俺の妹がコスプレに目覚めるわけがない!   作:雨あられ

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第11話

俺は、妹は頭の良いやつだと思っていたよ。

 

そりゃ、大好きな魔法少女に憧れる、なんて年相応の子供っぽさはあるものの、それ以外の面においては、バイリンガルな上、非の打ちどころのない学業成績と生活態度を持つ優等生だと思っていた。

 

それが!

 

「……じー」

 

ちらりと、駐車されている車のサイドミラーで後方を確認すると、おもちゃのサングラスにツバ付きの帽子、おまけにこんなに暑い日に厚手のジャンパーまで着て俺の後ろを尾行している……

そんな、そんなバレバレな変装してくる残念なやつだとは思わなかった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も黒猫たちとゲーセンで待ち合わせをしていたのだが……どういうわけだか、家から妹に下手な尾行でつけられているようだった。

 

何かの遊びかとも思ったが、明らかに、俺に見つからずにつけている……「つもり」のブリジットを見るに、どうやら、その類ではないようだが……。

 

「じー……」

 

しかし、どうしたもんかね。

このままゲーセンまで行ったところで、卑しいことなんてのはないが……いやまてよ?

万が一、ブリジットが親父たちに、俺がゲーセンに通っていると告げ口をすれば、俺には厳しい親父のことだ、ゲームに小遣いを使うなんて下らんと言われて月の小遣いがなくなってしまうということも想像に容易い。ここは、ひとつ……撒くか。

 

「よし!」

 

「なぁにが、よし!なんだヨ」

 

「うへぁ!!って、お前……加奈子ッ!?」

 

「へっへっへ、セーンセ!何やってんの?」

 

急に後ろから声をかけてきたと思ったら、俺の腕に手を回してきた、赤いツインテールにロリボディ。ちんちくりんの代名詞、こと、来栖加奈子……。元、俺の家庭教師の教え子様である。それにしても、こいつ、あんまその、柔らかいアレがないな……。

 

「加奈子?どうしたの急に走り出して」

 

「なになに~、誰、そい……つ。あ」

 

また誰か来たと顔を向けると、目の前にいるのはギャル全開のメルルオタク変態女桐乃!……と、あれは!!?

 

ぱっちりとした黒い瞳、流れるような美しい黒髪、すらりとしたスレンダーながらも細すぎないプロポーション……あの時の……天使(エンゼル)!!

ど、どういう組み合わせだ。それに桐乃のやつ、なんつー顔してやがるんだ。目がほとんど点になってやがるぞ。仕方がない、ここは俺がびしっと挨拶して……

 

「おう、きり……」

 

「ふんっ!!」

 

「ぎゃぁあああ!!」

 

なんだあああ!?目が、目があああぁぁ!!?

 

「って、てめーなにしやがる!!?」

 

「ちょ、ちょっとあんた……こっち!」「お、おい」「桐乃……?」

 

信じられるかこいつ!出合い頭に目つぶしくらわすなんて!っていうか、なんだよ急に。手を握られたまま数歩後ろまで引きづられるようにして連れられると俺の背中で、ちょうど加奈子たちから見えない角度までやってくる。

 

「あ、あんたわかってんでしょうね!」

 

ひそひそと、声は抑えているのにどこか迫力のある声で桐乃が怒鳴る。

 

「あん?何がだよ」

 

「何って、決まってんでしょうが!加奈子の知り合いか何か?わかんないけど、あたしの趣味の事喋ったら…………殺すから」

 

ひぃ!?

肩に爪を食い込ませ、耳元でそんなドスの聞いた声を出す桐乃……。こ、こいつの趣味って?確か、あぁ、メルルの……それは、確かにお前の年じゃ言いづらいかもしれねぇけど……。いや、それ以上にこいつ、まさかオタクってこと、こいつらに……

 

「お、おい、桐乃!なんだよおまえ、加奈子のセンセと知り合いだったのかヨ?」

 

「そうだよ桐乃。この人は、誰?桐乃の、ナニ?」

 

ゾクリ

 

と、背中に冷や汗がおちていく。あれ、なんだ、この感情は、恐怖?あるいは、快感?

黒髪の天使(エンゼル)に冷たい目線を向けられると、体中に緊張が走る……

 

「えっと、こいつは……その、あの……そう!あたしの兄貴!兄貴なのよ!」

 

そういって、人差し指を立てる桐乃……そうそう、俺はこいつの兄貴……って、はぁぁぁぁあ!?

