「高坂ぁ!失望したぞぉ!あたしゃあ!!」
「ば、馬鹿、声がでけーぞ!」
わざわざ、筐体から身を乗り出すと、櫻井のやつは俺と黒猫に指さしてながら大声で話しかけてくる。って、試合始まってんじゃねーか!慌てて操作すると、相手の機体に向けて、ビームチャクラを飛ばす作業に入る。
あいつのマスターガンダムは接近戦が得意な格闘機、それにしたって、俺の方ばっかり狙ってくる…!黒猫は…なんだ、CPUと戯れていて援護してくれる気配が全くねぇ!?あ、くそ、格闘食らっちまった、はえーな攻撃の速度が。
「あのー、黒猫さん、コンボ食らってんすけど…」
「そう」
攻撃をカット(相手のコンボを阻止)してくれない黒猫……なんか……拗ねてないか、こいつ?
櫻井の相方となったCPUへぶち込まれる容赦のないコンボの数々には心なしか殺意がこもっているような…。
「くそー、こら櫻井!こちとらまだ始めたての初心者なんだぞ!」
「うるさぁい!何なんだよぉ!そのゴスロリ全開の痛々しい、彼女はぁああ!!リア充爆発しろ!!」
「はぁ、お前何言ってんの。黒猫とは、別にそんな関係じゃないっつの!」
「へ?」
あ、コンボ止まった、一気になんか、動きもぎこちなくなったような…これなら勝てそうだ。相手に丁寧に射撃を当てると、こちらもお返しとばかりに格闘を決めていく。そして、相手の機体を倒し切ったところで早くもWINの文字とリザルト画面…、ど、どうやら黒猫がCPUをぼこぼこにしていたおかげで、相手のコストを削り切っていたらしい。
「あっははは、妹のコスプレ衣装を作るために?あははははは。で、今度はディズ○ニー?あはははは!!」
「笑いすぎだっつーの、ったく…」
対戦を終えて、俺たち3人はゲーセンの隣にあるワクドナルドへとやってきていた。
女の子2人を引きつれてというと両手に花のような気がするが、相手はクマのパジャマに、ゴスロリコスプレ衣装……周りの冷たい目線が突き刺さる。まぁ、慣れってのは、恐ろしいもんで、そんなものは気にしなくなってきていたが……。
「はぁ、笑った。相変わらずシスコンだなぁ、高坂は」
「お前も相変わらずめちゃくちゃだよ、櫻井…」
絡んできたときは怒り、黒猫との出会いのエピソードを語っている間、こいつ、はじめは真面目な顔になり、終盤に差し掛かるにつれて、このように、抱腹絶倒、腹を抱えて大笑いだ。隣に座ってる黒猫のやつは毒舌を吐くようなこともなく、黙ってシェークをチューチュー飲んでいる。
黒猫は黒猫で、なんかさっきから機嫌が悪いんだよなぁ。
「で、ようやくお前の紹介に入れるんだが…」
「ちーっす、あたしは櫻井秋美、よろしくねー、黒猫氏」
「随分と気安いわね……まぁいいわ。それで、彼とはどんな関係?」
「え?…え~、気になる?」
「……別に」
「そうか~気になるかぁ!あたしとこいつは、元彼と元カノ」
「「ぶふぉお」」
けほっけほ、何言ってんだ!!?見ろ、珍しく黒猫まで吹きだしてるじゃねーか。
「全然、ちげーよ!?俺とお前は中学時代のクラスメイト!」
「あっはははは、いやぁ、やっぱ良いツッコミしてんね高坂は」
「ったく、そういうお前はボケボケだっつうの」
「えー、あたし今の学校じゃ割と優等生キャラで通してんだから」
「はぁお前が?無理無理、明らかにギャグ要員じゃん。お前」
「なんだとー!……っぷ」
「「ははははははは!」」
「……」
…なんか懐かしい気分だ。こいつとは中学時代、色々あったけれど……最後にはこいつの転校という形で離ればなれになってしまって……。俺の生き方を変えるような事件もあったが…その辺はまぁ、どうでもいいだろう。って、そうだ!
