櫛田の中学に転校した   作:スクラップドラゴン

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素顔を見せる

 

 

「ここだ」

 

 

俺は鍵を開け、自宅の玄関のドアを押し開けながら、後ろに続く二人に声を掛けた。

 

 

「家……? 試験の実力を見せると言って、私を自宅に連れ込むなんて、一体何の真似かしら」

 

 

堀北鈴音は露骨に不快そうな表情を浮かべ、腕を組んだまま玄関のたたきで足を止めた。その切れ長の瞳には、俺たちに対する警戒心と軽蔑が隠そうともせずに滲んでいる。

 

 

「ああ、面白い遊びをさせてやるよ。お前が言う『実力』の定義が、いかに狭いものかよく分かるはずだ」

 

「遊び? くだらない事なら帰らせて貰うわ。貴方達がそうやって無駄に遊んでいる間にも、私は自己研鑽を止める気は無いの。時間の無駄よ」

 

 

踵を返そうとする堀北の背中に、俺の隣にいた櫛田がすかさず声を掛けた。その声は、以前の学校で見せていた明るく全方位に愛される「優等生・櫛田桔梗」の完璧なトーンだった。

 

 

「堀北さん、まあそう言わずにちょっと入ってみてよ。絶対びっくりするから♪」

 

 

親しげに、それでいて断らせない絶妙な圧力を含んだ櫛田の言葉に、堀北は小さく舌打ちを漏らしながらも、渋々と靴を脱いで廊下に上がった。

 

俺は二人を先導し、自分の部屋のドアを開ける。

 

一歩足を踏み入れた瞬間、堀北は言葉を失い、その場に釘付けになった。

 

 

「これは……!!」

 

 

彼女の瞳が驚愕に大きく見開かれる。無理もない。

男子中学生の私室といえば、教科書や漫画、あるいは趣味の衣類が散らかっているのが普通だ。しかし、俺の部屋の光景はそれらとは根本的に異なっていた。

 

部屋の壁際に設置された特製のスチールラックには、大小様々な形状をした、見たこともない精密なメカニズム――戦闘用、偵察用、潜入用など、用途別に仕分けられた無数の自作ドローンが整然と並んでいた。デスクの上には、電子回路の基盤やハンダゴテ、そして一般の市場には出回っていない特殊なOSが走るマルチモニターが、不気味なほどのサイバー感を醸し出して鎮座している。

 

堀北は息を呑み、ラックの一角に手を伸ばしかけて、思い直したように手を引っ込めた。そして、何かを納得したように俺を冷たい目で射抜く。

 

 

「……そう。貴方の親は随分と優秀で、お金持ちのようね。だけど、だから何だって言うの? 親の財力で作られた環境を誇示して、それが貴方の実力だとでも言うつもりかしら」

 

 

彼女の言葉は、相変わらず傲慢でトゲがあった。自分が理解できない圧倒的な技術力を前にして、それを「親の七光り」という枠に押し込めることで、辛うじて自分のプライドを保とうとしているのが見え見えだった。

 

そんな堀北の態度に、隣の櫛田がクスクスと、どこか楽しげな含み笑いを漏らした。

 

 

「ふふっ、堀北さん。陽斗君はここで一人暮らしだよ? だから、ここにあるものは、ぜーんぶ陽斗君が自分で一から作ったものなんだよ?」

 

「……なんですって?」

 

 

堀北の顔がピキリと強張る。

 

 

「親の仕送りでも貰って、パーツを買い漁ったのかしら」

 

「いいや。一から俺が設計して、プログラミングして、組み立てた。親からの仕送りなんて一円も貰ってないし、接点もない。すべて俺個人の資産と技術で賄っている」

 

 

俺の淡々とした、だが紛れもない事実に、堀北は完全に言葉を失った。中学生が自力で稼ぎ、これほどの電子要塞を築き上げるなど、彼女の常識の範疇を遥かに超えている。

 

 

「まあ、立ち話もなんだ。そこに座れよ」

 

 

俺は唖然とする堀北を部屋の椅子に促し、櫛田にはいつものようにベッドの端に座らせた。そして、冷蔵庫から桔梗のガス抜き用にストックしておいたケーキを三個取り出し、二人の前に差し出した。

 

 

「これ、美味しいんだよ、堀北さん」

 

 

