リアルで美少女受肉した親友がVtuberを始めるようです 作:畑渚
ファッションから雑貨、スイーツからファーストフード。様々な店が立ち並ぶショッピングモールに、俺達は来ていた。
「いらっしゃいませ~」
「全品30パーセントオフですよ~」
店の前を通るたび、客引きの声が止まない。それもこれも、隣にたってる光のせいだ。
「なぁ仁!あそこのスイーツ絶対買ってくれよ?な?」
こいつは無防備なのかなんなのか、物珍しそうにあちこちをキョロキョロと見回している。そんな美少女がいれば当然、店側も声をかけてみようとなる。
結果、入ってはレディースを勧められて撤退を繰り返す羽目になった。
「おい、光。今日の目的本当にわかってるんだろうな」
「わかってるよ……。今の俺に似合う服を探す、だろ?」
不服そうに答える光。いやべつに似合ってるかどうかは気にしてない。まともでサイズがあってさえいれば、男物でも良いとさえ思っている。
「う、うわぁ」
「……光?」
だからそんなフリフリで肩とか無意味にスケスケな服を手に取るんじゃないよ。
「ど、どうだ?似合うか?」
「んぐっ」
ぴとっと身体に当てた光は、くりっとした目を上目遣いにしてこっちを伺ってくる。
「なーんてな。こんなの着る気はねえよ」
「光!からかってるのか!?」
「ご明察。ははっ、そのリアクションだけで飯が食えそうだ」
こちらがそう来るなら、こっちだって考えがある。
ピシッ
「な、なんだ突然腕をまっすぐ上げて」
服屋で突然店内で手を上げたらどうなると思う?
「いやおい、まさか……」
俺の想定通り、事は動いた。
「どうかなされましたか、お客様?」
「ツレがこれ試着したいらしくてですね」
「ああ、わかりました。こちらへどうぞ~」
そのままあれよあれよと誘導されていく光。
「は、謀ったな仁……!」
俺をからかおうとするからこうなるのだ。
言われるがままにフリフリのブラウスを試着した光はげっそりとした顔をしてカーテンを開けた。
だがまだ俺のターン、というか店員のターンは終わっちゃいないぜ。
「まぁお客様お似合いですよ!こういう系ならこっちとかこっちとか」
着替えるだけの短い時間。それだけでここまでの提案ができるなんて、この店員はプロだな。
「ほんとにお似合いです!ちょっと店長呼んできますね!」
このあと店長も加わったあと、店の全ての服を網羅せんとばかりの試着を繰り返し、光の目はすっかり死んでしまうのだった。
R.I.P、ここに眠る。
<=>
「はぁ~ひどい目にあった」
「押し切られた形とは言え、買うことになるとはな」
「いやもうだって、もう絶対に逃さんって感じのやべぇ目つきしてたよ店員さんたち」
「まあそれは同感だ」
両手の紙袋をぶんぶん振りながら次の店へと目星をつける始める光。
「お、そうか。もうそんな季節かぁ」
「夏……か」
ショッピングモールの一角の、季節限定の特設売り場。
そこには色とりどりの水着が、ところ狭しと並んでいる。
関係ないと先へ進もうとする俺の袖を、光が掴んだ。
「なぁ、ちょっと見ていってもいいか?」
「……光?何を言ってる?」
「いや、なんというか、海好きなんだよ俺。去年とかも一人で行ったし」
そういえば、確かに去年の夏、海に誘われた気がする。俺はバイト優先で断ってしまったが。
「今年も行きたいなぁって」
「い、いや、その、まあ好きは大事だし、尊重すべきだが」
ぱっとコーナーに目を向ければ、黒いビキニが目に入る。
そして思考はそこで止まらず、それに身を包んだ光の姿を思い浮かべてしまう。
っといかんいかん
「仁、お前いま想像しただろ」
「話を逸らすな。光、お前が自分をどう思っていようと、周りはお前を女だと認識してんだぞ?」
「お、おう」
俺は自分の思考を上塗りするように、光に圧をかける。
「女物の水着を身につけることになるんだぞ、わかってるか?」
「そ、そこはほら、シャツとかを上に羽織ってだな」
俺の脳内に、白いTシャツにショートパンツスタイルの水着の光が思い浮かぶ。
