リアルで美少女受肉した親友がVtuberを始めるようです 作:畑渚
数日後、光は無事に退院した。
入院費用は一旦保留ということになった。どうやら父さん曰く、『金銭的にも余裕がない人用の制度』というものを無理やり適用させてもらったらしい。『目の前の患者を金なんかの理由で拒否するほど、日本の医療機関は終わっちゃいない』というのは父さんの言葉だ。
しかしあくまで、保留にすぎない。遠くない日に、支払う必要があるのは変わりがない。
「なあ、仁」
「なんだ?」
「一旦、お前の家に行っていいか?」
「……なんでだ?」
「それはその……」
光は言いづらそうにしている。まあでも、今の光に1人で住まわせるのも不安なのは確かだ。
「いいぞ。しばらく居たって良い。狭いけどな」
「そ、そうか、ありがとう!」
こう答えなければと思わされた。
実際、このおかげか濁りきっていた光の瞳に少し光が差し込んだのだから。
「ゲームでもなんでも好きにすればいいさ」
その時はほんの気晴らしのつもりでそう提案した。まさかそれが後に光に影響を与えるとも知らずに。
「そういや仁の家行くの久々だな」
「基本遊ぶのも光の家だったもんな、誰かが動くのをダルがったせいで」
「お前んち大学から遠くてダルいんだよ」
軽口を言えるくらいに会話が弾んだ頃、俺の家に着いた。
特に何の変哲もない、1Kの一人暮らしの部屋だ。
「ちなみに寝るところは床だ」
「そんなぁ」
「毛布ぐらいはくれてやる」
「枕だけでも取ってこようかな」
まあ必要になったら適宜帰ればいい。大家さんと鉢合わせになってなんてそう起こらないだろう。
そんなこんなで、緩く同棲を始めたのだった。
身体は異性同士、しかし何の感情もない、純粋な友情による始まりだった。
<=>
「ただいま」
「お、おかえり~」
数日で、これでもかというほどに光は生活に慣れた。
俺が大学やアルバイトに行ってる時間も、俺のPCでいろんなゲームを触っているようだった。
「メシ作っといたぜ」
「お~、唯一無二のルームシェアのメリットだ」
「唯一無二ってなんだよ……」
不満そうに腰に手を当ててこっちを伺う光は、ベージュ色のエプロンをしていた。
これは数少ない、光が家から持ち込んだものの一つだ。
「別に気を使わなくてもいいのに」
「いやいや、居候で何もしないわけにはいかないって。それに……」
「それに?」
「何かしてないと気が済まないんだ」
「あー」
やばいちょっと地雷踏んだ。
数日経っても、光の不安定さはあまり改善しなかった。こうしたふとした瞬間に、瞳が濁ってしまう。
「とにかく、食おう」
嫌な空気が続かないように、俺は無理やり中断して食器を棚から下ろすのだった。
「今日はどうだった?」
「どうもなにも、いつも通り眠い講義だったよ」
「真面目だよな、仁って。あの教授出欠取ってないから行かなくてもバレないのに」
「ばーか、そういう教授に限って抜き打ちである日出欠取るんだよ」
光はよく大学のことについて聞く。もともとは大学もだるそうにして講義も計画的に休む常習犯だったのだが、行かないとなるとそれはそれで気になるようだ。
「そういう光は何してたんだ」
「いつも通りてきとーにゲームしてたよ。今日はOUPGやったかな」
「好きだな」
「1人で出来て気軽でいいんだよな」
「HyperWatchはやらないのか?ハマってただろ」
「あーっと、アレはちょっとなぁ」
「飽きたとか?」
「いや、今も動画見るくらい好きなんだが……VC入れないと怒るやついるからなぁ」
「マイクはあるだろ。使えばいいのに」
「いや、そうじゃなくてぇ……」
なんだか言葉の歯切れが悪い。隠しているというより……言いづらい?