「なぁ、黒猫。櫻井に入ってもらえばいいんじゃないか?」
「なになに?なんのこと?」
「ガンダムの大会に出るっつー話。3人まであと一人足りなかったろ?こいつは、まぁ、性格はこの通りで見かけも、なんだ、こんな残念だが「うぉい!誰が残念じゃごらぁ!」……まぁ、良い奴だし、中学時代、俺が連ザをやってたのはこいつに…「駄目よ」え?」
「駄目、といったのよ、聞こえなかったかしら」
ポテトを手に持ち、それを上下に揺らしながら俺にそう告げる黒猫。予想外の一言に思わず固まってしまうと黒猫は更に言葉をつづける。
「少し戯れただけでわかったわ。彼女はプレイヤ―としてもナビゲーターとしても不合格……」
「やっぱりかぁ」
まぁ、こいつ、はじめこそ俺もコンボを食らってピンチになってしまったが、そのあとも何度か再戦してきて、黒猫は言わずもがな、冷静になれば俺でさえ圧勝してしまうほどの…ゲーム音痴。弱すぎるのだ。
「なんだよぉ!って、高坂ぁ、もう秋美ちゃんのプッシュは終わりなのかよぉ!」
「すまん櫻井、俺にはどうすることもできん…」
「まだだぁ!あきらめたらそこで試合終了だよ!!
ほら、チームに一人、あたしみたいなポジションも必要じゃん?」
「…汚れ役かしら?」
「ちっがああう!!ムードメーカー!マスコット!超絶可愛いチームのアイドル!!」
「家に飾ってある木彫りのクマ的な?」
「テディ!せめてそこはテディベア!!」
「まぁ、兄さんがチームの3人目を気にかけてくれるのはありがたいけど……「無視!?最後は放置プレイかごらあああ」…どうしても私たちの聖堕天同盟✝ブラッティトリニティ✝に引き入れたい人物がいるの」
待て、なんだその禍々しいチーム名は!?いつの間にそんなわけのわからんチーム名がついていたんだ!?って、引き入れたい人物?知り合いじゃないってことか?
「誰なんだ?そいつ」
「それは……」
「本当に来るのか?」
「ええ、間違いないわ、漆黒が黄昏を侵略するとき、マナの導きによって彼女は深淵に誘われる……」
「えーっと、つまりどういうことだ?」
「…つまり、夕暮れのこの時間に、よく来るって、ことであってるよね黒猫氏?」
「…ええ、まぁ」
俺と黒猫はそろって「あたし、あたしもいるってばぁ!」…と櫻井の3人はゲームセンターのガンダムコーナーの陰に潜むと、その目当ての人物が来るのをじっと待った。あの黒猫が目をかけている人物だ。相当すげーやつなのは間違いなさそうだが…
「っし…来たわ」
「おう、って…ん?あいつ」
「ああ、あの人ならあたしも何回かゲーセンで見かけたことあるよ」
すさまじく高い身長、ぐるぐるメガネに秋葉原のオタクくさいファッション、ポスターのはみ出たリュックを背中から下ろし、姿勢よく筐体の前に座ったそいつは、大阪でブリジットを助けてくれた……
「問題は、どうやって声をかけるかね、いきなりチームになんて…って、ちょっと、兄さん?」
「よぉ!」
「おろ?…おぉ、確かブリジット氏の…」
「兄の高坂京介だ、大阪では妹が世話になったな…」
「いえいえ、拙者、当然のことをしたまでででござるよ!それよりも、いやぁ拙者驚きましたぞ、まさかブリジット氏がメルルに出てくるあのアルファオメガのコスプレイヤーだったなんて!」
「え?見てたのか?」
「えぇ、拙者も何を隠そうあの時大阪にいたのは、メルフェスとガンダム展を見に行くためでしたからなぁ。いやぁ、それにしても、あの時のブリジット氏は本当に可愛かったでござるなぁ」
「なんだよ、じゃあ一緒の会場にいたのか、声かけてくれたらよかったのに」
「ふむ、それもそうでござったな、あっはっは」
頭を掻いて笑う沙織、しかし、過去の俺からは考えられない積極さだ。こいつがきっと初めて会うやつなら話が違うんだろうが、良い奴だってのはもう知ってるし。
それに、思い出した。沙織・バジーナってのは、このガンダムに出てくるキャラクターから取っていたのか。
「……ところで、京介氏、先ほどからこちらを凝視しておられるあちらの方々は…」
「ん、あぁ…」
ここから、先ほどまで隠れていた柱の方を見て見ると、なるほど、パジャマとゴスロリが柱から頭だけはみ出してこちらを見ているのが丸見えだった。
「おぉ、あなたが噂の✟千葉(せんよう)の堕天聖✟…黒猫氏でござるか!?
