モンスターヒーローアカデミア   作:宮ノ入蓮慈

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11話

USJでの一件から数日が経ち、ようやく日常が戻りつつあった。とはいえ、教室の空気は以前とは少し違っていた。

 

「なぁなぁ、北風! お前ほんとにあの脳無ってやつと殴り合ったのかよ!」

 

朝の教室に入るなり、上鳴電気が興奮気味に駆け寄ってきた。周囲のクラスメイトたちも、こちらの様子を窺うようにちらちらと視線を送ってくる。

 

「殴り合った、というほど格好いいものじゃないけどな。正直、最後はかなり追い詰められてた」

 

「いやいや、それでも十分すごいよ! オールマイトが来るまで持ちこたえたんだから!」

 

尾白猿夫がそう言いながら、興奮した様子で頷いている。教室のあちこちから、似たような反応が返ってきた。あの日の一件を経て、クラスの中での自分の立ち位置が、少しだけ変わったのを感じる。

 

「けっ、脳無と互角って言ったって、結局オールマイトに助けられたんだろ」

 

そう憎まれ口を叩いてきたのは、爆豪だった。だがその声色には、以前のような純粋な見下しではなく、どこか苛立ちの混じった響きがあった。

 

「そうだな。あの化け物には、まだ全然力が及ばなかった」

 

素直にそう答えると、爆豪は意外そうに片眉を上げたが、それ以上は何も言わずに鼻を鳴らして席に着いた。

 

「北風くん、あの状況で臆さず前に出るというのは、なかなかできることではない」

 

きっちりとした所作でそう告げてきたのは、飯田天哉だった。眼鏡の奥の目を細め、感心したように頷いている。

 

「クラス委員としても、君の行動力にはすごい思う。だけど、無茶な単独行動はやめるんだ」

 

「……肝に銘じておく」

 

真面目な口調で釘を刺され、俺は思わず苦笑した。すると、その隣から蛙吹梅雨がひょこりと顔を覗かせる。

 

「けろ。北風くんって、意外と無鉄砲なところあるよね。危ないことするなら、ちゃんと言ってね」

 

「善処する」

 

「その返事、絶対忘れそう」

 

淡々とした口調で的確に突っ込まれ、周囲からくすくすと笑いが漏れた。

 

「おいおい、北風! お前、脳無相手にビビらなかったのか? 俺だったら足がすくんじまうかもしれねぇ」

 

がっしりとした体格の切島鋭児太が、豪快な笑みを浮かべながら肩を叩いてくる。

 

「正直、最初は怖かった。だけど、目の前で誰かが傷つくのを見過ごす方が、もっと嫌だっただけだ」

 

「――かっこいいこと言うじゃねぇか! 男らしいぜ、それ!」

 

切島は感激した様子で何度も頷き、隣にいた麗日も控えめながら笑顔で頷いていた。

 

「北風くん、爆豪くんと戦った時もそうだったけど、本当に強いよね。私も、もっと頑張らなきゃって思ったよ」

 

「麗日さんの透明化を見破る判断力も、大したものだったと思うけどな」

 

そう返すと、麗日は少し照れたように微笑んだ。

 

「北風くん、みんなに囲まれて大変だね」

 

隣の席から、葉隠さんがくすくすと笑いながら声をかけてくる。

 

「葉隠さんだって、透明化で核を奪取した実力者だって話題になってたぞ」

 

「えへへ、まぁね」

 

照れくさそうに頭の後ろに手をやる仕草が伝わってくる。そんなやり取りをしていると、教室の後ろの方から緑谷久が控えめに近づいてきた。

 

「あ、あの、北風くん。少し聞いてもいいかな……。脳無と戦った時、どうやって攻撃を捌いてたのか、教えてもらえたりする……?」

 

熱心にメモ帳らしきものを構える緑谷の様子に、俺は思わず苦笑した。

 

「別に構わないけど、ノート取るほどのことでもないと思うぞ」

 

「い、いやいや! こういう情報の積み重ねが大事なんだよ! 例えば個性の出力調整とか、相手の攻撃パターンの見極め方とか……」

 

早口でまくし立てる緑谷の勢いに気圧されながらも、俺はどこか懐かしいような気持ちになった。誰かに自分の戦いを興味深く聞いてもらう、というのは、今までの人生ではあまりない感覚だった。

 

そうして質問攻めに答えているうちに、始業のチャイムが鳴り響いた。生徒たちが慌ただしく席に着く中、教室の扉が開いて相澤先生が姿を現した。

 

「先生! USJでの怪我、もう大丈夫なんですか!?」

 

心配そうに尋ねたのは、麗日だった。先生は包帯の巻かれた腕を軽く持ち上げながら、いつも通りの淡白な調子で答える。

 

「問題ない。それより、伝えることがある」

 

そう言うと、先生は黒板に大きな文字で何かを書き始めた。教室の空気が、一瞬にして張り詰める。

 

『体育祭』

 

「今年もこの時期がやってきた。雄英名物、全校生徒参加の体育祭だ」

 

「た、体育祭って……今年もやるの!?」

 

誰かがそう声を上げると、教室がにわかにざわめき始めた。

 

「その通りだ。全国のスカウトマンたちが、次世代のヒーローを見極めるために食い入るように見ている。ヒーローとしての第一歩を、自分の力で証明する場になる」

 

淡々と告げる相澤先生の言葉に、俺は思わず息を呑んだ。

 

――ここからが、また新たな正念場になる。

 

隣を見れば、葉隠さんも拳を軽く握りしめ、真剣な表情でこちらを見つめていた。

 

「北風くん、負けないよ」

 

「ああ。俺もだ」

 

小さくそう言葉を交わすと、教室のざわめきの中、俺たちは互いに小さく笑みを浮かべた。

 

USJでの死闘を経て、俺たちの日常はまた一歩、新しい段階へと進もうとしていた。

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