リアルで美少女受肉した親友がVtuberを始めるようです 作:畑渚
光の言う炎上は、ちょっとしたボヤ騒ぎだった。
発端は呟きサイトでのアカウント切り替えミス。
プライベートアカウントで好きな曲を呟こうとしたところ、アカウントが配信用になっていたことを気づかずに投稿。
結果、たまたま虫の居所が悪かったファンに絡まれ炎上。
いや、確かにアカウントミスは重大なインシデントだが、べつに光は今回悪くはねえな。
そのバンドは最近のライブで騒音騒ぎを起こしており、熱心なファンと近隣住民をかばう謎のアカウントたちとの間で相当なやりとりが行われていたらしい。
そんなことをしらなかった光が曲について言及したところ、その曲は今回の件のアンチテーゼになっており、それがファンへの糾弾に見えたとのことである。
いや、光悪くねえな。
HIKARIのアカウントが今回のような騒動で燃やされるというのは、ある意味でいえば、HIKARIへの注目が集まり始めていることを意味している。
無敵の思考をもつのならば、それは喜ばしいことである。あくまで無敵なのであればだが。
「とりあえず、今回に関しては静観しよう」
「だけど仁、あいつら配信まで荒らしてやるって言ってんだぜ」
「たかがマイナーな音楽ファンのやることだろ?」
「あまりマイナーマイナーいうな、いずれメジャーになるんだあのバンドは」
「……すまん。まあそれは置いといて」
俺は光の肩をポンとたたく
「耐えろ、光」
「マジで?」
「ああいう連中と拳を交えようとするだけ無駄だ。むしろ殴ってきても何も気にしない強靭さを見せつけるほうが、相手が怖気づいて良い」
「ま、まぁそうだけどよ」
「なんだ、不安や愚痴は俺が聞く。それだけじゃ不満か?」
「……わかった」
「なに、ちょっとしたご褒美も考えてるから、今日も変わらず配信しろ」
「ご褒美!?」
途端に顔を輝かせる光。まったく現金なやつだ。尻尾がついてたら全力で振りだしてたんじゃないか?
「まあたまには外食でもと思ってな」
「外食かぁ」
光は少し嫌そうだ。まあどうしても今の光だと注目を集めてしまうし、俺のおさがりくらいしか着るものもないからな。
「飲み放題焼肉、どうだ」
「んぐぐ……」
「完全個室」
「のった!」
現金な奴で助かるよ、ほんとに。
<=>
「うっめ~!」
約束通り焼肉につれていったら、この表情である。
アニメでいうメシの顔ってやつかな。満足そうで何よりである。
「ほら仁も食えよ」
「いや今回はお前のお祝いだし」
「お祝い?」
「え」
「えっ?」
まさかこいつ、気づいてなかったのか?本気で俺が、なぐさめのためだけに焼肉をおごるような聖人に見えていたのか?
「収益化だよ。条件達成しただろ」
「収益……化?」
「嘘だろ光……」
思わず頭を抱えそうになる。
こいつ、まさか暇つぶしのためだけにここまで配信続けてきたのか?それはそれで逸材っちゃ逸材なんだが……。
「登録者数と動画再生時間。この両方が基準を超えたら、広告収入として収益が入るようになる。ほんとに知らなかったのか?」
「あはは、細かい文字は苦手で」
「まじかよ」
「それに……」
光はコーラの入ったグラスを傾けながら、なんでもなさそうにそう言った。
「仁の言うことなんだから、やってて損はないだろって」
「んぐっ」
どこから来るんだよその信頼は。確かに嘘偽りを光に吹き込む気は過去含めさらさらなかったが、もし俺が光を良いように使おうとしている悪人だったら、今頃みぐるみ全部はがされてるぞ。
「喉に詰まったか?大丈夫か?」
「ごほごほ……っ大丈夫」
むせながらもなんとか復帰。俺はジンジャーハイを一気飲みして、追加を注文した。
「ところで光、お前はいいのかソフトドリンクで」
「ん?ああ、なんか怖くって」
「怖い?」
「ほら、体が変わった影響でさ。なんか酒に弱くなってたりしてたら怖いなって」