 

「「えぇぇぇぇっっ!!?」」

 

2人が驚愕の声をあげる中、俺も驚きの声を抑えるのに必死だった。なんで、俺がお前の兄貴!?っていうかなんだその言い訳!?

俺の驚愕をそっちのけに、話は進んでいく。

 

「き、桐乃、そんなこと一言も……」

 

「あ、あ~、その、言わなかったっけ?あはは」

 

あはは、じゃねーよ!今作ったからだろ!その設定!

俺とこいつが兄妹などという事実は一切ない。あるとしても、こんなとんでもない妹をもつのは絶対にごめんである。

 

なんせこいつは、ブリジットとも、何回か遊んでくれたけれど……。

 

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おふくろがいない日にブリジットが桐乃の持ってきたゲームで遊んでいた時のことだ。

 

『桐乃おねーちゃんにまたかった~』

 

『ふひひ、まけちゃっちゃ~。ぶりじっとたんつよしゅぎ~も~うふふ~』

 

気持ち悪いくらいにやけ面を浮かべて遊んでいたまでは、まぁ良い。俺も実際、そこまでは意外と面倒見のいいやつなのかもなって、思い直してたところだ。

 

『じゃ~、ブリジットちゃん!そろそろお風呂、お風呂一緒に入ろっか?はぁはぁ』

 

『うん!いいよ!』

 

『うわああ、生アルちゃんとおふろきたああ』『何言ってやがるこの変態おんなああああ!?』

 

完全にアウト!事案一歩手前。

こんな変態女にはブリジットを指一本触れさせてはいけないと確信した瞬間だった。

 

 

 

 

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「改めまして、こんにちは。桐乃のお兄さん。私、桐乃の「親友」の新垣あやせって言います」

 

「へぇ、桐乃の……俺はこ……んん、あ、兄の京介、です。よろしく」

 

「すごい偶然だね~。まさか、桐乃のお兄さんが加奈子家庭教師だったなんて!」

 

「そ、ソウダネー」

 

「桐乃って、アニキ居たのかよ!へ~、あんま似てね」

 

へ~じゃないだろバ加奈子。なに、マジもんの兄貴だと信じてるんだよ。俺とこいつが兄妹だなんてふざけた話は、別世界線レベルでもやめてくれ。

こいつもこいつ、なんで俺を兄貴なんかに……もっとましな言い訳があっただろうに。

 

「センセはここで、何やってたんだよ」

 

「ん?まぁ、ちょっとブラブラな」

 

チラッと、後ろを確認すると、何やら変装したブリジットらしき影がわなわなと震えている。ここからじゃよく見えないが、なんか様子がおかしいぞ。

 

「ふぅん……」

 

「な、なんだよ」

 

「べっつに~……ならさ~、加奈子がお茶してやろっか?」

 

「は!?」

 

「だ~か~らぁ~!加奈子がセンセとデートしてやんよ」

 

嬉しいだろ~と、満面の笑みを浮かべていう加奈子。こいつ、な、なに急に「だめ!!」

 

「「「え?」」」

 

声がした方を見ると、そこにいたのは意外にも桐乃のやつだった。

そう叫んだあと、あいつははっとした顔をして。

 

「ほ、ほら、今日は噂の喫茶に3人で行くって話じゃん。こんな冴えない兄貴なんかと一緒にいてもさ」

 

冴えない兄貴で悪かったな。

 

「あん?……まぁ、確かに先に約束してたのは桐乃たちの方だけど……ん~、ごめんセンセ!やっぱいまのなし!」

 

「あっそう」

 

「あぁ?っち。つーかさ、お前マジで加奈子のカテキョまたやれよな~!お前いなくなってから授業いまいちわかんなくなってきたしさ~」

 

もともとわかってきてたみたいな言い方をするな。とはいえ、そこまで頼られると正直、まんざらでもない。

 

「まぁ。なんだ。近いうちにまたみてやるよ。「妹の」友達だしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待ってください」

 

桐乃たちとの立ち話も終わって別れたその直後、いつかと似たようなシチュエーションで声がかけられる。この声は……

 

「あの、お兄さん。私たちどこかで、お会いしたこと、ありませんか?」

 

「え……!?」

 

ドクンと、鼓動の音が高くなったのが分かる。

ま、まさか、て、天使(あやせちゃん)の方が俺のことを覚えてくれていたなんて!

 

「あ、あの、実は、この前夕方に財布を拾ってもらって……」

 

「お財布……?……あぁ!あの時!」「そうそう!あの時!」

 

覚えていてくれたのか!

