リアルで美少女受肉した親友がVtuberを始めるようです 作:畑渚
会社設立後のゴタゴタを片付けている間も、時は進んでいく。
光はすっかりVtuberHIKARIとして、同時接続者数を伸ばしていっていた。
結論から言えば、Vtuber化という賭けには勝ったと言っていいだろう。
収益も安定して、人一人が難なく生きられるくらいにまで膨れ上がってきた。
スマホのバイブが鳴る。
父さんからだった。
「そろそろか……」
俺は日課の配信を終えた光にコーラを差し入れながら、話しかける。
「今度の土曜、出かけられるか?」
「おう、いいぜ。どこに行くんだ」
「いつもの……病院だ」
「また身体検査とかか?」
俺はしばらく悩んだ後、そっと打ち明ける。
「DNA鑑定の結果が出た」
「……っ!」
「お前の両親も呼んで、俺の父さんから説明する」
「……仁も来るんだよな?」
「ああ、もちろんだ」
光は震える自分の手をもう片方の手で押さえつける。
「わかった。土曜な」
「大丈夫だ。絶対に」
例え結果がどうであれ、光の両親になんと言われたって、俺は光の味方で有り続ける。
それは絶対に変わらないことだ。
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「くそっ、少し遅れるな」
俺は電車を乗り継いで、病院へと急いでいた。
光を先に行かせておいて正解だったな。
大学の履修登録がおかしくて教務課に呼び出されたというのに、無駄に時間を食わされただけで何も解決しなかった。まったくひどい話だ。
乗り換えた方が早いな
俺は電車を降りて、乗り換え先に急ぐ。
その曲がり角を曲がった瞬間だった。
「きゃっ」
「っと」
バシャっと飛び散るカップに入ったコーヒー。
その大半が、ぶつかった俺の上着にかかる。
「ごめんなさい!」
「いえ、こちらも不注意でした」
変わらないか少し上くらいの年の女性が、ペコペコと頭を下げて、取り出したハンカチで拭き取ろうとしてくる。
「ああ、いいですよ、気にしないでください」
「そんなわけには行きませんよ。クリーニング代、出しますから!」
「ああ、いえいえ、こちらも悪かったので」
財布を取り出そうとする女性と、断ろうとする俺。話は平行線のように見えた。
「あの、急いでるので、すんませんけど気にしないでください」
「そういうわけには行きません……。そうだ!」
女性は少し大きな声で何かを思いつく。
「連絡先ください。今度お礼にカフェでコーヒーでもどうですか?」
「そういうわけには――」
「そうでもしないと私の気も済まないので!人助けだと思って!」
「……連絡先だけですよ」
メッセージアプリのコードを読みこんで、友達になる。みゆきさんと言うらしい。貝殻や水の雫のような抽象的アイコンは、本人の雰囲気に合致していた。
「本当に申し訳有りませんでした」
「いえいえ、そんな」
「では~」
そのままピューっと走るように去っていくみゆきさん。
あっちも急いでいたのか?
