元アストレアファミリアの拗らせ末っ子のクソデカ感情   作:なかりょた

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昨日はパソコンが旅立ったので投稿どころじゃありませんでした(´;ω;`)


ロクジョウノ家

 僕が姉さんを“輝夜様”と呼んだ日から、二週間が経った。

 

 その間、何かが大きく変わったわけじゃない。

 

 姉さんは相変わらず離れに来るし、僕は相変わらず“失敗作”のままだ。

 

 ただ、一つだけ変わったことがあるとすれば。

 

 姉さんが僕を見る時、ほんの少しだけ困ったような顔をするようになったことくらいだ

 

 ……まあ、それもすぐ慣れるだろう。

 

 僕の方はもう慣れ始めている。

 

 「姉弟」じゃなく、「ゴジョウノ家の最高傑作」と「失敗作」。

 

 その距離感に。

 

 今日は療養期間の最終日だった。

 

 脇腹の傷も、まだ完全ではないが日常生活に支障はない程度には塞がっている。

 

 明日からまた仕事だろう。

 

 暗殺か、潜入か、あるいは誰かの後始末か。

 

 どれでも大差ない。

 

 離れの縁側に座り、ぼんやり庭を眺める。

 

 療養中は素振りも禁止されていた。

 

 傷口が開くから、という理由だったけど、僕から刀を取り上げると本当にやることがない。

 

 ……いや、正確には違うか。

 

 刀を振っていないと、自分が空っぽだと実感してしまう。

 

 だから嫌なんだ。

 

 そんなことを考えていると、襖が静かに開いた。

 

 入ってきたのは本邸付きの女中だった。

 

 普段、離れに来ることはほとんどない。

 

 「蒼真様、深夜様と当主様がお呼びです。屋敷までご案内いたします」

 

 淡々とした声。

 

 必要以上の感情はない。

 

 僕は小さく息を吐き、立ち上がった。

 

 「……分かった」

 

 さっそく仕事か。

 

 でも今回は深夜さんもいる。

 

 実利派筆頭と父上が揃って呼び出すってことは、ゴジョウノ家全体に関わる話なのかもしれない。

 

 女中の後ろを歩きながら、本邸へ向かう。

 

 離れから本邸へ続く廊下は長い。

 

 昔はこの廊下を走って、姉さんと怒られたりしたっけ。

 

 ……そんなことを思い出した自分に少し驚く。

 

 まだ覚えてたんだな。

 

 本邸へ入ると、空気が変わる。

 

 使用人たちの動きは静かで、視線だけがこちらを向いては逸れていく。

 

 期待でも軽蔑でもない。

 

 “扱いに困るもの”を見る目。

 

 もう慣れた。

 

 案内された部屋に入ると、父上と深夜さんは既に座っていた。

 

 父上は相変わらず感情の薄い顔をしている。

 

 一方、深夜さんは柔らかな笑みを浮かべていた。

 

 その笑みの裏に何かを隠しているのも、いつものことだ。

 

 「お久しぶりです、父上」

 

 頭を下げる。

 

 父上は短く頷いた。

 

 「……ああ」

 

 それだけ。

 

 相変わらず必要最低限しか話さない。

 

 すると深夜さんが扇子を揺らしながら笑った。

 

 「そんなに緊張しなくてもいいですよ、蒼真君。今日は別に叱責ではありません」

 

 ……その言い方をされると逆に怖い。

 

 僕が黙っていると、深夜さんはそのまま本題に入った。

 

 「蒼真君には、しばらくロクジョウノ家で生活してもらいます」

 

 「……は?」

 

 思わず聞き返した。

 

 ロクジョウノ家。

 

 九王家の一つ。

 

 どの派閥にも完全には属さず、独自に政治を操る改革派。

 

 最近、勢力を急速に伸ばしている家でもある。

 

 「今回の騒動で、向こうから同盟の打診が来ましてね」

 

 深夜さんは楽しそうに言う。

 

 「その条件として、“互いの信頼を示す証”が必要になったわけです」

 

 「……つまり人質ですか」

 

 「ええ、まあ簡単に言えば」

 

 深夜さんは悪びれもせず頷いた。

 

 「でも、僕が行く意味ありますか?」

 

 率直な疑問だった。

 

 「姉さんの方が価値はあるでしょう」

 

 一瞬だけ、部屋の空気が止まる。

 

 父上の視線がわずかに鋭くなった。

 