心の中のボルテージがぐんぐんと上がっていく。

 

「あの時はありがとうな。助かったよ」

 

「いえ、当然のことをしただけですよ」

 

この女神のごとき笑顔!こんな美人が覚えていてくれて嬉しい。それだけで胸がいっぱいだったというのに、あやせちゃんはあろうことか自身の携帯電話を取り出し……。

 

「せっかくですから、連絡先、交換しませんか?」

 

「え……!?」

 

俺はその日、神に感謝した。今日この日、生まれてきたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな~ふふん♪ふん~♪ふ~んふふふふん♪」

 

ポケットに入った携帯電話を触りながらご機嫌で歩く。今日はなんていうか、最高についてる!!桐乃の兄貴(仮)になってしまったのは最悪だが、あのあやせちゃん(天使)となんと連絡先を交換してしまったのだ!これが、嬉しくないわけがない。

 

「おや、京介氏!なにやらご機嫌でござるな~」

 

「おう、沙織。へへ、まぁな。黒猫と櫻井は?」

 

ゲームセンターについた俺を早速出迎えてくれたのはいつものようにチェックにバンダナ、グルグル眼鏡とリュックサックというオタク三種の神器を身に着けた沙織。そして、彼女が目を向けた方を見ると……

 

「ちょw待って待ってwなんで、なんであたし何にも操作してないのにキャラがバウンドしてwちょwえ……本当に一切操作することなく死んだんだけど……」『命は投げ捨てるもn』

 

「はぁ、言ったでしょう。これが……北斗よ」

 

「何それ怖い」

 

珍しく、ガンダム以外のゲームをやっているらしい二人。その二人も俺に気が付いたらしく目が合うと高坂―!とやかましい声が聞こえてくる。って

 

「高坂―!黒猫氏がいじめる~!ぎゅ~」

 

「ちょ、いじめてないわよ!?私はあなたが北斗をやりたいというから少し洗礼を与えただけで……」

 

「わかったわかった、つーか櫻井、暑いから離れろ」

 

「え~。嬉しいくせに~秋美ちゃんみたいな美少女に抱き着かれて~ほらほら~おっぱいだぞ~」

 

もうその流れはさっきやったぞ!とはいえ、さっきの加奈子とは「ある一点」がものすご~く違うので、俺もそこまで嫌ってわけでも……。ッチ、という黒猫の舌打ちが聞こえた気がした。

 

「まぁまぁ京介殿、黒猫氏、クマ殿と4人そろったのですから、そろそろガンダ……「そ、そこのひとたち!」?」

 

ん?なんだ、今、ものすごく聞き覚えのある声が……。

 

ザワザワと、あたりも露骨にざわつき始める。そして、そのざわつきの中心にいるのは……!?

 

 

「お、お兄ちゃんを離せ!こ、この、ふりょ~!」

 

 

「ふ、不良!?」「ブリジットッ!?」

 

青いアルファ・オメガのコスプレ衣装に身を包み、魔法のスティックを握りしめて俺たちに向けてくるブリジット。っていうか、不良って……。

 

「え、え、あたし?」

 

こくり、とブリジットが真剣な目をして頷く。

 

「ど、どこが不良!?どう見ても、一般JKなんですけどぉ!」

 

どこの世界にクマのパジャマみたいな服着てゲーセンに来る一般JKがいるんだっつうの!?っていうか、ブリジットもこいつ見て不良だと思う要素があるのか!?

 

「よく見て、よく見て、ほら、つぶらな瞳でしょ?それに、ほら、くまだよ~。怖くないでしょ~」

 

「ダークウィッチの気配がします!」

 

ぶっと黒猫が噴き出した。

 

「ククク、子供の慧眼には恐れ入るわね。あなたの奥底に潜むカルマを幼いながらに感じ入っているに違いないわ」

 

「なんじゃいカルマって!可愛い可愛い秋美ちゃんだ「はぁ~!」聞いてないし!って、あぶな」

 

ブン!とブリジットの振り下ろした剣が、櫻井の少し前で振り下ろされる!

