美醜も貞操もあべこべなファンタジー世界を脱却しようと足掻くメンタルおっさん男(の娘)の話 作:シエスタなう
「リンゲージ……」
噛み締めるように呟いた、聞き覚えも馴染みもない言葉。それでも大切な自分のスキル。
ピーキーなバフスキルとは言うが、一体どういったものなのだろうか。
か細い記憶の中のテレビゲームや漫画から情報を探ろうとしたが、イマイチピンと来ない。
「軍師、コマンダー。バードにクレリック。味方を強化するスキルってのは山ほどある。その中でもリンゲージはそこにいるだけで周囲を強化する軍師やコマンダーに近いバッファーだ」
手元の紙を見やりながら職員が語る。
「だが発動条件が特殊過ぎてな。効果は甚大だが絆を結んだ相手にしか発現せん。自分も強化出来ん。重ねて聞くがお前さん、今までで発現した事、あるか」
「いない、です」
家族、恋人、友人。全てにおいて今世には信頼できるものなんてなかった。
いや、前世も前世で不細工過ぎて恋人なんて居た試しは無かったのだが……。
前世は人に恵まれた人生だったと思う。
容姿は非常に醜かった。それでも捻くれずまっすぐ成長できたのは、暖かな父と母の愛。
見た目何て気にせず笑いあってくれた友。
女っ気のない職場で同僚という枠を超え、親身になってくれた仕事仲間。
そうか、もういないのだな。
「いないです。誰、一人……」
「そうか……。本来なら親子や親友の間柄で一度は発現して自然と気づくようなスキルだ。それがわからんという事は……お前さん、苦労したんだな……」
今は遠い思い出を振り返り、少し胸が苦しくなる。
が、それも過去の話だ。
「過去にはこのスキル持ちが明らかになったのに発現せずトラブルになったパーティーも数多くある、正直冒険者向きとは言えん……」
リリとルル、職員の三人は深読みをしたのだろう。
僕以上に落ち込んでくれている。
ここで立ち止まるわけにはいかない。
「でも、それでも。冒険者になりたいんです。どうか、お願いします!」
強く、強く宣言する。
今からこのスキルを活かそうだなんて無茶な話だ。
果物ナイフと鍋の蓋の装備からでもきっとやって見せる。
やるしかないのだから!
「ああ、じゃあ登録料一人当たり銀貨二枚だな」
ああ、登録料って必要なんですね……。
手持ちは無一文。村から持ち出した道具は色々あるが、流石にお金に手は付けなかった。
余計な火種を残したくは無かったので。
職員にはしっかりと出直す旨を伝えた。
幸いにもリリとルルはまだ付き合ってくれるそうだ。ありがたいね。感謝の念は尽きない。
「登録料、ルル達知らなかった。お兄さん、お金、どうしよう?」
「うう……ごめんね。リリとルルも今、持ち合わせが無くて……」
流石にこんな小さい子にたかるほど落ちぶれてはいない。
それに話を聞くに着の身着のままの二人だろう。むしろ彼女らの装備という面でも手を貸してあげたいとすら思う。
「大丈夫さ。ところでここら辺って古着屋ってないかな?」
問題無い。自分には当てがあるのだ。
そうやって不敵に笑って見せようとしたが、僅かに動いてくれたのは口角だけだった。
「いやー!おにーさん早まらないで!」
「お兄さん、待って、待って。ステイ、ステイ!」
「この古着。全部僕の物なんだけど、いくらになるかな?結構物は良いと思うんだけど……」
というわけでやってきました古着店。
裏通りということで、狸の可愛らしい店主が構える店舗を訪ねることにした。
その容姿は全身が短毛に覆われ、背丈も自分より二回りほど小さい。
ここが日本なら一躍人気間違いなしだろう。
持ち出してきた荷物の大半は村の女性たちから送られた衣類だ。
中にはエグい下着もある。当然未着用。誰が履くものか。
しかし品質は良さそうなものが多く、明らかに金になるであろう代物ばかり。……複雑だ。
「はひぃぃ!え?えぇー?お、男の人ぉ!?良いんですか?さ、査定させて貰っても……さ、触りますね、えへへぇ……」
「お゛あ゛ぁ゛ー!おにーさんの肌着ぃ!触るなんて!触るなんてぇ!」
「てんちょさん、査定手伝いましょうか、ふっへへ」
来店し、買取依頼を出した途端、店内はハチの巣をつついたような有様になってしまった。
陶酔しきった表情の店主、騒ぐリリとルル、商品を見ていた幾人かのお客さん。
正直そのほとんどは着用した事すらないがあまりにも居心地が悪い。
というのも、送りつけられる衣類のほとんどは送り主の趣味全開のものばかりだからだ。
元婚約者なんて生地はいい癖に、妙に透けていたり丈が短かったりするものばかり渡してきて辟易したものだ。
しかし現在はそういった派手な服を査定中なだけに非常に目立つ。
店内の客もこちらをちらちらと窺う亜人ばかりだ。
