櫛田の中学に転校した   作:スクラップドラゴン

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日常の始まり

 

 

 

初日のイベントを終え、俺は賑わう新入生たちの波から一人、静かに離脱した。

 

向かうのは、一般の生徒たちが生活を共にする賑やかな学生寮ではない。学校の敷地内の最奥、一般生徒の立ち入りが厳重に禁止された特別区域にひっそりと佇む、コンクリート打ちっぱなしの頑強な建造物。

 

それこそが、国家が俺という存在をこの学校に囲い込むために用意した、規格外の『国家特例・特別仕様室』だった。

 

建物の周囲に視線を走らせると、制服や作業着に身を包み、一般の職員や警備員に完璧に擬態した男女が、鋭い眼光で周囲を警戒しているのが分かった。

 

 

(……国から雇われた護衛たち、か。入学初日から抜かりがないな。俺の頭脳と技術が他国や外部組織に漏洩するのを、本気で防ぐつもりらしい)

 

 

彼らは俺の姿を視界に収めると、微かに、だが最敬礼に近い角度で一瞬だけ顎を引いた。俺はそれに小さく頷き返し、建物の最深部にある、自室の重厚な電子ロックの前に立つ。

 

入学前に一度、機材などの大荷物を運び込むために訪れてはいたが、改めて見ても高校の施設とは思えない重厚さだ。

 

俺は自作の専用端末を取り出し、国家最高機密レベルの暗号化を施した多段階の厳重ロック――網膜スキャン、静脈認証、そして独自プログラムによる128桁の可変パスコード――を流れるような手つきで解除していく。

 

プシュー、という重々しい減圧音と共に、防弾・防爆仕様の分厚いハッチが開いた。

 

一歩足を踏み入れれば、そこには高校生の私室などという生温い概念は存在しない。俺だけの完璧な『要塞』――最先端の電子研究室が、不気味なブルーのLEDの光の中に広がっていた。

 

 

(うん、機材の配置も、事前に指定した通り完璧だ。ここなら誰の目を気にすることもなく、俺のすべてを解放できる)

 

 

部屋の壁一面には、市販の最高峰スペックを遥かに凌駕する自作のスーパーコンピューターと、その演算結果をリアルタイムで吐き出す無数のマルチモニターが鎮座している。ラックには、あの公園で村上たちを破滅に追い込んだ虫型ドローンや、偵察用、ハッキング用の小型ドローンたちが、いつでも出撃できる状態で整然と格納されていた。

 

そして部屋の中央、一際厳重なプロテクトシールドに守られた作業台の上に置かれているのは、一般社会に出せば文字通り世界がひっくり返る代物――国から極秘裏に開発を委託されている、次世代型『対空インターセプトドローン』の試作品だった。

 

 

(この試作品のAI自律飛行プログラムと、電磁パルス(EMP)兵器の小型化さえ完成させれば、日本の防衛網は完全に書き換わる。国家からこれだけの投資と特例待遇を受けているんだ、きっちり完成させて国に貢献してやるさ)

 

 

周囲を見渡せば、実家から持ち込んだ膨大な実験器具や特殊パーツ、未公開のソースコードが書き込まれたハードディスクが多数並んでいる。

 

 

(あのまま中学時代の家に置いておいたら、いつ他国のスパイや利権に群がる大人たちに盗まれるか分かったものじゃなかったからな……。学校の完全な治外法権と、国家の護衛に守られたこの場所にすべてを移せたのは、本当に有り難い話だ。これでセキュリティの懸念はゼロになった)

 

 

俺はブレザーの制服を脱いで椅子に掛け、ワイシャツの袖をまくり上げると、メインのオペレーションシートに深く腰掛けた。

キーボードに指を置くと、同時にマルチモニターが一斉に起動し、膨大なデータストリームが画面を駆け抜けていく。

 

さて、と。まずはこの学校の基幹システムへの、誰にも気づかれないバックドアの設置から始めるか。

 

