フンババ異端叙事詩 ~石板に刻まれなかった者達~   作:ヒツジ(ラム肉

15 / 23
第十五話 神々の祝福

『偉大なるシャマシュ神は英雄達を祝福した。

 

戦神は武勇を授けた。

 

風神は道を開いた。

 

こうして神々はギルガメッシュを助けた。』

 

――ウルク出土石板断片・現代語訳

 

「来たか」

 

フンババは石板を閉じた。

 

長老が酒を飲む。

 

「何がじゃ」

 

「神々じゃ」

 

「ああ」

 

沈黙。

 

「今年は豊作かの」

 

「雨が多い」

 

「なら大丈夫じゃろ」

 

実に森の民らしい会話だった。

 

秋。

 

杉の森。

 

空は高い。

 

風も穏やか。

 

木材運搬隊が帰ってくる季節だった。

 

その日も。

 

荷車が何台も森へ入ってくる。

 

塩。

 

布。

 

青銅工具。

 

酒。

 

交易品が並ぶ。

 

そして。

 

石板も来る。

 

最近はこれも定番だった。

 

「長」

 

商人が笑っている。

 

「なんじゃ」

 

「神々の祝福です」

 

「そうか」

 

「そうか?」

 

「毎回じゃ」

 

フンババは石板を受け取る。

 

読む。

 

そして。

 

また読む。

 

さらに読む。

 

『太陽神シャマシュは加護を授けた』

 

『風神は英雄達を導いた』

 

『戦神は武勇を与えた』

 

『神々は勝利を望んだ』

 

沈黙。

 

長老へ渡す。

 

長老も読む。

 

沈黙。

 

そして。

 

二人同時に言った。

 

「ラルサじゃな」

 

「ラルサじゃな」

 

商人が吹き出した。

 

若者達は意味が分からない。

 

「何です?」

 

フンババは説明する。

 

「シャマシュ神」

 

「うむ」

 

「ラルサの守護神じゃ」

 

「うむ」

 

「つまり」

 

沈黙。

 

「ラルサ兵じゃ」

 

若者達が固まる。

 

「え?」

 

「え?」

 

「神では」

 

「神じゃ」

 

「兵では」

 

「兵じゃ」

 

さらに混乱した。

 

長老が笑う。

 

「神官の書く石板じゃ」

 

酒を飲む。

 

「兵百人来ました」

 

「では夢が無い」

 

「確かに」

 

「だから神の祝福になる」

 

会場が妙に納得した。

 

フンババは続きを読む。

 

『風神は進軍路を開いた』

 

「北の山岳民じゃな」

 

「北の山岳民じゃな」

 

長老も頷く。

 

「あいつら道案内得意じゃし」

 

「確かに風神じゃ」

 

酒が進む。

 

『戦神は武勇を授けた』

 

「ウマム部族か」

 

「ウマム部族じゃな」

 

「武勇しかない」

 

「武勇しかない」

 

全員頷いた。

 

非常に分かりやすかった。

 

若者達は驚いている。

 

「つまり」

 

「神々の祝福とは」

 

沈黙。

 

フンババは答える。

 

「援軍じゃ」

 

即答だった。

 

静かになる。

 

焚火の音だけ。

 

風。

 

杉。

 

そして。

 

皆少し考える。

 

援軍。

 

つまり。

 

本気。

 

今までは英雄譚だった。

 

若い王。

 

若い英雄。

 

名誉。

 

冒険。

 

そういう話だった。

 

だが違う。

 

都市が動いている。

 

神殿が動いている。

 

王達が動いている。

 

商人も動いている。

 

「大事になっとるな」

 

長老が呟く。

 

「なっとる」

 

フンババも頷く。

 

夜。

 

守護者の家。

 

古い契約書。

 

新しい石板。

 

両方並んでいる。

 

契約書には。

 

歴代王の印。

 

神殿の印。

 

部族連合の印。

 

そして。

 

石板には。

 

神々の祝福。

 

英雄達の遠征。

 

沈黙。

 

長い沈黙。

 

やがて。

 

フンババは酒を飲んだ。

 

苦い。

 

少しだけ。

 

嫌な予感がした。

 

昔。

 

契約を結んだ王達。

 

今。

 

遠征を望む王達。

 

同じ都市。

 

同じ神殿。

 

同じ神。

 

なのに。

 

話が違う。

 

「歳を取ったかの」

 

誰もいない部屋。

 

小さな声。

 

昔はもっと単純だった。

 

木を渡す。

 

塩を貰う。

 

酒を飲む。

 

それで終わりだった。

 

だが。

 

英雄達は別の物を求める。

 

名誉。

 

伝説。

 

永遠に残る名。

 

フンババには。

 

まだ少し理解できなかった。

 

風が吹く。

 

杉が鳴る。

 

遠いウルクでは。

 

遠征隊の編成が進んでいた。

 

神々の祝福と共に。

 

いや。

 

援軍と共に。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。