メタロイドたちの短編です
ティーパーティーの清掃担当になりました。
事の発端はミカ様が自首したあの日、セイア様が私に話しかけた一言でした。
「この一件が終わったら、ティーパーティーの清掃担当にならないかい?」と。
最初は驚きましたよ。それと同時に面倒くさいとも思いました。
やっとこの長い仕事を終えたと思ったら、また別の仕事。
まぁ掃除自体は好きですし、この後の予定なんてないんですけど。
補習授業部の皆さんも期待に満ちた目でこちらを見つめていました。……なんというか、私のこと信用し過ぎではありませんか? 一応、裏切りに近いことをしたと思うんですけど……
しかし私の一存で決定することはできません。私はMonsieurエンターに許可をいただくためにpathを繋ぎました。
『問題ありませんよ。メタロイドの方針は基本自由行動ですからね』
その返答は予想通りのものでした。
まあそうですよね。ファンロイドもゲヘナで会社に入ったらしいですし。
『
皆さん警戒心がなさすぎます。純粋なのは良いことですが。
「それは仕方のないことですよ……で、私の意図は伝わってますよね?」
はい、神秘の回収は今まで通り続けます。ミカ様やナギサ様の神秘の回収もお任せください。
「
それと?
『セイアさんの監視もお願いしますね』
……私はあくまで掃除担当なので、それは聞けない要望ですね。
そう言うと、無言で返されました。姿は見えないはずなのに何故かすごい圧を感じます。……はぁ、頑張ってはみますよ。
「では、これからソウジキロイドは私が預かることでいいかな?」
「えぇ、構いませんよ。面倒ですが」
そんなこんなで、私の清掃担当就任が決まったのですが……
「あの人が噂の⋯⋯?」コソコソ
「そうそう、セイア様が雇ったオートマタ」コソコソ
「セイア様は何を考えていらっしゃるのか」コソコソ
もう掃除しにくいったらありゃしない!! さっきから視線が煩いんですよ!!!
確かに私の存在は不可解です。
急に復帰したセイアさんが突然雇用したオートマタ。端から見れば怪しさの宝庫でしょう。
さらにここは疑念や陰謀が渦巻くトリニティ。行動一つに対しても、何か裏があるのではないかと疑ってしまうものです。
しかし
居心地の悪さにぼやきながら掃除をしていると、向こうの方から一人の生徒がこちらに駆け寄ってきました。たしかサンクトゥス分派の重役、私を補習授業部に入れてくれた方でしたね。どうしたんでしょうそんなに慌てて。何か嫌な予感がするんですが……
え、セイア様が脱走した???
今日は補習授業部の皆さんが遊びに来ました。わざわざここまでご苦労さまです。
活動自体はなくなってしまった補習授業部ですが、試験が終わってからも一緒に遊んだりしているようです。
各々の部活動や趣味の時間もあるので毎日会うとはいかないようですが、あのマナビバで培われた友情は今も続いてるようです。
そんな中、皆さんは私に会いに度々ティーパーティーに訪れてきます。単に私に会いに来ることもあるのですが、今回ばかりは違うようです。
「⋯⋯詰まる所、私に掃除を教えてもらいたいということですか」
「はい、やっぱりソウジキロイドさん以外に適任はいないかと!」
彼女達に頼まれたのは掃除の指南です。
どうやらヒフミさんはどうしても欲しいペロログッズがあるらしく、そのためにお金が必要だとか。
お金のためアルバイトを捜していた所、高給のアルバイトを見つけたとのこと。
その仕事内容というのが掃除だったらしいです。
「⋯⋯仕事内容見ましたけど、これ絶対裏がありますよ。お金は地道に稼いでください」
「あうぅ⋯⋯で、でも発売日がもう近くて⋯⋯」
「ソウジキロイドさん、こうなったヒフミはもう止められないわよ⋯⋯」
「うん、どんな手を使っても計画を実行するだろうな」
「私どんな風に思われてるんですか⋯⋯」
「日頃の行い、ですかね♡」
ヒフミさんは基本温厚な性格なのですが、モモフレンズ──引いてはペロロ様のことになると人が変わります。アウトローになります。
