美醜も貞操もあべこべなファンタジー世界を脱却しようと足掻くメンタルおっさん男(の娘)の話 作:シエスタなう
開拓都市。村で聞いた覚えのある近隣で唯一にして最大の都市。
開拓というのはそれよりも北はダンジョンや年代不明の廃墟ばかり開拓されていない土地が広がるから、という話を聞いた事がある。
その都市へと向かう道程。といっても、それほど時間がかかるわけでもなく、遠目には都市の正門が見える。
昨日までのぎこちない空気はすっかり消え、二人はそれなりにリラックスしているようだった。
「……で、実際のところどうだと思う……?」
「お兄さんの様子を見る限り、無自覚のブス専の可能性が濃厚……ちなみにマナも濃厚……」
「きゃー……!やっぱりぃ……!?」
「でも、開拓都市についてからは要注意……亜人全員がライバルになりかねない……」
開拓都市へ向かう道すがらの雑談には交じれず、奇妙な空気感の二人を眺めるだけとなってしまった。
ヒソヒソ話が聞こえてくるのだが、無遠慮に会話に踏み入るわけにも行かない。
流石に同じ目的地に向かっているにも関わらず、座りの悪さを覚えた頃。
居た堪れないので、こちらから話題を振る選択肢を選ぶ。
「そういえば……二人はどうして開拓都市で冒険者をやろうと思ったの?」
そう話題を振ると、自然な足取りでこちらに歩調を合わせながら二人が答える。
三人で歩くのならこうだろうと言える並びに収まり、僅かに心が軽くなる。
「リリたちはねー、インプの里で暮らしてたんだけど、一旗揚げようと思って!里は退屈だったし!」
「リリたちは、というよりは、リリが、だけど。ルルはその付き添い。友達だから」
「だって里のみんなってしょぼくれててさぁ!昔話のようなこれぞインプ!って誇りが無いんだもん!」
リリがそう言い切り、ぷりぷりと頬を膨らませる。
中々に壮大な目的だそうだ。
「その昔話って?」
「あー!気になっちゃう?インプの里に伝わるお話なんだけどねー。大昔は、人間とインプは仲良しで一緒に暮らしていたんだよ!」
自然と沸いた疑問を口にすると、待っていましたとばかりにリリが口を開く。
「インプはね、人間の家に棲みついて、ちっちゃな悪戯をしたり、逆にこっそりたすけたり……。人間が活力を失わないようにマナを貰いながら共存していたらしいの!」
「インプと一緒にいた人は、最後の最後まで感情豊かでいられたんだって!」
自分の行動のルーツになっているのだろう。
御伽噺の内容を語るリリの表情は、まるでその話の中の人物になったかのように、輝いている。
まさに自分の目指すインプ像がその話の中に登場するインプ達なのだろう。
「だから男性のパートナーを見つけて、インプの誇りを取り戻すぞ!って決めて開拓都市に出てきたの!」
力強く言い切る様子からは、強い信念すら窺える。
「リリは夢見すぎ。それは昔話じゃなくて、御伽噺」
「その喋り方だって、時代がかったというより、最早古典。男の人にとって威圧的過ぎる」
「うっ……、いーじゃん!おかーさんたちみたいに老けてムチムチになりたくないもんね~」
おどけた様子を咎めるかのように、ルルがじとりとした目線を向ける。
「む。リリだけのせいじゃないとはいえ……それで昨日みたいなことは勘弁」
「そ……それは悪かったわよぅ……」
萎れたかのようにリリが縮こまる。
「ん。二度は無いと思え。ところで」
リリたちが語るほど、御伽噺の中のインプと、実際のインプには差があるのだろうか。
ぼんやりと考え込んでいると、不意にルルから水を向けられた。
「お兄さんはなんで開拓都市に?」
「ん?僕?僕は、そんな大層な理由じゃないよ」
きっかけは村から離れたかっただけ。
「単純に村から飛び出して、もっと広い所を見て回りたかったから……かな」
だけど今は明確に違うと言い切れる。なんとかして、日本の土をもう一度踏みたい。
この身体も、心も、間違いなく15年間生きてきた自分のものだ。それでも、やはりこの世界が自分の居場所だとは思えない。
「それに……会いたい人もいるからね」
あの少女も――きっとどこかで自分を待っている。そう確信している。
「……え~誰なの~それ!気になる~」
「……お兄さんの、特別な人?」
真剣に耳を傾けてくれる二人には申し訳ないが、語れることはそれほど多くはない。
今はそれを確かめに行く最中なのだから。
「ふふっ、まさか。顔も知らない、声しか聴いたことのない子だよ。どこにいるかもわからないしね」
そう。自分は何も知らない。それを知りたい。
