若返った老騎士、落ちこぼれ公爵令嬢の使い魔になる 作:ですわお嬢様スキー
特にUAも2000を超えてまさかこんなにもご覧いただけるとは思っておらず涙がちょちょぎれそうになりました。なにごと・・・?
いわゆる説明回ってやつです!!もっと上手く練り込めたら良いのですが作者のスキルではこういう形が限界で(土下座)
さて、あれからなんとも言えない雰囲気になってしまったが、今ではしっかりと本題に戻っている。
即ち、何故レティシアが無謀な召喚を行ったのか、ということ。
「そのためにはまず、この学園の事から説明しましょう」
語られたのは、この魔法学園の制度についてだった。
まず前提として、王立リュミエール魔法学園は15歳となった貴族の子息女が通うことを義務づけられた学び舎であるらしい。
ただし、その説明だけでは少し不足している。
この学園は貴族だけの箱庭ではないのだ。その門戸は広く開かれており、魔法の才を持つ者であれば、身分を問わず試験を経て入学できる。実際、入学する平民の生徒も少なくないという。
「平民も通えるのか」
「ええ。魔法の才は、必ずしも貴族の血にだけ宿るものではありませんから」
答えたのはマルグリットだった。
その口調は穏やかでありながら、どこか当然のものとして制度を語る響きがある。少なくともこのアルヴェリア王国では、魔法という力が社会の中心に深く根を下ろしているのだろう。
この世界で魔法と呼ばれる超常の力はラングリッドの世界にも存在していた。
しかし、魔術と呼ばれるそれらを行使する魔術師は特別な存在でありつつも、戦場や宮廷において重宝されるが騎士や貴族の教育の根幹にまで組み込まれているわけではない。もちろん貴族の中にも魔術の素養を持つ者はいたし、王家付きの魔術師となれば高い地位を得ることもある。
だが、貴族であることと魔術に秀でていることが、ここまで密接に結びついてはいなかった。
アルヴェリア王国では、どうやらそこが違う。
貴族という特権階級を支える柱の一つとして魔法の才が問われるのだ。王立の学園に才があれば平民が通えるという実力主義な側面から考えても、その色は強いのだろう。
「魔法の才を血筋として受け継ぎ、磨いてきた家々が貴族として立っている。そういう理解でよいのかな」
「概ねは」
マルグリットは頷いた。
「もちろん、それだけで全てが決まるわけではありません。領地経営、法、礼法、外交、軍務、そして魔法。貴族に求められるものは多岐にわたります。ただ、アルヴェリアにおいて、魔法を扱えぬ貴族は、いざという時に責務を果たせないと見なされやすいのです」
「いざと言う時の責務……なぁ」
「はい。護るべき民を守れずして、アルヴェリア貴族は名乗れません」
どうやらアルヴェリア貴族は武闘派らしい。だが、権力に伴う義務を果たせというその思想は実にラングリッド好みであった。
「ふむ、確かに剣を取れぬ者に騎士は名乗れんか」
「……近いかもしれません」
マルグリットは少しだけ考えてから、そう答えた。
そしてそんな二人のやりとりを聞き、苦虫を噛み潰したかのような渋面を浮かべて俯くレティシアの姿をラングリッドは横目に見る。
なるほど。
この話題は彼女に刺さるのか。
剣を取れぬ騎士。あるいは、魔法を扱えぬ貴族。
どちらも、肩書きに己が追いつかぬ者の苦しみを孕んでいる。
もちろん、ラングリッドはまだレティシアの実力を知らない。彼女が本当に魔法に劣るのか、それとも周囲の期待があまりにも高いだけなのかも分からない。ただ、本人がその点に何らかの痛みを抱えていることだけは、何となく見えていた。
「話を戻しましょう」
マルグリットは続ける。
「リュミエール魔法学園には、大きく分けて予科と本科があります。予科は十二歳から十五歳まで。本科は十五歳から十八歳までの三年間です」
「ふむ」
「本科は、貴族の子息女にとって義務に近いものです。将来、領地や家の責務を担うにせよ、王国に仕えるにせよ、最低限の教養と戦える術を身に付けねばなりませんから」
「予科は義務ではないのかな?」
