白い天井がぼやけて見えた。
目を覚ました瞬間、頭を万力で締め付けられるような激痛が走る。
「っ……あああぁぁぁ!!」
ベッドの上でもがき苦しむ。すると突然、誰かの記憶が脳内へ流れ込んできた。
友人との会話。教室。馬鹿騒ぎ。軽薄な笑い声。
そして――名前。
山内春樹。
「は……? 山内、春樹……?」
痛みが嘘のように引いていく。荒い呼吸を整えながら、俺は震える手で額を押さえた。す
まさか……。
「よう実の世界に……転生? いや、憑依か……?」
しかもよりによって山内春樹。
最悪だ。
こいつ、将来的に退学になるキャラじゃねぇか。
嘘つきで、空気も読めなくて、頭も悪い。おまけに女子への距離感も終わってる。原作知識がある俺からすれば、かなりのハズレ枠だった。
「なんでよりによって山内なんだよ……」
俺はため息を吐きながら、ゆっくりとベッドから身体を起こした。
辺りを見渡す。
消毒液の匂い。白いカーテン。規則的な電子音。
「病院、か……」
そうだ。思い出した。
山内春樹は家の階段から落ちて頭を打ったんだった。
……いや、その衝撃で中身が俺になったのか?
考えても答えは出ない。
とりあえず、ベッド横にあるナースコールのスイッチを押す。
少しして看護師がやって来た。
「気が付きましたか!? 今、ご両親を呼びますね!」
両親、か……。
憑依してから初対面だな。
少し緊張する。
前世では、もう親はいなかった。
その事を思い出すと、自然と別の記憶まで蘇ってきた。
嫁。
息子。
娘。
家族と過ごした日々。
もう二度と会えない人達。
「っ……」
気付けば涙が溢れていた。
静かに泣いていると、病室の扉が勢いよく開く。
「春樹!!」
「大丈夫なの!?」
夜中だというのに、両親が駆け付けてきた。
母親は涙目で、父親も心底安心したような顔をしている。
……なんて優しい人達なんだ。
こんなにも息子を心配してくれる親なのに。
なんで山内春樹は、あんな性格になったんだろうな。
平気で嘘をつく。
努力もしない。
勉強も運動もダメ。
原作では完全に三枚目扱いだった。
だが――。
「……せっかく人生やり直せるなら」
俺は小さく呟く。
「憑依したんだから、好きなように生きてみよ」
――――――
それから数日後。
気付けば俺は退院し、山内家へ戻っていた。
「春樹、無理しないのよ?」
「何かあったらすぐ言えよ」
両親の言葉に軽く頷き、自分の部屋へ向かう。
そして扉を開けた瞬間――。
「っっっ!?」
とんでもない悪臭が鼻を突き刺した。
「くっさ!?」
思わず口元を押さえる。
「……これは酷いな」
思わず苦笑いが漏れる。
「終わってる……」
山内春樹の記憶を引き継いでいるせいで、この部屋がどうしてこうなったのか理解できてしまうのが余計につらい。
俺は頭を抱えた。
「こんな環境じゃ、人生終わるのも当然だろ……」
だが同時に、俺の中には別の感情も芽生えていた。
——まだ、間に合う。
山内春樹は確かに問題児だ。頭も悪いし、空気も読めない。調子に乗りやすく、簡単に人を裏切る。
その結果、原作では退学へ一直線。
だが今の中身は俺だ。
前世で家族を持ち、社会人として生きてきた記憶がある。失敗も後悔も知っている。
「だったら……変えられるかもしれない」
俺は窓を開けた。
春の冷たい夜風が一気に流れ込み、部屋の淀んだ空気を押し出していく。
そしてゴミ袋を手に取った。
「……まずは掃除だな」
どんな人生を送るにしても、このゴミ部屋から始めなければならないらしい。
前世で家族を持っていた頃を思い出す。
嫁によく言われていた。
『部屋が汚いと心も荒むよ?』
