男の娘が美醜貞操逆転のあべこべファンタジー世界から脱却しようと足掻く話 ~それでもスカート履くのを止められない~ 作:シエスタさん
吹きすさぶ風が道行く冒険者を阻む渓谷型ダンジョン。
一切の例外は無く、此度も無謀にもダンジョンに挑まんとする冒険者達に襲い掛かる。
バランスを崩せば渓流の波に呑まれるだろう。
しかし、挑むは歴戦の冒険者。呆気なく風に翻弄されるのか。所詮は風だと動じる事なく踏破するのか。
それは誰にもわからない——。
「うわわっ!お、おにーさんのスカートが……もうちょい!そこ!」
「頑張れ風!出来る出来る!どうしてそこで諦めるんだ……!やればできる……!」
「リリちゃん、ルルちゃん。はしたないッスよ。こういうのは目を皿にして一瞬のお宝を目に焼き付けるのが王道、出来る淑女の嗜みッス」
口々に風へ声援を送る本来なら頼りになる頼りにならない仲間たち。
いや、こんなお調子の傍らでモンスターを殲滅しているんだから、確かに頼りにはなるんだけどさぁ……!
「ス、スカートが捲れるっ!というか、三人は自分のを隠して!丸見えになってるからー!」
先に渓谷に掛かった橋を渡り終えた三人に風に負けない声量で叫ぶ。
普段からダンジョンにはスカートで付いてきているからここまで頭が回らなかった。
まさかモンスターだけではなく環境まで敵として牙を剥いてくるだなんて。
「ア、アウリィ君!我々は何も見ていないのだ!」
「アイちゃん様はわかりませんけどね。私?ええ、私は覗いたりしませんとも」
「え~?私だってそんな事しないよ~。二人こそこっそり指の隙間から……とか見てない?」
後ろには普段ならいないはずの同行者が三人。
後日ならなんでも応じますから!
僕は今になって、あの時の言葉を後悔し始めていた。
それとプリン。憧れだったバケツプリン——。
何故僕はあんな浅はかな判断を——。
「ちょ、この橋凄く揺れ……。あっ。お、落ち——」
アーケード街の一件から数日。
暫くはチームヤミナベからのアプローチも無く平穏な日々が続いていた。
というより、ナズナのケアに日を要していた。
要求されたパパと娘ごっこはまあ……思い出す程の事でもない。
「あーっ!やっと来た……じゃない!そろそろだと思っていたのだ。この前の続きといくのだ!」
「こう仰っていますが、ドラ子様はあの日から毎日ここ、冒険者ギルドでアウリィ様達を出待ちしておられました」
「というわけでおっハロ~。アイちゃんでっす」
幸か不幸か十分な休みも取れた今日この頃。
ナズナの病状めいた症状も落ち着いてきたので、冒険者稼業に戻ろうとした僕達を冒険者ギルド内でチームヤミナベが待ち構えていた。
「げっ。またあんた達なのぉ……?」
「毎日待っていたとは殊勝な態度。だが、何度来てもルル達は騙されていないという主張は曲げない。時間は有意義に使うべき」
「えーっと、この人達が話に聞いていたヤミナベご一行ッスね。アウリィさんの潔白を証明するとかなんとか。……パパプレイなんてどうッスか?」
「おはよう、ドラ子ちゃん。オリヴィアさん。アイちゃん」
リリとルルのげんなりした様子と、ナズナの戯言をスルーしつつ挨拶から入る。
僕の挨拶にドラ子ちゃんが満足気に一つ頷く。
やはり最初にドラ子ちゃんへ挨拶をして彼女を立ててあげる方針は正しかったらしい。
「うむ。おはよう。単刀直入に今日の要件を言うのだ。アウリィ君の嫌疑を晴らしたいというのなら一度このドラグニル様達をダンジョンに同行させるのだ!」
「というわけで本日はお世話になります」
「オリヴィアちゃん気ぃ早すぎ~。でもアウリィさん達も冒険者っしょ?やっぱり命を懸けて挑むダンジョンの中でこそ本当の姿がわかるものだと思うんだよね。リーダーがその口だし」
なるほど。ダンジョンに合同で挑む。
鉄火場に身を置いている時こそ本性が露わになるというのには一定の説得力がある。
うちは石橋を叩いて渡る安全志向なので、そんな実力不相応なダンジョンに挑む無茶はしてはいないが……。
「そうですね。疑惑が晴れるなら安いものです。是非三人には同行して頂こうかと」
