俺の名は──。
突然だが、俺は前世の記憶を持つ『異世界転生者』だ。
前世は地球の日本という国で生まれ、28歳という若さで不慮の事故死を遂げたしがない独身男。結婚はおろか、まだまだやりたいことが山ほどあった、悔いしかない人生だった。
だが、俺は幸福にも第二の人生を授かった。
──なぜか、女の子として。
いや、文句をつけるつもりはないんだよ? でも、28年も男として生きてきたのに、急に「はい、今日から女の子です!」ってなっても困るっていうか……。
いやほんと、生まれ変われたこと自体は感謝してるんだけどね!?
まぁ、文句を言っていても無いものは生えてこない。俺は前世のように悔いを残さないよう、必死に努力することにした。
あ、そうそう、言い忘れていた。
この世界はなんと、剣と魔法の王道ファンタジー世界なんだ。
魔法が使えて、迷宮があって、モンスターが跋扈している。おまけに、伝説の武器なんてものまで存在するのだ。
……いや、もう最高じゃないか。
日本男児の血が騒ぐってもんさ!
◆
今振り返ると、マジで怒涛の日々だった。
生まれ変わった当初こそ戸惑いもしたが、いつまでも前世を引きずっていたところで仕方がない。今度こそ悔いのない人生を送るため、あたしは死に物狂いで身体を鍛え、迷宮に潜り、数々の死線をくぐり抜けてきた。
その過程で伝説の武器まで発掘し、気づけばA級冒険者の仲間入り。自分で言うのもなんだが、我ながら頑張ったものだと思う。
……うん、そこまではいいんだ。問題は、その先にあった。
基本的に、冒険者稼業は生きるか死ぬかの血生臭い毎日だ。命懸けの依頼をこなすだけでも大変なのに、面倒くさい人間関係に巻き込まれたり、トラブルメーカーの友人に振り回されたり、挙げ句の果てには、やたらと付きまとってくるウザい勇者までいたりする。
そして、極めつけが実家の両親だ。
帰省するたびに「そろそろいい人を見つけて、孫の顔を見せておくれ」なんて急かしてくるのだから、たまったもんじゃない。
中身はアラサー手前の男なんですよ、あたし?
前世でさえ結婚できなかったというのに、今世では女の身体になったからといって、そう簡単に恋愛や結婚に踏み切れるわけがない。そもそも、男との恋愛なんて想像するだけでも落ち着かないし、正直なところ、気持ち悪い。
なんだったらもう、一生独身で悠々自適に暮らせばいい。
金なら冒険者稼業で十分に稼げるし、実力だってそれなりにある。誰かに気を遣いながら生活するより、自由気ままに生きていくほうが性に合っているのだ!
………おっと、話がそれたな。
とにかく、今のあたしは大きな仕事をひとつ終え、休暇も兼ねて世界を旅している最中だ。
たまには、のんびりと過ごすのも悪くない。なにより、普段の拠点から遠く離れていれば、面倒くさい連中の顔を思い浮かべずに済む。これだけでも、わざわざ旅に出た価値があるというものだ。
それに、この大陸はなかなか気に入っている。
弱肉強食の掟がはっきりしていて、実にシンプルなのだ。もちろん、たまには自分と相手の実力差も理解できずに絡んでくるバカもいるが、依頼にしても遭遇するモンスターにしても、普段活動している大陸とは違うものばかりで新鮮味がある。
未知の土地を歩き、見たことのないモンスターと戦い、まだ知らない景色を目にする。
こういう刺激があるからこそ、冒険者稼業はやめられない。
騎乗している相棒の背に揺られながら、ぼんやりと周囲の景色を眺めていた、そのときだ。
風に乗って、モンスターの雄叫びが聞こえてきた。
続いて、かすかな悲鳴。
すぐに進路を変え、騎乗しているモンスターを急がせる。
────見えたッ
あれは……地竜か。
そしてその先では、女の子が今にも襲われそうになっている。
「間に合えッ……!!」
騎乗しているモンスターの背を蹴って高く飛び上がる、相棒のハンマーを抜刀し、渾身の力を乗せ地竜の脳天めがけてハンマーを振り下ろす。
────────!!!!
