男の娘が美醜貞操逆転のあべこべファンタジー世界から脱却しようと足掻く話 ~それでもスカート履くのを止められない~ 作:シエスタさん
「はぁ~!マナが溢れる……高まるぅ~……」
「ママ!?どうしたの、ママ!嫌だよぉ……!ママぁ!」
真夜中でありながらもドタドタと家の中を走り回る音が響き渡る。
底抜けに陽気なルリさんの声と、対極的に悲痛な声を上げるリリ。
その現場である居間に一同が会した。
「新生!ルリちゃんでっす!」
ちゃぶ台の上できらりんっ!とでもSEの響き渡りそうなポーズを取って見せるルリさん。
ちゃぶ台の下では母を見上げながらリリが泣き叫んでいる。
ただただ茫然とする自分含めた一同。
「えーっと……これは一体何?」
なんとか声を絞り出したが……、まるで意味がわからない。
しかし明確にわかる点がただ一つだけ存在する。
「ルリさん……身体縮んで無いッスか?」
「うむ。親友の母のあのような姿、見とうなかった。キッツ」
ナズナとルルの言う通りなのだ。
開拓都市にいる出稼ぎにやってきている若いインプたち。
ある時は矮躯とさえ評されるサイズまでルリさんの身体は縮んでしまっている。
正直リリやルルの姉妹と言ってしまってそん色ないレベルだ。
「あー!アウリィさんだぁ~!」
こちらを見やったルリさんの表情がパアと明るくなる。
ちゃぶ台を軽やかに飛び降り、小さな羽でホバリングしたと思えばそのまま僕の胸の中へと脈絡なく飛び込んできた。
「わっ!ルリさん!?どうしたんですか?というか近すぎ……!」
子猫がマーキングするかのように胸の中で額を擦りつけてくるルリさん。
嫌でも動悸が激しくなるのを自覚してしまう。
「はぁ~!やっぱりアウリィさんの近くに居ると、きゅんきゅんする~ぅ」
「あ、あの、ちょっと……!離れましょう!今のルリさん、なんだか変ですよ!」
「え~でもアウリィさんもドキドキしてるよ、ほらぁ……」
そう言うと、再度胸へ耳を当てる為に懐へ潜り込んでくる。
否定は出来ないが肯定なんて猶更できずに窮してしまう。
「ちょ、ちょっとママ、何やってんの!」
「ルリさん、それはギルティ。ライン超えすぎ。ズルい」
ぎゃいぎゃいと外野も騒ぎ立てるが、我関せずと陶酔した様子のルリさん。
その様子を見たナズナが口を開く。
「リリちゃん。ルリさんの様子に何か思い当たる節、無いッスか?」
深い思案の海に沈むナズナの表情は真剣そのもの。
その横顔は普段の様子とは裏腹に非常に心強い。
ギャンブルで大損こいてギャン泣きしていたりすることが多いので、思わぬギャップに面食らってしまう。
普段からこうならいいんだけど……。
「お、思い当たる節……?」
「そうっす。インプ族に伝わる御伽噺。今では伝承となって久しいメスガキ……。あとアウリィさん。この謎を無事に解いたらあっしにもアウリィさんの胸元ハッスルパーティーの参加権を頂きたいッス」
「そんなものは、無いよ……」
前言撤回。早くも不安になってきた。
彼女の株が僕の中で乱高下を繰り広げているがお得意のポーカーフェイスで覆い隠す。
話が進まないので、様子見に徹する事を選んだんだよ。
……ちなみにルリさんはずっとすりすり攻撃を続けている。
頼む……!リリ……!
「あっ!そうだよ!ママのこのつるぺったんな姿への変貌にこの態度……!伝説のメスガキそのままだよ!」
合点の行ったようにリリが声を上げる。
成る程。伝説のメスガキ……。え?
「え?メスガキ?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
いや、メスガキって……。
なんか前世で聞いたような聞かなかったような。
というか明らかに伝説で語り継ぐような単語じゃないのは確かだろう。
「な、何それ!?リリちゃん、教えてくれる!?」
胸元ですりすりしていただけのルリさんがにんまり顔でこちらを見上げるようになってきた。
非情に嫌な予感がする。
早く解説を……!