ラングリッドがそう言うと、マルグリットは頷いた。
「その通りです。予科は、主に高位貴族や希望する家の子息女が、本科に向けた準備として通う課程です。魔法の基礎、礼法、貴族社会の作法、基礎的な実戦訓練などを三年間学びます」
「つまり、本科に入る前の仕込みだな」
「ええ。そして予科で学んだ者には、当然ながら相応の成果が求められます」
なるほど、段々と形が見えてきた。
義務ではない予科へ通った者は、義務である本科へただ進めばよいというわけではない。三年間、時間と金と家の期待を背負って学んだ以上、そこには結果が求められる。
ラングリッドの世界でも似たようなものはあった。
騎士学校に早くから入れられ、名門の剣術師範に師事し、貴族の子息として戦場に立つ準備を積んだ者が、いざ初陣で腰を抜かす。そうなれば、本人だけでなく家の面子にも傷がつく。周囲は「まだ若い」と慰めるかもしれないが、その若さのために投じられたものを誰も忘れはしない。
レティシアも、そういう場所に立っているのだろう。
「本科には、上級課程と普通課程がございます」
レティシアが口を開いた。
先ほどまでより声が小さい。だが、自分のことだからだろう。マルグリット任せにせず、自ら説明しようという意地が見えた。
「上級課程は、将来の高位官僚、宮廷魔導師、王立騎士団の幹部候補など国の中枢を担う者の育成を目的としており、王国随一の教育を受けられます。本科試験で極めて優秀な成績を収めて特別試験に合格した者、そして予科から進級試験に合格した者がそこへ進むことができますの」
「合格すれば、か」
「……ええ」
レティシアの声に、ほんの僅かに苦いものが混ざる。
「では予科の進級試験に落第した場合は?」
「本科には進めます」
今度はマルグリットが答えた。
「ただし、上級課程ではなく普通課程の履修となります。普通課程も決して低い水準ではありません。様々な魔法、知識、危機対応能力、社会常識を学ぶ正式な本科課程です。この学園の卒業生となるだけで、将来に困る事はなくなります」
「だが、高位貴族にとっては不名誉なことだ」
「はい」
マルグリットは否定しなかった。
レティシアの膝の上で、指が強く握られる。
「特に予科に通っていた者が普通課程へ回ることは、三年間の教育投資と家の期待に応えられなかったという意味を持ちます。まして、レティシア様はグランヴェル公爵家のご令嬢です」
「公爵家の娘が、予科で三年学んだ末に普通課程へ回る。なるほど、貴族としては致命傷。面子は丸潰れだな」
「はっきり言い過ぎですわ」
レティシアが恨めしげに睨んできた。
「すまん。だが、事実ではあるだろう」
「……事実だから腹が立つのですわ」
「それはそうだ」
ラングリッドは素直に頷いた。
貴族の面子というものは、傍から見れば面倒な飾りに見えることもある。だが、その飾りが家を支える柱になることもある。信用とは、時に武力よりも強い。名誉とは、時に金よりも重い。
もちろん、それに縛られすぎれば身を滅ぼす。
だが、軽んじてよいものでもない。
ラングリッドはグローバウム王国で長く貴族と騎士の世界に身を置いてきた。だからこそ、レティシアが追い詰められる理由は分かる。
分かるが、それで無謀が許されるわけではない。
「進級試験の内容が、ダンジョン攻略なのだな」
「ええ」
マルグリットが頷く。
「予科生限定の試験です。三年間学んできたのだから、この程度はできるだろう、という位置づけですね」
「この程度、か。なかなか厳しい言い方だ」
「学園管理下の訓練用ダンジョンです。もちろん、本物の未管理ダンジョンとは違います。監視魔法、救助班、撤退用魔道具も用意されています」
「それでも危険はあるのだろう?」
「もちろん」
マルグリットは即答した。
「魔物は本物ですし、罠もあります。試験用に難度は調整されていますが、判断を誤れば怪我をします。恐怖で動けなくなる生徒もいる。連携を乱せば、全員が危険に晒される。運が悪ければ、命を落とすことになるでしょう」
「覚悟と能力の足りぬ者をふるい落とす訳か」
