リアルで美少女受肉した親友がVtuberを始めるようです   作:畑渚

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いやない、確実にない

「じゃあ今日はこの辺にするな、おつかれ~」

 

<おつ~>

<また明日~>

<またの~>

 

 光の配信が終わったことを確認して、俺は冷蔵庫からコーラを取り出し差し入れに向かう。

 日課としていつも配信がおわったあとはこうして俺が飲み物をもっていってあげ、二人でアナリティクスを見ながら反省会をしていた。

 

「おつかれ、光」

 

「ん、ありがと」

 

 ぷしゅっと音を立てて炭酸がしゅわしゅわと光の喉を潤す。

 

「なあ今日の配信どうだった?」

 

「悪くはなかったんじゃないか。実際数字も増加傾向にある」

 

「だとしてもなぁ……」

 

 光の懸念もわかる。たしかに増加傾向とは聞こえがいいが、あくまで微増の範疇であり、ぐっと伸びていた頃を知る身としては物足りなさを感じているのだろう。

 

「なあ仁」

 

「どうした」

 

「話はちょっと変わるんだけど、一つやってみたいことがあってさ」

 

「お、珍しいな」

 

 わざわざこういうってことは、配信活動に関することなのだろう。そして自分で解決できないか金のかかるようなことってわけだ。

 

「まあ言ってみるだけならタダだしいいよ」

 

「そうか。それじゃあ……俺、『歌ってみた』を出してみたい」

 

「……なるほど、しかし良いのか?」

 

「良いって何がだ?」

 

 歌ってみたを出すのは別にいいと思う。動画というものは定期的に目に入りやすいコンテンツだし、人気の曲にあやかって再生数を伸ばすこともできる。なにより歌勢という、ゲーム配信じゃ得られない層にアプローチできるまたとないきっかけとなる。

 

 しかし、それはつまり、光が女である声帯を商売道具に変えるという意味をもつ。

 

 光はいまだに自分の体を認識することを拒んでいる。

 だというのにどういう心の変化があって歌ってみたを出したいなんて言ったのか、そこによっては俺は拒否したほうがいいのかもしれない。

 

「良いも何も、視聴者に求められてんだ。一部だけど」

 

「……その献身的な姿勢なの、やめたほうがいいとおもうけどな」

 

「需要には応えていかないと、時代の波に置いて行かれるぜ」

 

「……じゃあ聞くけど、何を歌おうとしてる?」

 

「えーっと、HProjectのマッドマッドサッドとか、バーエレクトロニクスだとか」

 

 光が挙げたのは、昔から光が好きだったロックバンドが出している曲だ。しかしそれはあまりに、あまりにも

 

「ドマイナーなバンドのドマイナー曲じゃねえか!なにが需要に応えたいだ馬鹿野郎!」

 

「だって初めての『歌みた』なんて好きな曲歌ってみたいに決まってるだろ!」

 

「にしてもあんまりにドマイナーだわ、いやない、確実にない」

 

「頼むよ~そこをなんとか~」

 

「……あのな」

 

 俺はいったん光を落ち着かせる。

 

「歌ってみたには何が必要だと思う?収録環境はもちろん、オケ曲、コーラス、ミックス。つまりは、やろうとすれば金がかかる話になるんだ」

 

「そこはわかってるさ。だからいい案がないか仁にわざわざ聞いてんだから」

 

「あのなぁ。俺は便利なポケットもってる国民的青狸じゃねえっての」

 

「でも、そこまで詳しいってことはすでになにか算段をつけていたってことだろ?」

 

「それは……」

 

 そうだ。俺は光にいずれ歌ってみたをやらせようとしていた。マーケティングとして悪くない選択肢だし、正直に言って今の光の声は歌に向いている。だが今、金を集中させたいのはVtuberとしての体の実装であり、ほかのコンテンツに金をかけている余裕は存在しないのだ。

 

「というわけで光。そりゃ無理な話なんだ」

 

「……なぁ。もし金を節約してできたらやってもいいんだよな?」

 

「は?節約ったって、何ができるってんだよ」

 

「……曲を変える」

 

「曲を変えたところで……」

 

「収録環境は今の配信環境でいい。オケ曲は、作者がオケを公開している曲を選定すれば無料で手に入る。コーラスもない曲を探せば問題ない」

 