俺は不敵な笑みを浮かべ、チート知能をフル回転させながら、再びタイピングの音を要塞の中に響かせ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タイピングの音だけが響く要塞の中で、画面のデータストリームと睨み合いながらプログラムの構築を進める。気づけば、マルチモニターの端に表示されたデジタル時計は、とっくに夜の深い時間を示していた。

 

 

「……よし、一旦ここで区切るか。根を詰めすぎるのも効率が悪い」

 

 

張り詰めていたチート知能のギアを少しだけ緩め、俺は椅子から立ち上がった。首を軽く鳴らし、気分転換を兼ねて防弾ハッチの厳重ロックを解除し、自室の外へと出る。冷たい夜風が通り抜ける廊下に出て、ブレザーのポケットに入れたままだった携帯端末を取り出すと、画面には数件の着信通知が表示されていた。

 

 

その直後、まるで俺が作業を終えた瞬間を狙い澄ましたかのように、手元で端末が再び小刻みに震え出す。画面に表示された名前を見て、俺は口元を自然と緩めながら通話ボタンをスワイプした。

 

 

「はいはい」

 

『あ、陽斗君! もう、やっと繋がった。ずっとかけてるのに全然出ないんだもん。これ以上待たされたら、私本気で怒っちゃうからね?』

 

 

スピーカーから聞こえてきたのは、昼間の完璧な優等生のトーンを完全に脱ぎ捨てた、ふくれっ面をしているのが目に浮かぶような、少し拗ねた櫛田の声だった。

 

 

「すまん。例のドローンのプログラム修正をしていた。……それで、こんな夜遅くに何か用か?」

 

『あ、うん……用事っていうか、その……ただ陽斗君の声が聞きたかっただけ、だよ』

 

 

少しだけ照れくさそうに声を潜める櫛田。だが、すぐに思いやったような、優しい声音へと変わる。

 

 

『今日もお疲れ様。大変だね、入学初日なのにずっと研究してたの? ちゃんとご飯食べて、しっかり休めてる?』

 

「まあな。国が用意してくれた部屋としては、設備も環境も文句のつけようがない。機材に囲まれてる方が落ち着くしな。……櫛田のほうはどうだ? 今はもう、女子寮の自分の部屋にいるのか?」

 

『うん、こっちはすごく心地良いよ! 部屋は綺麗だし、女の子が生活するのに必要な物は全部最初から揃ってるの。ポイントもたくさん貰えたし、本当に良い学校だと思うな』

 

「そうか。リラックス出来てるようで良かった。わざわざ俺の我が儘に付き合う形で、直前になってこの学校に進路を変えてもらったんだ。そのくらい良い環境じゃないと、俺の気が済まないからな」

 

 

中学時代のあの地獄を乗り越え、俺と同じ学校へ行くことだけを望んで高度育成高校へと飛び込んできた彼女だ。彼女が笑って過ごせているという事実だけで、俺がこの国からの特例オファーを呑んだ価値がある。

 

 

『ふふ、ありがと。本当に素敵な部屋だよ。……でも、そっちの部屋は本当に大丈夫? 国の研究室みたいになってるんでしょ? 私、陽斗君が冷たい機械に囲まれて寂しくしてないか、そっちの方が心配なくらいだよ』

 

「こっちも悪くないさ。お前がいつ遊びに来てもいいように、一応居住スペースのソファだけは最高級のやつを持ち込んであるからな」

 

『本当!? じゃあ、近いうちに絶対に潜入しに行っちゃおっと♪』

 

 

電話の向こうで、櫛田が本当に嬉しそうに声を弾ませる。

それから俺たちは、今日始まったばかりの学校生活について、少しだけお互いの情報を交換し合うように話し込んだ。話題のほとんどは、やはり同じAクラスになったクラスメイトたちのことだ。

 

 

『ねえ、陽斗君。さっきの自己紹介の時も思ったんだけど……陽斗君の隣の席になった神室さんって子、なんだかすごく冷たいっていうか、不思議な雰囲気の人だよね?』

 

「神室か。確かにぶっきらぼうだが、単に他者と馴れ合うのが苦手なだけかもしれないな。まあ、悪い奴ではなさそうだ」

 