「んなもん飲んでみないとわかるもんもわかんないだろ」
「んーまあそれもそうかぁ」
光はそういってタブレット端末から梅酒のソーダ割りを注文した。
「せっかくのお祝いなんだからじゃんじゃん飲もうぜ!」
「ああ、そうだな」
そこからは酒も入り、そして生来の食いっ気も相まって、楽しい二人飲み会が開催された。
こうして光と飲むのもそういえば久しぶり。光が性転換してからは初めてだった。
だからだろうか、ちょっと込み入った話もすらすらと出てきてしまった。
「実際どうなんだ、女の体って」
「なんだよいきなりぃ」
「だって嫌でもトイレとか風呂で実感することになるだろ?」
「自分っていう情報が入るだけで全然興奮しにゃいね」
「服とか買ってさ、着てみてもなんだかんだ楽しいんじゃねえの」
「なんだよ仁、女の子の恰好でみたいならみたいっていぇよ~」
「べべべ、べつに見たいとか言ってねえし?」
「しかたぬぁいやつだなほんとぉ」
「じゃあ一回だけ、一回だけ見てみたい!」
「じゃあ買って帰りょうぜぇ」
「こんな時間で開いてる店なんかねえよ!」
「ド〇キなら開いてるんじゃね!?」
「がははっ!光お前てんっさい!」
そうして夜は更けていったのだった。
<=>
「んぁ……」
頭がガンガン痛む。体が重い。
朧げな記憶を頼りに、昨日の出来事を思い出す。
確か焼肉のあと、酔っ払いのまんまド〇キに走って、適当な酒と服だの雑貨だのを勢いで買いまくって……帰って宅のみが始まって、買ってきた服に着替えた光を見て……見て……見て……
体の重みがすっと減る。
「んぁ。あれ、床で寝てたのか?」
重みが、すっと立ち上がって、俺にまたがる形で立ち上がった。
ド〇キで、ノリと勢いだけで買ってしまった、セパレートタイプのミニスカメイド服。
ヘッドドレスまでしっかりつけた光が、俺を見下ろしていた。
「こ、光なんて恰好して」
「ん、恰好……」
胸に手を当て、露出した腹を手で隠し、膝をくの字に曲げて下半身を隠そうとし、
「何見てんだよ!」
俺の頬に蹴りがさく裂した。
その時の俺の脳内は……
服自体は乱れてないしセーフだよな……?
なんて馬鹿な事を考えていた。
<=>
「まったく仁のばか……」
まだ頬を赤くしている光は、ぶかぶかのパーカーを着なおして、俺のことを罵倒してくる。
「いや、俺は止めたぞ?」
「馬鹿なもんはバカだ!」
実際のところ、俺はド〇キでその服を手に取った光を止めた。しかし俺の反応を察してか、光はうきうきでかごの奥底にそれをねじ込んだのだった。着たときはどうだったかは記憶をさかのぼってもないためよほどお互い泥酔していたようだったが。
「初めて履くスカートがミニスカとかありえねえだろ……」
「ま、まあ気にするな。まだ傷は浅い」
「浅かねぇよ!」
さっきからずっとこんな感じだ。まあでも本当に何事もなくて良かった。
もし一夜の過ちを犯してしまっていたら、光の心は完全に壊れてしまうだろうから。
「……で、どうだった」
「ん?」
「ど、どうだったって聞いてんだよ」
「どうって」
「俺のメイド服姿どうだったか聞いてんだよ!」
「……まあ普通じゃないか」
「は?」
「友人のメイド服姿で興奮するような奴じゃねえよ」
「仁、お前……」
「だいたいそういうの光が嫌がってるのだってわかってるし」
「仁……」
そうだよ。俺はこうみえてまともで友人思いで情に厚い男なんだ。光がメイド服着てようと何を着てようと、そんなんで発情するようなサルとは違うっての。
ま、まあ確かに光は今見たくれ美少女だし、ボディラインも綺麗な女性の形をしているが、あくまで俺たちは親友。友達であって、そういう相手に見ることなんてできない。
「仁……、なぁ仁!」
「なんだよ光」
光はにっこり笑って、そして少し下を向いて、目元に影を落とす。
そして目を見開いて、言い放った。
「こっちの目ぇ見てからちゃんと言えや」
はい、私はサルです。