美醜も貞操もあべこべなファンタジー世界を脱却しようと足掻くメンタルおっさん男(の娘)の話   作:シエスタなう

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6話 弁明してみよう

 門の脇にある無機質な石畳が出迎えるゲートハウスの一室。

 簡素な椅子と机、それと占い師の使うような古典的な水晶の設置された取調室に通された。

 

「掛けてくれるかな」

 

 遊び心の無い太い眉とひげを蓄えた頼もしい顔付きに豊かな胸、そして巨躯。

 人間の女性兵士が椅子に掛けるようにこちらに促す。

 脇には書記を担当する兵士が控えている。

 なるほど、この世界の兵士は一般的に女性が就くものらしい。

 フィジカルから男性とまるで違うし、合点がいく。

 

「ご足労頂いて悪いね。出来れば男性であるあなたには不自由を掛けたくはなかったのだが……これも規則でね。ああ、私はここの隊長だよ、よろしく」

「よ、よろしくお願いします。ああ、いえ、それは構わないのですが……。リリちゃんとルルちゃんはどうなるんですか?」

 

 それよりもリリとルルだ。

 あれよあれよとバラバラに連行されてしまった。

 まるで二人を犯罪者と決めつけて掛かられた対応を取られた事に自然と身体が強張るのを自覚する。

 

「ぼ……私たちは何も悪い事はしていないと思うのですが」

 

 無実を訴えつつ、自分の前世、いっぱしの社会人だった頃の記憶を手繰り寄せる。

 なんとかここを切り抜ける必要がある。

 

「私たちは、か。えーっと……アウリィ君だったかな?君には悪いけど、この真贋のオーブの診断を受けてもらうよ」

 兵士が険しい顔でそう呟き、水晶を手に取り、こちらへかざした。

「それは……?」

 

「このオーブは嘘発見器。疚しい事があれば、光るだけの代物さ」

「男性である君には非常に侮辱的な発言かもしれないが……その、ほら……」

 

 険しくもバツが悪そうに頬を掻きながら言い淀む。

 書記に目配せするも、知らん顔をしているのが見える。

 

「ええい!面倒だ!単刀直入に聞こうじゃないか!アウリィ君!君は何かリリ君とルル君の間に疚しい取引はないかね?あるいは脅されているなどは!?」

 

 カッと目を見開いて声を張り上げる隊長。

 圧が、圧が凄い。

 

「えっ?疚しい事?無い、無いです。何もないです」

 

 だがその質問の答えはノーだ。

 何も疚しい事はない。少なくとも自分は人に誇れることをしたと考えている。

 

「こう、私の立場から言うのも憚られるが……。彼女たちは亜人だぞ?まるで男性かのような華奢過ぎる矮躯。女性であるのにも関わらず鼻は高く眼も大きい、君のような一部の男性に似た顔つき」

 

 不本意であるかのように、苦虫を嚙み潰した顔で隊長は続ける。

 

「そんな見た目でありながら女性しか存在しない。その癖私達人間の女性よりも人一倍強い性欲。普通、男性は寄り付きもしないのだよ」

 

 問いかけるかのように、あるいは独白のように、隊長は続ける。

 

「まるで男みたいな女。同じ人類という大きな括りに属するとはいえ、人間と亜人。その間にある異質な外見的特徴差。そして矮躯に秘められた欲望の大きさ。それらをひっくるめても平気だとでも言うのかい?」

 

 

 ただ、その問いに強い首肯と共に返す。

 

「はい。短い付き合いではありますが、私は彼女らを信用しています」

 

 はあ。と一つ深いため息をついた隊長は最後にぽつりと零した。

 

「こんな差別的な内容。この開拓都市の治安維持を務める私が言及するべきではないのだがね……。記録員、オーブは?」

 

「反応ありません」

 

 

 

 ホッとした表情でオーブに手をかざし、起動する兵士。

 これで身の潔白が証明されるなら望むところだろう――。

 

「では後はサクサク行こう。君は開拓都市に足を踏み入れるにあたって、何か疚しい事はあるかい?」

「いいえ、特にはありません」

 

「えー、君はあの亜人二人に強要される形で同道していたのかい?」

「いいえ、むしろ私が都市の案内をお願いしたくらいです」

 

「なんと……。では、君はあの亜人二人に不快な事をされたことはあるかな?」

「いいえ、私の料理を美味しそうに食べてくれて嬉しかったくらいですね」

 