さらには視野が極端に狭まるので、今回のような件にも簡単に引っかかてしまいます。
将来本当に騙されないか心配ですね。
そんなことを思っていると、ハナコさんはこちらに近づいてきました。
「ヒフミちゃんを止めるのは無理なので、ソウジキロイドさんに来てもらえれば安心と思って、私たちは来たんです。お願いできますか?」
「面倒臭いですね⋯⋯まあ、少しだけなら構いませんよ」
「ありがとうございます♡何かお礼に──」
「エッチな波動を感じた! 二人とも何話してるの!?」
ハナコさん、私を巻き込まないでください。
コハルさん、エッチな波動ってなんですか。
アルバイトの日にちは来週の土曜だそうです。忙しい一日になりそうですね。メンテナンスをしておかなければ⋯⋯
アルバイト当日
「ヒフミさん」
「はい⋯⋯」
「やっぱり罠でしたね。私達、襲われましたね」
「はいぃ⋯⋯」
アルバイトの現場で待っていたのは、大量のヘルメット団員たちでした。
と言っても、全員がミを隠しており気づくのは遅れましたが。
どうやらトリニティの世間知らずお嬢様を狙った犯行らしく、掃除中の生徒さんを一人ずつ引き離して対処する作戦だったそうです。
しかし、皆さん戦闘には秀でてますし、私がいつでも助けにいけるよう待機していたので大事には至りませんでしたが。
「私言いましたよね? 絶対裏がありますよ、と」
「あうぅ⋯⋯か、返す言葉もありません⋯⋯」
ヒフミさんは、目の前で正座をして縮こまっています。反省しているように見えますが、同じ過ちを繰り返しそうな気がするのは気の所為でしょうか。
「ま、まあソウジキロイドさん。ヒフミちゃんも見ての通り反省しているようですし、それくらいで⋯⋯」
「うん、ヒフミに巻き込まれるのは慣れてる」
「それは良いことなんでしょうか⋯⋯」
「わ、私も大丈夫! それにソウジキロイドさんが怒るとこわ──ちょっっと圧が強いし⋯⋯」
コハルさんは目を逸らしながら答え、アズサさんはどこ吹く風。これがキヴォトス人との違いでしょうか。全然動じていません。
「全く、これで少しは反省してくださいね」
「はいぃ⋯⋯でもペロロ様のグッズがぁ」
そう言って項垂れるヒフミさん。仕方のないことですが、少しかわいそうに思えてきました。
「そ、その商品っていくらなの!?」
「え……コハルちゃん? 遂にコハルちゃんもペロロ様に興味が……?」
「ちっ、違うわよ! ただ少しだけでも力になりたくて……」
おやおや、コハルさんが出てきましたね。友達想いなのは良いことですが、これは……
「えっと、値段は……これくらいになります」
ヒフミさんはスマホを操作し、画面をこちらに向けます。
その画面にはその商品の情報が映されていたのですが──
「たっ、高い……」
「文字通り桁違いの値段ですね」
そこに映っていたのは『スーパーペロロ』と表記されていたペロロ像でした。
そして驚くべきはその値段。おおよそ高校生が買うものとは思えません。恐らく富裕層へ向けた商品でしょう。
「う〜ん……これはさすがに厳しいかも……ごめん」
「し、仕方ないですよ。値段が値段ですし。あはは……」
そう言ってヒフミさんは力なく笑います。
仕方ありませんね。ここは私が──
「私も少しなら出せるぞ。3人なら何とか足りるかもしれない」
「えっ、アズサちゃん!? いいんですか!?」
「うん、ヒフミにはいつも助けられてるし、それに友達が悲しんでいる姿を見ているだけなのは辛い」
「アズサちゃん……!」
「ふふ、こうなってしまったからには私も出るしかありませんね」
「ハナコちゃん……!」
アズサさんとハナコさんが揃って名乗りを上げるました。本当に友達想いな人たちですね。
しかし、これを
「仕方ありませんね。その商品、私が全額肩代わりしましょう」
「え! クリーナーさん本当にいいんですか!?」
「ティーパーティーからのお給金が余ってるので、そのくらいの額なら問題ありませんよ」
私メタロイドですから食費もいりませんし、何か不具合があればMonsieurが無料でメンテナンスしてくれますからね。お金は基本的に余ってるんですよ。