鈍い衝撃が腕から全身へと伝わり、硬い鱗を砕き、その奥にある頭蓋を粉砕する確かな手応えが返ってくる。
巨体が大地を揺らしながら崩れ落ちた。
……よし、仕留めた。
地竜の動きが完全に止まったことを確認してから、あたしはゆっくりと息を吐く。
どうやら、ギリギリのところで間に合ったらしい。
ひとまず脅威が去ったことに安堵し、あたしは背後を振り返った。
すると、地面に倒れ込んでいた少女が、慌てて身を起こした。泥だらけになった服を気にする余裕もないらしく、こちらへ向き直ると、ぺこりと頭を下げる。
「あ、えっと、助けてくれて、ありがとうございます!」
それが、ミカとの出会いだった。
彼女──ミカの話によると、迷宮を探索している最中に転移罠に引っかかり、気づけばこんな場所まで飛ばされてしまったらしい。
危険な土地で彼女をこのまま放り出すわけにはいかなかった。幸い、あたしには彼女を故郷まで送り届ける余裕がある。そういうわけで、ミカを助け、共和国まで送り届けることにしたのだ。
……ところが。
なぜか彼女は、あたしの弟子になりたいと言い出したのである。
最初は冗談かと思った。だが、どうやら本気らしい。熱心に頼み込まれ、あれよあれよという間に、あたしは彼女を弟子にすることを承諾してしまった。
………本当に、これでよかったんだろうか。
いや、まあ、今さら悩んでも仕方がない。
ただ、この決定に後悔はない。
ミカは可愛いからだ。
ふとした拍子に距離が近くなったり、上目遣いで頼ってきたり。そんなことをされるたびに、元男であるあたしの心臓は落ち着かなくなる。
いや、別に変な意味じゃないぞ?
弟子として可愛いというやつだ、きっとそうだ。……たぶん。
ときどき顔を真っ赤にして荒い息を吐いたり、不自然な体勢で歩き始めたりと、少々理解に苦しむ奇行(?)に走ることもあるが、基本的には素直でいい子だし、何より可愛い。
うん、可愛いは正義だ。問題ない。
……問題ない、はずだ。
年上として、そして師匠として、格好いいお姉さんらしく振る舞いたいところなのだが、ミカはどうにも距離感がおかしい。
「師匠、一緒に寝てもいいですか?」
……これだ。
出会ってから、まだそれほど時間も経っていないというのに、どうしてそんなことを平然と言えるんだ?
しかも、こちらを見上げるその顔ときたら………。
無自覚なのか、それともわざとなのか。
どちらにしても、こっちの身にもなってほしい。
相手は弟子だ。可愛い弟子。そう、ただの弟子である。
それに、あたしは鋼のメンタルの持ち主だ。これくらいのことで動揺するような、やわな人間じゃない。
……ふっ、余裕だな。
そう自分に言い聞かせながら、あたしはミカと共に夜を過ごすことになった。
考えてみれば、誰かと一緒に夜を過ごすのは久しぶりかもしれない。
隣から聞こえてくる、ミカの寝息。
ミカはすっかり眠りに落ちているらしい。寝返りをうつふりをして横を見ると、ミカはこちらの心境など知る由もなく、穏やかな寝顔を浮かべている。
まつ毛、長いなぁ。
……
…………
………………
だ、だめだ。
何も考えるな、あたし。
とにかく、今は寝ることだけに集中するんだ……!