「羨まっ……!ごほん。君はあの亜人相手に……あ、あー……自分を使った商売をしようとしていた?」

「……?いいえ」

 

「では次に――」

 

 思ったより拍子に検査は進んだ。うすぼんやりと光るオーブを脇に置いて問答をするだけ。

 探られて痛い腹が無い――わけではないが、少なくとも悪事を企んでいるなんて事はない。

 

 

「すまなかった!そしてご協力ありがとう。本当に手間をかけさせて悪かったね。君は勿論、君の証言からリリ君とルル君も恐らく潔白だろう。直に別室での取り調べも恙なく終わるだろうね」

 隊長が一息ついたように告げる。

 こうして落ち着いて話してみると、どうしても気さくなおじさんといった印象を受けてしまう。

 いや、胸は豊満であるし、性別は間違いなく女性なのだが……。

 それにしても、そこまで面倒な事案だと思われていたのだろうか。

 

「いえ、こちらこそ身の潔白が証明出来て嬉しいです。で、あの二人は……?」

「ああ。えーっと、ルル君の方はもう取り調べが終わっているよ。同じくオーブが反応しない以上、白だね」

「良かったです。もう退出しても良いですか?」

「うん。構わないよ。ただ、気を付けて欲しい。君みたいな美少年はトラブルに巻き込まれやすいからね」

 

 想定以上にスピーディーかつ、紳士的?な対応に驚いたが、無事に終わって何よりだ。

 兵士たちに囲まれた時の振舞は、汗顔の至りと言うべきか。

 身体が強張ってしまい、二人の影に隠れるようとしてしまった。

 兵士の皆さんにも、二人にも申し訳なさを抱えて退出する。

 廊下に出ると言葉通り、先に待っていたルルがぬるりと近寄ってきた。

 

「ん。お兄さん無事だった」

 淡白な物言いながらも、彼女の第一声が気遣いであることに嬉しく思う。

「ありがとう。僕が男性だからかな?スムーズに進んだよ。ルルちゃんも無事でよかった」

「ん……。後はリリだけ」

 

「そういえば」

 本来は兵士の人たちに質問するべきだったのだろうが……。雑談がてら、ふと気になった事を尋ねてみる。

「あの真贋のオーブってやつ。あれってどんな機能があるのかな?村では見た事無くって・・・・・」

 

「あれは、人の緊張した時のマナや感情の乱れを感知する魔道具。尋問と合わせて文字通り嘘発見器に使う」

「なるほど。それなら確かに疚しい事があるか?って聞けばそれだけでわかるね」

「そう。別にルルはそんなこと考えてない。見て、この澄んだ瞳」

 そう言って自分の顔を指すルルに倣い、顔を覗き込む。

 朝から変わらないマイペースで眠たげな眼差し。

 澄んだ、とはほど遠い、吸い込まれそうな漆黒の奥に自分の姿が朧げに映る。

 自分の表情も動かないが、この子も大概だと感じる。

「うーん。黒曜石みたいで綺麗だけど、澄んではいないかなぁ」

 

 

 嘘を見破る魔道具。なるほど。

 それならば取り調べがスムーズに進むのも納得がいく。

 それならば、リリも直に……。

 

 ――いや、何かを見落としている気がする。

 

 痒いところに手の届かないようなもどかしさに思案していると、雑踏の中でも良く通る声が響いた。

 

「ああ!良かった!アウリィ君!まだ居たか!」

 奥の部屋から、先ほどの隊長が駆け寄ってくる。

 額に汗を浮かべ、逼迫した様子でこちらを見据えた。

 

「どうかしたんですか?」

「リリ君の取り調べが難航しているんだ。君に関する質問だけオーブが光るから疚しい事があるのは確実なんだが、本人が口を割らないんだ」

「それは……」

 

 迂闊だった。それはそうだ。あの夜の一件を考えれば想定できていた事態だろうに!

 

「君が関わることで、もしかしたら早く解決するかもしれない。もちろん、無理強いはしないが……」

 

 これはまた……一悶着ありそうだ。

 さて、どう乗り切るか。

 

「わかりました。協力します。ルルちゃん、ちょっと待っててね」

「助かる!こちらだ!」

 

 

「これは……やはりルルと結婚?うーむ……」

 

 こちらは……どうとでもなる……のか?