「あと、貴女たちさっきから流してましたけど、子供どうしのお金の貸し借りは、本来良くないことなんですよ。お金は人間関係を大きく変えるんです」
「う……」と何かに気づいた表情で、皆さんお互いに顔を向け合います。
そしてヒフミさんが改めてこちらに向き直りました。
「あ、あの! クリーナーさん。今回は色々と……本当にありがとうございました!」
「どういたしまして。これからは怪しいバイトは請けないでくださいね」
「はい! これからはクリーナーさんに相談することにします!」
「そういう意味じゃなかったんですが……」
いつの間にか仕事が増えました。
お掃除する時間がどんどん減ってきます……
ティーパーティーの清掃担当になって数週間が経ちました。
最初こそ警戒されていましたが、時間の流れというものは恐ろしいもので、私への疑念は大分マシになりました。
どうやらヒフミさんが兼ね合ってもくれたそうです。本当にいい子ですね、あの子は。
そのお陰もあってか、仕事中に生徒さんに話しかけられることが増えました。私は大分受け入れられてきたようです。
因みにサンクトゥス分派の人たちとはかなり仲良くなりましたよ。無論、理由はセイア様の捜索です。非常に不本意ですがセイア様に感謝はしています。不本意ですが。
しかし、最近になってくると生徒さんから相談事をされることが多くなってきました。
えぇ、意図はわかります。
トリニティという学校はその性質上、信頼できる人物は限られてきます。その胸に溜め込むものも多いでしょう。
その点、私はただの雇われ。セイア様の管轄下にあるという前提条件はありますが、赤の他人と言っても差し支えありません。
それに私は派閥とか興味ありませんし、相談したことを言いふらす心配もありません。生徒さんにとって私は、何かと都合のいい存在なんでしょうね。
ただ……最近は相談されることが増え過ぎなんじゃないか? と思うようになりました。
最初は1人2人だったのが、3人4人⋯⋯と増えていき、多い時だと一日で10人も相談に来るようになりました。
セイア様からは「良かったじゃないか。慕われてる証拠だよ」と言われました。
リーダーがそれでいいんですか? とも思いましたが、もう諦めました。
相談事の内容としては、人間関係だったり勉強のことだったり業務のことだったりと様々です。
正直、女子高生の悩みに適切に答えられている自信はありません。
でも話し終わると大体の子が「ありがとうございました!」と付き物が落ちたような顔をしてくれるので、まぁ助けにはなってるんじゃないかと思います。
あっ、それと相談を終えた子がたまに「なにかお礼がしたいです」と言ってくることがあります。
その心遣いは嬉しいですが、生憎困ってることは無いんですよねぇ⋯⋯
メタロイドですから食べ物は必要ありませんし、掃除も好きでやってるので特に苦ではありませんし。
そう思っていたら、とある妙案を思いついたんです。
「では次セイア様が脱走した時、一緒に捜してくれませんか?」と。
これにより、10数人の『百合園捜索隊』が結成され、セイア様捜索がかなり楽になりました。
セイア様は頬を膨らませて私を足蹴りにしました。業務をサボる貴女が悪いんですよ。
⋯⋯まあ私の日常としてはこんなものですかね。
通常の業務に加えて、これらの相談とセイア様の捜索。実を言うと、補習授業部に潜入していた頃よりも断然忙しい日々を送っています。休む暇もありません。
本当に面倒臭いことが絶えませんよ、全く⋯⋯。
「あっ、いた! クリーナーさん!」
後ろから急に声をかけられ、何かと思い振り返る。
そこには、補習授業部で同じ時を過ごした下江コハルさんがいました。
息を切らし肩を上下に動かしています。ここまで走って向かってきたのでしょうか。
「すいません、考え事をしていました。どうかしましたか?」
「実は⋯⋯私達とはぐれちゃったヒフミが近くにいたヘルメット団に拉致されて戦車に引きずり込まれたんだけど、戦車の操縦権をヘルメット団と奪い合ってたら戦車が暴走して街をめちゃくちゃにしてるの!!!
