リアルで美少女受肉した親友がVtuberを始めるようです   作:畑渚

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俺の夢でもあるんだ

「あー典型的な過労ですね~」

 

 目の前の医者の診断に、俺と光はほっと一息つく。

 変な病気とかじゃなくて良かった。入院とかになると、光の面倒見てやれなくなっちまうからな。

 

「とりあえず一本打っていこうか」

 

「一本?」

 

「ああ、点滴だよ点滴。変な薬じゃないからね」

 

「は、はぁ」

 

 医者のメガネがキラリと光っていたが、まあこの現代日本の合法的医療機関で変な薬が盛られる心配なんてしなくていいだろう。

 

「ちくっとしますよー」

 

 点滴を刺された俺は、終わるまでベッドで待機する他なかった。

 

「……」

 

「あのな光」

 

 ベッドの傍らで、看護師に持ってきてもらった椅子にちょこんと座り込んでいる光は、こちらの様子が気が気でならない様子だった。

 

「そんな泣きそうな顔すんなよ」

 

「し、してねぇよ」

 

「ただの過労だって言われたろ。点滴して寝てりゃいつも通りだ」

 

「で、でも……」

 

「なんだよ」

 

「仁がそうなったのは、俺のせいで」

 

「おい待て。誰がお前のせいだなんて言った?」

 

「だってそうだろ!俺の活動を維持するためにお前はこうなってまで」

 

「はぁ。あのな」

 

 俺はため息まじりに言葉を返す。

 

「別に義務感だけでやってるつもりはねえよ」

 

「でもよぉ」

 

「でももなんもねえよ。それに」

 

 俺は空いてる右手を天井に突き上げて拳を握る。

 

「俺の夢でもあるんだ。光が伸びるってのは」

 

「仁……」

 

「俺ひとりじゃ成し遂げられなかった夢が、光と一緒になることで掴めそうな実感を得れている。これほどまでに俺が突き動かされているのは、その夢の実現を確かにするためなんだよ」

 

 だから……

 

「だからそう泣きそうになるな」

 

「仁……俺、俺は」

 

 目元を拭った光は、椅子から立ち上がった。

 

「そろそろ配信の準備しなきゃだわ、俺、先に帰るな」

 

「おう、帰れ帰れ」

 

「じゃあ、しっかり休んできて戻ってきてくれ、仁」

 

「そうさせてもらうよ」

 

 光が退出していったのを見て、俺はふぅと一息つく。

 

 まったく、勝手に倒れて演者を心配させて、プロデューサー失格だな俺は。

 

 ただ最近の忙しさは、確かに致死級だった。

 あくまで俺が1人の人間である以上、作業できる時間は限られている。

 

 どれだけ光をサポートしてあげたくとも、俺には腕が2本しかない。脳みそに至っては1個だけだ。

 

「そろそろ頃合いかもな……早すぎる気もするが」

 

 俺は、考えていた策を実行することにした。

 

 

<=>

 

 

「ただいま」

 

「仁!おかえり」

 

 結局あのあと考え事をしていた俺はいつの間にか病院で寝落ちしてしまい、帰るのが晩飯時になってしまっていた。

 光はいつものようにハートマークのついたエプロンをはためかせながら、台所で料理している。

 

 しばらくすれば、これまたいつも通り美味しそうなご飯が用意され、ローテーブルに並べられていく。

 

「いただきます」

 

「おう、じゃんじゃん食え!」

 

 今日は魚のみりん干し。甘くほわほわと柔らかい優しい味が、五臓六腑に染み渡る。

 

「なあ仁」

 

「どうした」

 

「俺、あれから考えたんだ」

 

「何をだ」

 

 カツンと音をたてて、光は皿の上に箸を置いた。

 

「大手のオーディション、受けようと思う」

 

 俺の食事の手も止まる。

 

「その意味、わかっているのか」

 

「ああ。俺は女として見られたっていい」

 

「じゃあどうしてここまで」

 

「だって!」

 

 俺の言葉を遮ってまで、光は強い意思を持って言葉を続けた。

 

「もう限界だろ、仁。お前の人生半分を俺に賭けなくたっていい」

 

 言いえて妙だが、実際俺は自分の人生の半分以上の時間を今の光に費やしていた。

 

「仁が倒れるくらいなら、俺が我慢したほうがマシだ」

 

「なるほどな」

 

「仁、だから……」

 

「だが、それで本当にいいと思ってんのか」

 

「なっ」

 

 俺はわざと、光にプレッシャーをかけるようなことを言う。

 

「俺達はすでに、収益化という目標にベットして勝ってるんだ。そして次の目標に対して、すでに洒落にならないくらいのベットをし終わっている。ここで勝負を降りるわけないだろ」

 

「でも仁、このままだとお前、また倒れるんだぞ!?」

 

「そこに関しては考えているさ」

 

 俺は帰り道にスマホで作成した、アンケートフォームを見せる。

 

