今回の話は原作の方でも語られていることが多いですが、大事な事なので本作でも書きました。
この頃の普夫くんは闇のカードは例のアイツと、埋められたその仲間共くらいしか知らない筈なので。
師範から闇の領域とか闇のファイターについて説明してもらう形になりました。
羽島さんが部室にやってきてファイトして、副部長と一緒に飯を食って色々な話をしたりした。普段に比べると色々な出来事があった一日。
その翌日の土曜日。毎週一回通っている、気門道場で護身術を習う日。
「
僕が副部長から聞いた噂話の内容を含め相談したところ、気門道場の師範……
倒立腕立て伏せをしている自分の足の裏の上で。しかも布切れを巻き付けただけの鉄の棒を掴んで支えにしてやっている状態の。
最近始まった鍛錬だけどマジできついんだよなコレ……。
本当は鍛錬の前に話をしておきたかったのだが、タイミングが悪く師範が居なかったのだ。
なんでも沢山いる子の一人が孫を連れて顔を見に来たらしく、客室で話をしていたらしい。
そういう事なら仕方ないな……。と、鍛錬の準備を始めて、ちょうどそれが終わったタイミングで師範が戻ってきたのでそのまま鍛錬が始まってしまった。
今日はちょっと師範に聞きたいことがあるんですがと訴えたが。それなら鍛錬しながら言えと言われ、拒否もできず。
そのまま自分の重心を崩さないように運動をこなしながら、呼吸を乱さずに師範に話す羽目になった。
まぁ鍛錬の後に聞いても良かったが、師範がまた別の用事で居なくなる可能性もあるし。
なるべく早く話を伝えて聞く必要があったとはいえ、かなり無茶をしたとは思う。
いつもより疲労がやべぇもん。
「それで実際、変なカードを拾ったら意識不明になったりなんてことは起きるんですか?」
息を吸い、腕を下げ。息を吐き、腕を上げる。
腕立て伏せを続けながら呼吸に合わせて師範に聞く。残念ながら太陽はまだ真上に来るには低い。
「まぁたまにのぅ。……そろそろ知っておいてもいい頃合いか、同じ学校に被害者がいる以上関わる可能性もあるしな」
そう言うと師範が俺の足の上から飛び降り、天地が逆さまになった視界の正面に現れる。片脚で着地し、そのまま立つ姿は揺らぎなど一切無かった。
またその口調と雰囲気も変わっていた。いつもの好々爺といったものから、抜身の刃の様な目つきと気配に。
「そのまま聞け、この世には【闇のカード】というものがある。呪われているか、生み出されたものかの2種類だ。呪われているほうは持ち主が不幸にあったり、未練を残している、いわゆる曰く付きのカードだな。一般的にはこっちが呪いのカード、闇のカードと言われている」
師範が指を一本立てて手を振る。その姿を見て、師範の言葉を聞き逃さないように集中しながら腕立てを続ける。
「こういうのは遺品整理とかでカードショップに流れたり、誰かが引き継いだ結果、問題を起こすことがある。カード自体は邪悪じゃないが、それと共鳴していた者の未練や力とかが宿って暴走してたりしてな。体調不良や、
それを聞いて思わず自分の表情が苦いものになる。師範の言った内容があのカードのやったことと似ているからだ。
「だが、こういうカードは寺や神社でちゃんと処分しれくれるところもある。実際、何度かそういうカードを持って行ったんじゃろ?……お主を呪ったのは恐らくこっちじゃない、やったことの内容的に
自分の表情を見て、考えたことを悟ったのだろう。雰囲気が少し穏やかになり、口調も普段のものに戻る。以前、鍛錬中の雑談で話したことを覚えていたのだろう。
勝手にデッキに入ってきたりなど、怪しい挙動をしたカードを寺や神社に持って行ったことは実際に何度かあり、そのことを愚痴ってたのだ。
「じゃあ、本物ってなんですか?」
師範にそう問いかける。
「そうじゃな、分類としては2つ目。生み出されたもの。力を奪い、成長していくもの、こっちがいわゆる本物だ」
二本目の指を立てて師範は答える。口調と雰囲気もまた鋭いものに戻る。
「1つ目の曰く付きのカードも、長く使われ力を蓄えるとこちらに成る。最初の段階は他人から共鳴率を奪う、いわゆる闇の領域を用いるようになり、リアルダメージやアンティも起こすようになる」
その表情は汚物を見たような、そう表現するしかない顔だった。
「闇のカードは
一度言葉を区切り、鋭い気配を出しながら師範は口を開く。
「闇のファイターは一切例外なく危険人物だ。力に溺れ、怪物のような精神性になるからだ」
言い終えた師範はふぅ……とため息を吐く。
「こう言っちゃあ悪いが、その部長さんは運が良かった部類じゃのぅ。原因不明の意識不明ってだけで済み、命に係わる出来事は無い。恐らく悪夢を見せられ、それで生じる恐怖や精神的な苦痛から力を奪われているってあたりじゃ。……身体を乗っ取られたり、造り変えられたり、もっと惨い例は多々あるからな」
そう言葉を紡ぐ師範の表情は、嫌悪感に満ちたしかめっ面だった。
師範の言葉の内容に、
「……助けることはできるんですか?」
「ああ、それなら多分大丈夫だ。聞いた話ではそこまで力のある闇のカードの仕業じゃなさそうだし、マリカを連れて行けば大丈夫だろうよ」
突然、師範が自身の一番下の娘、人刹マリカの事を話題に出した。一体なぜ?