いやぁお噂は兼がね。」
「……噂というのはたまには役に立つわね。貴方のことも知っていたわ、沙織バジーナ大尉?再現魔眼で見たあなたの百式…キャラ愛が伝わってきて見ているこちらまで愉しめたわ」
「はっはっは、いやぁお恥ずかしい。そして、そちらのクマ氏が……」
「そうそう、有名人は辛いなー、自己紹介いらずだもんねー」
「…誰でござるか?」
「ズコー!!し、知らないの!?この櫻井秋美を!?」
「ははは、冗談でござる、なんでも、乱入されたと思ったら勝っていた、何が言っているがわからないだろうが、俺もわからない……という恐ろしく弱いクマのパジャマをきたプレイヤーがいることは拙者も噂で聞き及んでいるでござるゆえ」
「はぁよかった。5年もゲーセン通ってて知られてないとか悲しすぎるわ」
いや、俺としてはお前の思考回路の方が悲しすぎるんだが……その噂はどうなんだよ。
「ところで、お三方、拙者に用というのは…」
「えぇ、そのことなのだけれど、貴方、私たちの聖堕天同盟~ブラッティトリニティ~に入ってみる気はないかしら?」
「ブラ…?」
「ええっとだな、今度のガンダムの大会に一緒に出ないか?ってことだ」
「おぉ、そうでござったか。確かに、そろそろこのゲームセンターで大会が……しかし今度の大会には多分…うーん」
腕を組んで考え始める沙織。俺は黒猫にアイコンタクトを送ってみると、向こうはふるふると首を振るった。無理そうってことか。
「もう誰かとチームを組んでるのか?なら無理にとは…」
「…いえ……拙者も…是非、参加したいでござるよ」
「本当か!?」
「はい。いやぁ、出たいとは思っておったのですが、拙者には相方も居なかったゆえ…こちらこそ、よろしくお願いしますぞ、京介氏、黒猫氏、クマ氏」
「なんか、あたし語尾にクマー!とかつけてそうな名前になってんですけどー!」
「煩いわね。よろしく、バジーナ大尉」
「ふふ、拙者のことは沙織と呼んでくだされ」
「よろしくな、沙織」
ふぅ…いやぁ、今日は色々あったな…本当。
あれから沙織を含めて4人でシャッフルといわれるランダムでチームを決める試合をしたんだが、いやぁ、櫻井がいるチームが負けるんで試合にならなかったな。
いや、黒猫と組んだときは唯一負けそうになったっけか、俺が組んだ沙織も、俺に合わせるのが上手いっていうか、非常に戦いやすかったおかげでなんとか勝ったんだった。沙織はゲームが上手かった、前に出るよりサポートしているときに輝くかんじがしたな。それに、機体についての知識がすさまじい。色々と勉強になったが、まぁ、語り始めたら関係ないガンダムうん蓄が始まるのが玉に瑕……。しっかし、なんて言うか今日は一日……
……楽しかったなぁ。
「ただいまー」
玄関のドアを開けると、すぐさま、金色のポニーテールを揺らし、妹のブリジットのやつが走り寄ってきた。なんだ、と思う間もなく、くんくんと、俺の着ていたシャツの匂いをはじめ。
「最近、お兄ちゃんから、たばこと香水のにおいがします…」
「え?」
言われて自分の匂いを嗅いでみるが、なるほど、確かにたばこの匂いだ、ゲーセンでの匂いが移ったのだろう。それに、香水っていうのは…
「えっと、臭いか?」
「う、ううん。なんでかなぁって」
「あぁ、それは…いや、ま、気にすんなって、ちょっと友達とたばこ臭い喫茶店行ってただけだからよ」
あぶねぇあぶねぇ。ブリジットを通して親父たちにゲーセン通いがばれるのはまずい気がする。ブリジットには甘いが俺には厳しい親父だからな、仮に、お前のことなど知らんと言われるならそれで良いが、あんな所にはいくなと、小遣いに変な制約がついたらかなわんし…。適当にごまかすのが最善だろうと思い、手をひらひらふってブリジットの隣を通り過ぎる。
「わた……いと」
「ん?なんかいったか?」
「ううん!おにいちゃん、なにかしてあそぼ!」
「おう、いいぞ!何するか―、そういや、黒猫に借りたゲームがあったな、それやろうぜ」