フンババ異端叙事詩 ~石板に刻まれなかった者達~   作:ヒツジ(ラム肉

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第六話 王と荒野の男

『ギルガメッシュは強かった。

 

エンキドゥもまた強かった。

 

二人は出会い、

 

そして争った。』

 

――ウルク出土石板断片・現代語訳

 

「争った」

 

フンババは石板を読む。

 

「争ったな」

 

長老が頷く。

 

「何故じゃ」

 

「強い者同士だからじゃろう」

 

沈黙。

 

「馬鹿者同士だからでは」

 

「それもある」

 

二人は頷いた。

 

非常に納得できる話だった。

 

旅立ちから一年。

 

森は変わらない。

 

杉は育つ。

 

川は流れる。

 

季節は巡る。

 

そして。

 

噂も届く。

 

「長」

 

商人が笑っていた。

 

嫌な笑顔だった。

 

「なんじゃ」

 

「例の若者です」

 

「ああ」

 

「王と喧嘩しました」

 

沈黙。

 

長老が酒を吹いた。

 

「王?」

 

「王です」

 

「本物か」

 

「本物です」

 

会場が静かになる。

 

「何故じゃ」

 

商人は肩をすくめた。

 

「そこまでは」

 

「そこが大事じゃろう」

 

「私もそう思います」

 

数日後。

 

別の商人が来る。

 

「長」

 

「なんじゃ」

 

「例の喧嘩ですが」

 

「分かったか」

 

「王宮の門番と揉めて」

 

「うむ」

 

「そのまま王と」

 

沈黙。

 

「馬鹿者」

 

即答だった。

 

さらに別の日。

 

三人目の商人。

 

「長」

 

「またか」

 

「またです」

 

「何じゃ」

 

「王と殴り合いです」

 

沈黙。

 

「殴ったのか」

 

「殴りました」

 

「殴られたか」

 

「殴られました」

 

「勝ったか」

 

「引き分けらしいです」

 

長い沈黙。

 

そして。

 

会場全員が同時に言った。

 

「本人じゃな」

 

間違いなかった。

 

その夜。

 

焚火。

 

酒。

 

長老達。

 

いつもの光景。

 

「王と喧嘩するか普通」

 

「せん」

 

「殴るか普通」

 

「せん」

 

「引き分けるか普通」

 

「せん」

 

沈黙。

 

全員が頷く。

 

やはりエンキドゥだった。

 

だが。

 

話はそこで終わらなかった。

 

次の交易隊。

 

新しい石板。

 

そこには。

 

こう刻まれていた。

 

『二人は互いを認め合った』

 

『友となった』

 

フンババは読む。

 

もう一度読む。

 

そして。

 

石板を置いた。

 

「友か」

 

小さく呟く。

 

昔。

 

エンキドゥには友が多かった。

 

だが。

 

本当に対等な者は少なかった。

 

強過ぎたからだ。

 

速過ぎたからだ。

 

馬鹿過ぎたからだ。

 

最後が一番大きい気もした。

 

「良かったな」

 

誰もいない夜。

 

フンババはそう言った。

 

王。

 

都市。

 

海。

 

旅。

 

全部見たかった。

 

全部知りたかった。

 

そして。

 

友も出来た。

 

願いは叶っている。

 

少しずつ。

 

確実に。

 

その頃。

 

遠い南。

 

ウルク。

 

王宮の屋上。

 

ギルガメッシュとエンキドゥが酒を飲んでいた。

 

夜風。

 

満月。

 

巨大都市の灯。

 

「お前は変な奴だな」

 

王が言う。

 

「お前もだ」

 

エンキドゥが笑う。

 

そして。

 

ふと。

 

南西を見る。

 

遥か彼方。

 

見えもしない森。

 

杉の森。

 

「故郷か」

 

ギルガメッシュが聞く。

 

沈黙。

 

エンキドゥは頷いた。

 

「そうだ」

 

「帰りたいか」

 

長い沈黙。

 

そして。

 

少し笑う。

 

「そのうちな」

 

だが。

 

その"そのうち"は。

 

英雄達の運命によって。

 

少しずつ遠ざかっていく。

 

まだ誰も知らない。

 

第一章 森を出た馬鹿者 完

 

次の石板は。

 

英雄譚になる。

 

そして。

 

悲劇への道も始まる。

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