櫛田は嬉しそうにフォークを手に取り、慣れた手つきでケーキを口に運ぶ。堀北は目の前のケーキと俺を交互に見つめ、警戒しながらも一口だけ口に運んだ。その瞬間、彼女の眉が美味しさに僅かに跳ねたのを、俺は見逃さなかった。

 

 

「……貴方、もしかして、ただのオタクなの……?」

 

 

ケーキを飲み込んだ堀北が、どこか戸惑ったような声を出す。満点を連発する天才の正体が、部屋に引きこもるメカマニアだったとでも思ったのだろう。

 

 

「まあ、そう言わずに……言葉で説明するより、実際に触ってみろよ」

 

 

俺はケーキを食べ終えた二人を連れて、自宅の広い庭へと移動した。

冬の澄んだ空気の中、俺はスチールラックから持ち出した、練習用の簡易版ドローンを一台、芝生の上に置いた。

 

 

「動かしてみろ。これはカモフラージュやハッキング機能をオミットした簡易版だ。最初はかなり難しいが、使い方はな……」

 

 

俺がプロポを取り出し、操作手順を軽く説明しようとすると、堀北はそれを遮るようにプロポを俺の手から奪い取った。

 

 

「説明は結構よ。私を試しているのでしょう? これくらいの機械、軽く操作して見せるわ。勉強だけでなく、指先の器用さでも貴方に劣っているつもりはないから」

 

 

堀北はツンと顎を尖らせ、液晶画面に表示されたシステムに視線を落とした。流石に頭の回転は速い。俺の言葉を少し聞いただけで、どのレバーがどの挙動に対応しているかを瞬時に理解し、迷わずに親指を動かした。

 

モーターが駆動し、ドローンがふわりと宙に浮き上がる。

 

 

「……ふん、この程度ね」

 

 

堀北の口元に、一瞬だけ勝利の笑みが浮かんだ。確かに、完全な初心者が最初にやる動きとしては、かなり筋が良い。機体を一定の高度で維持しようとする微調整の感覚は、彼女の高い集中力を物語っていた。

 

だが、俺の作ったドローンは、市販の玩具のように自動制御で誰でも簡単に飛ばせるような生温いものではない。

 

風が、ふっと庭を吹き抜けた。

 

 

「くっ……あ、ちょっと……!!」

 

 

風の抵抗を受けた瞬間、ドローンの挙動が急激に乱れた。堀北は慌ててレバーを逆方向に倒したが、操作が大きすぎたために、機体は今度は反対側へと大きく傾き、激しく上下に揺れ始めた。

さっきまでの余裕はどこへやら、堀北は額に薄っすらと汗をかきながら、必死の形相でレバーを小刻みに動かしている。完全にドローンに振り回されている状態だった。

 

それを見計らい、俺は全く同じ仕様の、もう一台の簡易版ドローンを櫛田に手渡した。

 

 

「桔梗、お手本を見せてやれ」

 

「うん、任せて!」

 

 

櫛田は受け取ったプロポを胸の前で構えると、堀北の方をチラリと見て、最高に可愛らしい笑顔を浮かべた。

 

 

「堀北さん、私がやるの、よーく見ててね♪」

 

 

櫛田はここ数週間、毎日のように俺の家へ通い、このドローンの操作を叩き込まれてきたのだ。最初は難しがっていたものの、今では俺のチートな指導のおかげで、並の中学生では到達できない領域まで腕を上げている。

 

櫛田が親指を滑らせると、彼女のドローンは滑らかに離陸し、風に煽られることもなく、ピタリと空中で静止した。それだけではない。桔梗は堀北の機体の周りを、挑発するように綺麗な八の字を描きながら、軽快に旋回してみせたのだ。

 

堀北はそれを見て、ますます焦りを募らせた。

 

 

「嘘……櫛田さんが、どうしてこんな動きを……っ」

 

 

余裕の表情で、鼻歌でも歌い出しそうなほど軽やかにプロポを操る櫛田。

 

 

「ちゃんと見てる? 堀北さん♪ ドローンってね、力んじゃダメなんだよ?」

 

「くっ……分かっているわよ、そんなこと……!」

 

 

煽り文句を完璧な笑顔で宣う櫛田に、堀北のプライドはズタズタだった。負けず嫌いの彼女は、櫛田に対抗しようと、無理に機体を加速させて旋回させようとした。

 

しかし、それが決定的なミスだった。

 

風を読み違え、過剰に入力された出力のせいで、堀北のドローンは制御を完全に失い、恐ろしい速度で横へとスライドした。

 

そして――

 