 

「やべぇブリジットそいつは!」「きゃ!!」

 

べちゃ、っと何かが俺の顔にあたった。なんだこれ。

ペロンとはがしてみると柔らかいゼリーみたいな塊がくっついていて……

 

「あ、あぁ……」

 

「ん……?ぎゃー!!」「うわぁぁ!?」

 

目に光をなくし、立ち尽くすブリジット。そして……櫻井にあるはずの……あったはずの「胸」が片方なくなってしまっていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クックックックック、クックックックックあはは、無理、我慢できない!あはは!あなた、あなたあはははは」

 

「黒猫氏~」

 

「さ、流石の拙者も、申し訳、ぷ、くく、あはっはっはっは」

 

「沙織氏~」

 

あれから結構大変だった。

何せブリジットは櫻井の胸を斬ってしまったと思ったのか涙を流してワンワンなきだしてしまったのだ。櫻井は必死に「これはとれるもの!とれちゃうものだから~!」と自らの悲しい偽りを大勢のギャラリーの前で涙を流しながら告白するはめになってしまい、店の奥から怖いお兄ちゃんが出てきたしで店に居られなくなったのだ。まぁ、ブリジットも、ようやくあれが何だったのか理解して今は少し落ち着いた。

 

「ま、まぁ、なんだ、よかったじゃないか。す、涼しくなって」

 

「よくないわい!!秋美ちゃんの心も涼しくなってしまったわい!」

 

ばんばんとワクドナルドの机を叩いて異議を申し立てる櫻井であったが、だめだ。先ほどの、胸パッドぶっ飛び事件のせいで、まともに顔を合わせることができない。しかし、その中にも一人だけ暗い顔をした人物がいて……

 

「ご、ごめんなさい。わたし……「はい許したー!もう許した―!気にしないで~ポテト、ポテト食べよう、ポテト」でも、わたしのせいで、おねーちゃんのにせおっぱいが」

 

「ぐは」「あはははは!ダメ、あはは、最ッ高!あははは!」「ぷ、ふふふ」

 

黒猫お前は笑い過ぎだ。俺もやばいけど!今すぐ腹抱えて笑い転げたいけど!!流石に妹の不始末で笑えない!

そう、妹のブリジットだ。今日つけられてたことを、あの連絡先の一件ですっかり舞い上がっていた俺は忘れてしまっていたのだ。それにしても……

 

「ブリジットなんであんなことしたんだ……?」

 

そう、それが不思議だ。

さっきまで笑っていた黒猫たちも空気が変わったのを感じたのか、ピタリと笑うのをやめる。

机の下で足をモジモジしていたブリジットも、顔を上げて声を出す。

 

「……おにいちゃんをふりょーにしたくないです!」

 

「不良?」

 

「最近、お兄ちゃん帰ってくると、たばこのにおいがして……だから、今日ついていったら怪獣のダークウィッチにお兄ちゃんが襲われてて!おにいちゃんが操られてるんだって思って……」

 

「か、かいじゅう……」「ク!クク……」

 

「まぁ、こんな変なかっこしてるもんなぁ」「ちょおま!」「でもブリジット」

 

「見てみろ。黒猫は、知ってるよな。あいつもコスプレしてるけど……悪い奴か?」

 

ぶんぶんと首を振る。

 

「沙織もだ、覚えてるか?大阪で、困ったお前を助けてくれた…」

 

「……あ!!はい!あのときはありがとうございました!」

 

「いえいえ、こちらこそ。久しぶりに生ブリジット殿に会えてうれしいでござる」

 

「櫻井もこんな格好だし……俺もさ、初めはどうかと思ったよ。みんなこんな格好してて、変だ!って思った」

 

「……うん」

 

「けど、こいつら馬鹿みたいに面白くって、一緒にいると楽しくって…いいやつだよ。だから……」

 

「うん、ごめんなさい」

 

深々と櫻井に頭を下げるブリジット。

上手く言葉にはまとめられなかったと思ったが、ブリジットはきちんと伝わったらしい。櫻井も

 

「うん!全然気にしてないからね!ブリジットちゃんも、ほら、笑って笑って!」

 

「……はい!」

 

櫻井が自分の口角を上げて笑って見せてくれて、それにつられるようにブリジットも笑う。

 

「……そうでござる!今日はブリジット殿も交えて5人で遊ぶというのはどうでござろう!」

 

「え、でも……」

 

「拙者たちは大歓迎でござるよ!」

 

「えぇ」「もっちろん!」

 

沙織たちの言葉をきき、目を輝かせるブリジット。

ったく、こいつら本当に……

 

「だとよ。じゃ、今日は5人で遊ぶか、ブリジット」

 

「うん!お兄ちゃん!」

 

少し目じりをぬぐってそう笑うブリジット。

そう、恰好なんて関係ない。こいつらは間違いなく「俺の友達」だ。

 

フード店を出る途中、ブリジットの方から手を握られる。

俺もその小さな手をそっと握り返すのだった。

 

 


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