まあいい。俺も先を急ごう。
その時の俺は、頭の中に浮かんだ疑念を、まだただの勘違いか何かだと思っていた。
その疑念が、すぐに確証に変わるまでは。
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会議室に入ると、50くらいの男性と女性が座っていた。
こちらを見るなり困惑した様子で、ぺこりと頭を下げてくる。
「あっえっと、光の友達の、仁って言います」
「光の父です」
母親と思わしき人は、控えめに会釈を返した。
疑うのも当然か。そりゃ病院の会議室で待たされて最初に入ってきたのが青年一人じゃ、信用できるものも信用できない。
「そして、俺の父さんです。一応ここで医者をやってます」
父さんが会議室に入ってくる。
真剣な面持ちは、家では見たことのない威圧感を漂わせている。
「私がここの主治医です。名刺を」
「これはこれは、ご丁寧にどうも」
名刺を受け取った父親は、その長ったらしい肩書と父さんの顔とを見比べるように視線を行き来させる。
「それで……」
母親が初めて口を開く。
「光は何か重たい病気なのでしょうか」
「……まずはこの診断結果から見せましょうか」
父さんはファイルから1枚の書類を取り出す。
それは、DNA鑑定の結果だった。
そして、それが指し示す結果はただ一つ――
――光は、今の身体でも2人の子供であるということだ。
「そりゃそうですよ。光は私たちの子供だ。そこに間違いなんてない」
「そうですか……。それが例えどんな形でも、ですか?」
「私たちが光を見間違うとでも言うのですか!」
「落ち着いてください。そして覚悟してください」
「覚悟……?一体何を」
「貴方たちの子供が、貴方達の子供であると、そう言える覚悟です」
「いったい何を言っているのかわからないですよ」
「わからないのも無理はありません」
父さんは俺に合図を出す。
俺は扉を開け、外にいる光を呼び入れた。
「これが、今の貴方達のお子さんの姿です」
「な……」
絶句とはまさにこういうことを言うのだろう。
目を見開き、額には冷たい汗。あっ、なっ、と言葉を紡ごうとしても続かない。
「パパ、心配かけてごめん。ママ、少し痩せた?ちゃんと食べてる?」
「ほ、本当に……光なのか?」
父親はなんとか言葉を絞り出し、母親は無言のまま涙を流し始める。
「うん。こんな姿だけど、ちゃんと2人の子供だよ」
実はもっと揉めると思っていた。そりゃ子供の情報で呼び出された病院で、似ても似つかない、性別すら違う人物が子供だと名乗るのだ。もっと疑い訝しんで、そう簡単に信じてくれないものだと思っていた。
しかし現実は違った。
それはまるで、『家族だから』とでしか言い得ないような直感じみた反応。
「……私たちはすぐ外にいますので、後はご家族でお確かめください」
父さんとともに、俺は会議室を出る。
久々の家族団らんに、俺達は不要だろう。
「成功か」
「ありがとう父さん」
「そうだ。これも渡しておく」
それは医者の診断書だった。光を光だと認める、確かな公的文書だ。
「ありがとう。これで光の戸籍も戻る」
「なぜそこまでお前は彼にこだわる」
「別に彼だからってわけじゃない。光じゃなくても、どの友達だったとしても、俺はこうしたと思う」
「全てを救おうとするなよ」
それは、医者として多くの命を救ってきた父からの警告だった。
「本当に救いたいものを見失ってしまう」
「……わかってる」
それは俺も理解していた。
現に会社を起こして、ココ先生のお披露目も近づく今。光へのサポートが少し疎かになってしまっている。
現状問題はないが、問題が起きてからじゃ意味がない。
「とにかくもう一踏ん張りだ」
「うん。父さんもありがとう」
「……おう」
父さんは少し照れたように、頭をぽりぽりと掻いてみせた。
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光の問題は、それからトントン拍子に解決していった。
父さんの診断書によって公的身分を証明された光は、戸籍を取り戻し、身分証明証の再発行や保険証の手続きなどでしばらく大変そうだった。
光は大学にも復学した。母親が休学手続きを済ませてくれていたおかげだ。
大学での光は、それは大層目立った。
俺とのカリキュラムに差が生まれてしまったため、一人で講義を受けに行く時などがあり、そのときには捨てられた子猫のような目でこちらを見てくる。まあ突き放して講堂に置き去りにしていくんだが。
「仁、ありがとな」
「なんだよ突然」
「いや、こうして俺が大学に通えてるのも、全部仁のおかげだなって」
「まあ、その一端を担ったとは自負してるが、光、お前が諦めなかったからだぜ」
「仁……」
「っと、なんだ?」
コンセントの脇で充電していたスマホが唸る。
「すまん、取ってくれ」
「おっけー」
光は充電ケーブルを抜いて、俺にスマホを渡してくる。
「みゆきさん?って誰だ?」
その際に通知欄を見たのか、光がそんなことを聞いてきた。
「うん?ああ、偶然知り合った人」
通知からメッセージアプリを開けば、カフェに行く日程のすり合わせをしたいとの連絡が入っていた。
面倒だが、1回いけば済む話か。また断ってから何度も連絡されるよりかはマシだな。
カレンダーアプリを開いて、空いてる日を確かめる。大学生らしからぬタイトなスケジュールからなんとか隙間を見つけて、返信する。
「……光?」
「ん?なんだ?」
にっこりと微笑む光。その瞳がひどく濁っているように見えたのは、差し込む太陽光の具合のせいだと思いたかった。