『そうかなあ……。あともう一人、右隣の坂柳有栖さん。あの子、すっごく可愛い顔して、私の挨拶を笑顔で受け流したでしょ? 絶対に一筋縄じゃいかないっていうか、裏で何を考えてるか分からない不気味さがあるよ……』

 

(流石は櫛田だな。神室の視線や、坂柳の底知れない本質に、初日の段階でここまで本能的な警戒心を抱くとは。彼女の情報収集能力と観察眼は、Aクラスでも十分に猛威を振るうはずだ)

 

「坂柳に関しては、あまり不用意に刺激しない方がいい。クラスメイトとしては優秀だが、敵に回すと面倒なタイプだ。何か仕掛けてくる予兆があれば、俺のドローンで事前にすべて叩き潰すから、お前はいつも通りにしていればいいよ」

 

『うん、分かった。陽斗君がそう言ってくれるなら、私、何も怖くないや』

 

 

夜の静寂の中、端末を通じて繋がる彼女の吐息と声が、冷徹なハッカーである俺の心をじんわりと満たしていく。ひとしきり話し終え、お互いの生存確認とガス抜きが終わったのを見計らい、俺はそっと声を掛けた。

 

 

「じゃあ、夜も遅い。そろそろ寝ろよ」

 

『うん。陽斗君も、研究はほどほどにして早く寝てね? ……それじゃあ、おやすみなさい、陽斗君』

 

「ああ、おやすみ、桔梗」

 

 

通話が切れ、電子音が消えた廊下に再び静寂が戻る。

画面が暗くなった端末をポケットに収めながら、俺は冷たい夜風を胸いっぱいに吸い込んだ。

 

Aクラスの坂柳、神室、そしてDクラスで孤軍奮闘を始めた堀北。さらにはバスで見かけた高円寺や、まだまともに見ぬ綾小路清隆。この学校には凄い人材が溢れている。だが、誰がどう動こうと、俺の隣で『おやすみ』と愛おしそうに囁いた櫛田の平穏だけは、この要塞のドローン群をもって、完璧に支配し、守り抜いてみせる。

 

俺は再び不敵な笑みを浮かべると、温まった身体のまま、俺の戦場である電子の要塞へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日から、高度育成高校での本格的な学校生活が幕を開けた。

 

雲一つない青空から春の柔らかな日差しが降り注ぐ中、俺と櫛田、そしてDクラスの堀北の三人で並んで登校の途についていた。クラスは離れても、こうして朝の時間を共に過ごすルーティンは、中学時代のあの庭での日々から地続きのまま変わっていない。

 

校舎に入り、生徒たちで行き交う階段の手前に差し掛かった時のことだ。

前方に、白い杖をカツン、カツンと一本ずつ段差に突きながら、小柄な身体で一歩一歩、確かめるように階段を登っていく銀髪の少女の背中が見えた。

 

 

「あ、坂柳さん! おはようっ」

 

 

櫛田がすぐにトーンを切り替え、ハキハキとした『クラスの聖母』の笑顔で声を掛けた。

坂柳は杖をピタリと止め、ゆっくりとこちらを振り返る。そのお人形のように整った顔立ちに、いつものすべてを見透かすような、優雅で不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「あら、櫛田さんに水野君。……それと、そちらは他クラスのお友達の方ですね? 皆さん、おはようございます」

 

 

坂柳の知性を宿した瞳が、俺たち三人の立ち位置を瞬時に値踏みするように動く。

俺と櫛田は同じAクラスということもあり、自然な動作で彼女の左右に並び、歩調を合わせるようにして横についた。

 

そんな俺たちの様子と、銀髪の少女が放つ独特の威圧感を前にして、堀北が小さく息を吐き、感心したようにぽつりと呟いた。

 

 

「貴方も、その小さな身体で随分と頑張っているのね。この学校の生徒というプライドの現れかしら」

 

