リアルで美少女受肉した親友がVtuberを始めるようです 作:畑渚
あの後光を問い詰めた結果、爻というのが光のサブアカウントであることが判明した。
俺が没にしたあの最初の曲を、供養として上げただけのほぼ捨てアカウント。それがあのアカウントの実態だ。
幸い爻名義があるのは動画サイトのみで、SNSやその他サイトには登録されてない。
「だって……没にするには良く出来すぎたから……」
光は気まずそうにしながらそう呟くように言った。
確かに光が作った初めての曲はクオリティが高く、俺がただ良し悪しだけを判断していたのならば、迷わずゴーサインを出していたくらいには良かった。
しかしHIKARIのブランディングを考えるに、こういった女の子らしい曲は、HIKARIのウリである男の内面というコンセプトに反するものになってしまう。
それが、俺が没にした主な理由だ。
「ごめん仁……もしかして俺、やっちゃったか?」
光もここまで再生数が周り、HIKARIの方のコメント欄に歌声で特定してくる人がでてくるなんて想定していなかったらしい。
しかし、こうなってしまうと、どこまでいってもHIKARIと爻の同一人物説は切っても切り離せない問題になってしまうだろう。
だったら、それを活かせばいいのではないか?
「光、作戦を変更する」
「変更?」
「もともとは一本の道の上で、変化を楽しむストーリー性を考えていた」
たとえば、ちょっとずつ女の子のような要素が増えていく。これも一つの変化だ。俺としてはこの路線で歌ってみたの世界観を作り上げようとしていた。
しかし、こうなってしまった以上、道を一本にするには難しい。
「そこでだ。ジャンルを変える」
「ジャンル?」
「楽しんでもらう内容を『一本道の変化』から『分離と融合』に変える」
「なんだ、難しい話だな」
「そう難しく考える必要はない。光はただ、女の子らしさのある曲と、男らしさのある曲の2パターンを撮ればいい」
「両極端ってことか?」
「最初はな」
そして公式的には、その2つについて何も言及しない。
ファンの間に上手く同一人物説を流して、光のもつ2面性を醸し出す道具にする。
「そしてある日、その2つの道が1つに交わる」
「それが融合ってことか」
「ああ。いままで2つの道だったはずが、1つに合流する。そこにストーリー性を持たせることで、視聴者にまるで何かを訴えかけるような世界観にする」
「仁……ごめん俺が勝手なことしたから」
「別に良い。むしろどんどんやってくれて構わない」
まあ、やる前に俺に一言欲しいが。
今回でこそ、方向転換できたが、もしこれがしばらく進んだ後のプロジェクトだったら、整合性が保てなかったかもしれない。
だが、今回は状況は好転したと言っても良い。
なにせその2面性が、HIKARIの活動をブーストする点火剤となって、クラウドファンディングにも良い影響を与えている。
今の時期に必要なのは、より多くの人の話題にあがることだ。それがマイナスな面でなければ尚更良い。
「さあ、あとひとふんばりだ。配信を始めよう」
「おう!」
今日の配信準備を始める光。
その背中を眺めながらスマホの画面に目を落とす。
クラウドファンディング完了まで、あと少し……。
<=>
「やっべ」
俺はスマホを開きながら、そうぼやいた。
「なにがヤバいんだ?」
「母親からだ」
メッセージアプリに届いた内容。それは、地元の一斉清掃の手伝いを兼ねて、帰ってこいという要請であった。
断りたい気持ちは山々だが、ほぼ親の金で生活させてもらっている今、拒否権は無いに等しかった。
「というわけで数日帰省するよ」
「え……」
そんな捨てられた子犬のような顔すんなよ。帰りづらいだろうが。
「……光。まさか着いてくるつもりだったわけじゃないよな」
「うぅ……お、俺も行きたい!」
「おいおい、じゃあ配信はどうすんだよ」
「毎日やってんだしたまには休んでも悪くないだろ!」
「あのなぁ……」