「ばか、それでもミックスに多額の金がかかるだろう」

 

「……ミックスは、俺がやる」

 

「光?お前そんなことできたか?」

 

「できない……」

 

「じゃあどうやって」

 

「やってみる。やってみたいんだ」

 

「光……」

 

「なんでもかんでも仁任せだったし、たまには俺もできること増やさねえとだなって」

 

 個人によるミックスは確かに前例はあるだろう。それに今のご時勢、無料で学べる動画が山ほどある。

 

 確かに金をかけずに歌ってみたを出す、最善策に間違いはなかった。

 しかし、本当に可能なのか?音楽ド素人の光が今から始めたとして、いつに形になるというんだ?

 

 まあでも、やることを作るのは今の光にとって大事なことなのかもしれない。

 

「わかった」

 

 俺は押し入れの奥から、一冊の本を取り出す。

 

「とりあえず渡しとく。ソフトのダウンロード方法とかも中に書いてあるから」

 

「お、おう。……仁、もしかしてなんだが」

 

「ん?」

 

「ミックス師になろうとしてたことがある?」

 

「……ない。断じてない」

 

「そ、そうか」

 

 今回の件で俺がしてやれるのはこのくらいか。

 俺は俺で、Vtuber化計画についてしっかり進めて行かないとな。

 

 

<=>

 

 

 Vtuber化計画で必要なパーツの一つであるママ選定は、ココ先生という最強の手駒を前に終了しているといっても良い段階までこれた。

 

 そしてもう一つのパーツとなるのはパパ選定、つまりは、イラストを2d動作モデルに落とし込むモーション技師の選定だ。

 

 しかしこれも、実は目星がもうついている。

 

 というのも、目星をつけているモーション技師の方は、フリーランスの副業として多数のモデルモーションを担当している方で、つまりは金と期間さえ提示すれば確定で高品質なモーションを作ってくれる、そんな職人なのだった。

 

 パパの選定基準はたったひとつ。モーションが細かく、モデルが生き生きとしていることだ。

 

 このモーション技師という界隈。有名になればなるほど仕事が舞い込んでくる市場になっており、その分新規の方の仕事争奪競争も激しい。彼らは高品質なサンプルをいくつも用意し、他人と差別化を図り、強みをアピールしている。

 

 選ぶ側としては、サンプルが多ければ多いほど助かるというものだ。

 

 現に俺が選定したパパさんは、実績こそまだ数が売れていないものの、その実力は上位クリエイターと遜色ない、腕で見せるタイプの職人さんだ。

 

 見積から製作時間概算、発注時期の推定まで、すでに契約を結びつつある段階。まだ決定的な発注には至らない状況だが、金が工面でき次第、確定させようと思っている。

 

 ちなみに光にも一応相談した。しかしあいつは興味ない、というより良し悪しが理解できないようで、『まあ違和感なさそうならいいんじゃね?ガワじゃねえしな』と言っていた。

 

 まったく光はわかっていない。ガワの良し悪しは、サイトの中でもっとも目立つ、Vtuberの看板である。

 たしかに看板が悪くとも客足の多い店がある。しかしそれは内容がよほど良く、そして運よくその内容を共有してくれる大型拡散者の足あってこそのことだ。

 

 そんな運まかせにHIKARIを運用していく気はないし、なにより参入の初動の伸びを俺は求めている。

 

 看板がよければ、それだけ新規に暖簾をくぐる層が出てくる。そこにHIKARIというパンチの効いた味を出す。そうして常連に引き込むというのが俺の作戦だ。

 

「あとは本当に、金だけなんだがな」

 

 クラウドファンディングは進捗70%を前に、滞っていた。

 最初のころは新着欄に乗ることで勢いを見せていたのだが、ここにきてその伸びが止まってしまった。

 

 キャンセルが続出していないことは確かだが、こうなってしまうと何かしら策を打たないと、埋もれるだけになってしまう。

 

「なにかないか……なにか、クラファンに新しく火をつける何かが……」

 

 その時だった。

 

「仁、大変だ!」

 

「どうした光」

 

「え……」

 

「え?」

 

「炎上した……」

 

「は、はぁぁぁ!?」

 

 別の意味で火が付いた。

 

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