「ふふ、お褒めに預かり光栄です、堀北さん。身体の不自由さは、私の前進を止める理由にはなりませんよ。……それに、こうして初日から優秀なクラスメイトに囲まれる幸運にも恵まれましたしね?」

 

 

坂柳はそう言って、俺の顔を意味深に見上げて微笑んだ。

堀北は「ふん、買い被りよ」と短く返してDクラスの階層へと別れ、俺と櫛田、そして坂柳の三人はそのままAクラスの教室へと入った。

 

 

――1年Aクラスの授業。

 

それは、原作で描かれていたDクラスの惨状とは、文字通り天と地ほどの差があった。

教壇に立つ真嶋先生の講義に対し、スマホをいじる者も、居眠りをする者も、私語に興じる者もただの一人もいない。葛城をはじめとする生徒たちが、張り詰めた緊張感の中でノートを走らせている。流石はAクラス、自らがエリートであるという自覚と規律が、教室の空気をガチガチに支配していた。

 

俺自身はチート知能を持っているため、高校レベルの勉強など今さら真面目に聞く必要すらない。だが、無駄に目をつけられてドローン研究の環境を邪魔されるのは本意ではないため、表面上は周囲に完璧に同調し、非の打ち所のない優等生として授業を消化していった。

 

そして午後、体育の授業の時間がやってきた。

男子生徒たちがグラウンドへ移動するために着替えを済ませ、廊下に出た時のことだ。制服のまま、一人で静かに見学のために移動しようとしている坂柳の姿があった。

 

俺は少しだけ歩幅を早めて彼女に近づき、声を掛けた。

 

 

「坂柳。今日の体育はグラウンドだろ。見学だと思うが、あそこまでの移動は大丈夫か?」

 

坂柳は、声を掛けてきたのが俺だと分かると、意外そうに僅かに目を丸くした。

 

 

「ええ、平気ですよ、水野君。自分のペースでゆっくり歩けば、グラウンドへ降りるくらい、大した労力ではありませんよ。お気遣い、ありがとうございます」

 

「そうか。……ならいいが、もし途中の階段や段差で苦労するようなことがあったら、遠慮なく俺を呼べ。いつでも手を貸しに来るからな」

 

 

俺の真っ直ぐな言葉に、坂柳は一瞬だけ言葉を詰まらせた。それから、フッといつもの不敵な笑みを深くして、どこか楽しげに目を細めた。

 

 

「……ふふ、本当にお優しいのですね、水野君。携帯すら直す自信のある機械に詳しい専門家が、まさかこれほど細やかな騎士道精神まで持ち合わせているなんて、想像もしていませんでした」

 

「買い被りだ。単に、目の前で困りそうな奴がいるから声を掛けただけさ」

 

「そうですか? では、もし本当に困ったときは、甘えさせていただくことにしましょう」

 

 

坂柳にそれだけ言い残し、俺は男子たちの集まるグラウンドへと向かった。

 

原作の中身を知っている俺の身からすれば、彼女が『ホワイトルーム』に関わった経験のある冷徹で恐ろしい天才少女だってことは百も承知だ。

 

だけど、それとこれとは話が別だ。リアルで実際に杖をついて、一歩一歩危なっかしく階段を登り降りしている小さな女の子を見てしまったら、男として普通に心配になる。そう思う俺の感覚は、決して間違っちゃいないはずだ。

 

グラウンドの隅のベンチに座り、静かにこちらの様子を見つめる坂柳の視線を背中に感じながら、俺は体育の授業の列へと加わった。

 

 

 

 

放課後を告げるチャイムが鳴り響き、高度育成高校での最初の一日が終わりを迎えた。

 

俺は中央の席から弾むような足取りで近づいてきた櫛田と合流し、そのまま校舎を出た。まずは事前に電子キーを共有してある俺の『国家特例・特別仕様室』へ向かう予定だったが、その前に立ち寄るべき場所があった。この学校のシステムを理解する上で、最も分かりやすい「証明」がそこにあるからだ。

 

 

「ねえ、陽斗君。お部屋に行く前に、コンビニに寄ってもいい? 欲しいものがあるの」

 