それでも毎回彼女たちが無事に帰ってこれるかどうか不安との闘いではある。
いつだって後方で治療とご飯の準備をして待っているしか出来ない自分がもどかしいものだ。
実態はと言うと、休憩にお手製のご飯食べて何故か物凄いオーラを身にまとった三人がモンスターを蹂躙し始めるのだが。
ちなみにリンゲージにそんな食事バフ効果なんてものはない。
おじさんに相談した時は冗談言うなよ。料理でバフなんてバトルクッカーでもあるまいし。と一笑に付されてしまった。
正直この事象、ちょっと怖い。
「はぁ~。やっぱりそうなるかぁ……。ま、やるからにはリリ達の実力、しっかり見せつけてあげるわよ」
「ふっ。腕が鳴る。最近のルルは飛ぶ鳥を投げ飛ばし、球体ゴーレムに関節技を決められる程」
「あの動き出鱈目過ぎて流石のあっしもドン引き……。でもリリちゃんに同じく。やるからにはパーティーの絆って奴をしっかり証明してやるッスよ」
各々やる気に満ち溢れた顔つきをしている。
むしろ血気盛ん過ぎるかもしれない。
「あ、でもアウリィさん。こうなるとあのダンジョン、今日は無理ッスね……。どこか別のアテはあるッスか?」
ふと気づいたようにナズナが耳打ちしてくる。
——そう。僕の記憶の中にある日本の風景。慣れ親しんだ家電や建築模様。
その断片が眠るはずの遺跡型ダンジョン。
以前から興味があるから足を運んでみたいとリリとルルの二人には伝えていてそちらには了承済みだ。
しかし、このような調査目的となると今回のダンジョンには不適当だろう。
「うーん。確かに……」
となると、普段通り気になる食材を求めてのダンジョンアタックとなる。
食材を求めて換金できるものは路銀に、食材は趣味のお料理に。
当初はこれでいいのかと思ったものだが——。
「楽しそうに料理する姿が見られる上にそれ食べさせてくれるなんて拒否する理由無くない?」
この一言でケリがついてしまった。
となると僕が作りたい料理、食べたい料理ベースでどこに向かうかは決まる。
そしてふと、思い出した事がある。
「大きな……。そう、とても大きなバケツプリン」
咀嚼するように誰にも聞こえない声で呟く。
そう。大きな大きなプリン。日本人なら慣れ親しんだプリン。
黄色のぷるんと揺れる可愛らしいフォルムに見た目にも味にもアクセントとなる黒いカラメル。
——自分はプリンが食べたいんだった。それも特大の。
「渓谷だ。ゲイルコンドル、あいつを狙いたいんだけど……いいかな?」
いつ頃からだったのだろう?前世の子供の頃はぷちんとするプリンを食しつつも、もっと大きければと願わずにはいられなかった。
大人になってからも興味が完全に無くなったわけではない。
今世ではなおのこと甘いものに目が無い。味覚が変わった自覚はある。
「渓谷ダンジョン?リリは全然おっけー!ドラ子たちも文句は言わせないわよ?」
「ゲイルコンドルという事は卵と皮が目玉ドロップ。あの卵の弾力と濃厚さには一定の評価がある」
「本当に巨大な目玉焼きが作れちゃいそうなサイズッスからね。それに皮も強靭で高値が付くし良いチョイスだと思うッス」
三人も乗り気の様子。
プリン作りたい。食べたい。というのが動機というのは内緒だが、たまには勢いに任せて行き先を決めて見ても良いだろう。
たまには甘味に溺れてみたって悪くないもんね。
「というわけなんだけど、ヤミナベの皆は大丈夫?」
本来ならば勝手に僕らのパーティーで決めた所で問題はないはずだが、一応ドラ子ちゃんへと水を向ける。
「うむ!問題無いのだ!今度こそアウリィ君が本当に亜人を体よく使って搾取していないか、それを見極めさせて貰うのだ!」
承認前提の確認作業というやつだ。
これで行き先は決まった。
突発的な寄り道なので、発生するモンスターの傾向程度しか頭に入ってはいないが……。多分大丈夫だろう。
最近の三人の活躍と戦闘力の向上は目覚ましく、頼もしい。
「よし、じゃあ手早く準備して出発しよう!」
それよりもプリンだ。……じゃなかった。身の潔白の証明だ。
六人に発破を掛け、ダンジョンへ向かうための準備に取り掛かる。
……この後に待ち受ける災難なんて知る由も無かったんだ。