リアルで美少女受肉した親友がVtuberを始めるようです   作:畑渚

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声ちょっと震えてるw

 次の日、俺は光に無理を言って、配信を後ろで見させてもらうことにした。

 居候という弱みがなければ絶対に断られただろうし、実際だいぶ嫌がられた。

 

 しかし、俺は予感がしていた。

 

 昨日の配信は、平日昼間という時間帯だった。いわば競合は少ないが、視聴者層も薄い。

 

 そして今日は休日の夜。新人から最大手までが視聴者数を奪い合う超激戦区な時間帯だ。

 しかし視点を変えてみれば、視聴者層が最も厚い時間とも言える。

 

「は~い、今日もやってくよ」

 

 光が配信を開始した。すでに同接は10人を超え増加中。

 こいつ一日にして固定客を獲得済みなのかよ。

 

「OUBGやってくよ~」

 

<おいしょ~>

<HIKARIちゃんこん~>

<初見です、声かわいいですね>

 

「かわいい?ありがと」

 

 声を褒められるのは初めてじゃないらしい。

 たしかに、可愛らしさの中に凛としたものがあって、聞き取りやすい声をしている。

 

 まあ褒められた本人は不服そうに、端的に感謝だけを述べているのだが。

 

「最初は……うわ、集団が施設に降りてる。離れたところ降りよ」

 

 OUBGは飛行機から降下するところから始まるバトロワゲームだ。最初に降りたところによって後々の物資や戦略が決まっていく点や、物資量に運が絡むランダム性がウリで、実際このゲームを配信している人は少なくない。

 

「ラッキー♪、U4だ。アーマーもあるし、良いとこ降りたな」

 

<最強銃キター>

<今の可愛かった>

<こんばんは~>

 

 そうこうしているうちに同接は30人に到達しようとしている。

 明らかに昨日配信を始めた人の伸び方ではない。それになにより、コメント率が異常だ。

 

「そうそう、この銃最強なんだよね。近距離も勝てるし遠距離も狙える」

 

 そうか、この声でコメント読んでもらおうとしてコメントが多いのか。

 言っちゃ悪いが、これは女の子の声だからできることだ。

 

 ただし才能がないという話でもない。

 プレイしながらコメントを見て、適宜返す。言うのは簡単だが、やるのはとてつもなく難しい。

 

 声の発し方というのも才能の分野だ。ボイトレなどで培うような発声方法が自然にできるというのは、普段の生活によるものがある。

 

 そういえば光は高校の時運動部だったっけ。それで伝えるための声出しができるのかもしれない。

 

「っと敵だ。まだこっちに気づいてないな……そーっと」

 

 ゲームは中盤に差し掛かり、一人の敵の背後を取った。

 

「今だ」

 

 トリガーを引き背中に風穴を開ける。

 

「よっし、まずは1キル」

 

 光のゲームの腕前はそこそこだ。上位数%に入るような巧さはないが、下手でもない。

 まさしくボリューム層といったところだ。

 

<うまい!>

<ナイスキル!>

<かわいい>

 

 それでも褒められるのは、集客力の力だろう。普段ゲームを観ない層も流入しているということだ。そして、ゲームではなく光を見たくて集まった連中でもあるわけだ。

 

「じゃんじゃん行くぞー」

 

 その後ハイドに殺されたり、次の試合で激戦地に降りたりと、テンポよく時間が過ぎていった。

 

「そろそろ終わりかな。じゃあまたね」

 

<おつ〜>

<お疲れさまでした~>

<また見に来るね>

 

 そうして光は配信を終えた。

 

「終わったぜ〜」

 

「おつかれ、光」

 

 チャンネル登録者+30人。最大同接60人。

 

「たった60人かー、うまくいかねえなぁ」

 

 いや、うまくいってる方だろう。ゴールデンタイムは大手の配信者が数千人から数万人集める時間だ。その隅で人数を増加させたのは、光の実力あってこそだ。

 

「ずっと静かだったけど何してたんだ」

 

「考えてた。光の可能性について」

 

「可能性ってそんな、大げさだなぁ」

 

 俺はそうは思わない。光に、俺には到達できなかった配信者ドリームの可能性を見いだしていた。

 

「光、もうちょっと続けてみないか」

 

「んだよ……確かにどうせ暇だけどよ」

 

「サポートは俺がする。いやさせてくれ」

 

 俺は光の肩を掴んでそう言った。

 

「お、おう。なんか目が怖いぞ」

 

「そうと決まればSNS運用からだ」

 