理由を考えていると彼女が受け継いだデッキと、その中にある1枚のカードの事に思い至った。
「……ああ、“秘虎”の力が必要なんですね」
「おう、
師範は物騒な笑みを浮かべながら言う。闇のファイターって先制物理で殴り倒せるのか……。
そしてふと疑問に思ったことを聞いてみる。
「師範、闇のファイトを仕掛けられても普通に戦っちゃダメなんですか?」
「…………お前なぁ」
俺の質問に師範は呆れたような表情をする。
「普通は闇の領域でデッキとの絆を奪われたら、まともにファイトできなくなるわ。更にライフへのダメージが実際に痛みとして感じるんじゃぞ?」
そう言うと師範はやれやれと肩をすくめたあと、真剣な顔に戻って説明を続ける。
「ちゃちな奴ならくっそ痛いだけで済むが、力を蓄えた奴だと実際に傷を負う。最上級の闇のカードが相手なら2点程度でも手足がちぎれることもある。
そういうと師範は一度口を閉じる。そして髭を撫でながら何やら考えこんでいる。なんかメイルって言ってたけど、なんだろう?鎧か何かだろうか。
そんなことを考えつつ待っていると、師範は表情を変え、悪童の様な笑みを浮かべながら口を開いた。
「最もお前なら相手の攻撃を食らっても耐えられそうだし、
そこまで言うと師範は髭から手を放し、再び真剣な顔になる。
「それは対等に渡り合えるだけで、有利になるわけではない。互いの実力差はそのまま。お前は弱くならないが、相手の強さが下がることはなく、その上でお前は運を頼りに戦うことしかない」
「ですね、でもそれでいいんじゃないでしょうか。良い札が来てくれと自分の運に祈り、
そう自分は答えた。
「あ、でも……流石に命がかかっている闇のファイトだ!とか言われたら、なるべく運要素を抜いたデッキを使いますけどね」
命がけになるなんてゲームでもなんでもない。そんなのマジで勘弁しろって話だ。
「……お前が闇のカードと関わるなら。自分から殴りに行って、それが縁となって狙われ続ける感じになりそうじゃのう」
「なんかありそうな話なんでやめてくれません?」
「でもお前、誰かが闇のファイターに襲われそうになっていたらどうする?」
「ワンパンぶち込んで逃がしますねぇ」
「ほら見ろ。あってんじゃねぇか」
師範はゲラゲラと笑い、自分も苦笑をする。そんな会話をしながら倒立腕立て伏せの鍛錬は続く。
だけど降りちゃったし代わりにこれ置くわとか言って、足裏の上に鉄製の重りを乗っけられたのは流石に酷いと思うんだ。
あれから鍛錬を続け、太陽はもう少しで真上までやって来る時間だ。
ここまでの間の鍛錬は、重心がずれていると師範が直すように指示。俺がそれを修正するとヨシッ!みたいな感じで続いていた。
無論ただひたすら鍛錬するだけではなく、時々師範との雑談・情報交換の会話が挟まる。これは非常に有益な部分もあるのだが、会話の方に集中しすぎると姿勢が崩れてしまい、ではまた最初からやろっか(笑顔)、なんてことが起きかねない。
姿勢の維持と会話、両方に気を配り続ける必要がある。
そしてまた師範が口を開いたので、重心のズレへの指摘か雑談かな?と思っていたら。
「それはそうと、一番大事な所じゃが。例の部長さんが入院している場所を知っているという、羽島って娘を説得しなきゃいかんじゃろ。自信はあるんか?」
以外にも真面目な内容で、羽島さんへ対する鋭い問いが飛んできた。
そう、現状では羽島さんからは部長に関する話は一切聞いてはおらず、副部長からの聞いた噂話を元に自分が勝手に師範に相談したのだ。
ここから羽島さんに『湊手嶋さんを助ける方法が見つかったかもしれません。入院している病院まで連れて行ってくれませんか?』と連絡しても相手からすれば訳も分からないだろう。
なのでまずは羽島さんと話す機会を作り、副部長から羽島さんと湊手嶋さんの関係と部長の入院の原因の噂話を聞いたことを伝え。
そしてそれが一般的には都市伝説の闇のカードの仕業かも知れなくて、助ける方法を持っている知り合いがおり、協力してくれるので入院場所を教えてくれませんか?
