたような歪な姿だと僕は認識してしまう。
むくつけき男のような女。
逆に矮躯だ、人間の一部の男のような顔だと言われるような容姿の亜人。
これもまた、この世界では華奢で愛らしい男を歪に真似たような女。
それらは鶏が先か卵が先かのような問題にはなるが――。
ぼく個人としては亜人の方が先だろう!と言いたくなるような美しさと可愛さを兼ね備えていると思う。
……しかし性欲は女性しか存在しない亜人の方が人間女性より強いのだとか。
「言うのはリスクがデカ過ぎる……」
この状況で亜人を異性として強く認識しています。なんて言えばどうなるか?
ただでさえ三人以外にも裏通りの亜人の知り合いは増えているのだ。
古着屋の狸の店主さんはよくしてくれるし、冒険者のスライムちゃんは最近とろけることなく挨拶が出来るようになってくれた。
アラクネのお姉さんは顔を赤らめながら自前の糸で編んだマフラーを寄こしてきたりもしたっけ……。
「駄目だ!村での二の舞になる……」
中途半端に手が届くと思った時こそ人は醜くなる。
生まれ育った農村と開拓都市の女性との対応の違い。
これは無視できない要素だと思う。
もしも自分の性愛の対象が人間の女性ではなく、亜人だとバレたら?
恐らく気軽にモテるだろう。
しかし、気軽にお付き合いをすればいいという話ではない。
何せ自分は前世含めて異性経験が無いのだ。
「無責任な真似は絶対にしたくないし……」
村では子孫繁栄の為に男は共有財産として”使われ”ていた。僕もそうなる運命にあった。
開拓都市でも、母子家庭というのはありふれた存在ではある。
だからと言って、この世界に骨を埋める覚悟もない宙ぶらりんのままの自分がそこに乗っかるのは違うだろう。
それに一人受け入れたまた一人とキリが無くなる可能性も高い。
もしも日本に還れる手段が見つかればその時自分は――。
「駄目だ。考えが纏まらない。こうなったら……」
もう埒が明かない。
こういう時は行動するに限る!
というか、この肉体に引きずられない強い精神を持てばいいのだ!力こそパワー!
というわけで三人部屋に移ったパーティーメンバー達が過ごす部屋をノックする。
「おーい、三人ともー。起きてる?良ければ一緒に出掛けない?」
ドッタンバッタン、ドッスンバッタン。
室内をひっくり返すような物音と共に慌てた様子で三人が飛び出してきた。
やっぱり勘違いするなって方が無理かもしれない……。
「い、行く!やったーおにーさんとデート!」
「デート。行く」
「お誘い嬉しいッス!いや、でも、これデートではないッスよね?」
それでも――。
「うーん?どうだろう。デートかも。ナズナの事はもっと知りたいし、リリちゃんとルルちゃんは日ごろの感謝として労ってあげたい。僕、女の子と一緒にお出かけってしたことが無いからね、とりあえず色々見て回ろうよ」
「「「デート!!」」」
それでもまずはやってみない事にはわからない。
同時に三人とデート?それってデートって言えるのかな?
案外これで女の子に慣れて耐性が付くかもしれない。
付かないかもしれない。
僕が向ける三人への感情。三人が僕へ向ける感情。
これがもしかしたら恋や愛じゃないかもしれない。
友情か何かなのかもしれないし、 ただの性欲なのかもしれない。
何はともあれ、ただ一つ正確に言えることがある。
この時の僕は少しばかりのぼせ上っていたという事だ。
でも――それも良いかなって少しだけ思うんだ。
だって、こんなに可愛い女の子三人とお出かけだよ。
嬉しくないはずがないじゃないか。