「幽ちゃん、またその奇妙なポーズをしてるのね。ケロ」
のんびりとした、だけどどこか落ち着いた声が、のどかな池のほとりに響く。
声をかけてきたのは、大きな瞳と長い黒髪が特徴的な女の子――蛙吹梅雨だ。
家が目と鼻の先で、親同士の交流もある俺たちは、物心ついた時からの幼馴染だった。
「いや、梅雨。これは固まってるんじゃなくて、精神を集中させてるんだよ」
俺は4歳児の体で必死に「ジョジョ立ち」の構えをキープしながら答える。
現在、絶賛「個性」のガチャ引き中。ちょうど1分前にスイッチを入れ、力を周囲に顕現させたところだ。
脳内に響いた名前は――『ザ・フール(愚者)』。
「わあ……! 今度のやつは、とっても大きな犬の形をしてるのね」
梅雨ちゃんが、いつものように人差し指を顎に当てて、まじまじと俺の背後を見つめる。
俺の背後には、池の周りの砂や土を巻き込んで泥人形のように実体化した、犬の顔をしてタイヤを持つ「砂の怪物」がどっしりと佇んでいた。
俺の個性『幽波紋(スタンド)』は、意識して力を通すことで、その姿が周囲の人間にもはっきり目視できるようになる。梅雨ちゃんは最初こそ驚いていたが、今ではすっかりこの「5分ごとに変わる奇妙な見た目の力」に慣れていた。
「これは『ザ・フール』。砂を自由に操れる奴だ。ほら、見てろ」
俺が砂の犬に命令すると、ザ・フールは意思を持ったように波打ち、地面の砂を巻き上げて、精巧な蛙の形をした砂像を一瞬で作ってみせた。
「すごいのね。幽ちゃんの個性は本当に何でもできるわ」
「でもな、梅雨。あと3分もすれば、この砂のロボットは消えちゃうんだ。次は何が出るか完全に運任せ。梅雨の『蛙』みたいに、いつでも同じ技が使えるわけじゃないから、本当にギャンブルだよ」
俺が少し自嘲気味に笑うと、梅雨ちゃんはコクリと首を傾げた。
「でも、その時々で違う戦い方ができるのは、幽ちゃんの強みだと思うわ。もし使いにくいやつを引いちゃっても、私たちがカバーすればいいじゃない。ケロ」
そう言って、梅雨ちゃんは自分の後ろを振り返る。
そこでは、彼女のまだ幼い妹や弟が、砂場道具で楽しそうに遊んでいた。
共働きの両親に代わって、幼い頃から弟妹の面倒を見ている梅雨ちゃん。そんな彼女を少しでも手伝いたくて、俺はよくこうして一緒に公園や池に付き合っていた。
「そうだな。梅雨がいてくれれば心強いよ」
前世の精神を持つ俺からすれば、彼女の冷静で真っ直ぐな信頼は、本当に救いだった。5分ごとに変わるランダム性の恐怖を、この賢い幼馴染がいつも和らげてくれる。
だが、そんな穏やかな時間は、唐突に破られることとなった。
「――ヒッ、おい! そこにいるガキども、動くんじゃねえぞ!」
雑木林の奥から、息を荒くした男が飛び出してきた。
服はボロボロで、手には金属製のバールを握りしめている。何より、その全身からドロドロとした黒い液体を分泌させており、目が血走っていた。ニュースで指名手配されていた、個性を悪用して強盗を働いたヴィランだ。警察の手から逃れて、この人気のない裏池に逃げ込んできたらしい。
「お、お姉ちゃん……!」
梅雨の妹と弟がが、恐怖で梅雨ちゃんの背後にしがみつく。
「大丈夫よ、2人とも。私の後ろに隠れていてね」
梅雨ちゃんは身を挺して弟妹を庇うが、まだ5歳になったばかりの子供だ。
(マズい、ザ・フールの5分がちょうど切れる……!)
サラサラと砂の怪物がただの土に戻って崩れ去り、個性のインターバルが終了する。ヴィランはそれをチャンスと見て、バールを構えてこちらへ突進してきた。
「目撃者は生かしちゃおけねえんだよぉ!」
逃げ場のない池のほとりで、最悪のギャンブルが幕を開けた。
「梅雨、下がれ!」
俺は必死に前に飛び出し、ヴィランの行く手を阻むように立ち塞がった。
頼む、戦闘に使えるスタンドをくれ……! スタープラチナでも、マジシャンズ・レッドでも、何でもいいからアイツを吹き飛ばせるパワーを……!!
必死にスイッチを入れ、意識して力を外へと通す。
脳内にインプットされた新しい名前は――。
『アバッキオのやつ(ムーディー・ブルース)』。
(……過去の出来事を再生する能力! 戦闘力は、ほぼ一般人並み!!)