「……子!?……それを探すのは難しいと思う。お兄さんには悪いけど、無謀」
「そ、そ~だよ~!それに生活のためにお金も稼がなきゃじゃない?」
「それもそう。まずは先立つものが大事」
もっと広い場所に飛び出す必要がある。
それとは別に、日銭をどう稼ぐかも確かに問題だ。
どこかに縛られる形で仕事に就くのは本意ではない。
「うん、それもそうなんだよね。自由に動ける身ではありたいけど、お金も必要だから……どうしたものかな」
自分の身の上話を余程親身に聞いていたのであろうか。
先ほどまで真剣そのものの表情だった二人が、そう小さくぼやいた言葉を聞いて顔を上げる。
「そうだ!おにーさんもリリたちと同じ冒険者になろうよ!」
「賛成。少ないながらも男性の冒険者もいるし、自己責任ではあるけど自由な稼業」
冒険者。語感だけでも自分の目的にとって都合がよさそうであり、確かに興味を惹かれる。
「興味があるかな。実際にはどんなことをするの?」
「冒険者は、腕っぷし一つで稼ぐ稼業。指定された品の用意に商人の護衛、都市や近隣の村や町のトラブル解決で稼ぐ」
「後は開拓都市だと目玉はダンジョンだよ!とくに都市の北のはおっきいから、冒険者がいっぱい集まるんだ~!」
何でも屋と言えばいいのだろうか。
話を聞く限りでは、実力さえあれば特に細かい技能も必要無い。
依頼やダンジョンに入るのも、自分の都合に合わせて調節できるのは個人的に魅力に感じる。
「それは……僕でもやれるのかな?」
だが問題は、その実力、そして覚悟だ。
明らかに村の女性よりもフィジカルが劣る自分に務まるのだろうか?
「全然余裕じゃないかなー? おにーさんの魔法、魔力操作の精度すごくいいんだもん!」
「うん。男の人は特に魔法に優れてるとは言うが、お兄さんはピカイチ。攻撃に使えばきっと強いはず」
二人が力強く肯定する。
掛け値なしの賞賛に、自然と前向きな気持ちが芽生える。
才能があったとして、切った張ったの世界に身を置く覚悟が本当にあるのかはわからない。
「そっか………。じゃあ、冒険者を目指してみようかな」
それでも、ここで迷っていたら何も始まらない。
「やったぁ!」と歓声を上げるリリと、それを淡々といなすルル。その様子を眺めながら、決意を新たにする。
既に開拓都市の正門は目前だった。
「とうちゃーく!ここを抜けたら、開拓都市ー!案内は任せてね、おにーさんっ!」
「うん。よろしく頼むよ」
外からでも壮大な大きさに圧倒される。ぐるりと都市を覆うように築かれた都市壁は端の見えない程に長く続く。
開け放たれた門からは、出入りする人々が見える。
慌ただしく行きかう人々の足音、遠くに聞こえる喧噪、舞う土埃。まるで一つの生き物が息づいているかのように錯覚させられる。
自然と息を呑み、鼓動が早まるのを感じた。
「あっ……そうだった……」
不意に何かに気が付いたような呟きがリリから漏れ、ルルと共に視線を向ける。
「冒険者ギルド……」
そう呟く声が続き、二人の間で目配せが行われる。
「むっ……」
合点がいった様子で、ルルもわずかに首肯。
悩ましげに唸りつつも、切り出した。
「開拓都市は広い。冒険者ギルドにも案内したいけれど、表通りの方にはルル達は近寄れない」
「あっ……昨日の事もあるしそれは無理かも……。亜人の人達の集まる方なら大丈夫なんだけど……」
昨日の約束が、あっけなく頓挫しかける。
「おにーさんが表通りの方に行けたら、モテモテでパーティーにも困らないのに……」
それは昨日の一件を引き起こしたような人間の女性から、と言う事だろうか。
そして、そういう異性から熱烈にパーティーメンバーとして迎え入れられる。
冒険者として手堅い成功は得られるのだろうが、個人的には喜ばしい事ではない。
引き攣る表情……は無いものの、背筋に冷たい汗が流れる。
「……そうだね。大丈夫だよ。僕も、二人と一緒に裏通り……の方の冒険者ギルドに行ってみたいな」
「えー!?本当!?やったぁ!」
「やっぱりブス専……?」
都市の喧騒に当てられ、自然と高揚する。二人も同様なのだろう。
自然と会話も弾み、正門を通る。
――その時だった。
「スタァァァップ!」
怒声と共に鳴り響く、けたたましい警笛。
「ええ!?なになに!?」
騒然とする周囲。
鎧の擦れる金属音と共に、複数の一糸乱れぬ足音が向かってくる。
あれよあれよという間に、軽装の鎖帷子を着込んだ兵士に取り囲まれた。
「亜人が男性を取り囲み、正門を通ろうとするとは浅はかだな!」
「ノコノコと通ろうとするとは!拘束させてもらう!」
こ、これは、一体……?