具体的にはもう少ししたらアニメ1期が始まるくらい。
原作の同人誌が楽しみだ……!
――ホビーショップ「MeeKing」
そこが、部活を止めた僕がアルバイトを始めたお店の名前だ。
小さな個人店舗は現在、店長であるセトさんとアルバイトの僕の二人で回している。
ここで働きだしたきっかけは、どうしても欲しいカードがあるのを見つけてジャンピング土下座で取り置きを頼み、購入する資金を得る為だった。
そのMeeKingであるが、僕がバイトを始める前はセト店長一人で営業していたというのもあるが、ショップとしてはお世辞にもいい店とは言えなかった。
なんせ店長に商売する気が殆ど無かったのである。
僕がバイトを始める前のセト店長はやる気がなくて、本人も伸ばしっぱしの長髪でだらしない格好で。
綺麗なカフェ改装のカードショップなのに常連客もいないし、閑古鳥が熱唱してそうだった。
ガラスのショーケースにはカードが展示してあったが、その殆どはコレクションの展示みたいなもので。
倉庫の中にも大量のカードがあったが、ろくに整理もしておらず、在庫の把握もできていない。
たまたま訪れた客が店内の様子を見て、こりゃダメだとすぐに帰る。
そんな様子を見て、にへらと笑っていた店長。
それを見て――僕はキレた。
そこから僕は店長のでかい尻を言葉でペシペシと叩きながら働いた。
帰宅部になったことで生まれた時間を費やし内装を整えて、ストレージの整理もして、……経営にも色々と注意した。
その甲斐もあり、バイトを始めて一月ぐらいたった現在。MeeKingの店内は雰囲気も変わり、最近は常連客も徐々に増えてきた。
少し前から来るようになった小学生たちが、今日も元気にストレージやショーケースを覗いては色々話し合っている。
じつに微笑ましい光景だ。
あと、言葉でぺちぺちしたのが効いたのか、セト店長も身だしなみに気を付けるようになり、髪も伸ばしっぱなしではなく適度に手入れをするようになった。
……服装と見た目を整えたら普通に美人なんだよなぁ、店長。
店に客が来るようになったのは、店長が身だしなみを整える様になったのも少しは有るかもしれない。
でも相変わらずだらしない部分はあるし、僕に仕事を丸投げしてきたりするんだよなぁ……。
ストレージの整理もまだまだ終わらないし。まぁ箱で数十もあるから整理するのに時間がかかるのは当然なんだけど。
しかしこんなにカード資産があるなんて、店長って何者なんだろう?
店長自身についてはまだあまり話を聞いていないんだよなぁ、店を改善する方を優先してたから。
……今度聞いてみようかな?
そんなことを考えながらレジに立っていると、店の扉が開く音がした。
「いらしゃいませー!」
そう言いつつ扉の方へ顔をむけると、そこには一人の男が立っていた。
服装は学生服、僕も通っている占光高校のもの。髪は長髪とまではいかないが少し伸ばしていて、ミディアムと呼ばれる長さのストレート。
顔は何処か見覚えがあるが……、なんだろう?何かが足りない感じがする。
そう自分が思うということは知り合いなのか?
ならいったい誰だ……?
僕がそんなことを考えつつ接客スマイルのまま相手を見ていると、相手は自分が誰なのか気づいていないのか察したらしく、少し不満げに表情をゆがめる。
だが次の瞬間、いいことを思いついたかの様な笑みを浮かべたその客はおもむろに――。
クイッ!……とつけてもいない眼鏡を手で押し上げる動きをして見せる。
その動きを見た瞬間、僕の中にあった疑問が氷解した。
「その動きと表情は……もしや副部長!」
「お前がオレを何で判断してるかよーく分かった!……このバカが!!」
思わず少し大きな声を出してしまった僕に対し、相手……Life部の副部長も怒りの言葉を少し大きな声で出すのであった。。
「うわっ!?……びっくりしたぁ。茂札くん、このお客さんは知り合い?」
「あっ、すいません……。はい、知り合いです。僕が通っている高校の……」
大きな声に驚き、レアカードをスリーブに入れる作業をしていたセト店長がこちらを向く。
それに対し謝罪しつつ副部長の事を簡単に紹介しようとして……言葉に詰まり。
「自分も大きな声出してすいません。茂札の先輩をやってるものです」
店内を進んできた副部長がぺこりと頭を下げ、同じく謝りながらも自己紹介をする。
それを聞いたセト店長はそっかー、とほんわかとした返事を返す。
「知り合いが来たのなら、レジ代わろうか?今はお客さんもあまりいない時間だし……」
「ああ、そこまでしなくて大丈夫です。ちょっと後輩が働いているお店を見に来ただけなので、お気になさらず」
セト店長はそう提案したが、副部長はそう言って断り、興味深げにきょろきょろと店内のあちこちに視線を向ける。
それからこちらを向いてまた口を開く。
「茂札と話したいことがあるんですが、それは店での仕事が終わった後にするつもりなので。それまではお店の中を見させてもらったり、あとは外で時間つぶしますから」
そう副部長はセト店長に言う。……一瞬、視線が胸に行きかけたがこらえたな。
何度かマリカに指摘され、それをリナさんにからかわれて以来、副部長は相手を見る視線にも気を付ける様になった。
とてもいい成長だと思う。