その時は適当に流していたが、今ならよく分かる。
こんな部屋にいたら思考まで腐る。
数時間後。
汗だくになりながら掃除を終えた俺は、見違えるほど綺麗になった部屋を見回していた。
「……よし」
床が見えている。
それだけで感動だった。
せっかく与えられた二度目の人生だ。 しかもここは『ようこそ実力至上主義の教室へ』の世界。
原作知識がある以上、使わない手はない。
「まずは退学回避、それから綾小路との関係作り……いや、その前に自分を変えないとな」
鏡の前に立つ。
丸い顔。 締まりのない体。 猫背。 お世辞にも格好いいとは言えない。
だが、まだ入学前だ。
二週間あれば多少は変えられる。
俺はメモ帳を取り出し、メモを開いた。
・毎日ランニング
・筋トレ
・基礎勉強の復習
・コミュ力改善
・嘘をつかない
最後の項目を書いた時、少しだけ胸が痛んだ。
山内春樹は、嘘で自分を大きく見せようとしていた。 認められたかったのだろう。
だが不思議と嫌ではなかった。
前世では、家族を残して死んでしまった。
何もできなかった。
後悔だけが残った。
だからこそ。
「今度はちゃんと生きる」
俺は静かに拳を握る。
そして翌朝から、山内春樹改造計画が始まった。
俺は強く呟いた。
まだ日が昇りきる前に目を覚ました俺は、ジャージに着替えて外へ出た。
春の朝は少し肌寒い。
住宅街をゆっくり走り始めると、すぐに息が切れた。
「はぁ……っ、くそ……体力なさすぎだろ……!」
山内の体は想像以上に酷かった。
だが、不思議と嫌じゃない。
前世では仕事に追われ、家庭を支えるだけで精一杯だった。 自分のために努力する時間なんて、ほとんど無かった。
だからこそ、今は少し楽しい。
汗を流しながら走っていると、公園のベンチで休憩している老人が声を掛けてきた。
「坊主、朝から頑張るねぇ」
「……まあ、変わりたいんで」
「ほぉ」
老人は笑った。
「人間、本気で変わろうと思った時が一番強い。頑張んな」
その言葉は、不思議と胸に響いた。
家へ戻る頃には足がガクガクだったが、心は少し軽くなっていた。
シャワーを浴び、朝食を食べた後は勉強だ。
教科書を開く。
幸い、前世の知識のおかげで理解力はそこそこある。
だが数秒後、眉をひそめる。
「……なんだこれ?」
教科書に載っている歴史人物の名前が、俺の知っているものと微妙に違う。
織田信長が存在しない。
代わりに“九条信玄”という武将が戦国時代を統一しかけたという記述がある。
「やっぱり別世界か……」
原作知識だけに頼るのは危険だな。
俺はそう判断し、基礎から学び直す事にした。
政治体制経済史も少しずつズレている。
どうやらこの世界は、完全に俺の元いた世界と同じではないらしい。
「チート知識で無双……とはいかないか」
俺はため息を吐いた。
だが逆に言えば、今の俺には“人生経験”がある。
それは山内春樹最大の弱点を補える武器だった。
そして、その夜。
ベッドに横になった俺は天井を見つめながら考える。
「まずは退学回避」
ようこそ実力至上主義の教室へ。
この学校では、油断した人間から落ちていく。
特に山内春樹は、原作では感情に流され、利用され、最後にはクラスから切り捨てられた。
だが。
「同じ未来になるとは限らない」
でも、不安しかない
俺はカレンダーを確認した。
高度育成高等学校入学まで——あと十三日。
残りが、少ない
憑依するのが、
あと三年早ければBクラス
もしくは、Cクラスだったら良かったのに…
思いながら眠りに着いた
始めての小説なので、読みにくいと、思いますが、よろしくお願いします