リアルで美少女受肉した親友がVtuberを始めるようです   作:畑渚

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俺は、悪魔の提案をした

 そうは言っても、俺は光の才能を諦めきれずにいた。

 

 光はリアクションが多いタイプの人間だ。ゲームをしているときだって、リズムを身体で取るし、ハンドルと共に身体は傾くし、顔の表情もコロコロと変わる。

 

「ひゅーっ、味方やるなぁ。俺もいっちょ頑張るか~」

 

 日課となってきた配信をしている光を後ろから観察しつつ、考えを巡らせる。

 

 光を女として消費させる気はない。しかしそれでいて、光のこのリアクションの良さをコンテンツに落とし込む方法……。

 

 ふと俺は、画面横の関連動画欄に目が行った。

 そこには、配信界隈では有名な人の、配信切り抜き動画が表示されていた。

 

 顔の傾きやまばたき、その口の動きに至るまでをトレーシングし、画面上の2次元アバターに落とし込む。

 

 

 人は彼女らを、Vtuberと呼ぶ。

 

 

 数年前から始まったVtuberブームは配信界隈に大旋風を巻き起こし、世は今や、大Vtuber時代である。様々な人間たちがバーチャルのガワを被り、多種多様なジャンルの配信で世界を賑わせている。

 

 メリットはあまりにも大きい。顔を出さないで顔出しと同じリアクションを魅せることが可能になるのだ。ただの声だけの配信に比べて、『親しみやすさ』が段違いに跳ね上がる。

 

 この『親しみやすさ』というのはVtuber界隈を語る上で切っても切り離せない要素の一つだ。

 

 中の人という現実世界での存在。

 それがVtuberの真実だ。

 しかしそれゆえに、Vtuberは視聴者とコミュニケーションを取ることが可能なのだ。

 

 光はVtuber適性がある。俺が保証する。

 

 問題は、光にどう打ち明けるかだ。

 昨日の不安定な状態を思い出す。

 

 あれは俺の過ちだ。

 もう二度とああなるようなことはしない。

 

 きっと普通に提案しても、今の光なら『うん』と言ってくれる気がする。しかしそれは、両者のためにならない。いや、絶対にしてはいけない。

 

「おーい」

 

「……っ光!?」

 

「なにぼーっとしてんだよ」

 

「なっ……は、配信は?」

 

「もうとっくに終わったよ。聞いてなかったのかよ」

 

「き、気付かなかった」

 

 配信中に話しかけてきたのかと思ってびっくりした。流石にそれほど光も愚かではないか。

 

 光が女の声である以上、俺が配信に出るような真似だけは絶対に控えなきゃいけない。事実はどうであれ、画面を通した先で何と解釈されるかわかったもんじゃない。

 

「なぁ、仁」

 

「なんだ」

 

「悩んでるのって……昨日のことか?」

 

「い、いや……」

 

 詰まってしまったのが何よりの答えだろう。

 

「俺、あれから考えたんだ」

 

「光……」

 

 腕を引っ掻く気配はない。それだけを判断基準にする気もないが、それだけ、自分の意思で決めたということだろう。

 

「今日も配信をしてみて、やっぱ顔だせだのなんだのコメントがつくんだ。それだけ需要があるってことだろ?」

 

「……っ、まぁ、そりゃそうだ」

 

「別に使命感を感じてるってわけでもないんだが、需要に応えていくのが配信者だろ?」

 

「そんなことはないだろ」

 

「いいや、あるさ。数日配信やってりゃわかる。視聴者が求めているのは、『話せるアイドル』だ」

 

「……っ」

 

 否定はできない。確かにそういうアイドル売りというものは存在するし、『話せる』というコミュニケーションの可能性は、俺がさっきまで考えていたとおりだった。

 

「だがな光」

 

 否定をしないからって、肯定するわけでもない。

 

「いいのか、その需要に答えるってことは、服を着飾って、化粧もして、そんな姿に答えるってことだぞ」

 

「よくなんか……ないよ。でもやらなきゃ負ける」

 

「負ける?」

 

「あっ……いや、なんでもない」

 

「どういうことだ?」

 

 負けるというのが何かは、少し考えればわかった。

 光は、数千人の同接を誇る配信者と競おうとしているのだ。

 

「そんなことのために……」

 

「……仁?」

 

「そんなことのために自分を捨てるなよ!」

 

 俺は勢い余って、光の肩を握りしめる。

 

「いいか?自分を捨てるな!絶対に今の光が好きなやつがいる!」

 

「今の……俺が?」

 

「ああ!細かいコメントを気にしすぎるな!」

 

「……そうは言うがな」

 