「はい。上級課程に進みたいのであれば、乗り越えられて然るべき試験です」
「なるほど」
ダンジョン。
ラングリッドの知るそれは、古い遺跡や魔物の巣、魔術師の残した地下迷宮といったものであり、遺跡荒らしや食い扶持に困った傭兵団なんかが一攫千金を夢見て挑むものという認識。
無限に魔物が産まれてくる訳ではあるまいし、管理して訓練や試験に活かすなどという使い方は出来ない筈なのだ。
何かと共通点の多い二つの世界だが、恐らくこのダンジョンだけは根本的な違いがあるのだろう。
ラングリッドの問いに、マルグリットの視線がわずかに鋭くなる。
武人としての関心と、教師としての興味の両方が、その眼差しに混ざっていた。
「ラングリッド様の世界では違う、と」
「うむ。我が国というか、世界においてダンジョンと呼ばれていたのは、古き世の遺構、魔物の巣、あるいは野心ある魔術師が残した地下の迷宮といった類でな。一度潰せば終い、というのが基本だ」
「潰せば、終い」
「あぁ。討ち漏らした魔物が新たな巣を作ることはあるが、巣そのものが無限に魔物を吐き出し続けるわけではない。だからこそ、騎士団が出向くのは討伐か、せいぜいが封鎖。そこを定期的に管理して、若者の試験場に使うなどという発想は無かったのだ」
マルグリットは、しばし黙った。
その沈黙は、戸惑いではない。むしろ、整理に時間を要しているといった様子だった。
「……なるほど」
やがて、彼女はゆっくりと頷いた。
「卿のお話、お聞きしていて確信いたしました。少なくとも、ダンジョンというものについては、卿の世界とこの世界では、根本のところが違っているようでございます」
「やはりか」
「はい。我が国のダンジョンは、潰れません」
マルグリットの口調は、当然の事を述べる教師のそれだった。
だが、その言葉の重みは、ラングリッドにとって決して当然ではなかった。
「……潰れぬ?」
「正確には、潰す手立てがない、と申し上げるべきでしょうか」
マルグリットは少し言い直した。
「我が国のダンジョンは、ダンジョンコアと呼ばれる、高濃度の魔力が結晶のように凝った核から生じます。コアを中心として、その周囲に階層が形成され、魔物が湧き、資源が育ち、宝物や魔道具が産出される。これが、我々の言うところのダンジョンでございます」
「コア、か」
「はい。そしてこのコアは、極めて頑強です。単に物理的に硬いという話ではなく、コアそのものが世界に深く根を下ろしており、人の手で容易く破壊できるものではないのです」
ラングリッドは、ふむ、と短く唸った。
話の輪郭が、少しずつ見えてくる。
「では、放置すればどうなる」
「魔物が増えます。コアは絶えず魔力を集め、それを魔物として吐き出す性質を持ちますので。放置すれば階層の中で魔物が満ち、やがてダンジョンの外へ溢れ出します。氾濫と呼ばれる現象です」
「氾濫ときたか」
「ええ。一度起きれば、周辺の村や町、街道、果ては領地そのものが甚大な被害を受けます。歴史上、伯爵領一つが地図から消えた事例もございます」
「……それはまた、なんとも」
ラングリッドは、軽く眉根を寄せた。
地図から消える。
言葉としては短いが、その内側に呑み込まれた村と人の数を思えば、軽く扱える話ではない。ましてや上級貴族に片足を突っ込んでいる伯爵領が、だ。
彼の世界における竜や大型の魔物の襲撃、あるいは戦争の結果として滅びた村は、いくつも知っている。地図から消えた領地の話も、無くはない。
だが、それらは予見できぬ災害のようなものだった。
この世界のそれは、ダンジョンというものが存在する限り、目に見えて迫り来る脅威なのである。常に喉元にナイフを突き付けられているような状況で与えられるプレッシャーはどれほどのものか。
「であれば、放置はできぬな」
「はい。ですから、ダンジョンは定期的に攻略され、管理されねばなりません。魔物の数を抑え、資源を回収し、コア周辺の状態を把握する。これがダンジョン管理の基本でございます」
「資源を回収、と仰ったな。先程も、宝物や魔道具を産出するとも」
「ええ」
マルグリットの口元が、わずかに緩んだ。