近くの街、スコタまで帰ってきた。
ミカの部屋を取ろうと、あたしは普段から寝泊まりしている宿へと向かっていた。
別に、あたしはミカと同じ部屋でも構わないんだけどね。ほら、出費も抑えられるし、それに、わざわざ別々の部屋を取る必要もないというか……。
いやいや、違う違う。
それだとミカが気を遣っちゃうでしょ? うん、そういうこと。あくまでも弟子への気遣いってやつだ。
……うん。正直に言おう。
本当は、あたしが緊張しちゃうからだ。
だってさ、年の近い女の子と同じ部屋で一晩過ごすとか、普通に考えてやばいでしょ! あたしにそんな経験なんてほとんどないし、冒険者稼業に明け暮れてきたせいで、そういう機会とは無縁だった。
それなのに、出会ったばかりの可愛い女の子と同じ部屋だなんて……。
いや、無理無理! 心の準備ってものがあるだろ!
「師匠?」
「ん? ……コホン、なんでもないさ」
どうやら、考え込んでいるうちに顔に出てしまっていたらしい。ミカが不思議そうにこちらを見上げている。
いかんいかん。
師匠たるもの、弟子の前で情けない姿を見せるわけにはいかない。
そもそも、今のあたしたちは同性同士なんだ。そう、同性。何をそんなに緊張する必要があるっていうんだ?
相手は女の子で、あたしも女の子。
うん、何も問題ない。実に健全じゃないか。
……よし、落ち着いた。
そうやって自分に言い聞かせているうちに、見慣れた宿の看板が目に入ってきた。どうやら、余計なことを考えている間に目的地へ着いたらしい。
「ここが、あたしがいつも泊まっている宿だよ」
ミカにそう声をかけ、あたしは酒場の扉へと手を伸ばした。
宿の扉を開けると、酒と料理の匂い、そして冒険者たちの賑やかな笑い声が一斉に押し寄せてきた。
いつ来ても騒がしい場所だ。
まあ、冒険者なんてこんなものだろう。命懸けの仕事をしている連中が、酒場でくらい羽目を外したくなる気持ちも分からなくはない。
「店主!」
「はいはい、ってアリアじゃないかい!」
カウンターに向かって声をかけると、厨房の奥から恰幅のいい中年女性が顔を出した。
「依頼はもう終わったのかい?」
「ああ、問題なく」
「そいつは良かった! で、隣の嬢ちゃんは?」
「色々あって、彼女はあたしの弟子だ」
店主の視線が、あたしの隣に立つミカへと向けられる。
ミカは少し緊張した様子で背筋を伸ばすと、ぺこりと頭を下げた。
「み、ミカと言います。よろしくお願いします!」
「いい子そうじゃないか、頑張りなよミカ」
「はい!」
「追加で部屋をとりたい、私の隣は空いてるかな?」
「空いてるよ、何日泊まるんだい?」
「とりあえず二日で頼む」
「はいよ」
店主から鍵を受け取り、代金をカウンターに置く。
すると、ミカが申し訳なさそうにこちらの袖を引いた。
「あの、師匠。お金まで出してもらって、すみません……」
「気にしないで、こう見えてもA級冒険者なんだ、お金はもってる」
実際、懐にはそれなりの余裕がある。弟子をひとり泊めるくらいで困るほど、あたしの稼ぎは悪くない。
「ありがとうございます、師匠!」
ぱっと顔を明るくするミカ。
うん、やっぱり可愛い。
こういう素直なところは、弟子として大変よろしい。
あたしが密かに満足していると、不意に隣から乱暴な足音が近づいてきた。
そして──
ドンッ!