デジタル時計のインジケーターを額に持った、紫色のスマートな人型スタンドが俺の背後に実体化する。意識して顕現させているため、梅雨ちゃんにも姿はハッキリと見えていた。
「幽ちゃん、新しいやつが出たけれど……なんだか戦いそうにないビジュアルね。ケロ」
梅雨ちゃんがそのスマートな体躯と、不穏な空気(非戦闘型)を瞬時に察して焦りの声をあげる。
ヴィランはゲラゲラと下品な笑い声を上げた。
「ハハハ! なんだその弱そうな時計のオモチャは! 死ねぇ!」
男が金属製のバールを振り上げ、俺の脳天めがけて猛然と突進してくる。
(パワーじゃ勝てない。ムーディー・ブルースの拳じゃ、バールはおろか、アイツのドロドロした流動体にすら効かない……! どうする!?)
冷や汗が背中を伝う。にわか知識の脳みそをフル回転させ、周囲の状況に目を凝らす。
さっき、アイツが雑木林から飛び出してきた時の光景がフラッシュバックした。
『ガシャーーーン!!!』と、凄まじい音を立てて崩れ落ちた、池のほとりの古い鉄柵と不法投棄された鉄パイプの山。アイツの個性の泥に押し潰され、猛烈な勢いで弾け飛んでいた。
(……これだ! ムーディー・ブルースの『リプレイ』は、人間だけじゃなく物でも再現できる!)
「梅雨! 五月ちゃんとちゃん太郎を連れて、あっちの木の後ろまで跳べ! 3秒だけ時間を稼いでくれ!」
「了解よ、ケロ!」
梅雨ちゃんは俺の意図を深く追求せず、驚異的な脚力で弟妹を小脇に抱え、横へと高く跳躍した。
ターゲットが急に動いたことで、ヴィランの突進が一瞬だけブレる。
「ガキども、チョロチョロと……!」
「狙うのはこっちだ、泥野郎! ムーディー・ブルース、巻き戻せ(リプレイ)ッ!!」
俺の命令と同時に、ムーディー・ブルースの額の数字が【2分前】まで高速で巻き戻る。
スタンドの姿が不気味に変形し――なんと、「2分前にこの場所で、ヴィランの泥によってへし折られ、猛烈な勢いで弾け飛んだ重い鉄柵と鉄パイプの群れ」そのものへと擬態した!
「な、なんだぁ!? オモチャが消え――」
「リプレイ開始(喰らいやがれ)!!」
ピピッ、とデジタル音が鳴り、再生が始まる。
ヴィランの目の前で、【2分前の『破壊的な運動エネルギー(速度と質量)』】が完全に再現された。
へし折れた鋭い鉄柵と、数十キロある鉄パイプの群れが、激しい金属音と共に「逆再生の弾丸」となって、突進してくるヴィランの顔面へと猛烈な速度で弾け飛んだのだ!
「ぶふぉあぁぁーーー品!?!?」
人間の力では到底防げない、2分前の「構造物が崩壊した衝撃」を至近距離でモロに浴び、ヴィランの泥の体が激しくえぐられ、吹き飛ばされる。流動体の体とはいえ、これほどの質量と速度の直撃を喰らえばひとたまりもない。男は悲鳴を上げて地面を転がった。
だが、男はまだ意識を保っていた。執念深く泥の体を波打たせ、立ち上がろうとする。
「クソガキがぁ……わけのわからねえ手品を……!」
「幽ちゃん、合わせるわ!」
上空から、鋭い声。
弟妹を安全圏に避難させ、すでに空中へと跳ね上がっていた梅雨ちゃんが、迎撃の体勢をとっていた。
ムーディー・ブルースのリプレイ時間はまだ残っている。
鉄パイプの豪雨を放ち終えたスタンドが、今度は【1分前、俺のザ・フール(砂の怪物)が池の砂を巻き上げて作った『蛙の砂像』】へと高速で巻き戻り、ヴィランのすぐ足元で再生された。
ザ・フールが作ったのは、強固に固められた砂の塊だ。それがヴィランの足元に急に「実体化」する。
「なっ、足元に砂の塊が――!?」
立ち上がろうとしたヴィランは、突如出現した砂の障害物に足を取られ、派手にバランスを崩して前のめりに転倒した。
そこへ、自由落下する梅雨ちゃんの影が重なる。
「ケロ――ッ!!」
蛙特有の強靭な脚力に、落下の加速を乗せた、渾身のドロップキック。
完全に無防備になっていたヴィランの胸元へ、梅雨ちゃんの足裏が完璧にクリーンヒットした。
ドガァン!!!
重い衝撃音が響き、ヴィランは池の浅瀬へと叩きつけられた。今度こそ泥の形態を維持できずに人間の姿へと戻り、白目を剥いて完全に気絶した。
「ハァ、ハァ、ハァ……!」
俺の息が荒くなる。ムーディー・ブルースの5分が終了し、光の粒子となって消えていった。
「……幽ちゃん、お見事ね」
着地した梅雨ちゃんが、乱れた髪を払いながらこちらに歩いてくる。その瞳には、恐怖ではなく、俺の奇妙なスタンド能力への深い感心の色が浮かんでいた。
「あの紫色の人が、急に鉄パイプや砂の塊に変身した時は驚いたわ。幽ちゃんの個性、戦闘力がないように見えて、使い方がすっごくトリッキーで頭脳派
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分からないスタンドも多いので、これを機に新しくスタンドを知りたいと思っています