アストレアファミリアの一部メンバーに激重感情を向ける輝夜の弟 作:なかりょた
僕には才能がない。
極東の名門ゴジョウノ家に生まれた男児として、生まれた瞬間から期待されていた。優れた剣士になることを、疑いもなく求められていた。
だが、何度でも言おう。僕には才能がなかった。
ゴジョウノ家に伝わる数多の抜刀術。その中の一つすら、まともに扱えなかった。
正確には、一つの型の、さらにその一部だけ。
それでもまだよかったのかもしれない。一つを極める道はあったはずだ。
だが、それすらも許されなかった。
ゴジョウノ・輝夜。
僕の血の繋がった一つ上の姉。
ゴジョウノ家の剣術すべてを修めた、家の最高傑作。
姉がそこにいるだけで、僕の価値は削れていった。
僕にないものをすべて姉が持っていた。
僕に剣の才能がないと分かった日から、家の空気は変わった。
以前の生活が夢だったのではないかと思うほど、僕への関心は消えた。
与えられたのは最低限の寝床と食事。剣の指導も、政治の教育も、いつの間にか途絶えていた。
両親の視線は、すべて姉に向かっていた。
僕はもう、家族の一員ではないのかもしれない。
そう思った瞬間すらあった。
それでも——
いや、それでもではない。ただ習慣として、僕は今日も目を覚ます。
あの頃の夢を見る。
まだ“期待されていた頃”の、自分が中心にいたはずの記憶。
もう戻らないと分かっているのに、何度でも。
僕の朝は早い。
日が昇るのと同時に起き、羽釜に薪をくべる。
ゴジョウノ家にも女中はいる。だが今は政争の最中で、信用できる者は限られている。
当然、その限られた人員が僕のために動くことはない。
離れに届くのは、漬物と汁物だけの最低限の食事。
生かすためだけの食事だ。
——死なせる理由もないし、期待する理由もない。
そういう扱い。
僕はそれを、何も感じないふりをして飲み込む。
食事を終えると、あとは自由時間。
と言っても、完全な自由じゃない。
父上から“仕事”を振られることもあるし、監視の視線が消えることはない。
離れの庭に出て、刀を抜く。
僕が扱えるのは、ただ一つの居合だけ。
それ以外は何もできない。
だから今日も同じことを繰り返す。
抜刀。納刀。抜刀。納刀。
意味のない反復だと分かっているのに、やめられない。
これをやめた瞬間、本当に“何もない人間”になってしまう気がするから。
気づけば太陽は真上に来ていた。
喉が渇いて、縁側の水に手を伸ばす。
その瞬間だった。
視線を感じる。
「……なんの用だよ、姉さん。僕と違って忙しいんだからここにいたら怒られるよ?」
塀の上。そこにいるのはゴジョウノ・輝夜。
「座学なんて聞いてなくても分かる。それより弟の鍛錬を見ていた方が、百倍面白い」
軽く言いながら、姉さんは塀から飛び降りた。
「一戦どう? 弟の面倒を見るのも姉の役目だろう? 手加減はするから」
「やめてくれ」
自分でも驚くほど、声が乾いていた。
「本気じゃない立ち合いなんて意味がない。姉さんも分かってるだろ。俺が使えるのは“一閃”だけだ。姉さんみたいに何もかもは使えない」
言ってから、喉の奥が少し痛くなる。
「姉さんとやったって勝てるわけがない。僕に使うだけ時間の無駄だ」
一瞬、空気が止まる。
「……そう」
その一言だけ残して、姉さんは本邸の方へ歩き出した。
背中が遠ざかる。
別に嫌いなわけじゃない。
むしろ、一人の剣士として尊敬している。
憧れている。
だからこそ苦しい。
——姉さんには、弟としてじゃなく、剣士として見てほしい。
そんな願いが、ずっと喉の奥に引っかかっている。
でもそれを口にすれば、すべてが壊れる気がする。
姉さんの優しさが、ただの同情だったと確定してしまう気がする。
だから言えない。
言えないまま、また抜刀の動作に戻る。
一閃だけが、僕の存在証明だ。
それ以外の僕は、最初からいなかったのかもしれない。
主人公は幼少期から姉と比べられてかなりこじらせてます。