ここからは、少しばかり良い話なのだろう。
「ダンジョンは、危険であると同時に、富の源でもございます。魔石、鉱石、薬草、稀少な金属、時には古代の魔道具まで。階層を攻略する過程で、これらが手に入る。攻略した者はそれを売り、領主はその一部を税として徴収する。ダンジョンを抱える領地は、それだけで豊かになり得るのです」
「ふむ。危険と富の両面か」
「左様でございます。ですから、ダンジョンを多く抱える領地は強く、豊かでございますが、同時に氾濫の危険と常に隣り合わせ。それを管理する責務を負うのが、我々アルヴェリア貴族、ひいてはこの世界で領地を治めるということなのでございます」
ラングリッドは、ようやく腑に落ちた。
先程マルグリットが「魔法を扱えぬ貴族はいざという時に責務を果たせない」と言っていた、その「いざ」の中身が、ここで繋がる。
貴族とは、領地を治める者である。
領地にはダンジョンがある。
ダンジョンは富を産むが、放置すれば領地を呑む。
ゆえに、貴族はダンジョンを管理し、いざという時には自ら戦える力を持っていなければならない。
なるほど、と彼は思う。
権力と義務が、こうも露骨に結びついた世界か。
ラングリッドの祖国においても、貴族には領地と民を守る義務があった。だが、それは「戦争が起これば」「魔物の被害が出れば」という、外因に対する責務だった。この世界のそれは、ダンジョンという内なる火種を抱えた上での、恒常的な責務だ。
……それは武闘派になるのも納得だ。
だが、過酷であるからこそ、貴族が貴族として尊ばれるのだろう。
「ところで、マルグリット先生」
「はい」
「日常的なダンジョンの攻略や管理、誰が担う?」
マルグリットは少し意外そうな顔をしたが、すぐに答えた。
「冒険者、と呼ばれる者たちです」
「ほほう冒険者! 浪漫のあるいい響きだ」
「ええ。各地の冒険者ギルドに登録された、戦闘と探索を生業とする者たちでございます。彼らがダンジョンに潜り、魔物を間引き、資源を回収する。領主はギルドと契約を結び、自領のダンジョン管理を委ねます」
「ふむ。我が国でいう、傭兵と賞金稼ぎを足して二で割ったような連中か」
「……近いかもしれませんね」
マルグリットは少しだけ考えて、そう答えた。
「もちろん、平時の話でございます。氾濫の兆しが見えたとき、あるいは特異な魔物が現れたとき、領主や領主補佐、家の継承者が自ら剣を取ることもあります。ですが、それは緊急事態でございます。日常的に、貴族の当主がダンジョンへ潜るというのは、まずありません」
「貴族は、攻略者ではなく管理者であると」
「左様でございます」
なるほど、と再びラングリッドは頷いた。
貴族とは戦士ではなく、戦士を擁する統治者である、と。これは彼の世界における貴族の在り方と、それほど大きな違いはない。違うのは、その下に「ダンジョン」というやや特殊な対象があるという、ただそれだけだ。
「では、本題に戻ろう」
ラングリッドはレティシアに視線を向けた。
「予科生限定の進級試験では、訓練用のダンジョンを使う。これは学園管理下にあり、難度は調整されている。だが命の危険は伴う。そしてこれを越えねば、レティシア嬢は上級課程へは進めず、普通課程行きとなる」
「……そう、ですわ」
「で、そこで召喚術……いや、召喚魔法だったか。それに賭けざるを得ない状況になっていると」
レティシアの肩が、再びぴくりと動いた。
俯いた顔は、もう見せまいとしているのか、長い赤い髪に半ば隠れていた。
ラングリッドは急かさず、ただ静かに次の言葉を待った。
応接室には、しばらく沈黙が満ちる。
窓の外で、夕暮れの鐘が鳴った。
今回もここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
次話もモチベ爆アゲで鋭意執筆中ですので少々お待ちを!!
ストックという概念はない……。
あとぶっちゃけると設定とか世界観の説明を終わらせてはよレティシア嬢の「おれのかんがえたかわいいおじょう」を早く書きたいのです(天下無双)