ガシャン!! と、鈍い金属音とプラスチックが砕ける音が、冬の庭に響き渡った。

 

 

「あ……」

 

 

堀北の機体は、庭を囲むコンクリートの塀に真正面から激突し、そのまま地面へと落下していった。プロペラが一枚、虚しく宙を舞って芝生に落ちる。

 

堀北の顔から、一瞬で血の気が引いていくのが分かった。あの常に凛としていた彼女の顔が、今は真っ青に変色し、プロポを握ったまま完全に硬直している。

 

 

「嘘……堀北さん、陽斗君の大事なドローン、壊しちゃったの……?」

 

 

櫛田が、両手を口に当てて驚いたような声を上げた。その声は心からの心配に満ちているように聞こえたが、俺には分かっていた。櫛田の瞳の奥が、プライドを粉々に砕かれて絶望している堀北を見て、最高に愉悦を感じて嗤っているのが。

 

 

「ご、ごめんなさい……私、そんなつもりでは……」

 

 

堀北はプロポを強く握りしめ、消え入りそうな声で謝罪の言葉を口にした。その表情には、いつもの傲慢さは欠片もなく、自分の無力さと失態に対する激しい自己嫌悪と悲しみが滲んでいた。

 

 

「大丈夫だ。簡易版だからパーツの予備はいくらでもある。すぐに直せるよ」

 

 

俺は歩み寄り、地面に落ちたドローンの残骸を回収した。堀北は、自分が壊してしまった無惨な機体を見つめながら、ひどく傷ついたような、今にも泣き出しそうな悲しげな表情で立ち尽くしている。

 

原作では決して見せない、弱りきった彼女の姿。だが、俺は彼女を完全に潰したいわけではない。あくまで『格の違い』を示し、高度育成高校へ行く場合の対等な、あるいはそれ以上のカードを握るのが目的だ。

 

 

「……だが、覚えるの自体は驚くほど早かった。中学生の初見の操作としては、破格のセンスだ。風の突発的な変化に対処しきれなかっただけだし、落ち着いてやれば、もう少しいい動きを見せられたはずだ」

 

 

俺が淡々と、だが客観的な事実として彼女を慰めると、堀北は弾かれたように顔を上げた。その瞳には、まだ戸惑いと、ほんの少しの救われたような色が混ざり合っている。

 

 

「ほら、これを使え」

 

 

俺は手元にあった、もう一台の別の簡易版ドローンを彼女に手渡した。

 

 

「今度は出力を半分に制限してある。俺が隣でレバーのタイミングを教えるから、もう一度やってみろ」

 

「……ええ。次は絶対に、落としたりしないわ」

 

 

堀北はまだ悔しさに唇を噛み締めながらも、俺の手からプロポを受け取った。

俺が隣につき、風の読み方やレバーの引き具合を一つ一つ静かに教えていくと、彼女は驚異的な集中力でそれを吸収していった。やがて、取り敢えずではあるが、機体をゆっくりと、安定して空中へと動かせるようになった。

 

 

「……できたわ」

 

 

堀北は小さく息を吐き、少しだけ安堵の表情を見せる。しかし、そのすぐ隣では、櫛田がこれ見よがしに、高度なホバリングと反転を組み合わせた完璧な動きを見せつけていた。

 

 

「陽斗君、私、こっちの動きもできるようになったよ♪」

 

「ああ、合格点だ」

 

 

俺が櫛田の頭を軽く撫でてやると、彼女は嬉しそうに目を細め、それから再び堀北の方へ、勝ち誇ったような視線を向けた。

 

それを見た堀北は、ゆっくりと上昇する自分の機体をコントロールしながら、再び悔しげに眉をひそめるのだった。

 

技術、知識、そして精神的な余裕。そのすべてにおいて、水野陽斗という男と、その隣にいる櫛田桔梗という少女が、自分より遥か先に行っている。

堀北鈴音の胸に、かつてないほどの激しい敗北感と、同時に、底知れない興味が刻み込まれた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

堀北が複雑な表情のまま俺の家を去り、静寂が戻ったリビング。

 

パタンと玄関のドアが閉まる音が響いた直後、隣から奇妙な音が聞こえてきた。

 

 

「うっ……くくくっ……んうっ、ううーっ……!」

 

「櫛田……?」

 

 