 失言だったかもしれない。

 

 けれど深夜さんは笑みを崩さない。

 

 「確かに“価値”だけで言えばそうですね」

 

 扇子がぱちりと閉じる。

 

 「ですが輝夜様は理想派の象徴です。今動かすわけにはいかない」

 

 「それに、ロクジョウノ家の領地は都から離れている。蒼真君の評判を詳しく知る者も少ない」

 

 「向こうにとって重要なのは、“ゴジョウノ家の血筋”であることですよ」

 

 ……なるほど。

 

 僕自身じゃない。

 

 “ゴジョウノ家の人間”という看板が必要なだけか。

 

 それなら納得だ。

 

 「出発は三日後です。期間も一年ほどを想定しているのでその気でいてください。」

 

 父上が淡々と言った。

 

 「余計なことはするな。お前はゴジョウノ家の人間として扱われる」

 

 「……はい」

 

 返事をしながら、小さく違和感を覚える。

 

 今さら“ゴジョウノ家の人間”なんて言葉を向けられるとは思っていなかった。

 

 

 

 三日後。

 

 僕は護衛数人と共に、ロクジョウノ領へ向かっていた。

 

 都を離れるにつれて景色が変わっていく。

 

 白い屋敷群は減り、代わりに山と川が増えていった。

 

 空気も静かだ。

 

 政治の匂いが薄い。

 

 そのことに、少しだけ驚く。

 

 数日後。

 

 ようやくロクジョウノ領へ到着した。

 

 最初に感じたのは、“広さ”だった。

 

 都のような密集した豪華さじゃない。

 

 土地そのものに余裕がある。

 

 屋敷も開放的で、どこか軍事拠点みたいだった。

 

 案内された客間で待っていると、襖が開く。

 

 入ってきたのは三十代くらいの男だった。

 

 細身で、穏やかな笑みを浮かべている。

 

 でも目だけは妙に鋭い。

 

 「ようこそ、蒼真君」

 

 男は柔らかく笑った。

 

 「私はロクジョウノ・清隆。この家を預かっている」

 

 「……ゴジョウノ・蒼真です」

 

 頭を下げる。

 

 すると清隆は面白そうに目を細めた。

 

 「そんなに警戒しなくていい。ゴジョウノ家が裏切らなければ君には何もしないよ」

 

 「まあ、私としてはこんな子供にひどいことをしたくはないのさ。好きに過ごすといい」

 

 そう言ってから、ふと思い出したように続ける。

 

 「そうだ。ちょうどいい。紹介しておこうか」

 

 清隆が廊下の方へ視線を向ける。

 

 「入りなさい」

 

 襖が少しだけ開く。

 

 そこから、小さな金色が覗いた。

 

 ……子供?

 

 おずおずと入ってきたのは、三、四歳くらいの女の子だった。

 

 長い金髪。

 

 白い肌。

 

 不安そうな赤い瞳。

 

 高そうな着物を着ているのに、本人は縮こまっていて全然似合っていない。

 

 少女は僕を見るなり、ぴくりと肩を震わせた。

 

 「この子はサンジョウノ・春姫ちゃん」

 

 清隆が穏やかに紹介する。

 

 「事情があって、今はロクジョウノ家で保護している」

 

 サンジョウノ。

 

 その名字に少しだけ引っかかった。サンジョウノ家はゴジョウノ家と同じ王家で本流は 途絶えて、今はその領地で一番地位の高かった狐人の一族が受け継いでいるはずだ。

 

 確か、中立よりだった家だ。

 

 狐人を政治に利用されないように保護しているのか?

 

 「そして今日から、君の役目の一つだ」

 

 清隆はさらりと言った。

 

 「春姫ちゃんの護衛をしてもらう」

 

 「……護衛?」

 

 思わず聞き返す。

 

 僕が?

 

 こんな小さい子の?

 

 春姫は僕を見上げる。

 

 狐人特有の短いしっぽがゆらゆらと揺れている

 

 「……よろしく、おねがいします。そうまさま」

 

 小さな声だった。

 

 消えそうなくらい弱い声。

 

 でも、自分を失敗作でも、輝夜の弟でもなく、ただの蒼真として呼んでくれたその声は     これまでの人生で聞いたどんな声より美しく聞こえた




感想、評価お待ちしております。プロットはばっちり出来上がってるので失踪しないように頑張ります!!
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