リアルで美少女受肉した親友がVtuberを始めるようです 作:畑渚
「どうだい?君にとっては良い条件だと思うけどね」
身を乗り出してきたココ先生は、こちらの瞳を覗き込むようにじっと答えを待っていた。
「それは、そうですけど」
「だろう?じゃあ決まりだね」
「いや、待ってください」
「なんだい?」
俺は一番の疑問点を、何も隠さずに真っ直ぐ伝える。
これは俺なりのココ先生への誠意である。
「ココ先生側のメリットがないです」
「あー、それを言うかい」
指摘しなければ、楽して金ももらえてウハウハな関係を築けただろう。
しかし世の中は等価交換を基本原則とし、Win-Winな関係を目指すべきだ。
富を集中させるなという話ではない。ただ両者にとって良い関係でないと、長く続く縁にはならないということだ。
俺はココ先生という良縁を、逃すつもりはなかった。
「先生は今まで自分自身をプロデュースしてきたはずです。SNS運用や企業とのやり取りを吸収させてもらえるとなれば、明らかに俺の差し出せる対価が低すぎる」
「はぁ、たまに君の自己評価の低さに心配になるよ」
「謙虚さを忘れては、波に喰われますから」
「まあそれを踏まえたうえで改めて問おう」
びしりと指を差しながら、ココ先生は再び同じ言葉を言った。
「僕のプロデュースに興味はないかい?」
「変わらないじゃないですか」
「僕は一度決めたことは貫き通す女だよ」
「じゃあせめて俺を選ぶ理由を教えてください」
「そうだね、まず第一に、君は十分魅力的なプロデューサーだ。特にその目がいい」
「目ですか?」
「物事を俯瞰して、演者のパラメーターや市場情勢、その他諸々を含めて計算できるその目さ」
「俺は俺が思うがままに突き進んでるだけですよ」
「それが当たるのだから君はすごいんだよ」
「まぐれですけどね」
「運も実力のうちさ。それで2つ目。それは僕が今からやろうとしていることに人手が欲しいからだ」
「やろうとしていること?」
ココ先生は、俺が前のめりになったのを逃さず、肩に手を置いた。
「私もね、Vtuberになってみようと思うんだよ」
その後先生の口から語られたのは、想像を絶する規模の計画だった。
こんなことができるのは大企業の箱くらいだろう。
これを、個人で?そんなことが許されるのか?
「まあ、僕の貯金あってこそだろうけどね」
それを実現する力が、ココ先生にはある。そして莫大な需要も背中にしっかりと背負っている。
ここで日和ってしまえば、商売人失格とでも言わんばかりの好条件だ。
「もし、仮に俺が断ったら、その計画はどうなるんですか?」
「もちろんやるさ。君以外のプロデューサーを探してきてね」
「んぐぐ」
当たり前の回答だ。あくまで今近しい間柄だからこそ、誘ってくれたに過ぎず、本来は全てココ先生の力で成し遂げられるものだ。
「どうだい?まだ『やらない』なんて腑抜けた答えに付き合わないとダメかい?」
「……っ!」
ココ先生の瞳を見る。そこには、絶大なる力と自信、フォロワー30万という肯定感が光をもって宿っている。
しかしその瞳はわずかに揺れ動いていた。
そうだ。飄々としているようで、ココ先生は実直な計算家でもある。これだけ大規模のプロジェクトに不安がないわけがない。
そんなココ先生が、ただ仲良くしているからなんて理由だけで、こんなプロジェクトで俺に助けを求めるわけがない。
信用だ。俺はこんななりに、ココ先生に信用されているんだ。
じゃあそれに応えるのが、男ってもんだ。
「ココ先生」
「決まったかい?」
俺は手を差し伸べる。その意図を理解したココ先生は、喜んで俺と握手を交わした。
「っと」
「な、なんだい……案外力強いね君」
「ただもう一つ交渉したいんです、ココ先生」
握手した手を離さずに、言葉を紡ぐ。
「そちらの大船に乗るんだ。こちらの舟にも乗っていただかないとね」
その内容を細かに説明したあと、ココ先生はくつくつと笑った。
「まったく、これだから君は、僕の見込んだ面白い男だよ」
法的拘束力のない、ただの口約束だ。
だが、ココ先生との縁が切れない限り続く、魂の契約だった。
<=>
「というわけで、ココ先生のプロデューサーも兼任することになった」
「何やってんのお前!?」