「メスガキ伝説。インプ族に伝わる御伽噺。人間と亜人が仲良く共存していた大昔のお話。インプ族は……は、伴侶となる人間を見つけ、時に助け、時に難題を課し、そうやって共に成長し、共に朽ちたのだと言う。そうやって伴侶を見つけたインプ族を”メスガキ”と呼び、インプ族から羨望の眼差しを浴びていた……ってお話、だよ!」
「伝承ほぼ完コピナイス。ちなみにリリはこのメスガキに憧れて開拓都市に出てきた。ルルは心配だからその付き添い。ちなみに今時信じてるインプなんてリリくらいのもの。性格も頑張って真似てるからこれからも見守ってあげて欲しい」
「ちょっと!余計な事まで言わないでよ!」
顔を真っ赤にしたリリが抗議の声を上げるがルルはどこ吹く風といった様子だ。
そういうの指摘されるのって恥ずかしいよね。そっとしておいてあげて欲しかったな。
「ルルちゃん補足ありがとう。何はともあれ、ルリさんはその大昔?のメスガキみたいな容姿と性格になっちゃったって事?というか身体は縮んでるってレベルなんだけど!?」
これも摩訶不思議現象だ。
成長するならまだしも縮むとはこれ如何に。
「あ、それはわかるッス。アウリィさんが振舞った料理にマナが大量に含まれていたッス。アウリィさんがこの境遇のルリさん達に心を痛めたからだと思うッス。マナに依存する種族が有機物に依存して大きくなるのは明確な”老化”ッスから、豊富なマナによるデトックスで若々しい身体を取り戻したと言えるッスよ。文字通り」
「あ、ああ……。ナズナもありがとう……」
全ては自分のまいた種らしい。
確かにルリさんや村のインプの人々のくたびれた様子を傷ましくは想った。
料理を作る時も、少しは元気になってくれるといいなと考えながら作ったけど……。
「だからってこれは違うんじゃないかな!?そろそろルリさんも離れて……!」
「え~?どうしよっかなぁ~。うふっ、顔真っ赤だ~!じゃあねー私のお・ね・が・い、聞いてくれたらいいよぉ?」
引き剥がそうとするも、中々に強い力でホールドされている。
これが全盛期の力を取り戻したインプだと言うのだろうか。
怪しい笑みでこちらを見上げ、不敵に取引を持ち掛けてくる。
「な、内容によります!」
初対面の印象では落ち着いた一児の母だったが、今のルリさんは違う。
リリやルルよりも何倍も癖が強い。
そんな彼女相手に即断即決は到底出来ない。まだそれだけの忍耐力は残っていて良かった。
「え~?簡単だよぉ?ね?私もアウリィくんのこと、お・に・い・ちゃんって呼んでもいいかな?」
「はい?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
お兄ちゃん?ルリさんが妹?だって年齢が……いや、失礼極まりない事を考えるんじゃあない。
「むっ。今失礼な事考えてたでしょ?リリちゃんを生んだのだって精子バンク使った体外受精だし、インプ族は老いにくいからぴちぴちだもーん。……そもそもインプ族と子づくりしてくれる男の人なんている訳ないんだけどねー、ウケるー!」
「お、お兄ちゃんですか?それは……構いませんけど」
「……インプ族は御伽噺に出てくる悪鬼羅刹、サキュバスに似通った特徴を持つ種族なので特に偏見の目が厳しいッス。ちなみに亜人は等しくモテないのでナズナもぴちぴちッス……」
隣から聞こえてくるウィスパーボイスを全力で聞かなかった事にする。
そもそもの課題はこの場を収める事。
呼び方一つの要求を呑むだけなんだ。たやすいはずなんだ。
……恨みがましい視線が二つ突き刺さっている気がするが、全力でスルーを選択。
というかそんな目で見ないでよ……。
「やったあ!じゃあお兄ちゃん!お願いがあるんだけど~」
僕の胸からするりと離れ、再度ちゃぶ台に飛び乗る。そのままくるくると回り出し、ルリさんは喜びを全身で表現し始めた。
なんかしれっとお願い事が二つになっている。
指摘した所で聞いてくれそうにもない。
全員が彼女のペースに吞まれている。
「お兄ちゃんの手料理、里の皆にも振舞って欲しいの~!」
「は、はい?」
「オッケー?ありがとー!これならみんなも全盛期の力を取り戻せるわ!無駄に有機物に依存して膨れ上がった身体からおさらばね!」
うっかり出た素っ頓狂な声が同意と見なされてしまった。
それ程大きくない里とはいえ、炊き出しレベルになる。
というか里の人たちが皆ルリさんみたいになるってこと?
「ちょっとママ!勝手に……」
「リリちゃんもごめんなさいね……。メスガキ伝説なんか御伽噺だから現実を見なさいだなんてあの頃はあなたの夢を否定しちゃって……。ママ、反省してるわ。今ならあなたの言っていたこと、本当だって信じられる」
先ほどまでの溌剌とした態度から一変、母の顔付きとなったルリさんがリリへと向き直る。
優しく抱きしめ、諭すような、あやすような声色で語り掛ける。
「え?う、うん。ママありがとう……?」
「だからあなたの夢、メスガキ伝説がただの幻想なんかじゃなかったって事、里の皆に証明したいの。だから一緒に頑張ってくれる……?」
「メスガキ伝説を……?ママ……ありがとう……」
我に返ったリリが窘めようとしたが、まんまと丸め込まれてしまった。
潤んだ声色でルリさんに抱きしめられている。
ルルはというと、呆れかえった様子で大げさに両手を上に上げ肩をすくめている。
「じゃあリリちゃんもお手伝いね!早速お料理の準備始めましょー!ナズナさんもルルちゃんも、お手伝いよろしくねっ!」
一瞬、したり顔を浮かべたルリさんがそんなことを言い放つ。
あのまだ深夜ですが、という誰かの抗議の声も虚しく、炊き出しの準備は嫌が応でも始まるのだった。
pvやお気に入りを励みにまたちょこっと書けました。
また皆さんが忘れた頃にぬるりと戻ってくるかもしれないので、その時に思い出してくれれば幸いです。