「なんだ……『モデレーター募集のお知らせ』?」

 

「確かに俺1人じゃ限界がくることは薄々わかっていた。だから俺はこれから、俺の仕事だったものを他人に任せる。俺は真の意味でのプロデューサー。統括プロデューサーになろうと思っている」

 

「統括……?」

 

「まずは配信モデレーターだ。これは急務だ。日々の配信に響くからな。コメントをスルーするかバンするかをアンケート形式で答えてもらって、その中で俺達の温度感に近い人を選出する」

 

「それって、仁は配信を見なくなるってことか?」

 

「まったく見ないわけじゃない。ただ今までのように張り付いているわけではなくなる」

 

「変なこと言ったときに止めてくれると思って安心してたのに」

 

「そこは光、お前次第だ。これからも活動をし続けていくんだったら自分で見極めろ」

 

「急に手放しにするなよ」

 

「そう拗ねるな。あと、動画も俺は作るのをやめる」

 

「なっ、じゃあどうするんだよ」

 

「世の中には切り抜き師なる人物たちがいる」

 

 俺はすでにその数人に声をかけていた。

 フリーランスで、切り抜き素材を探していて、そして技術への飢えが見える上昇志向のやつらだ。

 

「多少金さえ払えば、そいつらは喜んで切り抜いてくれる。その中でもクオリティの良かったものは権利ごと買い取って公式チャンネルに上げる。そういう相手にとっての収益モデルを作り上げて餌にするのさ」

 

「でもそれって金がかかることだろ?収益化したとはいえ維持するのは難しいんじゃ」

 

「そこは俺のバイト代をつぎ込む」

 

「なっ!」

 

「2つの仕事がなくなって空いた時間で俺はもう一つバイトを始めてなんとかする」

 

「それじゃあ本末転倒じゃないか!?」

 

「本末は俺の睡眠時間の確保だ。そこをおろそかにするつもりはない。働く時間くらい自分で管理するさ。それに金回りもよくなる。上手く新しいバイトが見つかれば収支はトントンといったところだ」

 

「それでも自転車操業なんだな」

 

「光、お前がバズれば世界は変わるんだ」

 

「でも俺、最近数字も伸びなくなってきて」

 

「いや、絶対にまたどこかでバズる」

 

 俺は確信をもっていた。

 

 光の歌動画があがれば、そしてそのブーストでVtuber化を果たせば。

 

 HIKARIはまだ進化前だったのだと世間に知らしめるまたとないチャンスに違いなかった。

 

「とにかく、この方針で俺はバイトを探す。光、お前は歌と配信に集中しろ。絶対にクオリティを落とすな」

 

「……ああ、わかってる!」

 

 

<=>

 

 

「とは言ったんですけどねぇ」

 

「ふふふ、悩める若人って感じだね」

 

 翌日のカフェで、俺はアイスコーヒーを啜りながらそうボヤいていた。

 ボヤキを聞いてくれているのはココ先生だ。

 

 いや誤解だ。カフェに誘ってきたのはココ先生の方だ。

 ネタだしするのに付き合ってほしいからここに来い。でなければママの話を白紙にすると半ば脅してきたのはココ先生の方だ。

 

 しかし俺も自分の考えに行き詰まっていたため、良い機会だしと出かけたのが運の尽きだった。

 

「……今日は、いえ、今日もHIKARIは来てませんからね」

 

「そのようだね、残念だよ」

 

 タブレットにさっさっと線を描くココ先生。本人曰く、話しながらの方が作業が捗るとのこと。なんてマルチタスクしてるんだよとつっこみたくなる気持ちを抑えて、丁寧な会話を心がける。

 

「バイトかぁ。でも君、何かできたっけ」

 

「普通の一般学生ですよ。ココ先生のように絵がかけたりはしないです」

 

「うちならアシスタントはいつでも募集中だったんだけどね」

 

「残念です」

 

 ココ先生の元なら、事情を多少は汲んでくれそうなので良いバイト先になる可能性があったのだが、残念ながら俺に絵心はない。

 

「そうだな。普通の学生かぁ。普通の……普通の……?」

 

「どうしました、ココ先生」

 

「普通の学生だったんだよね?」

 

「ええ、嘘偽りなく」

 

「それが人1人プロデュースして、配信も動画も管理して」

 

「まぁそうですね」

 

「演者のフォローや外注、炎上対応まで……」

 

 ココ先生がすっと目を細める。会うのも二度目となれば何を考えているのか見当がつく。

 先生は今、頭の中で何かを計算している。

 

 しばらく静寂が支配した。

 冷房の効いた店内に、溶けた氷がカランと音を立てる。

 

 その静寂を切り裂いて、ココ先生はとんでもない提案をする。

 

「仁くん、僕のプロデューサーにならないかい?」

 

「は、はい?」

 

 俺はそんな突拍子もない提案に、腑抜けた返事しかできなかった。

 

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