「そういう訳で茂札、退勤した後に時間貰えるか?」
「わかりました、仕事終わったらメールしますね。……ところで、一つ気になっていたんですが」
僕がそこで言葉を区切ると、副部長とセト店長もこちらを向いて言葉の続きを待つ。
「髪はともかく、眼鏡はどうしたんです?イメチェンですか?」
そう言った。
そして僕の言葉を聞いた副部長は神妙な顔をし、口を開く。
「
「足を滑らして」
「幸いカンフー少女から習った受け身で怪我はなかったが……。慣性の法則には勝てなくてな。
仰向けに転んだオレの顔から飛んだアイツは、近くの街路電灯に勢いよくぶつかり殉職した」
「殉職したんだ……」
副部長の言葉を聞いたセト店長が、ほんわかとした雰囲気で相槌を打つ。
このノリにも懐かしさを感じる。
以前、放課後にあのメンバーで集まっていた時の会話で珠にあったノリだ。
「それでコンタクトに変えたんですか?」
「いや眼鏡は買いに行ったんだが、視力がちょっと変わっててな。その所為でレンズの在庫が生憎無くて、届くまで数日かかるみたいでな……。一日使い切りのコンタクトを試しに使ってみてる」
「感想は?」
「オレは眼鏡の方がいいかなって。コンタクトは外し忘れそうで怖い」
「つけっぱなしだと色々良くないって聞くもんねぇ」
「あと髪は試しに伸ばしだしたんだが、どうだ?」
「悪くないと思いますよ?それ位なら丁度いいんじゃないですか」
「ロングまで伸ばそうかと思ったんだが……」
「うーん……服装との組み合わせ次第ですかね?制服だとそれ以上長いと似合わなそうです」
「そうか……、っといけないいけない。それじゃオレは店内をちょっと見させてもらいます」
「お買い上げありがとうございます!」
「まだ買うとは言ってないわ!欲しいものがあったら持っていくから!!」
そう言って副部長と僕たちの会話は終わり、副部長は店内を歩きだした。
ショーケースを眺めている彼を見つつ、僕の方を向いた店長が口を開く。
「おもしろい人だったね。茂札くん、ちゃんと友達いるんだ」
「…………店長は僕をぼっちだと?」
「あ、そうじゃなくて!!……君って、自分の事はあんまり話さないじゃない?学校での事とか聞いたことなかったから」
そう言って、セト店長は微笑みをこちらに向ける。
「ああいう会話ができる相手がちゃんといるとわかって、ちょっと安心したよ」
……その微笑みと言葉に照れ臭くなり、僕は体の向きを変える。
レジの向こう側を見ながら口を開いた。
「まぁ……なんだかんだ、悪くない先輩だと思いますよ」
――そうして店での勤務時間が過ぎていった。
「ああ茂札、このスリーブ1箱買うわ」
「お買い上げありがとうございます」
ちなみに副部長は退店する前に、少額だけどしっかりと買い物していった。
休憩スペースでジュースも買って飲んでたし、売り上げに貢献してくれて嬉しい。
MeeKingでの仕事を終えた後、僕と副部長は合流して近くのファミレスへ向かった。
互いに適当に料理を注文し、ドリンクバーで飲み物を持ってきてグラスを軽くぶつけて乾杯する。
……こういう事をするのも久しぶりだ。
互いにグラスを口に運び、喉を潤す。
それから少し時間を置き、僕が先に口を開いた。
「それで副部長、話したい事って何ですか?」
「まぁ色々あるが……まずオレはもう
「なるほど……。じゃあ
「おう……。ここまで時間がかかるのは想定外だったが、エレウシス地方予選が終わる前になんとか片付いた」
そう言うと元副部長はまた飲み物を口に運ぶ。その表情はどこか疲れを滲ませているが、仕事をやり切った人間の顔だった。
副部長が発案しリナさんが乗った計画。僕は直接聞いてはいないが、退部から少し経った頃にメールで大まかな内容は聞いた。
部活内にいる、元副部長曰く
正直、あの部の奴らの中にそんなことを考える奴なんて、と最初は思ったのだが……。
――あのデッキの封印が解かれた翌日の部活。あの時感じた粘ついた悪意、自分の話を信じようとしない多数の部員達と、それを気味悪げに見ている僅かな部員。
不穏な空気に眉間に皺を寄せ、頭を痛めながらも考えることを止めない副部長。
そして、そんな空気の中オロオロしている彼女。彼女が僕に向ける表情は――。
思い出したそれらを押し流す様に、グラスを口に運ぶ。
喉を通り抜けるコーラの甘い炭酸の感触。パチパチと弾ける幸せを楽しみ、忘れる。
「……あなたが思ってたよりも相手は慎重だった、ということですかね」
「それもあるが、他の馬鹿どもの失敗を見たのがデカかったな。そのせいで警戒された、だけどさぁ……」
そこで言葉を区切った元副部長は右手を眉間に持っていき、もみほぐす。
僕はその様子をみながら話の続きを静かに待つ。
「羽島を天儀にぶつけた後、『先輩に続けーっ!』とばかりにアンティファイトを持ちかけた奴らはまだ良いんだよ。部員内の揉め事を理由に退部処分で済んだから」
忌々し気に言葉を吐くと元副部長はグラスの中のオレンジジュースを一気に飲み干した。
そしてどこか座った目でこちらを見つめて言う。
「湊手嶋部長が復帰して数日後にさ、『あの女達を呼び出して、雇ったファイターと一緒に囲んで袋叩きにしましょう!』なんて言い出す馬鹿がいるなんて予想できるか!!
