櫛田の中学に転校した   作:スクラップドラゴン

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公園での激闘

 

 

夕暮れ時の公園は、赤黒い斜光に染まり、まるでこれから始まる凄惨な劇の舞台のようだった。

 

頭上の木々の隙間から、ブーンというかすかな羽音が聞こえる。

 

だが、対峙する少年少女たちの耳には、その不自然な機械音は届いていない。俺がチートスペックの技術を総動員して自作した、超小型の虫型ドローン。それが今、この空間のすべての音声を、すべての映像を、一秒の遅延もなく教育委員会と警察署の特設サーバーへ流し続けている。

 

俺の後ろでは、櫛田が俺の制服の裾を小さな手でぎゅっと握りしめていた。

彼女の身体は、昼間に女子トイレや体育の授業で受けた凄惨ないじめの恐怖、ボールを何度もぶつけられた痛みの名残で、いまだに痛々しく小刻みに震えている。

だが、俺の背中に隠れる彼女の瞳には、怯えとは異なる、冷徹で、どこか狂気を孕んだ期待の光が灯っていた。

 

俺たちの前に立ちはだかるのは、総勢15人。カーストトップを気取り、裏ブログの件で櫛田を執拗に追い詰めていたいじめの主犯格の女子たちが7人。そして、その女子たちを裏で操り、実質的にクラスの暴力と権力を掌握している男子たちが8人。

 

その男子の先頭に立つのは、クラスで一際体格がよく、周囲に睨みを利かせているリーダー格の村上だった。

彼は単なる頭の悪いヤンキーではない。ガラの悪い不良特有のドスの利いた声を出しながらも、こちらの隙を冷徹に見極めるような、質の悪い優秀さを感じさせる男だった。

 

 

「水野。今更その女庇うってなら、てめえもまとめて潰すぞ。仲間もいねえ癖によ、自分がどれだけ不利な状況か分かってんのか?」

 

 

村上の凄みのある言葉に、後ろの女子たちが「そうよ!」「調子に乗るな!」と口々に罵声を浴びせてくる。

 

15対2。数の上では圧倒的な優位。だが、俺から見れば、彼らは自ら底なしの沼に足を踏入れている哀れな獲物でしかなかった。

 

 

「生憎、クズの仲間なんて俺には必要ない。――俺1人で十分だ」

 

 

俺の静かな、だが絶対的な自信を含んだ声に、村上の顔が不快そうに歪む。

 

 

「……ハッ、まだそんな余裕こいてられるのかよ。おいお前ら、こいつが二度とそんな生意気な口叩けねえように、徹底的に現実ってやつを教えてやれ」

 

「来るなら来いよ。俺が相手になってやる」

 

 

俺が冷たく言い放つと、村上の合図で、前衛にいた男子3人が一斉に地を蹴った。彼らの動きはただの喧嘩特有の無駄な大振りではない。不良としての場慣れ感と、無駄のない鋭い連携がそこにはあった。

 

 

「水野、てめえをここで動けなくすればよ、櫛田も訴えを取り下げるしかねえだろ。派手に泣き叫べや!」

 

 

3人がかりの組織的な突撃。1人はこちらの視界を奪う鋭い左ジャブ、もう一人は低く鋭いタックル、最後の1人は死角からの重いミドルキック。

常人であれば恐怖で身をすくめるか、逃げ惑う完璧な連携。だが、俺の強化された知覚世界では、彼らの洗練された動きすらも、まるで泥の中を泳いるかのように酷く緩慢だった。

 

 

避けるのは容易い。だが、俺には目的がある。

 

まずはドローンの向こう側にいる大人たちに、「俺たちが一方的な被害者である」という完璧な絵面を提供しなければならない。正当防衛の成立要件を、疑いようのないレベルで確定させる。

 

――ドゴッ、バキッ、痛烈な衝撃音が公園に響く。

 

俺はわざとガードを緩め、彼らの拳と蹴りを数発、あえて肉体で受け止めた。的確に急所を狙った一撃。普通の中学生なら一発で意識を刈り取られる威力を秘めていたが、俺の鍛え上げられた肉体にとっては、ただの軽いノックに過ぎない。

 

 

「これで終わりだッ!」

 

 

技が決まったと確信した男子の一人が、勝ち誇った声を上げた、その瞬間俺は動いた。

 

 

「……その程度か?」

 

 