「よォ、アリア。戻ったか」
荒々しい音を立ててカウンターに割り込んできたのは、数人の男たちだった。先頭に立つのは、額から角を生やした亜人の男。体格もよく、いかにも腕っ節に自信がありそうな風貌をしている。
ああ、こいつか。
面倒なのが来たな。
「……ガスト」
思わず名前を呼ぶと、男はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。
「随分危険な依頼だったんダろ? 心配したゼ、へへへっ」
「それはどうも」
心配ねぇ、その割にはずいぶんと楽しそうな顔をしているじゃないか。
まあ、こいつの性格を考えれば、本気であたしの身を案じていたなんて可能性は万にひとつもないだろう。
──ガスト。
この周辺で幅を利かせている商会の跡取り息子なのだ。いわゆる、金と権力を持った家のボンボン。気に食わない奴だからといって、下手に痛い目を見せれば、商会を巻き込んだ面倒ごとに発展しかねない。
「で、考え直してくれたカよ、うちのパーティに入るって」
ガストは馴れ馴れしく笑いながら、顔を近づけてきた。
「おいおい、つれねえなァ。俺たちはまだB級だが、すぐにA級に上がってみせるぜ? お前が加わってくれりゃ、S級だって夢じゃねえ」
はあ、またその話か。
ガストの誘いを断った理由は面倒ごとを避けたいからというだけではない。
──こいつ、あたしを見る目が気持ち悪いんだよね。
最初に声をかけられたときから、ガストの視線は妙にねっとりとしていた。顔や身体を値踏みするように眺め、こちらの反応をうかがうような目つき。まるであたしを一人の冒険者ではなく、見た目だけで品定めできる商品か何かだと思っているようだった。
正直、鳥肌が立つ。
あたしも今ではれっきとした女だ。こういう視線を向けられること自体は、残念ながら珍しくない。けれど、だからといって慣れるものでもなければ、我慢して付き合う義理もない。
実力がどうこう以前に、生理的に無理。あんな男と同じパーティーで行動するなんて、考えただけでもぞっとする。
正直なところ、あたしだって最初から力ずくで黙らせることはできた。ガスト程度なら、片手で軽く吹っ飛ばして終わりだろう。
けれど、冒険者同士の私闘は御法度。もちろん正当防衛まで禁じられているわけじゃないけれど、必要以上に手を出せばギルドから面倒な目で見られることになる。ましてや、あたしはA級冒険者だ。自分の行動にはそれなりの責任が伴う。
だから、あたしは穏便に断ったのだ。向こうが大人しく引き下がってくれれば、それで済んだ話だったんだけど………。
「前にも言ったが、お断りするよ」
「おいおい、ノリ悪りぃナ! ぜってぇ悪いようにしねぇぜ!」
おいおい、近い。
おまけに、酒臭い。
あたしは露骨に顔をしかめたが、ガストは気にした様子もなく、今度は肩に手を伸ばしてきた。
チッ、いい加減にしろよ。
そう思った、その瞬間だった。
パシッ!
「師匠に気安く触らないでください」
横から伸びてきたミカの手が、ガストの腕を払いのけた。
「……あ?」
ガストの顔から笑みが消える。
突然のことに、あたしも思わず目を瞬かせてしまった。
「み、ミカ?」
「な、なんだテメェ!」
ガストが凄んでも、ミカは一歩も引かなかった。それどころか、あたしを庇うように前へ出ると、胸を張って堂々と名乗った。
「私はミカ。アリア師匠の弟子です!」
しかし、ガストたちは顔を見合わせたかと思うと、一斉に下品な笑い声を上げた。
「ギャハハハハハハハ、こ、コイツが弟子!?」
「オイオイ、冗談キツいぜ! こんなヒョロヒョロのかわい子ちゃん連れて、孤児院の真似事でも始めたのカよ!」
「いいゼ、まとめて俺タチが可愛がってやるよ!」
……あ"?
別に、あたし自身が馬鹿にされるのは構わない。そういう手合いには慣れているし、いちいち腹を立てていたらキリがないからな。
だが、ミカは違う。
まだ出会って間もないとはいえ、ミカはいい子だしあたしの弟子だ。面白半分に笑いものにされて黙っていられるほど、あたしは人間ができていない。
よし。ちょっとばかり、痛い目を見てもらおうか。
一歩踏み出そうとした、しかし。
「大丈夫です師匠、任せてください」
な、なに、その横顔。
なんな、すごく、カッコよくて…………
ち、違う違う。何言ってんだあたし!
