リアルで美少女受肉した親友がVtuberを始めるようです   作:畑渚

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*注意事項
・この小説はフィクションです。実在の団体、人物、地名等がそのまま、もしくは意図して似せて描写されることがありますが、一切関係ありません。
・小説の構成上、Vtuberの中の人要素・現実での話が出てきます。そういったものが苦手な方は、早めにブラウザバックをすることをオススメします。
・一部、流血や自傷を想起させる不穏な描写を含みます。ご注意ください。


俺がなんとかする

「なぁおねがいだよ、もうお前だけが頼りなんだ!」

 

 深夜2時、俺の電話でそんな震えた声が鳴り響く。

 

「聞いてるか?おい、もしもし?」

 

 迷惑極まりない電話の主は、とても不安そうな声で、そう言う。

 

「……すんません、深夜2時はさすがに迷惑っす」

 

「なんで他人行儀なんだよ!俺とお前の仲だろ」

 

「あー、えっと……」

 

 俺はなんて言おうか迷ったが、仕方がなく直球ど真ん中に返すことにした。

 

「俺に君みたいな声の友人はいません」

 

「だから!言ってるだろ!」

 

 そう。第一声からこの迷惑電話の主は俺に訴え続けているのだ。

 

「俺だよ、光(こう)だよ!なんか突然女の子になったんだって!」

 

「……光の関係者なら言っといてくれ。イタズラも時間を考えろって」

 

「ち、ちがっ!イタズラなんかじゃねえ!」

 

 やむを得まい。

 俺は電話の切断ボタンに手をかける。

 

「頼む切らないでくれ!」

 

 最後にそう聞こえた気がしたが、無視して切断した。

 俺の安眠を邪魔した罪は重いぞ、明日大学で会ったら覚悟しとけよ。

 

 

 しかし次の日、大事な講義の時間になっても光は現れなかった。

 

 

<=>

 

 

 ピンポーンと虚しい音が、廊下に響く。

 もうすでに10回目に差し掛かろうとしていた。

 

「うーん、出かけてるのか?」

 

 光の部屋の前で、俺は立ち往生していた。

 今日の講義の資料を届けに来てやったというのに居ないとはなんてやつだ。

 

 俺は念のためと思ってドアノブに手をかける。光のやつは不用心だから、家にいるときは大抵鍵を開けっぱなしにして……

 

 一旦思考が止まってしまった。扉に鍵がかかってないことに気づいてしまったからだ。

 そして中からは水の流れる音が聞こえる。

 

「なんだシャワーかよ。焦らせやがって。おーい、入るぞ〜」

 

 遠慮なく光の部屋にお邪魔する。普段からやってることだ。特に忌避感とかはなかった。

 

 ジャーと水の流れる音だけが静かに部屋に響いている。

 

「おい、光?おーい」

 

 風呂場の扉を軽く叩いてみる。

 しかし返事はなかった。

 

 水が流れる音だけが虚しく響く。

 

「おーい、なぁ大丈夫か?」

 

 これほどまでに返事がないとさすがの俺も心配になってきていた。まさか風呂場で倒れていたりしないだろうか。

 

 ゴクリと喉が鳴った。

 

「おい、開けるぞ」

 

 どうせ男同士だ。見られたとて気にしないだろう。

 

 ガシャー

 

 風呂場の扉を開けた。

 

 そこに光の姿はなく――

 

 

――かわりにダボダボのTシャツ1枚の少女の姿があった。

 

「……っ!」

 

 それだけならまだ良かった。問題は、その状況だった。

 

 出しっぱなしのシャワー、床一面を染める赤色、無造作に落ちている包丁。

 

「救急車っ!」

 

 緊急事態だと脳が認識した瞬間、俺の脳内を義務教育で叩き込まれた通報と応急手当が駆け巡った。ありがとう義務教育。

 

「救急です!出血多量、住所は――」

 

 流石の日本である。数分もせずして現れた救急隊員に受け渡し、俺も付き添いで人生初の救急車乗車をキメたのだった。

 

 

<=>

 

 

「……?ここは」

 

「目が覚めたか」

 

「仁!?それにここは……病院?」

 

「ああ、正解だよ」

 

 起き上がった少女に、俺は吐き捨てるようにそう答えた。

 俺の名前を正確に言えるくらいには意識もはっきりしているようだ。

 

「光の部屋で何してやがる。それに光はどこいった?」

 

「それは……」

 

 少女は俯く。答えがない訳では無いが言い淀んでいる。そんな風に感じた。

 

「なぁ」

 

 俺は声を絞り出す。そうであってほしくないと願っていた。だから否定してほしい。そう願いながら言った。

 

「お前……光なのか?」

 

 少女の顔がぱっと明るくなる。

 その反応はすなわち、肯定ということだ。

 

「仁、わかってくれるか」

 

「わかってたまるかよ……なんだよ、女の子になったってどういうことだよ」

 

