リアルで美少女受肉した親友がVtuberを始めるようです 作:畑渚
クラウドファンディング完了からちょうど一ヶ月。
とうとうその日がやってきていた。
「……」
「どうした、光。緊張してるのか?」
「そりゃお前!するに決まってるだろ!」
これは単なるアップグレードじゃない。
新たな門出となる、一大行事だ。
「ガチガチになってる暇はないぞ。そろそろ時間だ」
「まったく、このプロデューサーは鬼だな。慰めの言葉くらいないのかよ」
「必要だと思ったらかけてるさ。でも光、お前には不要だろ」
「……っ!ははっ確かにな」
光は自分の手を握ったり開いたりを繰り返して、震えがなくなったことに気がついたようだ。
「さあ、開演の時間だ」
俺の言葉に光は頷き、配信開始ボタンを押した。
<=>
<ワクワク>
<シルエットからしてロング?>
<可愛い系だといいなぁ>
<デザイン誰だろ>
<イラストレーター自信ニキだけど、主だったイラストレーターの動きはなかったね>
<てことは意外なママになるかもってこと?>
<あ、始める>
待機画面から、配信カウントダウンが始まる。まるで手抜きを疑われるかのような、数字だけのカウントダウン。
しかしそれは、視聴者に期待を煽るスパイスになり得る。
5
4
3
2
1
・
・
・
0
画面がぱっと明るくなり、一新した配信画面がお披露目となる。
青を基調とした、ジェンダー感のない、スタイリッシュですこしSFチックな画面だ。画面のアウトラインを、ネオンライトのような光が駆け巡る。
<うお~凝ってる>
<配信画面もリニューアルか!>
<金かかってるなぁ>
本来はイラストレーターへのサンプル依頼でかかるはずだったお金だった。しかしイラストレーターを早々に決めたことで浮いたお金を再配分し、デザイナーに声をかけて新しくした。
視聴者が普段見ることになる画面だから、くどすぎず、それでいて個性的な仕上がりを意識して発注した。反応は好評。まずは1ヒットだ。
「あ、あー。聞こえるか?」
<HIKARIちゃん!>
<今日も可愛いよ!>
<早く姿を見せてくれ~!>
「えーっとそうだな。仁……じゃない、プロデューサーから5分だけ待つように言われてるんだ。もう少しだけ待ってな?」
<えーっ!>
<たかが5分、されど5分>
<しょうがないなぁ>
俺の指示通り、雑談で少しの間引き延ばす。
アナリティクスを見る限り、配信開始直後に見に来る人はそれほど多くない。通知にすぐに気付かない層であったり、新規層は、5分から10分の間に来やすい。そこに本命を当てるというのが作戦だった。
「っと、もう5分経ちそうだな。皆と話してるとあっという間だな」
<おしゃべり楽しいね>
<やっとだ、待ってたぞ!>
<ワクワクがとまらねぇぜ!>
「よし、それじゃあ、ドンっと一気にいくぜ」
光がシーンを変えた瞬間、画面一杯にHIKARIの姿が映し出される。
「これが、俺の……HIKARIの新しい姿だ!」
<うぉぉぉぉ!>
<え、か、かわいい!?>
<いやこの絵柄……いやまさか>
コメント欄を監視しつつ、光の配信画面に俺も目を向ける。
銀髪に青が入り混じった髪をロングウルフにレイヤーカット。
化粧っ気はないのに整った顔。ココ先生の絵柄を特徴付ける瞳。
ぴったりとしたボディースーツにテックジャケットを羽織り、そこはかとなくサイバーテックな香り。ショートパンツから大胆に太ももを露出され、用途不明のベルトで太ももの柔らかさを演出。左右非対称の長さのソックス。ヒールのブーツには配信画面と同じネオンのようなハイライト。
これが、俺たちとココ先生が生み出した、光の新たな姿、HIKARIのVtuberとしての姿だ。
「まずはこの姿になるのを応援してくれた皆に、感謝を」
光が頭を下げると同時に、Vtuberモデルも下を向く。
コメント欄を見て左を向けば、Vtuberモデルも左を向く。
俺達が欲した実在性が、リアリティが、そこには確かにあった。