どうやら、あたしが思っている以上にこの子は肝が据わっているらしい。
あたしは一歩下がり、ミカの背中を見守ることにした。もちろん、何かあればすぐに割って入るつもりだが。
するとミカは、ガストたちに向き直りわざとらしく首を傾げた。
「あのぅ、聞いてて笑っちゃったんですけど〜。いい歳した男たちが群れて、自分たちより強い人に泣きついて……おんぶに抱っこで上のランクに行きたいって、ダッサ〜」
バカにするように笑うミカ。
「な、んダと……?」
ミカはわざとらしく、ガストたちの顔をひとりずつ見回した。
「それって要するに、『俺たちだけじゃ上にいけない無能です』って大声で自己紹介してるのと同じじゃないですか」
この子、思った以上に口が悪いぞ!?
いや、言っていることは間違っていない。間違っていないんだけども!
周囲の冒険者たちも、酒を飲む手を止めてこちらの様子を窺っている。
そんな中、ミカは最後の仕上げとばかりに、ガストの額に生えた角へ視線を向けた。
「その額の立派な角も、ただの見掛け倒しの飾りなんですね。哀れだなぁ」
……………
しんっ、と酒場が静まり返った。
そして、次の瞬間。
『ぶっ……ダハハハハハハッ!!』
周りの冒険者たちから、空気が震えるほどの大爆笑が巻き起こった。
ガストの顔が、見る見るうちに赤くなっていく。
「テメェ、ぶっ殺してやるッ!!」
怒りで顔を歪ませたガストが、腰の剣を引き抜いた。
それに対して、ミカは慌てることなく愛用の杖を構え、静かに魔力を練り始めた。その横顔には怯えた様子もなく、むしろ相手がどう出るのか見定めているような余裕すらある。
……へぇ、ただの新米冒険者というわけではないらしい。
ただ、さすがに店の中で本格的な魔法を撃ち合うのは勘弁してほしい。そう思って口を開こうとした、そのときだった。
「ええい、やかましいッ!!」
ドゴンッ!!
凄まじい音とともに、カウンターに店主の拳がめり込んだ。
……えっ。
「両方とも頭を冷やしな! この店で殺し合いは許さないよ! やるなら外でやりなっ!」
店主の一喝が酒場中に響き渡る。周囲の冒険者たちからも、冷ややかな視線が突き刺さっている。
「が、ガスト……も、もういいだろ?」
「そ、そうだぜ。ここで騒ぎを起こすのはまずいって……」
どうやら、ガストたちはこの店の連中にもあまり好かれていないらしい。
「チッ……!」
ガストは忌々しそうに舌打ちすると、剣を鞘へ戻した。
「覚えてやがれェッ!」
悪党が負けたときに吐く台詞ランキング、不動の第一位。そんな捨て台詞を残し、ガストたちは逃げるように酒場から出ていった。
途端に、店内から歓声と笑い声が上がる。
「いいぞ、嬢ちゃん!」
「よく言ってくれた!」
「いい見せ物だったぜ!」
ミカは少し照れくさそうに頬をかきながら、周囲の冒険者たちへ頭を下げた。
「えへへ……ありがとうございます」
「まったく、勇気があるのはいいことだけどね。あんまり無茶するんじゃないよ?」
「はい! 店主さんも助けていただいてありがとうございました!」
元気よく返事をするミカを見て、あたしは思わず苦笑した。
あのガスト相手に一歩も引かず、あそこまで言い返せる度胸は大したものだ。魔法の腕についてはまだ分からないが、少なくとも冒険者として必要な胆力は持ち合わせているらしい。
それに、あたしのために怒ってくれたのは……な、なんだか胸が高鳴った。
「……ミカ」
「はい、師匠?」
「その……ありがとう。助かったよ」
言い終えてから、なんだか妙に気恥ずかしくなった。
弟子に礼を言うくらい、どうってことないはずなのに。
……なんだろうな、この感じ。
するとミカは、なぜか固まる。
「ど、どうかしたか?」
「い、いえ、なんでもありません!」
「……?」
とりあえず、受け取った鍵をミカへ差し出した。
「……ほ、ほら部屋に行こう。今日はもうゆっくり休むといい」
「はいっ、師匠」
嬉しそうに鍵を受け取るミカを見ながら、あたしは心の中でそっとため息をついた。
可愛い弟子を持つと、師匠もなかなか大変だ。