俺は思わず、怪訝な目を彼女に向けた。

櫛田はソファーの上で膝を抱え、下を向いたまま全身を小刻みにプルプルと震わせていた。最初は堀北との一件で何か嫌なことでも思い出して泣いているのか、あるいは怒りがぶり返したのかと不審に思ったが、その肩の震えは次第に大きくなっていく。

 

限界だった。

 

彼女が必死に堰き止めていた感情のダムが、決壊した。

 

 

「あははははは! 堀北さんのあの顔……! すっごく、すっごく悔しそうだったね、陽斗君!♪」

 

 

櫛田は顔を跳ね上げると、学校での彼女を知る者が聞けば卒倒するような、剥き出しの、そして心底楽しそうな大爆笑を爆発させた。

 

 

「あーはははははははは! 駄目、私もう我慢できない! ひゃひゃひゃひゃひゃ!♪」

 

 

彼女はソファーにゴロゴロと転がり、お腹を抱えて涙目になりながら笑い転げていた。いつも完璧に整えられている髪が乱れるのも気にせず、足をバタバタとさせて狂ったように笑い続けている。

 

常に自分を『特別』だと信じて疑わず、他クラスの俺たちを上から目線で見下し、命令口調で高度育成高校への進学を迫ってきたあのプライドの塊――堀北鈴音。

そんな彼女が、自分が散々馬鹿にしていたドローンの操作で完全にパニックになり、あまつさえ機体をコンクリートの塀に激突させて粉々に大破させたのだ。その瞬間、世界が終わったかのように真っ青になり、今にも泣き出しそうに絶望していたあのマヌケな表情。

 

他人の不幸や失態、自分を不快にさせた人間の失脚こそが、櫛田桔梗という少女にとって最高の娯楽であり、至高の栄養源だった。

 

俺はソファーの横に歩み寄ると、狂ったように笑い続ける彼女の隣に腰掛け、その乱れた頭をそっと、優しく撫でた。

手のひらに伝わる彼女の髪の柔らかさと、まだ笑いで波打っている細い身体の温もり。

 

 

「はあ……はあ……っ、あ……」

 

 

頭の上に俺の手の温もりを感じた瞬間、櫛田の笑い声がピタリと止まった。

彼女は自分が今、俺の前でとんでもない『醜悪な本性』を晒してしまったことに気づいたのだろう。一瞬にして顔から血の気が引き、慌てていつもの「可愛くて無害な桔梗ちゃん」の顔を作ろうと、引きつった笑みを浮かべて取り繕おうとした。

 

 

「あっ……ち、違うの、陽斗君。今のは……その、ただ、堀北さんがちょっと可哀想だなって思ったら、なんだかおかしくなっちゃって……」

 

 

必死に弁明しようと、言葉を濁しながら俺の視線から逃れようとする彼女。

かつて裏ブログがバレてクラス中から白い目で見られ、壮絶ないじめに遭った彼女にとって、「本性を知られること」は再びあの地獄の底に突き落とされるかもしれないという、本能的な恐怖に直結しているのだ。俺が自分の味方だと分かっていても、いざ自分の醜い部分が暴かれると、どうしても拒絶される恐怖が勝ってしまう。

 

そんな風に、俺の前でさえ怯え、必死に仮面を被り直そうとする彼女の姿を見て、俺は静かに、だがはっきりと通る声で告げた。

 

 

「櫛田。俺の前では、もうそんな風に顔を作らなくていいぞ」

 

「え……?」

 

 

櫛田の動きが、完全に凍りついた。プロポを握りしめたまま、信じられないものを見るような目で俺を見つめてくる。

 

 

「今の櫛田の方が自然で良い。俺の前では、もう無理して『良い子』を演じなくていいんだ。俺は、誰の目も気にしていない、その自然体の櫛田と仲良くなりたい」

 

「良いの……?」

 

 

櫛田の声が、微かに震えていた。その瞳には、深い戸惑いと、これまで誰にも言えなかった核心を突かれた少女の、脆い光が揺れている。

 

 

「私……陽斗君が思っているような、全然良い子じゃないよ? 心の中ではいつも、周りの奴らのこと見下してるし、堀北さんみたいに生意気な奴が失敗すると、ざまあみろって、心の底から嬉しくなっちゃうの。本当に、最低で、性格が悪くて、汚い人間なんだよ……?」

 

 

彼女は自虐的に、そしてどこか俺に拒絶されるのを覚悟したような口調で、自分の本質を吐き出した。

だが、俺はそんな彼女の言葉を聞いても、眉一つ動かさずにふっと息を漏らした。

 

