男の娘が美醜貞操逆転のあべこべファンタジー世界から脱却しようと足掻く話 ~それでもスカート履くのを止められない~   作:シエスタさん

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21話 長期休暇を取ってみよう

 「見つけたわよぉアンタぁ!結婚前日にいなくなるなんて!このアタシがどれほど恥をかかされたか……。とっとと村に戻って来なさい!」

 

 農村の中でも最も見知った、それでいていつまで経っても見慣れる事は無かった、肥えに肥え太ったおと……じゃなかった、女。

 農村では村長の跡取りだと幅を利かせ、いつの間にやら僕が婚約者にさせられていた、村を抜け出す大きな要因となった人。

 幾人かの顔見知りである村人を引き連れて、都市の通りど真ん中で喚き散らかしていた。

 

「うわ、うわぁ……。出会っちゃったよ。よりにもよってなんでこの人なんだ……」

 

 数日前、そんな訳はないだろうと高を括っていた自分をぶん殴りたい。

 

「おにーさん、どうしたの?」

「む、知り合い?」

 

 知り合いじゃないと誤魔化せればどんなに良かったか。

 怒りにより紅潮した様子でズンズンとこちらへ詰め寄ってくるのが見える。

 

「そうなんだよ……。不本意ながらね。それが嫌で村を抜け出して冒険者をやってるのさ」

 

「ええー!アウリィさん、あんな美人な婚約者いたッスか!?」

 

 美人?あれが?

 自分の容姿と立場を鼻にかけ、威張り散らし、結婚後の僕の貞操を安売りして取り巻きを増やそうとしていたあの女性が?

 冗談ではない。

 せめて人としてリスペクト出来る余地があれば、膝を突き合わせて話し合う未来もあったのだろうが……。

 そもそもヒルデ達の天丼、同じ展開なんて真っ平御免だ。

 さっさと三下り半を突き付けて立ち去る為の秘策を切るしかない。

 正直、卑怯な手だとは思う。

 リリ、ルル、ナズナの三人に対しても、自分に対しても。

 

 

 「三人とも……ごめんね!」

 

 そう言うやいなや、素早く三人を抱き寄せる。

 ふわっと柔らかい感触が全身を駆け巡る。

 が、ここは表情と同じく、心も凍らせて淡々とやるんだ。

 

「ひゃあっ!え、ええ!?おにーさん!?」「ふおぉ……!これは……デレ期!?」

「おひっ!?ど、どうしたッスか!こんな白昼堂々……!」

 

 更に態勢を整え、一人ずつのハグ、ハグ、ハグ。

 最早声にならない声が各々から上がるが、こっちもいっぱいいっぱいだ。

 早く畳み掛けないと。

 

 その様子を見て、びしりと固まる婚約者とその取り巻きを他所に目いっぱい声を張り上げる。

 周囲からも短い悲鳴や歓声、人間か亜人かで違う様々な反応が飛び交う。

 前々から考えていたけど……彼女らはねちっこくてしつこいからこれくらいやって見せないと。

 村に戻ればただでさえ男不足。彼女の取り巻きに一晩ずつ”貸し出される”毎日が待っているのは目に見えている。

 それが彼女への何らかの利益を伴って。それだけは避けてみせる。

 

「御覧の通りです!あなたは僕の好みでもありませんし、結婚もしたいとは思いません!村には絶対戻りませんから!」

 

「アタシの婚約者が……。あ、亜人に媚びを売る異常性愛者だと……」

 

 膝から崩れ落ちる婚約者達を視界の端で確認しつつ、素早く三人に活を入れ、正気に戻す。

 とりあえずこれで僕の意思は示した。 素早く三人を連れ、裏通りへと身を翻す。

 あの村で結婚なんて絶対に嫌だ。

 自分の美醜観にも、貞操観にもそぐわない場所で生涯を過ごすなんて考えるだけでもゾッとする。

 その為にも痛烈な一撃をお見舞いしたのだ。

 これで僕の身の回りも一段落付き、落ち着きを取り戻すだろう――。

 

 

 ――と思っていたのが数日前でした。

 

 

 「ギルドが最近姦しい、雌臭え。気色悪ぃ」

 

 いつも通りギルドへドロップ品を卸す為に立ち寄った所、開口一番に受付のおじさんから半目で愚痴られる。

 

「お前のせいだぞ、坊主。ここの亜人共を刺激しやがって……。何があったのか詳細は知らんが、心当たりあるだろ」

 

「……はい」

 

 あります。物凄くあります。

 裏通りの冒険者ギルドが活動の拠点になる都合上、二回も通りで起こした騒動はギルド内での公然の事実となってしまった。

 どうしてもここに話が広がるのだけは避けられなかったのだ。

 そのせいで最近は顔見知りの子たちもちょっとした挨拶程度では済まなくなってきている。

 

「さっきはスライム族のリンさんにこれ、頂きました」

 

 容器の中にゲル状の物質と花の成分の混ぜられた一品。

 端的に言えば、芳香剤のようなものだ。少し甘い香りがして素敵なプレゼントだと思う。

 