その場で殴り倒して他の奴らにもそんなふざけたことを考えるな、退部にするぞと言ったけど。結局数人ほど計画に乗っちゃうしさぁ……」
「マリカからメールで聞いた時は驚きましたよ。……おつかれさまでした」
「うん、マリカちゃんと他の弟子の人達には感謝してる。馬鹿の計画を聞いた後、速攻で羽島に情報流して念のためマリカちゃん達にも備えてもらったが……まさかオレに殴られたその日に実行するとは思わなかった」
そう、そんな出来事があったらしい。
僕は終わった後にマリカからのメールで知ったが、馬鹿な部員数名が金でチンピラファイターを雇い、リナさんたちを呼び出し襲撃しようとしたのだ。
悪質なことに、奴らは最初に湊手嶋部長を『内密に用事がある』と呼び出した上で拘束。捕まった部長の姿をメールでリナさんと天儀さんに送ることで2人も誘きだそうとしたのだ。
――もっとも、アンティファイトは行われなかったのだが。
なんせ事前情報があったが、湊手嶋さんを人質に取られたことでリナさんがブちぎれた。
念のため連絡していたマリカたちに即座に状況説明、自分を囮に馬鹿どもをおびき出すことを提案し、そしてそれに天儀さんも乗ったらしい。
リナさんは天儀さんも囮になるのは否定的だったが、自分のカードの所為で湊手嶋さんが捕まったことに憤りを覚えたらしく決して譲らなかった。
そこにマリカと他の弟子の皆さんの怪我一つ着けさせないという言葉で、リナさん側が折れて話は纏まり部長の救出へ。
リナさんと天儀さんがやって来ると馬鹿どもは全員その姿を現し、湊手嶋さんを返してほしければカードと自身を賭けてファイトをしろと言い。
――それに対しリナさんが罵声と共に中指を立てて拒否。唖然とした隙を突いてマリカ達が強襲、全員地面に沈めて解決となった。
目の前で人が吹き飛ぶ姿を見て怯えた天儀さんと湊手嶋さんには、怖い目に合わせてしまったと元副部長・リナさんともに反省していたのを覚えている。
「流石にそんな事をやらかした以上、警察に連絡する必要があってさぁ……オレも軽く取り調べを受けたよ。オレが殴ったあの馬鹿、部長たちの次はオレも狙うつもりだったらしいぜ?
……結局あの馬鹿どもは退学処分になったよ、報道はされていないけどさ」
元副部長はどこか遠くを見ながら言った。
その表情には部員が起こした行動への怒りと、その矛先が自分にも向いていたことへの悲しみがあった。
僕はそんな様子の元副部長へかける言葉がみつからず、グラスの中身を飲み干して。
「飲みましょうよ先輩。もう飲んで忘れましょう」
そう言った。
「おう……。次は何を飲もうかな」
「オレンジジュースと炭酸水混ぜた奴とかどうです?すっきりとした感じで美味しいですよ」
「それいいな。試してみるか……」
そう話しながら僕たちは席を立ちあがり、ドリンクバーで新しく飲みものを取ってきて。
飲みながらたわいもない話をして、届いた料理を食べ。
Life部内で起きていた問題が解決したことを祝ったのだった。
ちなみに予選大会の調整が忙しく参加できなかったリナさんからは、除け者にしたことへの怒りのメールが僕と元副部長……先輩に届き。マリカもそれに同調した。
そのため後日リナさんの時間がある時に、喫茶店で僕ら二人の財布でリナさんとマリカにスイーツを奢ることになったのだった。
今作では退部後も副部長やリナ先輩とは、メールなどでちょくちょくやり取りしていた普夫くん。
ただ互いに部活とアルバイトで忙しく、直接顔を合わせる機会はなかった感じ。
リナ先輩たちは天儀ちゃんとの仲も修復させたいと考えてはいるものの、エレウシス予選大会で激しい戦いが続いているためその余裕はない状況。
副部長は部活内の馬鹿どもの処理が終わり、受験勉強に集中できるようになりました。