一枚、また一枚と派手で、時折破廉恥な服が広げられるたびに店内全体から小さく歓声が上がる。
か……帰りたい。
「こ、こちらの服は銀貨8枚ですね。こっちは7枚、こちらは大銀貨1枚で……」
しかしこちらも直近で言えば生活が懸かっている。
冒険者登録どころか新しい第一歩が宿無し生活になりかねないのだ。
「こちらのコートはもっと高く買い取れませんか?かなり質が良いと思うんですよ、ほら……」
そう言って敢えて目の前で羽織って見せ、くるりと一回転。
「ね?上等だとは思いませんか?」
うおぉ!という客や店員達の歓声を背にコートを脱ぎ、カウンターへ置いて見せる。
熱に浮かされたように黙って首を縦に振り続ける店主。ここに交渉が成功した事を確信した――。
「えっ、あれって下着じゃない……!?」
と思ったのもつかの間。
無造作に持ち出してしまった弊害か。
エグめの下着が他の衣類と共に広げられてしまっていた。それを誰かが目ざとく見つけたのだろう。
何という事だ。あろうことか古着屋に下着を持ち込んでしまった男が爆誕してしまった。
これは流石に恥ずかしい。身の置き所も無い感じだ。
いや、履いた覚えもないしなんならハンカチか何かだと思っていたのだ……。そう言い訳させてくれ……。
「え?ああ!すいません。これは違……」
買い取りに出すつもりなんて無かった。そう訂正しようとした瞬間。
「もうやめようよ!」
一際大きなリリの声が響き渡る。
「おにーさん……もうやめようよ!」
目に涙を溜めつつも、双眸がこちらを見据える。
気付けばルルも同じく真剣な眼差しを向けていた。
「下着まで売るなんて間違ってるよ……お金が必要なのはわかる、でも……!」
「お兄さんがルル達の登録料まで賄おうとしてくれているの、わかる。でもこれは違う」
「リリちゃん……ルルちゃん……」
いや、それを売るつもりは無かったんだけど。
これまた生地が良いのが勿体なくはあるが、最悪雑巾にでもするつもりで売る気なんて微塵もない。
それでも本気で二人が心配してくれているのが伝わり、胸の奥が熱くなる。
「こういう時だもん。おにーさんの大切な服をいくつか売るのはわかる、でも……パンツまで売るだなんて……!」
はらはらと涙を零すリリ。それに倣いルルも静かに一筋の涙を零している。
きゅっと胸が締め付けられる。
「パンツが……パンツがも゛っだいな゛いっ!」
「お兄さん、そのパンツは出世払いで払うから売るのやめて」
「二人とも……」
ああ、なんと自分は愚かで一人よがりだったのだろう。
ただ、通りすがりに手当をして一食振舞った。
ただそれだけの相手に、この二人は尊厳を忘れるなと涙ながらに訴えてくれているのだ。
お金さえ手に入ればいい?今は非常事態?
どうせ未着用の品ばかり?
そうやって言い訳を重ねて心をすり減らしてきたのが今世の自分じゃないか。
出会って僅かな時間しか経っていないのにも関わらず、この世界でも自分の為に泣いてくれる人がいる。
元より売るつもりは無かったけど、これだけはいくらの値が付こうと売れない。売らない。売ってなるものか。
そして二人に感謝の気持ちを伝えよう。
二人はただ、恩義を感じているからという理由だけでここまで付き合ってくれたわけではないのだ。
「ごめん。僕が間違っていた。そして――ありがとう」
自然と目頭が熱くなる。
胸の奥の熱は更に温度を増し、今にも溢れそうになる。
いや、これは……光っている?
リリとルルの二人を見やる。
二人も突然の異変に動揺しているが、これは……光!?
「これが……リンゲージ……!」
僕と二人を繋ぐように光る力強い光。
そして直感が告げる、これこそがリンゲージの発現。
強い、とても力強い何かを感じる。
直感で全てがわかる。
二人が自分を本気で思ってくれている事。
嘘偽りなく、恩義に報いてくれようとしている事。
これが――絆。
「す、すごい。お兄さん。力が溢れてくる、あちょーじゃない、しゅばばって感じ……!是非私たちと、」
「おにーさん!これって!そういう事だよね!?力が、力が溢れて来る!お願い、おにーさん。私たちと、」
「「私たちとパーティーを組んで!」」
正直、リンゲージに自分自身の戦闘力を向上させる効果は無い。
それでも、この力を活かして彼女らを一人前の冒険者にまで成長させてあげる事が出来れば。
冒険者として一財産築かせて、そうして残してあげる事が出来れば――。
「僕からもお願いするよ。三人でパーティーを組もう」
もう迷いはない。
せめて二人の為に、最高の後衛として、バッファーとして責務を果たそう。
そのためにも……。
「というわけでこの下着以外の買い取りを全てお願いします」
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