無邪気に駆け回り、飛び込みポイントから遠慮もなしに海に入り……
そして水を吸ったTシャツが肌に張り付き、女の子らしいボディラインが明らかに……
「おい、仁。いまエロい想像してただろ」
「いや、してない。断じてしてない」
「ほんとか……?」
「ああ。それよりも、本当に抵抗感とかないのか?」
「うーん、あるといえばあるんだが……」
光は水着の一つを手に取った。
それは一見私服にも見えるくらいのラフな水着だ。それでも露出は多いが。
「これ着ないと海に行けないってなら、じゃあ着るかな」
「お前……そこまで海が好きなのか」
「おう。俺は好きに対しては貪慾なんだ」
知っている。今までの光を見ていればそれくらいわかりきったことだった。
「はぁ、まったく」
俺は男物の水着のコーナーに目を向ける。
「お、もしかして仁も海に来る気か?」
「当たり前だろ」
今の光を一人で海になんかいかせたら、泳ぐ暇すらないほどナンパされかねん。
「おう、じゃあ楽しみにしとくからな!」
「ああ、約束だ」
まだ空白だった夏の予定に、新たな一行が加わったのだった。
<=>
「ふー、いっぱい買ったな」
「荷物持ち代わりにしやがって」
「だからお礼に飲みもん奢ってやってるだろ」
「はいはい、ごちそうさま」
ジンジャーエールがカラカラだった喉に染み渡る。
結局あのあともいろんな店に足を取られ、店員の口車に乗せられ、紙袋を増やすことになってしまったのだった。
「そういや1階にも良さげな店があったんだよなぁ」
「……光」
「ん、なんだ?」
「その、なんだ。無理してないか?」
「はは、そっか、心配させちゃったか」
ショッピングモールについたばっかの光は、何も買ってやるかという意思すら見えるほどに毛嫌いしていた。
しかし今は、買い物袋を大量に抱え、次の店を考えている。
「安心してくれよ。無理なんてしてねえ」
光はコーラを喉に流し込んでそう言った。
「ただ、いろんな店をまわって思ったんだ」
親指で自分を差しながら光は立ち上がった。
「俺はかわいい、悔しいが。着飾りたくなるくらいに」
「光……」
「俺は俺だ。それはそれ、これはこれ。別に男が女の格好してるのも咎められない時代なんだ。俺が俺に似合う格好したって、いいじゃねえか」
それは開き直りに近い。
だが、いやいやではなく、納得して光がそうするんだったら、俺にどうこう言う理由はない。
「光がそれでいいなら、俺は何も言わねえよ」
「いや、言えよ」
「え?」
「似合ってるって言えよ。お前が一番見ることになるんだからな」
「……はいはい、承知しましたよ」
まったく、仕事がひとつ増えちまったぜ。
そんな風に談笑しているときだった。
「おい、お前」
側を通りかかった大学生たちのグループ。そのリーダー格の一人が声を上げた。
「あ……」
サングラスを上げ、いかつい金髪から髪をかきあげ刈り上げを覗かせる。
「九条、九条じゃねえか!」
「お、おう」
「まさか大学の外で会うなんてな」
彼は、俺の大学の同級生の一人だ。
「っと、いけねぇ。デート中だったか」
「うるせぇ、デートじゃねえよ」
「じゃあなんだ、仲良くお出かけってか?」
「あのなぁ、この子とはそういう関係じゃねえっての」
まったく面倒なやつに絡まれた。
悪いやつじゃないんだが、コミュニケーション能力の高さ故に、一度話し始めると止まらない。
「この子は……そう、親戚の子なんだ。子守させられてるだけだよ」
俺はその場を乗り切るために、なんとか嘘をひねり出した。
「ふーん。まあ九条がそう言うならそういうことにしといてやるよ」
特に用事があるわけでもなかったのか、サングラスをかけ直す。
「邪魔して悪かったな。そっちのお嬢さんも」
こいつは悪いやつではない。悪いやつではないのだが……
「お、お嬢さん……」
「お、おう。また大学でな」
困惑して小声で呟く光に被せるように、俺はそう言ってその場をしのいだ。
やつらの背中が見えなくなるまで、光はずっと俯いたままだった。