 

「良い子じゃないかもしれないが、悪い子でもないだろ。……それが普通だ」

 

「陽斗君……」

 

「人間の心なんて、誰だってそんなもんだ。表では綺麗事言ってても、裏じゃ誰かを妬んだり、他人の不幸を蜜の味だと思ってる。ただ、それを完璧に隠して『聖母』を演じきれているお前が、常人より少しだけ器用で、少しだけ承認欲求が強いってだけの話だ」

 

 

俺は彼女の頭をもう一度、慈しむようにゆっくりと撫で回した。

 

 

「それに……今日の櫛田は、見ていて楽しかった。これまでのお前は、学校でも、ここに来る時でも、どこか完璧すぎてな。俺が何をしても、人としての感情が本当の意味で届かないんじゃないかって、どこか遠い存在に思えていたんだ。だけど、さっき小さな事で笑ってるお前を見て、初めて、少しだけ俺と同じ『人間』に見えた」

 

 

完璧な優等生の仮面を被っている時の櫛田桔梗は、どこか無機質な人形のようだった。だが、さっき堀北の失態を心の底からあざ笑っていた時の彼女は、間違いなく感情が激しく波打つ、生身の人間だった。

 

 

「だから、俺の前でくらいはそのままでいて欲しい。お前が誰かを呪おうが、誰かの不幸を笑おうが、俺はそれを軽蔑したりしない。その醜い部分も含めて、俺はお前の味方だからな」

 

 

言葉で、彼女の心の最も深い、暗く冷え切っていた場所に、暖かな光となって染み込んでいく。

 

櫛田は、じわリと自分の瞳に涙が溜まっていくのを感じていた。

これまでの人生で、自分の歪んだ承認欲求や、他人の秘密を握ることでしか安心できない醜悪な本性を、これほどまでに全肯定してくれた人間など、ただの一人もいなかった。親でさえ、学校の教師でさえ、彼女に求めたのは「完璧で可愛い桔梗ちゃん」という偶像だけだった。

 

それを、俺という男は、学校のあの地獄から物理的に自分を救い出してくれただけでなく、今、自分の魂の最深部までをも救い、受け入れてくれたのだ。

 

 

「……ずるいよ、陽斗君」

 

 

彼女は視界を涙で滲ませながら、ぽつりと呟いた。そして、堪えきれなくなったようにソファーから俺の体に飛び込むと、その細い腕で、俺の首に強く、強くしがみついてきた。

 

 

「そんなこと言われたら……私、本当に陽斗君なしじゃ、生きていけなくなっちゃうじゃん……。もう、陽斗君以外の誰も、信じられなくなっちゃうよ……っ」

 

 

俺の胸に顔を埋め、小さな子供のように声を殺して泣き始める櫛田。

彼女の背中を、俺は静かにトントンと叩きながら、心地よい重みを感じていた。

 

この日を境に、櫛田桔梗という少女の魂は、完全に俺の支配下へと下った。彼女がこれからどのような人生を歩もうと、その天秤の片側には、常に「俺」という絶対的な存在が鎮座することになる。例えこの先、何かの間違いで高度育成高校に行ったとしても綾小路清隆のような怪物が彼女の過去を暴こうと画策しようが、堀北鈴音が彼女の仮面を剥がそうと挑発してこようが、関係ない。

 

彼女の唯一の絶対聖域は、俺がいる部屋であり、俺の腕の中なのだから。

 

俺は泣きじゃくる櫛田の背中を撫で続けながら、これから始まるかも知れない彼女の、狂ったように激変するであろう未来の盤面に思いを馳せていた。

 

 

 






アンケート集計すると意外な傾向が見えました


断トツで多いのは両方Dクラスですね、しかしそれとは別にオリ主だけに着目して途中集計してみると水野陽斗はAクラスだと言う傾向も高いです。

櫛田とオリ主はそれぞれ何クラス配属が妥当かな?

  • 櫛田、水野共にA
  • 櫛田A、水野B
  • 櫛田A、水野C
  • 櫛田A、水野D
  • 櫛田B、水野A
  • 櫛田、水野共にB
  • 櫛田B、水野C
  • 櫛田B、水野D
  • 櫛田C、水野A
  • 櫛田C、水野B
  • 櫛田、水野共にC
  • 櫛田C、水野D
  • 櫛田D、水野A
  • 櫛田D、水野B
  • 櫛田D、水野C
  • 櫛田、水野共にD
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