でも今の光にVCが出来ない理由なんて……あぁ。
「女の声だから困ってるのか」
「……うん」
治安が悪いという話に事欠かないゲームだ。そこで女の子の声でVCしてたらどうなるのかくらい、自明の理である。とくに本人にその気がなくともめんどいやつを惹きつけてしまうということだろう。
「てかさ」
「なんだよ」
光はポンと手をたたき思い出したと言わんばかりに口を動かす。
「マイク、あれまあまあするだろ」
「……ま、まあな」
「なんでそんなシロモノがあるんだ?」
「えっと、やっぱ音にはこだわりたくて」
「そこにこだわるような高貴な奴じゃないだろお前」
光に指摘されて冷たい汗を掻く。
「PCも、ゲームだけをするにはそこそこオーバースペックだよな」
「そこは別にいいだろ!予算の限界で買うもんだよPCは!」
「いやぁ、なんか引っかかるんだよな」
「な、なにが?」
「お前……もしかして、いや、もしかしなくとも」
光はビシリとこっちを指差して告発する。
「配信者になろうとしただろ」
「……あ、あはは」
何を隠そう、2年ほど前からコツコツと金を貯め少し前に環境構築した、俺お手製の配信環境がそこにある。
「やってるとか聞いてないけど」
「そりゃ言ってねえし」
言うわけないだろ、恥ずかしい。ああいうのは顔が見えない相手に向けて配信するから良いんだよ。
「で、やったのか?」
「……数回、でもまったく見られないし辞めた」
「まあそんなとこだろうと思ったよ。仁のことだし」
ケラケラと笑いながら飯を食らうこの少女を俺は許せなかった。
「じゃあ光もやってみろよ。すぐに辞めたくなるから」
「あ?なんでだよ」
「どうせ暇してるじゃないか。ゲームの垂れ流し配信でもしてみたらいい」
「はん、いいぜ」
暇してるという言葉に、光はギラリと目を光らせた。本人に直接言ったのはこれが初めてだ。疲労とその場の勢いで光のことを考えない言葉を投げてしまったとは後々思った。
しかし本人がやる気になった以上、やらせてみるしかないか。
それがまさかあんな事態に発展するなんて、その時の俺は考えてもみなかった。
<=>
「ただいま~」
「……おかえり」
明らかに凹んでいる。
俺が大学に行く前はあんなにも張り切って配信設定をしていたのに、まるで濡れ鼠のようなショボショボ具合だ。
まあそりゃそうだ。初めての配信が上手くいくのなら誰だって苦労はしない。
「元気ないじゃんか。どうした」
わざと俺は、すこし意地悪な気持ちでそう聞いた。
「配信したんだが……同接が……」
「ああ、何人くらいいった?」
「40人しか行かなかった……」
「ふーん」
ヨンジュウ人、よんじゅうにん。……40人か。
「えっ?」
「サイト見てたら4千とか5千とか言ってる人たちばっかなのに、たったの40人だった」
40人!?それでたったの!?
俺がやったときは何人だったと思う?最大3人だぞ!?しかも後に知ったがそのうち1人は自分自身!
「すまんやっぱり俺も配信向いてなかったみたいだわ……」
「ま、まてよ光」
「なんだよ、慰めの言葉はいらないぞ」
「ほ、本当に最高40人だったのか?」
「ああ、そんくらい。最高は見てないや、どうやって見るんだ?」
「……教えとくか」
PCの前に移動し、つけっぱなしのモニターを見る。OuTubeを開きっぱなしだったので、アナリティクスをクリックする。
「へ、平均40、ピークで53人……」
「なんだよ、あまりじろじろ見るな」
「ち、ちなみに配信内容は?」
「そりゃゲーム垂れ流しだよ」
ゲーム垂れ流しの初配信で、平均同接40人……?
「とにかくもうやめるんだ!じろじろ見るな!」
「ま、まてよ光……」
たかが40だって?されど40だ。
「高校とか、1クラス何人だった?」
「ちょうど40だな」
「その中でお前のことを好きなやつは何人いた?」
「何の話だよ。んなもんたくさん居たら彼女の1人くらいできてるわ」
「そうだよな。そういう人数だよな」
俺は光の肩をガシリと掴む。
「いわば今のお前は、クラス全員から好き好きと言い寄られている状態だ」
「は、はぁ?きしょくわりぃ」
「40人っていうのは、そういう人数なんだよ」
「も、もしかして40って意外とすごいのか?」
「……お前には、才能があるのかもしれない」
俺は普段天才なんか信じない性格だが、このときばかりは目の前の逸材に、原石のような輝きを幻視していた。
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