 光は俺の腕を掴み返しながら吐き捨てるように言う。

 

「目につくんだ、嫌でも……」

 

「じゃあそんなコメント俺が消して」

 

「無理だ。ちょっとやそっとの数じゃない」

 

「だが……」

 

「いいんだ」

 

 光は濁った目で俺を見つめる。

 

「俺が少し我慢すれば、Win-Winなんだ。なに、女装だと思って楽しんでやるさ」

 

 自己犠牲……いや、今の素の自分に何の価値も見いだせない自己肯定感の欠如か。

 

「なあ、どんな服が似合うと思う?けっこう可愛い系いけると思うんだよね」

 

「光……」

 

「メイクとかわかんねえな。頼れる女子なんていねえし独学かぁ」

 

「……光!」

 

 俺は手に再び力を入れる。

 

「なんだよ……、痛えよ」

 

「一つ、提案がある。これは『お願い』であって、『強制』じゃない」

 

 俺は、悪魔の提案をした。

 

 

「Vtuberにならないか」

 

 

 

 

<=>

 

 

「よぉ。今日も始めていくぜ」

 

<おはよ~!>

<こん>

<HIKARIちゃん今日もかわいい!>

 

「今日はちょっと大事な告知があるから、もう少ししたら話すな」

 

<え、なに>

<こわ>

<やめないで!>

 

「ああ、違う違う。やめるとかじゃないから安心してくれ」

 

 少し準備がかかったので、提案した日から1か月後、その日は来た。

 俺達の結論を視聴者にぶつける、勝負の日だ。

 

「だいたい集まってきたかな」

 

 同接100人。何の告知もなしでこの数字が、今の光の実力だ。

 

「えっと、こっちだっけな」

 

<わたわたもたもた>

<かわいいですね>

<いまなんか見えたか?>

 

 光は慣れないソフトを立ち上げて、告知を開始する。

 

「このたび俺ことHIKARIは……」

 

 これが、今の俺達のとれる攻めに攻めた最善策……。

 

「Vtuber化、クラウドファンディングを実施します!」

 

<Vtuber!?>

<クラファン!?>

<HIKARISAN!?>

 

「そう!このワクワククラウドファンディングってサイト、でやるんだ」

 

 明らかに闇深そうなサイトだが、調べたところれっきとした老舗のサイトだった。そして何より、事業主に当たらぬ個人レベルから設立できるというのが今回の選定ポイントだ。

 

「クラウドファンディングのリターンはこれだ」

 

 俺達が考えたリターン。その大体は、粗品と言わんばかりのグッズだ。ビジュアルすら未公開のグッズが売れるもんかとも思ったが、手軽さからつけざるを得なかった。

 

 もちろんそれだけとは言わない。

 

 これは一定額以上を支援してくれた人に向けた、光の覚悟による最上級のリターン。

 

<1on1通話券……!?>

 

 たかが数分、されど数分。

 配信者という画面の向こうの遠い存在と話すことができる。

 

 俺の調べでは、中堅や大手ならそれだけでイベントを開催できるような莫大な需要を持っている。

 その市場の勢いを使って、光をVtuber化させようという話であった。

 

<うぉぉぉ!>

<絶対いちばん高いの買うからな!>

<HIKARIちゃんと1on1……>

 

 思った以上に、視聴者からの反応は悪くなかった。

 確かに全員が全員肯定をしてくるわけもなく、否定意見だって飛ぶが、すぐに肯定意見に書き流される。

 

「それじゃあ、よ、よろしくな」

 

 説明を終えた光はゲーム配信へと画面を戻し、いつものように明るく振る舞う。

 

 不安がないのかといえば嘘になる。

 

 なにせ何もないゼロから始めるのだ。決まっていることのほうが少ない。

 特にVtuberの核となるキャラクターデザインを担当するイラストレーターさん、つまりは『ママ』の選定が、俺の悩みの種になっていた。

 

 個人である限り、最初のガワは一生物になる。ここで雑に選定したママをつけてしまえば、その影響はHIKARI、引いては光の配信者人生に響く。

 かといって、有名どころをつけるわけにもいかない。

 

 俺達には金がない。

 

 大学生の貯金なんてたかが知れてるし、今の光は親と断絶状態。俺の少ないアルバイト収入だけが、自由にできるお金の範囲だ。

 

 光が収益化できるほどまで伸びれば話は変わってくるだろうが、今のところまだその望みは薄い。

 

 結局のところ、クラウドファンディングで金集めをして、その予算を考えてママを選定するしかなかった。

 

「……不安だ」

 

 不安でおおい被されそうになりながら、その日はベッドに入った。

 

 まさかあんなことになってるなんて、その時は思いもせずに。

 

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