「そしてこの姿を仕立ててくれたママの紹介だ」
画面にスライドを用意して、1枚めくる。そこには、ココ先生の名前とSNSアカウントのアイコンがでかでかと書かれていた。
<半田ココってあの!?>
<おい、エ◯漫画家じゃねえか!>
<TSものの大御所を……流石だな>
「半田ココ先生は、えっと、その……まあすごい乗り気でこの計画に乗ってきてくれて、そのおかげでこのスピードでのお披露目もできた。本当に感謝だ」
ココ先生の前のめりさは、まあ少し怖いところもあるが、作業の速さも相まって俺達の計画を何段かスキップするレベルで手助けしてくれた。
光はまだココ先生とリアルで会うのは苦手らしいが、その感謝の言葉は嘘ではないだろう。
「それと……」
これから先は、台本にない言葉だった。
だから俺は、何を言うんだと顔を上げて身構えた。
「仁プロデューサー。彼に最大の敬意を。お前が居なかったら、俺はあのまま朽ちてた。それに手を差し伸べてくれたのは、感謝してもしきれない」
へへ、光。お前。
「……だからこれからもずっと、俺の活動を、俺を、支え続けてくれ」
改まって言われるとこう、照れるな。
コメント欄は……
<告白きたぁぁぁ!!>
<HIKA仁に清き一票を>
<刺す刺す刺す刺す>
はぁ、大げさな。
「じゃあ、お披露目ついでに、こいつもお披露目だ」
イントロが流れ始める。未来へと向かう、戦いの歌だ。
力強い歌声が、マイクに向かって響き渡る。たった数回のレッスンだというのに、その歌声には確かに、光の魂が籠っていた。
その瞬間の同接数は過去最高を記録し、コメント欄は追いきれないほどの弾幕で埋まってしまった。
<=>
「はぁ、はぁ。えっと、ん?なんだ」
俺は歌い終わった光にこっそりと追加の台本を渡す。
事前に何も説明していない、完全アドリブ。歌の良さで立ち止まった視聴者に最後に突きつける、最後の一撃だ。
「えーっと、この度HIKARIは、HIKARIの活動の支援および多様化を目指すため……、会社を立ち上げます!?」
これは、HIKARIの発表を使った、姑息なプロモーションだ。
あわよくば優秀な人材を手にしつつ、かつ光へのサポートを充実させる。
「社員募集も行うため後日お知らせをお待ちください……」
台本を読んだ光は、まだイマイチ実感を得られていないのか呆然としながら配信を終わりへと持っていく。
「それじゃあ今日はこの辺だ。お披露目に付き合ってくれてありがとな」
感謝の言葉を述べながら締める光に、コメント欄は質問の嵐となって襲いかかってくる。
どうしようという目で無言で助けを求めてくる光に、無理やり配信を閉じるよう指示する。
無事に配信は終了し、画面が切り替わる。
「ふぅ、お疲れ様、光」
いつも通り差し出したコーラを、光はすぐに手に取らなかった。
「会社……ってなんだ?」
光にも話してなかったことだ。だが必要なことでもある。
優秀な人材は囲っておかないと、いつか離れていってしまう。コメントモデレーターも動画編集班も、いまのところよい人材に出会えている。その囲い込みが必要だった。
このことで光へのデメリットは発生しない。お披露目にてちょっとしたサプライズのつもりだった。
「なぁ、俺だけじゃダメなのか?」
「……光?」
「次はどんな女の子をデビューさせるんだ?俺じゃ何が足りないんだ?何をしたら俺はお前を……お前の隣に立っていられるんだ」
「落ち着け光!べつにVtuberを増やすために立ち上げたつもりはねぇ!」
「じゃあどうして」
「それは……それもお前のためだ!」
「俺の……ため?」
「そもそも、配信してるのはお前だろ。俺はお前にひっついてあれこれ口出してるだけの一般人だ」
俺の隣に光が立つのではない。光の隣に俺が立ちたいのだ。
「安心しろ、光。俺はお前を見放したりしない。いままでだってそうだったろ」
「……ああ、そうだったな」
俺は光を置いていくような真似は絶対にしない。
これまでも、そして、これからも……。