と、一から全部説明する必要があるのである。
ぶっちゃけ普通なら『頭おかしいちゃうんか?』と怒られるかもしれない話だ。
だが自分には確信があった。間違いなく彼女は説明を聞いたら、湊手嶋さんを助ける為に協力してくれる。
なぜなら……。
「自信はあります。羽島さんにとって湊手嶋部長は、倒れて入院したらやる気が無くなって荒れてしまう程に大切な存在です。そして彼女は一度、噂話を元にストレージをひっくり返してまで原因らしきカードを探していました。オカルト的な話を聞いても拒絶をせずに受け入れてくれる可能性が高い」
そこまで言ったところで一度口を閉じ、呼吸を整える。
息を吸って、吐く。また息を吸って、口を開く。
「そこまでしてカード友達を助けようとした人です。俺だったら僅かでも友人を助けられる可能性があるなら、それに縋ります」
そう言いきり、口を閉じる。息を吸い、吐く。それに合わせて腕を下げ、上げる。
しばしの間、運動を続ける自分を師範は見続け。やがて納得したように髭を撫でる。
「なるほどのう……、そういう事ならまぁ目はあるか。ところでお前……」
そこで口を閉じた師範は、楽しそうな顔になると。
「たった一度だけファイトした相手にそこまでするとはな。惚れたか?」
「ぶっふぉ!!??」
そんな事を言い出したので思わず噴き出した。
辛うじて手の力を緩めず、姿勢も崩さなかったので地面に落ちることは無かった。だが、急に息を大量に吐いてしまったので肺や腹が痛むし、リズムが乱れて呼吸が苦しくなる。
こっ、このジジイ……!そう思いながら、わずかに腕を振るわせながらも姿勢を保ち、呼吸を整える。
そんな僕の様子をにやにやとした笑みでジジイは見ている。
「ほーう?そんな反応するということは外れって訳では無さそうじゃの?」
「……そんなんじゃありませんよ。ただ、僕は……」
そこで口を閉じて考える、なぜ羽島さんの為に部長さんを助けようと思ったのか。
……とても単純なことだった。
「あんな楽しそうにファイトをする人が、好敵手が居なくて腐っているのって悲しいじゃないですか」
そう、それだった。部室でのファイト、あの時の羽島さんが見せた表情。
最初はつまらなそうに、だけどこちらの動きを見るにつれてどんどん楽し気になっていく様子。
そして副部長の話で理由を知り、それで放っておけなかった。どこか、
「だからそれだけです。楽しいファイトをしてくれたお礼みたいなものですよ。人助けにもなるし良いことじゃないですか」
そう言い、息を整え、腕を動かし始める。呼吸に合わせ、腕が上下する。
「……これはどっちだ?」
師範が聞き取れない大きさの声で何か呟く。
「何ですか?」
「ああいや、気にすんな。呼吸を乱したのは良くないが、姿勢を保ったのは上出来じゃ。やり直しはしないでいい、そのまま時間まで続けるんじゃ」
「わかりました」
「あと、その羽島って娘に話に行くならマリカも連れて行け。どうせ明日にでも行くつもりだったじゃろ?それなら最初から連れて行った方が無駄がない」
「確かに羽島さんには明日にでも話に行くつもりでしたけど、いいんですか?相手の都合が悪くて明日は話ができないかもしれませんよ?」
「お前らの年頃で不良娘ってんなら、日曜に用事がある奴はそういないじゃろ?聞いた感じじゃ休日大会にも参加とかはしていない様子だしのう。マリカも明日は空いてるから問題はないわい」
「そういう事なら……」
「話を聞いたマリカがどんな反応するか、わしも読めんからなぁ……」
「? 何か言いました」
「いや、その羽島って娘はどんな感じだったのか、と思ってのぅ」
「奥さんたちに怒られますよ」
「いや、折角ならマリカと友人になってくれんかなーー?って。不良やっとるくらいならマリカ相手でも気おくれせんじゃろうし」
「ああ、そういう事ならいいかもしれませんね」
そんなことを話しつつ、いつもの様に護身術コースの鍛錬は時間まで続くのだった。
――ちなみに鍛錬が終わった後にマリカに事情を話したのだが。かなり乗り気な様子で、お願いをする側の自分にとって有難かった。
だが自分とマリカを見ている師範の様子が少し変だったのはなぜだろう?
話を書くにあたって、原作の方を改めて読み直しましたが。
道場編の頃からアンティで色々なものを奪えるのは示されていて、設定の練りこみが凄いと改めて感じました。
ジグ部長はずっと悪夢に囚われて入院してましたが、これはかなりマシな方なんだな……と。
ドロシーちゃんが漫画の範囲で闇のファイターと戦った描写が無かったので、部長は野生の闇のカード(低レベル)のせいで意識不明になったという形に。
見逃しが合ったら申し訳ない。
ちなみに本作でのマリカちゃんは普夫くんのことを頼れる立派な兄貴分だと思っています。
これが恋愛感情となるか、自身の兄弟子に相応しい相手じゃないと認めない妹弟子となるか。
天秤に乗ってどちらにもまだ水平を保っている感じです。