 俺は本棚の奥から一冊の本を取り出す。

 それは以前挫折した、動画の作り方の本だ。

 

「な、何する気だよ」

 

「ふふふ、ちょっと良いことさ」

 

 そう言って俺は先ほどの配信アーカイブをクリックする。

 かわいらしい自分の声を聞いた光は目から光が消えていたが、そんなことはどうだっていい。

 

「まずは動画でバズを狙う。光は配信で俺は動画、役割分担だ」

 

「動画ってそう簡単に創れるものなのか?」

 

「……」

 

 俺は無言で視線をそらす。

 

「さては仁お前、動画投稿者になろうとしてたことあるな」

 

「な、なんのことだか」

 

 まさか、配信者を目指す前は動画投稿者を狙ったりなんかしてない。断じてない。

 ただちょっと気になって動画編集のソフトを扱ってみたことがあるだけだ。

 

「まあいいぜ、やるってんなら付き合ってやろうじゃねえか」

 

「光……」

 

「ただし、動画が伸びなかったら罰ゲームだかんな」

 

「じゃあ伸びたときはなんか奢れよ」

 

 その時の俺は漠然と、動画が伸びる未来を見据えていた。

 なぜそんな事を思ったのか根拠はなかった。しかし、光なら伸びしろがあるのではと期待せずにはいられなかったのだった。

 

 

<=>

 

 

 それが昨日の出来事だった。

 

 次の日、俺のスマホが鳴り響く。

 

『動画が5000回再生されました』

 

 その通知を見たとき、俺は目を疑った。

 50でも500でもなく、5000?

 投稿は昨日の深夜だから、まだ1日すら経っていない。

 

「仁、昼メシできたぞ」

 

「あ、あぁ」

 

「今日は早めの時間から配信してみようと思うんだが……どうした」

 

「い、いや?な、なんでもない」

 

 俺はわざと、光に伝えないという選択肢をとった。

 

「配信するんだろ?俺ちょっと出かけてくるよ」

 

「お、おう……なんだ?変な奴」

 

 用意してくれた飯を食べてから、俺は近くのカフェに向かう。

 適当に飲み物を注文して席に座り、イヤホンを耳につける。開くのはもちろん、光の配信だ。

 

「じゃ、始めますか」

 

 光が配信をつけた瞬間から、変化は始まっていた。

 

「ん、んん?なんか人多い?」

 

 同時接続者数が、100人を超えていた。一旦はその数で安定しているようだ。

 

「えーっと、『動画見てきました』?あぁ、ありがと。それで初見が多いのか今日」

 

 すでに動画の効果を実感できるレベルで、人が増えている。

 

「まあとりあえずやってくか」

 

 さすがの光も100人という数字を前に緊張しているらしい。画面越しにその震えが伝わってきそうだった。

 しかしそれすらも視聴者たちは、おもしろいコンテンツとして消費していく。

 

<声ちょっと震えてるw>

<初見です、動画みました!>

<かわいいですね>

 

「う、うるさいぞ。っといけない、集中集中」

 

 ゲームを進めていく光。やっているのは今人気のいわゆる死にゲーと呼ばれる高難易度ジャンル。とあるVtuberは耐久配信と称して12時間やり続けたとかなんとか。

 

 しかし俺の目には、光のゲーム画面なんて映っていなかった。

 

「ははっ」

 

 外なのに思わず笑いが出てしまう。

 

 同時接続数は300人を超え、まだ緩やかに増加中。

 動画が、そしてこのゴールデンタイムという時間帯が、最高に噛み合って思わぬ相乗効果を産んでいる。

 

「うわ〜死んだ。今のタイミング間違えたなぁ。ってあれ?同接300超えてる」

 

 光も気づいたようだ。

 

「ありがとな!」

 

 爽やかで、それでいて端的。なぜなら今、光は視聴者数に興味はなく、ゲームに夢中になっているからだ。

 

 しかしそのゲーマーっぷりが、もしくは『親しみやすさ』を感じる返事からか、登録者数が目に見えて増えた。

 

 その日の最大同接は500人にギリギリ届かずに終わった。

 しかし光は強敵を倒し、止まっていた息をハァハァと整えながら配信を終えた。

 

 それが何かに刺さったらしく視聴者たちが沸いていたが、それに気づくことはなく、俺はすぐに帰路について次の動画の構想を立てていたのだった。

 




ここまでお読みいただきありがとうございます。
本日の投稿はここまで、明日からは21時を目処に毎日投稿していけたらなと思っています。
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