 

 

 最初に入ったものと全く同じ造りの取調室。中では二人の兵士とリリが熾烈な舌戦を繰り広げていた。

 

「いい加減、素直になったらどうだ?」

「だから冤罪だってー!」

 少し前に自分の受けたものと同じような取り調べが未だに続いているらしい。

 一つ違うのは、緊迫した空気とそれを台無しにするほど、須臾にして色が変わり、極彩色に自己主張を続けるオーブだろうか。

 

「失礼します。これは……」

 

「あ!おにーさん!」

「あっ!こら!座ってなさい!いや、すまないね……。アウリィ君と言ったか……、実は――」

 

 リリの取り調べを担当した兵士曰く、取り調べの最中に真贋のオーブが反応。

 同行していた男性に関する尋問でのみ光る有様なのだが、それでも必死に否認を続けるので当事者の自分が呼ばれたらしい。

 

「なるほど、それで私が呼ばれたという事なんですね」

「ああ、そういう事だ。本来なら男性を呼びつける率直で申し訳ないのだが……」

 そこで兵士が言い淀み、隣の兵士へ目線を泳がせる。この部屋の相方である書記担当の兵士も素知らぬ顔らしい。

「あー……彼女から何らかの加害を受けた事実はあるかい?」

「あ、ちょっとー!おにーさんに変なこと聞かないでよ!」

「静かに。では君の口から直接、このオーブが反応している理由を聞かせて貰えるのかい?」

「し、知らないし!そんなの誤作動に決まってるもん!」

 リリが必死に否定の言葉を重ねるたび、オーブはさらに光を増していく。

 直視できない程の光が、壁にリリの巨大な影を映し出す。

 

 

 十中八九、あの夜の出来事の事だろう。言葉を選びながら、質問に答える。

「あー。いえ、リリちゃんと出会ってから嫌な事や困った事をされた事は一度もありませんよ」

「お、おにーさん……!」

 

 そこで地獄で神を見たかのような表情でこちらを見ないで欲しい。

 何かあったと言っているようなものだ……。

 

「そ、それは本当かい?だが、しかしオーブは……」

 リリの取り調べをしていた二人の兵士がざわつき、それでも食い下がろうとしたその時。

「いや、彼の言う事は本当だろう。オーブの反応の理由も大方予想がついた」

「隊長!?まさか何かお分かりに……!」

 

 案内した後は、静観に徹していた隊長が口を開いた。

 隊長自らが担当する程の案件だと言うのだ。

 どのような裁定を下すのか、自然と固唾を呑んでしまう。

 

「うむ……それは……」

「それは……?」

 誰かの生唾を呑む音が響き落ちる中、隊長の声が続く。

 

「それは、リリ君がスケベだからだろう」

 

「は……はぁぁぁ!?ねえ!ちょっと!出鱈目はやめてよ!」

「そうですよ隊長!オーブは性欲おばけの亜人相手でも誤作動しないよう、厳しい足切りラインがあるじゃないですか!」

「隊長!このオーブの光具合を見てください!相当疚しくないとこうはなりませんよ!」

 

 満場一致で隊長の論を否定しにかかるリリと二人の兵士達。

 しかし、隊長は以前として屹然とした態度を崩さない。

 二人の兵士を説き伏せるように諭す姿は、何故だか頼もしい。

 そう思う事にしよう。ありがとう隊長。フォーエバー隊長。大勢は決した。

 これ以上は僕の出る幕も無いだろう。

 

「ではなんて罪状で彼女をしょっ引くというのだ。彼女が素直に口を割らないのも、納得の行く話だろう。それにアウリィ君の証言は真だ」

「確かに……。これだけ光っていたら、素直に言えないのも已む無しか」

「では隊長、これはつまり」

 甚く感銘を受けたように首肯する兵士達。オーブに布を掛け、書類を仕舞い込む。

 眩い光があっという間に鳴りを潜め、等身大のリリだけが浮き彫りになっていく。

 

「手間をかけさせて悪かった、隊長を見習って精進します」

「ああ。お詫びにすぐにでも釈放の手続きをしよう」

 

「待って!違うから!待って!待っ……!」

 

「結論!リリ君はオーブが誤作動を引き起こすほどのスケベ、近くにいるだけでアウリィ君を意識してしまっていただけの弩級のスケベだということだ!」

「以上、釈放!」

 

「違うからぁー!」

 

 フォーエバー……隊長。




自分で書いた文章読み返すのって羞恥心から目が滑りますね。
もし誤字や誤表記に気付いたら修正を入れますのでご了承を……。
もし変じゃね?って所があれば教えてくれると嬉しいです。
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