「どんな状況ですか……」
……ヒフミさん。貴女という人は……。巻き込まれ体質というか、巻き込み体質というか……どちらにせよ、あの子の周りには事が欠きませんね。
非常に、非常に面倒臭いですが、流石にここまで来て見逃すことはできません。コハルさんもわざわざ呼びに来てくれたんですからね。
「分かりました。私も向かいましょう。戦況はどうなっていますか?」
「今はハナコとアズサ、あと正義実現委員会の人たちが対応してる!」
「……十分じゃないですか? それだけの戦力が揃っていたら、私が行かなくても対応できるのでは?」
「そうなんだけど、途中から別のヘルメット団も乱入してきて……今日はツルギ先輩もハスミ先輩もいないから余計にまずいのよ!」
「もうめちゃくちゃですね」
想像以上に面倒くさい状況でした。今更ながら猛烈に後悔しています。
日常的に銃撃戦が行われているキヴォトスですが、ここ最近は更にその頻度が増え、苛烈になっています。恐らくエデン条約が近いからでしょう。
トリニティ全体の雰囲気もどこかピリピリしたものとなっており、
そんな中、私はただ掃除をこなし、生徒さんたちの相談を受ける。いつもと変わらない毎日を送っていました。
Monsieurから知らされたエデン条約調印式で起こること⋯⋯アリウスによる襲撃。
今回、私に命令は下されていません。ただ、「補習授業部には深入りしないこと」とだけ言われました。Monsieurがおっしゃるには、補習授業部は今回のエデン条約においてキーになるとか。
恐らく私は避難所での支援に回ることになるでしょう。
何とも歯がゆいものですね。全てを知っていて、ただ見守ることしかできないのは。
元はと言えば、私と補習授業部はただの他人です。ただ数週間合宿を過ごしただけであって。
私は彼女たちを利用し、騙し、裏切りました。
本来なら何を言われてもおかしくない立場です。
しかし、補習授業部は私とこれまで通りに接して来ました。
勿論怒られはしましたし、コハルさんに関しては少し泣かれもしました。あれは申し訳なかったですね。
けどそれも一夜経てば元通りです。私がセイア様に雇われたのも功を奏し、補習授業部との縁は今でも繋がっています。
実の所、これを良いこととは言うことはできません。
なぜなら私たちメタロイドは、Monsieurの意志に反することができないからです。
もし、もしもMonsieurエンターが補習授業部と戦えと言うのならば、私はその命令に従わざるを得ません。
かつての仲間と戦うことは、この上なく辛いことです。
だからこれ以上距離を距離を詰めることは悪手なんです。
全く、呆れますよね。今までと変わらない補習授業部の皆さんも。
そして、それを拒めない自分自身にも。
「みんな、クリーナーさん連れてきたよ!」
「っ! ここで強力な援軍」
「あら、クリーナーさんお久しぶりです♡ゆっくりお話でも⋯⋯と言いたいところですが」
「聞いた通りの惨状ですね。ヒフミさんは無事ですか?」
「あっ、クリーナーさん! お久しぶりですぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「大丈夫そうですね」
ヒフミさんは、戦車のハッチからひょっこりと身を乗り出すと同時に何かに引き込まれるように戦車の中に戻っていきました。あの調子だとまだ余裕そうですね。
しかしずっとあの状態なのも気の毒です。私は掃除機型の銃を構えます。
「作戦はありますか?」
「うん、ここから北西の方角に大量のトラップを設置してる。そこに追い込んで、中の人たち諸共戦車を破壊する」
アズサさんが答えます。
思ったより容赦のない作戦でした。キヴォトスの人たちは頑丈だからこそできる作戦でしょうが。
「この状況の最たる原因であるあの戦車を潰せば、必然的に流れはこっちに来ますからね」
「と、とにかくあの戦車を誘導すれば良いのよね!」
ハナコさん、コハルさんが答えます。二人とも準備はできているようです。
私は正直、戦闘よりも掃除が好きなんですが──
それでも、たまにはこんな騒がしい日も悪くないですね。
応援してますよ。補習授業部の皆さん。
なんかしっとりしてしまった
トリニティにソウジキロイドみたいな善人が来たらこうなるよね
ソウジキロイドの明日はどっちだ