「俺にもわからない……夜中に突然身体が痛くなって、気がついたらこの身体に」

 

 医学を専攻しているわけじゃないが、それでもそれがあり得ない現象なことくらいはわかる。

 俺は頭を手で支えながら、詰問を続ける。

 

「普段通りに生活していて、突然?」

 

「ああそうだ。変なもんを食べたとかでもねぇ」

 

「そんな食い物があったら大歓喜する層がいるだろうよ」

 

 性別を変えたがってる人が並んでパレードする世界だ。多少の傷みなんぞ大歓迎だろう。

 

「そんなことは置いといて、ほんとに光で良いんだな?」

 

「ああ、信じてくれ」

 

 じっとこちらを見つめてくる、光を名乗る人物。

 肩甲骨まで伸びた栗色の艶髪。異質なまでに整った顔のパーツ。女性らしい華奢で丸みを帯びた身体。いわゆる美少女と言われる部類に違いない。

 

「はぁ」

 

 信じられないが、その後も何度か質問をするたび、俺と光しか知らない情報がぽんぽんと出てきて、俺はこいつを光だと断定せざるを得ない状況に追い込まれていくのであった。

 

「な、なぁ仁」

 

「どうした」

 

「えっとな?これもしかしなくても入院ってやつだろ?」

 

「そうだな」

 

「えっと……その、お金とかって」

 

 盲点だった。数万円ならまだしも、保険証が機能しないこいつは今十割負担だ。普段の生活費すら切り詰めてる光に、2桁万円をパッと払える能力はない。

 もちろん俺にだってそんな能力あるわけがない。

 

「……親に頼るってのはどうなんだ」

 

「詐欺と間違えられて電話切られたよ」

 

「だよなぁ……」

 

 そりゃ詐欺かイタズラだと思うよ、突然息子の電話から女の子の声がしたら。

 

「分かった」

 

 俺は椅子から立ち上がってスマホを手に取る。

 

「俺がなんとかする」

 

「仁……」

 

 唯一無二の親友が困っているんだ。助けないという選択肢は初めからなかった。

 

 それに……

 

 俺は光の、包帯を巻かれた左腕を見る。

 

 今ここで俺が見捨ててしまえば、この少女が次に何をしでかすか分かったもんじゃない。その変な責任感が、俺を揺り動かしていた。

 

 

<=>

 

 

「なあ父さん。保険証も金もないまま友達が入院したんだけど、助けてやれないかな」

 

「なんだそれ、わけがわからん」

 

 頼みの綱は、スパッと一方的に切り捨ててきた。まあ当たり前か。忙しいのに電話を取ってくれただけマシだ。

 

「実は俺にもわかんないんだよね。でも困ってる親友がいることは本当」

 

「……どこの病院だ」

 

「〇〇ってとこ」

 

「院長に掛け合ってみる。だがあまり期待するなよ」

 

「うん、ありがとう」

 

 電話はそれで切れてしまった。しかし父さんが動いてくれるといったのだから、信頼するしかない。

 

「というわけで一旦待ちだよ、光」

 

「ありがとう……本当にありがとう」

 

 俺の服の裾を掴む手は、男だった頃のゴツゴツした骨ばったものではなく、しなやかに曲線を描く女の子のものだ。

 

 俺は保護者のように付き添い、その後の医者の診察にも同行した。

 医者からは腕の治療についての説明と、そしてメンタルヘルスの紹介を受けた。腕については俺の応急処置のおかげで止血が早くなり命が助かったこと。そしてメンタルヘルスについては性自認の話をさっくりと。

 

 世間から見れば、今の光は男と自称する女の子にしか見えない。俺ですら未だに疑っているのだ。世間がそうやすやすと、性転換したなんて認めるはずがなかった。

 

「……光」

 

「なんだよ」

 

「その手……服引っ張るな」

 

「えっ……あ、ごめん」

 

 動きにくかったので離してもらう。しかし……重傷だな。

 

 素人目にみても、今の光は危なすぎた。

 

「なぁ、これからどうするんだ」

 

 俺は無意識にそう聞いてしまった。

 

「どうって……どうするんだろう」

 

 少女は俯いてしまう。

 

「大学はいけないし、バイトもクビかなぁ……」

 

「大学はバレないんじゃないか?誰も顔と名前なんて確認しないだろうし」

 

「でも、バレた時が大問題だろ。警察なんか呼ばれたら最後だよ」

 

「確かに警察沙汰はマズイな……」

 

 身分を証明できるものが何もないとなると、捕まったらしばらく出られなさそうだ。

 

「なあ、どうしよう、仁」

 

 少女の姿で、光は俺にすがりつく。

 今の光が頼れるのは、唯一性転換を信じた俺だけだ。

 

「……わかった。しばらく俺がなんとかする」

 

「なんとかって」

 

「なんとかだ!だから早く退院して、家に帰ろう」

 

 とにかくそう元気づけることしか言えなかった。

 たとえそれが、空元気だとしても。

 




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