GOD SPEED LYCORIS   作:フォイオ

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地獄姉妹誕生

 

「ほら、フキせんぱ〜い。早く肩揉んでくれっス〜」

 

 

DAの本部、春川フキと乙女サクラの自室。サクラが椅子にどっかりと座りながらフキに向かって偉そうに命令する。

 

 

「はぁ?ざっけんじゃねぇ!誰がそんなこと?!」

 

「今じゃ私がザビーの資格者でファースト!あんたはただのセカンドリコリス。立場をわきまえてくださいっス」

 

「くそがっ!」

 

 

フキは壁に拳を叩きつけ、自室からバンと勢いがするほど扉を開き外に出る。こんなことになったのはあの日、カブトに敗北してからだった。

 

 

「カブトぉ!」

 

「うわ、あれってカブトに負けてザビーゼクターの資格を剥奪されたフキさんじゃん」

 

「やめろって、聞こえるだろ」

 

「でもでも!その後にザビーゼクターがサクラさんを資格者に選んでファーストになったんだよね!偉そうに先輩づらしてたのにかっわいそぉ」

 

「チッ」

 

 

フキは自分を見てヒソヒソと噂話をする少女たちに舌打ちをする。彼女たちの言っていることは本当だ。セカンドに降格した後、ザビーゼクターは次の資格者に何故かサクラを選んだ。サクラは飛び上がり喜んでそれはもう調子に乗りまくった。今じゃ先輩と後輩の立場すら忘れて上から目線であーだこーだご高説を垂れる始末。フキの屈辱は計り知れなった。

 

 

「こうなったのも全てカブトのせいだ。あいつがいなけりゃ!」

 

 

フキは本部に設置されている休憩スペースで缶コーヒーを飲みながらカブトに憎悪を募らせた。

 

 

「ん?こんな時に電話?」

 

 『フキせんぱーい、聞こえてますかぁ?こちらファーストの乙女サクラでーす』

 

「あんにゃろう」

 

 

やけに間延びした声で今最も聞きたくない声が電話越しに聞こえてくる。フキはこめかみに青筋を立てる。

 

 

『次のカブト捕獲作戦が決まったっス。詳細はメールで送るんで頼みますよ、せ・ん・ぱ・い♡』

 

「もう切るぞ」

 

 

フキは電話を強引に切ると携帯のメールボックスから受信した新着のメッセージを見る。そこには隊長乙女サクラ。副隊長春川フキとあり、次のカブト捕獲作戦の決行日と詳細が記載されていた。

 

 

「やってやろうじゃねぇか!見てろよ、カブト!」

 

 

フキは勢いよく立ち上がり缶コーヒーを握り潰す。その目に激しく燃える激情を灯して。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいっスか。ネイティブの方々が言うにはそろそろここにカブトがくるっス。みなさんは私の邪魔をしないようにしててくださいっス」

 

 

ポイントアルファ地点。高架下。対ライダー専用の武装に身を包んだ少女たちの前でサクラが部隊に大声で話す。

 

 

「おい待て、サクラ。いくら隊長だからって規律を乱すような言動は控えろ!」

 

 

サクラの度し難い発言にキレるフキ。彼女はサクラに冷静に諭そうとするもその言葉は届くことはなかった。

 

 

「はいはい。セカンドのフキさんは黙っててくださいっス。てか、いい加減先輩ヅラはうざいっスよ?」

 

「テメェ?!」

 

 

まさに一色触発の状態。隊員たちはあわあわとしながら2人のいく末を見届けるしかなった。

 

 

「た、隊長!時間です、カブトが来ます!」

 

「おっ、もうそんな時間っスか」

 

 

部隊の中の少女が意を決して口を開きサクラに進言する。サクラは右手に装着したライダーブレスに頬づりをしながら今か今かとカブトを待ち構えている。

 

 

 『CLOCK OVER!』

 

「やけに騒がしいと思ったらお前たちか」

 

 

やがて出現予測ポイントにカブトが現れた。偽装したワームの周波数をあらかじめ撒いておいたのだ。

 

 

「さぁ、ファーストになった私の伝説の開幕っスよ!変身!」

 

 『HENSIN!』

 

「キャスト〜オフ!」

 

 『CAST OFF!CHANGE WASP!』

 

 

ザビーのマスクドアーマーが弾け飛びカブトに迫るも、カブトはただ鬱陶しそうに手で払いのける。

 

 

「どうした?攻めてこないのか?」

 

 

カブトは一向にファイテングポーズをとってシャドーボクシングをしているザビーの様子をおかしく思い彼女に問いかけた。

 

 

「へっ、データではカブトはガチガチのカウンター戦法が得意なことはお見通しっス!フキ先輩の二の舞にはならないっスよ!」

 

「あの馬鹿!もういい、全隊構え!」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

 

フキの呼び声にリコリス部隊が一斉に対ライダー用のガトリングを構える。しかし、サクラはそれを振り返らずに手で制する。

 

 

「おい、サクラ!何考えてる?!」

 

「いやー、手柄を独り占めできるチャンスなのに萎えることしないでもらえないっスか?ていうか、普通に邪魔なんスけど?」

 

「戦闘において最も重要なこと。それはパーフェクトハーモニー、完全調和だ!お前が乱してどうする?!」

 

「はぁ、そう言うところが一番うざいんだよ。アンタの時代はもう終わった。これからは私の時代なんだよ」

 

「サクラぁ!」

 

 