「ああ、ちょうど俺も用があったんだ。この学校が本当に『何でもポイントで買える』っていう意味を、お前に教えておきたくてな」

 

「え? どういうこと?」

 

 

首を傾げる櫛田を伴い、敷地内にある大規模なコンビニ『パレット』へと足を運ぶ。自動ドアをくぐると、店内はポイントを貰って浮き足立つ新入生たちで溢れかえっていた。

 

俺は目的の棚へと歩みを進めながら、櫛田に声を落として説明する。

 

 

「桔梗、この学校にはな、1Pも持っていない生徒でも飢え死にしないための最低限のセーフティネットが用意されている。例えば……ほら、あの棚にある特定の生活必需品や、この無料のマークがついているおにぎりや水だ」

 

「えっ、本当に無料の商品があるの……!? すごい、至れり尽くせりな学校なんだね」

 

 

驚きを隠せない様子の櫛田。俺たちの世界(現実)ならまだしも、この実力至上主義の箱庭において、これが何を意味するのか。彼女はその聡明さゆえに、俺の言わんとする「違和感」をすぐに察知したようだった。

 

 

 

だが、俺たちの会話は、ある『不穏な光景』によって唐突に中断されることになる。

 

無料商品の棚の少し先、酒類が並ぶコーナーの死角。

そこに、見紛うはずのない紫色のサイドテールが揺れていた。

 

俺の左隣の席の女子生徒――神室真澄だ。

 

彼女は周囲の喧嘩腰な新入生たちの喧騒に紛れ、バッグの口を不自然に開けながら、棚にある酒の缶を品定めするように見つめていた。そして、周囲の店員の死角に入った一瞬の隙を突き、迷いのない手つきでその缶をバッグの中へと滑り込ませようとしたのだ。

 

 

(……間違いない。原作通り、坂柳に弱みを握られる原因となった『万引き』の現場だ……!)

 

「――っ、陽斗君、あの子……!」

 

 

隣にいた櫛田が、常人には見えないレベルの速さでその光景を捉え、息を呑んだ。学校用の『聖母の仮面』の裏側で、彼女の瞳が驚愕、そして「とんでもない秘密を握った」というどす黒い愉悦の光へと一瞬で切り替わる。

 

俺は無言で櫛田と顔を見合わせた。

 

アイコンタクトだけで、俺の意図は彼女に完璧に伝わる。ここで神室を野放しにすれば、彼女は原作通り坂柳有栖の完璧な奴隷(手駒)となり、俺たちのAクラス内での動きを制限する障害になりかねない。だが、今この瞬間、俺たちがこの万引きを『阻止』し、神室の弱みを坂柳ではなく「水野陽斗」が握る形に書き換えれば、Aクラスの勢力図は最初から俺の手のひらの上でひっくり返る。

 

 

「行くぞ、桔梗。あいつを止める」

 

「うん……!」

 

 

俺は足音を殺し、バッグの口を閉じようとしている神室の背後へと、影のように音もなく滑り込んだ。櫛田が周囲の店員や他の生徒たちの視線を遮るように、ごく自然な動作で俺の背中をガードする。

 

神室が缶を完全に隠し、何事もなかったかのように歩き出そうとしたその瞬間、俺は彼女の肩を背後からガシリと掴み、耳元で低く冷徹な声を落とした。

 

 

「――神室。悪いが、そのバッグの中身、俺たちに見せてもらおうか」

 

「っ……!?!?」

 

 

神室の身体が、まるで電流が走ったかのように激しく跳ね上がった。恐怖と驚愕に染まった顔で振り返った彼女の目に映ったのは、無表情で自分を見下ろす俺と、その横で、すべてを察したような何処か冷ややかな、だが困ったような笑顔を浮かべて佇む櫛田の姿だった。

 

 

「み、水野……? なんで、あんたが……」

 

 

神室の顔から、少しだけ血の気が引いていく。

 

さあ、ここからだ。俺による、高度育成高校の本当の物語が、このコンビニの片隅から本格的に始まりを告げようとしていた。

 

 

 

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