光を連れて帰らない理由は数しれず。その多くが、今の軌道に乗りつつある配信活動を絶やさないという目的のものだ。
伸び始めの今。やらなければいけないことは多い。日々の配信はもちろん、SNS運用や企画の準備、新しい歌ってみたの収録も取り掛かっていてほしい。
とにかくやることが多いのだ。
「でも……」
「でももなんでもだよ。それにな」
俺はそもそもの話をしなければいけないようだ。
「何の名目で俺に着いて来る気だよ」
「ぐ……、そ、それは……旅行とか」
「1人暮らししてる息子が、中身はどうであれ女の子の見た目のやつと帰ったら何と思われると思う」
「……っ!」
つまりはそういうことである。
母さんはべつにやかましい人ではないが、少なくとも今の光と会わせてしまえば、勘ぐることを止めないだろう。
父さんはあまり興味がないだろうけど。
「光、お前、俺の彼女扱いされて耐えられるのかよ」
「……」
光は顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。
そりゃそうなるだろうよ。自分が女であることすら受け入れられてないのに、恋人扱いを、しかも相手の両親に受けるとなると耐えられるはずがない。
「……る」
「ん?なんだ?」
「できるもん」
「……は?」
「彼女のふりできるもん」
「……おい、光」
「彼女でも何でもいいから!俺を連れてってくれよ!」
「おい、光!」
「1人に……しないでくれ……」
はぁ、また俺は……見誤ったようだ。
「わかった。わかったから落ち着け」
爪を立てようとする光の腕を掴んで、落ち着くようにそう言い聞かせる。
「一緒に行こう。な?」
「……」
コクリと頷く光。その姿はあまりにも、小さく見えてしまった。
<=>
帰省当日。
光は初めて、レディースの服に身を包んでいた。
「そりゃ人に会うんだから、ちゃんとした格好をしとかないとな」
ダボダボのメンズパーカー姿を、不審な姿だと認識する程度の脳はあったらしい。
レディースと言っても、パンツスタイルにTシャツと、活発なボーイッシュスタイルではある。自認と実態の平衡点がそこだったのだろう。さすがにまだ、フリフリの女の子な格好をする度胸はないようである。
ちなみに服の買い物からつきあわされた俺は、少しげっそりしながら新幹線を待っていた。
「俺新幹線なんて乗るの、高校の修学旅行以来だ!」
「どおりでテンション高いわけだ」
光の高い声が、疲れた脳に突き刺さる。
まあでも、元気なのは良いことだ。
「これも買ったしな」
いたずらそうに笑う光は、ビニール袋に入った弁当を目線の高さまで上げた。
「まったく、ガキかよ」
「若くて元気と言ってくれ!」
光はテンションが上がって周りを気にしていなかったようだが、そんなに声を上げていれば嫌でも視線を集める。しかもその声の主が絶世の美少女なら尚更だ。
俺はそんな視線の多さに居心地の悪さを感じながら、ホームに入ってきた新幹線を眺めていた。
「おい、仁」
「なんだよ、光」
「俺、窓側が良い」
「はいはい、どうぞお好きに」
親からの金で帰る俺と違って、光は自腹で着いてきている。
景色も眺めず寝る気な俺ではなく、好奇心の塊な光が窓側に座ったほうが、新幹線も本望だろう。新幹線に意識があればの話だが。
弁当に舌鼓を打ちながら少し経てば、すぐに景色は灰色から緑色に変化していく。
新幹線で1時間と少し。
それくらいの場所に、俺の実家はある。
「ん、もう着くのか」
「遠すぎなくていいだろ」
「移動時間も旅の醍醐味だと思うけどな」
「醍醐味かもしれないけど、本題でもないだろ」
「まあ、そりゃそうだけどさ」
そんなボヤキを聞きながら、新幹線から降りる。
緑の多い街特有の、澄んだ空気が俺達を出迎えてくれた。
「さ、家に向かおうか」
「おう!」
ガラガラとスーツケースを鳴らしながら、俺達は駅からまっすぐ続く道を進んでいくのだった。
この小説、まだVtuberになってないの……?