「見っせんな!だから気色悪ぃんだって!お前それ自分の体液が原材料みたいなもんだろ?よくそれ平気で受け取るよな」

 

「確かにそういえばそうですね」

 

「あのなぁ……」

 

 確かにこのゲルってリンさんの体液なのか。

 初めて僕を見た時はとろけるというか、溶けるというか。融解しかけていたあの人。

 

 かなり人間と違う見た目の亜人だから、特に嫌われている種族らしいが……。

 僕には現実離れしすぎた存在なので、一周回って忌避感が無い。

 おじさんの話を冷静に聞くとちょっと重たいな?とは思うけれど……。

 物自体は前世でいくらでも見た芳香剤そのものだからかもしれない。

 

 「何にせよちょっとほとぼり冷めるまでここに顔出すの控えられねえか?ちょっと長めの休みでも取ってくれよ、騒がしくて敵わん」

 

 よくよく見ると少しやつれている?

 ギルドでは唯一の黒?一点なのもあり、おじさんも普通にギルドのアイドル的な存在だとは最近になって知った。

 それが飛び火していたのなら申し訳ないが……。

 

 「とは言っても急に長めのお休みを取ってと言われましても……。お金は結構貯まってますのでそこは大丈夫ですが……」

 

 正直宿で休んでいてもそれほどやる事はない。

 ナズナの結界術のおかげで、趣味の料理が何故かダンジョン攻略中にやれてしまうのも一因だろう。

 魔法で調理の課題は全てクリアしているし、むしろ気兼ねなく料理出来るという一点ではダンジョン内の方が楽かもしれない。

 ナズナの結界術のおかげで料理に集中できる現状がそもそもおかしいとは思うのだが。

 

「うーん、お出かけは定期的にやってるし……」

 

 おじさんと共にああでもないこうでもないと話し合う。

 グルメツアーは正直自分で料理作った方が早い。

 服もこの前買ったばかりだし、そもそも何日も都市をうろつくほどでもない。

 劇?賭け事?うーん、どれもパッとしないな……。ナズナは賭け事好きっぽいけど。

 

 

「あっ、ここにいた!おにーさーん!ちょっとお願いがあるの!」

 

 おじさんと二人で長期休暇プランを練っていると、リリとルルが寄ってきた。

 二人やナズナに相談するのもアリかな?と考えていたが、少し様子が違う。

 二人そろって真剣な、それでいて申し訳なさそうな表情をしている。

 

「お願い?」

 

「そう!お金も貯まったし、一旦集落に里帰りしたくて……だから暫くお休みがしたいの」

「リリが集落を飛び出したからルルも付いてった。多分集落の皆心配してる」

 

 里帰りとなると、一日二日で出来るものではないだろう。

 だから少し緊張しているのか。

 おじさんに視線をやると、渡りに舟とばかりにニヤついた笑みを浮かべている。

 

「勿論。丁度長期休暇を取ろうと思っていた所だったからタイミングはぴったりだと思う。ナズナにも後で話しておくよ」

 

「本当!?やったぁ!ありがとう!おにーさん!」

「ありがとう、お兄さん。久しぶりの里帰り、楽しみ」

 

 二人はこれで問題無いだろう。後は僕とナズナの予定が空っぽだと言う事が問題だが……。

 

「それでね、もう一つお願いがあって……」

「こっちが本命……!お兄さん、一緒に里へ来て欲しい」

 

「え?いいの?勿論、オッケーだよ」

 

「本当に本当!?……良かったぁ!黙って里を出たから二人で帰るの心細かったんだよね!」

「まさか通るとは……これは勝ち確」

 

 なんだ。僕にとっても渡りに舟じゃないか。

 丁度暇していたし、そもそも冒険者稼業で命を預かっているのだ。

 お母様には挨拶の一つくらいしておきたい。

 ……後ろでバフ掛けて戦闘を全部任せっきりなのは申告しづらいけれど。

 ついでにあそこの併設の酒場で呑んだくれているナズナも誘ってみよう。

 

「というわけで、おじさん。僕、インプの里へ一緒に行って色々見てこようと思います」

 

「お、お前なぁ……!こんなところでそんな話したらどうなるかくらい……!」

 

 ピキピキと青筋を立て、絞り出すような声を出すおじさん。

 なんか、凄く機嫌悪そうですね……。え?ど、どうなるかくらい?

 

「え?は?え?男連れて里帰り?……マジで?」

「何それ!?うらやま!どんなサクセスストーリー!?」

 

 耳を澄まさなくても辺りからそんな声がちらほらと聞こえてくる。

 ああ、これは……。

 

「……おじさん。ごめんなさい」

 

「暫く返ってくるんじゃねーぞ!存分にゆっくりしてこい!いいな!」

 

 ほとぼりを冷ます為だったというのに……、本当にごめんなさい。

 おじさんの怒号を背に、さっさと二人と共にギルドを後にするのだった。

 

 ついでにナズナもルルが首根っこ掴んで回収してくれていた。ありがとう。

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