俺は冷笑を浮かべ、彼らの動きが止まった一瞬の隙を逃さず動いた。

まだ拳を突き出したままの男の腕を、蹴りを放ったあとの軸足の隙を、逃さずガシリと掴み取る。まるで鉄の万力で締め付けられたかのような絶対的な拘束力に、男子たちの顔が初めて驚愕に染まる。

 

 

「な、なんだこれ、動か――」

 

「軽いな。てめえらのその浅薄なプライドごと、返させてもらう」

 

 

掴んだ腕と脚に一瞬で爆発的な力を込め、円運動の軌道を描くようにして、3人同時に空中へと引きずり回した。柔道の合気や、中国武術の発勁の応用。相手の突進力をそのまま回転のエネルギーへと変換し、勢いよく地面へと叩きつける。

 

どさりと、肉体が土の地面に激突する重苦しい音が3回重なった。

 

 

「がはっ!? ……くっ……」

 

「嘘だろ、3人同時に……!?」

 

 

地面に這いつくばり、肺から空気を絞り出された男子たちが苦悶の声を漏らす。だが、俺は息一つ乱さず、衣類の埃を払うように悠然と、その場に余裕で立ち続けていた。

 

その圧倒的な、そして彼らを見下すような態度が、村上たちのエリート意識を激しく逆撫した。

 

 

「チッ……てめえら、陣形崩すんじゃねえ! 囲んで一斉に叩き潰すぞ、数の力を見せつけてやれ!」

 

 

村上の冷静沈着だった声に、焦りと怒りが混じり始める。残りの男子たち、そして村上自身も含めた計8人が、冷徹な仮面をかなぐり捨てて一斉に襲いかかってきた。

 

1対8。洗練された数の暴力が俺を取り囲むように全方位から迫る。

 

今度もまた、俺は動きを完全に先読みしながら、わざと最初の数発の攻撃を身体に被弾させた。計算された打撃が腕を叩き、拳が肩を打つ。肉体が悲鳴を上げる代わりに、頭上のドローンが「組織的な集団暴行の事実」をより鮮明に記録していく。

 

証拠は十分に揃った。これ以上、彼らの汚い手で俺の身体を汚させる必要はない。

 

 

「……終わりだ」

 

 

俺の目が冷たく光る。

その瞬間、俺の動きは彼らの認識の限界を超えた。

 

 

「なっ、消え――」

 

 

村上の一歩後ろにいた男子が声を漏らそうとした時には、俺はすでにその懐に潜り込んでいた。

 

早すぎる動き。彼らが誇る動体視力や格闘センスでは、俺の残像を追うことすら叶わない。

 

ドン、と空気が破裂するような音がした。

俺は近くにいた二人をまとめて襟首で掴み上げると、そのまま弾丸のように後方へと投げ飛ばした。二人の肉体は綺麗に重なり合い、そのまま後ろの植え込みへと突っ込んでいく。

 

 

「何なんだよ、この化け物は……ッ!!」

 

 

冷静さを完全に失った別の男子が殴りかかってくるが、その腕を軽く受け流し、今度は三人まとめて巻き込むようにして回転投げを放つ。まるで計算された幾何学模様のように、男子たちの身体が次々と宙を舞い、地面へと叩きつけられていった。

 

凄まじい風圧と、肉体が破壊される鈍い音が公園に響き渡る。

かつてクラスを裏から支配し、桔梗をあざ笑っていた男子たちが、今や泥まみれになって地面をのたうち回っている。

 

 

「有り得ねえだろ……こんなことが、あってたまるかよ……!」

 

 

村上だけは、自らのプライドと支配体制が完全に粉砕された事実を受け入れられず、血走った目でなおも立ち上がってきた。的確にこちらの急所を狙い、なりふり構わず俺の命を奪おうと迫る。

だが、その動きは怒りによって完全に精彩を欠いていた。

 

俺は襲いかかる村上の合理的な攻撃を、最小限の動きですべて完璧に捌き続けた。

右からのストレートを半歩引いてかわし、左からのカウンターを掌底で軌道を逸らす。そして、彼の体勢が完全に崩れる度に、ただひたすらに、美しく、自由落下を体現するように容赦なく、彼を仰向けに投げ飛ばした。

 

ズシン、と村上の大柄な肉体が地面を揺らす。

 

 

「がはっ……げほっ……!」

 

 