フキはギリギリと歯を噛み締める。何故こうも変わってしまった?ザビーゼクターのせいか?カブトのせいか?もう自分ではわからなかった。そんな時、カブトがようやく口を開く。

 

 

「仲間割れはけっこうだが、俺は忙しいんだ。俺という太陽の輝きに焼かれるがいい」

 

「来いっス!」

 

「フッ!」

 

 

カブトが先手を打って出た。カブトはフェイントのジャブからの怒涛のコンビネーションでザビーを追い詰めていく。

 

 

「くっ、早いっス!?」

 

「どうした?俺がカウンターだけのやつだと思ったか?甘いな」

 

「ぐふっ!がはっ?!」

 

 

ザビーはカブトの猛攻に耐えきれずひたすら防御を取るしかなかった。そして、徐々にカブトの攻撃は苛烈を極めていき、ザビーはカブトのサンドバッグと化していた。

 

 

「馬鹿な!戦闘シュミレーションでは勝率70%を切っていたのに何故ここまで力の差が?!」

 

「おばあちゃんが言っていた。俺の進化は光より早い。全宇宙の何者も俺の進化にはついて来れない」

 

「そ、そんな!?」

 

 

サクラから絶望の声が響く。それでは永遠に自分に勝ち目はないではないか。サクラは歯を食いしばり、カブトを強引に突き飛ばした。

 

 

「うわぁああああ!!!」

 

「フン。己の弱さを知らないものは本当の強さを得ることはできないぞ」

 

「黙れぇええええ!ライダースティング!」

 

 『RIDER STING!』

 

 

サクラが逆上し必殺の一撃をカブト目掛けて放つ。それにカブトは背中を向けて無防備になる。

 

 

 『1.2.3』

 

「ライダー……キック」

 

 『RIDER KICK!』

 

「「ハァア!!」」

 

 

カブトが左足を軸に急回転し回し蹴りのライダーキックをザビーのライダースティングにぶつける。互いの必殺技の激しい衝撃に部隊の少女たちは吹き飛んでゆくもフキは最後まで踏ん張り結末を見ていた。

 

 

「俺の勝ちだ」

 

「がはっ!ぐぅううう……カブトぉ!」

 

 

最後まで立っていたのはカブト。サクラは変身解除されボロボロになって倒れていた。

 

 

「ちょうどいい。ザビーゼクターは俺がもらおう」

 

「ま、待ってくれよ!返してくれよ、私のザビーゼクター!?」

 

 

ザビーゼクターはカブトの周りを激しく飛ぶと彼の手のひらに止まる。カブトはザビーゼクターを握りしめると再びクロックアップの世界に戻っていった。

 

 

 『CLOCK UP!』

 

 

「うわぁああああああ!!!」

 

 

サクラの慟哭が響く中、フキは呆然と立ち尽くしていた。任務失敗。その言葉が重く心にのしかかる。その上、ザビーゼクターまで奪われた。上は何というだろう。フキは乾いた笑いを浮かべ涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、任務を失敗した挙句ザビーゼクターをカブトに奪われたことにより、DAからフキとサクラは追放された。楠だけは彼女たちの有用性をネイティブ側に必死に伝えるもそれは無駄になり終わりを迎えた。

 

DAから追放された代わりに得たのは一般人としての最低限の生活保障と戸籍、わずかばかりのお金。一応人としての生活はできるが前の仲間からは後ろ指を刺され嘲笑と嘲りにあい、プライドはズタズタにされ全てを失った彼女たちは地獄のどん底にいた。

 

 

「はぁ、どうせ私なんか……」

 

「フキの姉貴、腹減ったっス……」

 

「……今日もカップ麺だ。大人しく食ってろ」

 

「はぁ……またカップ麺かぁ」

 

 

1LDKの一室。そこはボロボロの畳と簡素的なキッチン、トイレしかなかった。あくまで保証されたのは最低限の生活のみ。追放の知らせを受け心配した千束から何度も連絡が来たが全部無視をした。今更どの面下げて行けばいいのか分からなかったからだ。

 

 

「なぁ、サクラ。どうせ私たちはもう太陽の下を歩けねぇ。それならいっそ一緒に地獄に行かないか?」

 

「フキの姉貴……いいっスよ。どうせ私たちなんかもう誰も相手にしないっスからね」

 

 

2人がくくく、はははと笑い合う。お互いに居場所をなくしたもの同士だが地獄は別だ。地獄の底なら自分たちは歩いていける。闇に堕ちた少女たちはかつてのリコリスの制服の袖を肩口まで破り捨てカップ麺をズルズルと勢いよくすする。

 

ここに地獄兄弟改め地獄姉妹は結成した。

 

ちなみに彼女たちが食べているのはカップ麺姉とカップ麺妹という名前の地元スーパーで割引されている格安のカップ麺である。ちなみに辛い。

 

カップ麺を平らげた後、彼女たちは早速行動を始めることにした。闇の住人には居場所はいらない。この世という地獄を彷徨うだけだ。

 

彼女たちの暗い瞳には何も映ってはいなかった。あるのは深淵。見るもの全てを飲み込む闇。

 

 

「さぁ、行こうぜフキ……いや、妹よ」

 

「あぁ、行こうぜ姉貴。どこまでもついてくよ」

 

 

2人はアパートの扉を開けて夜の街に出る。この日以降、彼女たちを見かけることはなかった。地獄姉妹は一体どうなるのか。その答えは誰も知らない。

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