さらりと打ち明けたら、光は目を飛び出んばかりに大きく見開いてそう叫んだ。
「お前俺のプロデューサーじゃなかったのかよ!」
ぐわんぐわんと肩を握って揺さぶる光をなんとか制止する。まあ混乱もわからんでもない。
「だが決まったことなんだ」
「やっぱ仁って年上のお姉さんが……」
「断じて違う」
「信用なんねぇ……」
うるせえ俺は女の子らしく華奢で、美人3割可愛い7割くらいの美少女のほうが好きだ。
閑話休題。
「とにかく、落ち着いて聞いてくれ。別にお前のプロデュースをやめる気もない」
「俺一人の時ですらアップアップしてるのに、二人もとなると手が物理的に足りないんじゃないか?」
そりゃ俺だってタコになれるなら成りたいさ。
「まず一つ。ココ先生のプロデュース開始はまだ先だ」
「そうなのか?」
「あの人もあの人で多忙なんだ。俺に会うまでは自身のVtuber化なんて机上の空論だった」
「まああの人気じゃな」
「だから3カ月待つことにした。仕事を落ち着けるために」
「なるほどね」
「他人事じゃないぞ。その3カ月の最後を飾る仕事こそが」
俺は光を指差す。
「お前のVtuber化だ」
「ま、待ってくれよ」
「金の話をしたいのか?」
「そうだ!まだクラファンが終わってないじゃないか」
「こればっかしは、終わらせる、と言うしかない」
「なっ!?」
ここに来てのノープラン宣言に、光は絶句する。
「ただ何もなしに終わらせられるとは思ってない」
俺は怪しい笑みを浮かべて、光の肩に手を置く。
「コラボ配信をしよう!」
あとは野となれ山となれ。
<=>
「はーいぴょんぴょ〜ん。うさぎの惑星から来た宇佐宇佐子だよぉ」
<うぉぉぉ!>
<うさぴょーん!>
<宇佐ちゃん愛してる〜!>
「おっと惑星間恋愛は条約により禁止だよ〜」
<ごめんよ〜>
<こらっ!ダメだぞ!>
<抜け駆けは許さぬ……>
「さぁ今日はうさぴょんトーーーーク!対談配信の日だよぉ!」
<どきどき>
<wktk>
<本日の犠牲者>
「本日の対談相手は〜〜!じゃん!HIKARIちゃんだよ〜!」
「あ、はい。オネガイシマス」
「HIKARIちゃん、ほら、自己紹介できる?」
「あ、んん゛。俺はHIKARI。Vtuberになるためにクラファン中。よろしく」
<俺っ娘!?>
<宇佐ちゃん浮気!?>
<緊張してるのかな>
「今日はHIKARIちゃんとたくさん盛り上がっちゃうぞ~~!」
「お、おぉ~~~!」
<=>
「げ」
「げ?」
配信を終えた光はげっそりとした顔で部屋から出てきた。
「劇物だった……」
「ほんとに知らずに了承したんだな」
このコラボを取り付けてきたのは紛れもなく俺だ。こうなる未来もまあ想定内っちゃ想定内だ。
「なんだあのマシンガンのような口は」
「全Vtuberが教科書にすべきトーク力だろ」
「てか視聴者もおかしいだろあんな質問」
うさぴょんトークというコーナーは、その八割くらいを視聴者からきた質問を返す形で進んでいく。
「ついてるんですかって質問来た時は何ていうのかヒヤヒヤしたよ」
「ヒヤヒヤしたのはこっちだよ!まあ宇佐さんが上手く誤魔化してくれたけど」
宇佐さんは演者のケアもできる口の上手いお姉さんなのである。
「もう二度とコラボしない?」
「いや、んん……その、そんなに悪くないが……」
おそらくこいつが見ていたのは、宇佐さんの視聴者数だろう。自分個人では集められない圧倒的な数が、画面の向こうからHIKARIを値踏みしていたのだから。
「しかし面白いことを考える人も居たもんだ」
Vtuberにとって怖いのが、配信の平坦化だ。
常に新鮮な視点を入れなければ、配信が腐っていってしまう。そしてそのままいつものメンバーのみの平坦な配信になるのが、なによりも怖い。
そこに宇佐さんは、インタビュー形式のコーナーを付け加えることで対処した初のケースである。
古き良き企画型の配信。しかし入ってくるのは新鮮味を持ったVtuberたち。
その化学反応を制御下に置いている宇佐さんは、唯一無二の強みを持っている。
「そして……」
この配信の影響が早くも出始めていた。
「仁!クラファンが」
「ああ、ようやく、数字が動き始めた」
俺達の頼みの綱が、好転し始めていた。