立ち上がっては投げられ、立ち上がっては投げられる。その度に、村上の瞳から知性と傲慢さが消え失せ、代わりに底知れない恐怖が染み込んでいくのが分かった。

 

その圧倒的な光景を、後ろで見ていた櫛田は、ただ呆然と、そして言葉を失って見つめていた。

彼女がこれまで怯え、絶望していた原因である「クラスの絶対的な権力」が、俺という一人の少年の手によって、あまりにも簡単に、まるで無価値なゴミのように処理されていく。彼女の綺麗な瞳が、驚きからやがて、狂おしいほどの歓喜と崇拝の色へと染まっていく。

 

 

(……陽斗凄い。陽斗さえいれば、私は誰を敵に回しても絶対に大丈夫――)

 

 

そして、その光景に完全に恐怖したのは、男子たちの後ろで勝ち誇っていた女子たちだった。

 

 

「な、何よこれ……何なのよこいつ……!」

 

 

あまりの常識外れの強さに、彼女たちの顔は真っ青に変色していた。

俺が村上を再び投げ飛ばし、一歩、また一歩と彼女たちのほうへ歩みを進めると、女子たちは悲鳴を上げて後ずさりした。それまで櫛田を取り囲み、逃げられないように拘束していた手の力が完全に抜け、蜘蛛の子を散らすようにして櫛田の身体から離れていった。

 

 

「ひっ、来ないで……! 来ないでよ!」

 

 

誰も櫛田に触れる者はいなくなった。彼女は自由になり、そして、俺のすぐ後ろへと駆け寄ってきた。

それでもなお、地面に伏した村上は諦めきれないように、泥水をすすりながら立ち上がろうとする。

 

 

「まだだ……! 俺たちが、こんな奴一人に負けるわけねえだろ……!」

 

 

だが、村上がその言葉を紡ぎきることはできなかった。

 

 

「――そこまでだ」

 

 

公園の周囲の暗がりに、突如として無数の足音と、鋭いライトの光が差し込んできた。一台、また一台と、サイレンを切ったパトカーが公園の入り口に滑り込んでくる。影から現れるように、警察官の制服を着た男たちと、スーツを着た教育委員会の職員たちが、瞬く間に公園の広場を取り囲んだ。

 

 

「警察だ! 全員、その場から動くな!」

 

 

鋭い怒号が響き渡る。

地面に倒れていた男子たちも、逃げようとしていた女子たちも、完全に身体を硬直させた。

 

教育委員会の職員が一歩前に出て、手に持ったタブレット端末を村上たちに突きつける。

 

 

「君たちが今ここで何を行ったか、そしてこれまで櫛田さんにどんな陰湿な行為をしてきたか……様々な証拠映像と音声が、リアルタイムで我々の元へ流れてきている。言い逃れは一切できない」

 

 

職員の冷徹な宣告に、女子たちはその場に泣き崩れ、男子たちは完全に絶望して頭を抱えた。

彼らが築き上げた「完璧な支配」は、俺の用意した罠によって跡形もなく瓦解したのだ。

 

 

「全員、署のほうで詳しく調査させてもらう。……連れて行きなさい」

 

 

警察官たちが一斉に動き出し、村上たちを次々と拘束していく。阿鼻叫喚の地獄絵図が広がる中、俺はそっと、携帯を操作してドローンを別の場所に移動させた後ろで俺の服を掴んでいる櫛田の手の上に、自分の手を重ねた。

 

彼女の手は、もう震えていなかった。世界で唯一、自分を全肯定し、自分を害するすべての敵を合法的に駆逐してくれた俺という存在を、彼女はその潤んだ瞳で、狂信的に見つめ返してくるのだった。

 

 








櫛田と水野のそれぞれのクラス配属に妥当なクラスを教えて欲しいです

櫛田とオリ主はそれぞれ何クラス配属が妥当かな?

  • 櫛田、水野共にA
  • 櫛田A、水野B
  • 櫛田A、水野C
  • 櫛田A、水野D
  • 櫛田B、水野A
  • 櫛田、水野共にB
  • 櫛田B、水野C
  • 櫛田B、水野D
  • 櫛田C、水野A
  • 櫛田C、水野B
  • 櫛田、水野共にC
  • 櫛田C、水野D
  • 櫛田D、水野A
  • 櫛田D、水野B
  • 櫛田D、水野C
  • 櫛田、水野共にD
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