俺の妹がコスプレに目覚めるわけがない!   作:雨あられ

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第3話

「それでブリジットのやつ、大喜びでさぁ」

 

『そう、それは良かったわね』

 

「あぁ、全部お前のおかげだよ。ありがとな、黒猫」

 

『…別に、大したことはしていないわ』

 

携帯電話越しに抑揚のない声が聞こえてくる。

あれからブリジットはそのまま俺の布団の上で寝てしまった、それはもう嬉しそうに笑いながら。軽いその体をベッドに運んでやって、今、少なからず達成感が湧いていた俺は、黒猫に成功と感謝の電話をするに至ったと言うわけだ。

 

「てか、俺、お前に衣装の費用とか払ってなかったな。大体これって、いくらくらいするんだ?」

 

『気にすることないわ。元々家に余っていた要らない布を使っただけだし』

 

「そうは言うけどよぉ…」

 

あの布の感じ、明らかに安物って感じじゃなかった。それに、装飾のために幾らかアクセサリーを代用していたようだし、ただってわけにも……

 

「そうだ、じゃあ今度は俺が、お前に何か困ったことがあったら、そん時に手ぇ貸してやるよ」

 

『え?』

 

「まぁ俺なんかじゃ頼りないかもしれないけどさ。やれることなら何でもやってやるからよ」

 

『……考えておくわ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋葉原。通称アキバ。いつだったかブームが来て注目されていたころに比べて、そこまでオタクオタクした感じのやつらは歩いていない。わくわくしたような、緊張したような複雑な顔をしているブリジットの手を引いてとりあえず駅のホームを降りた。

 

「ここが、秋葉原かぁ。意外と普通か?」

 

少なくとも、俺の想像していたメイドたちがそこらへんに居て、大きなアニメの広告がそこらじゅうに貼ってある様な場所じゃなかった。

 

「おにいちゃん、おにいちゃん!」

 

くいくいっと、手を引いたブリジットの指差す方向を見ると、大きなビルの画面にはメルルの新しいシリーズのプロモーションビデオが流れていた。ふんふんと興奮したようにそれを眺めている妹が微笑ましいが。同時に、俺たち以外にも立ち止まって広告を見ている人たちを見て、この人たちももしかしたらコスプレ大会に来るのかと思うと今の内に目を潰しておきたい気分だ。

 

「おっと、さっさといかねぇと、時間まにあわねーぞ」

 

え~!と少し残念そうにしているブリジットの手を引いて、再び歩き出す。

 

あれから数日たったコスプレ大会当日。俺は保護者として、ブリジットの出る大会に一緒に付いて行くことにした。当然危ない奴が出たら俺がはったおすし、もしもブリジットの格好を見て欲情するような変態がいたら、この手でブッ飛ばしてやるつもりだ。

 

作ったコスチュームは原作を再現した少し、露出度が高いアルファオメガの魔法少女服だ。俺はそこを上手く改変できないか?と黒猫に相談したのだが……

 

「コスプレをする上で一番大事なのは…その人物が好きな心と再現度なのよ!」

 

と激情されて、手を動かしながらも延々と説教を聞く羽目になったのは記憶に新しい。どうやら、細かいディテールに凝ってこそらしい。よくわからんが。

 

 

 

 

 

暫く、ビルというビルを歩いて、広告に書かれていた通りの場所へとやってきたのだが……なんつーでっけぇスタジオ……!ってか、本当に周りに居るのは成人男性ばっかりじゃねぇか!

 

関係者口は…あそこか。看板の指示に従って歩くと受付にはスーツの女の人が名簿みたいなものを持ちながら座っていた。見るからに、コスプレ―って感じの服を着た女の人も結構いる。う、なんだ、あのタナトス。無理があるだろおばはん…

 

「す、すごい!ダークウィッチ!それに、めるるも!」

 

しかし、ブリジットはそんなこと関係ないとばかりに目を輝かせて大喜びしている。確かに、大会の趣旨も、可愛いとかじゃなくてコスプレの再現度をどうのこうのって書かれていたからそういうのは関係ないのか?黒猫の言っていたことは本当だったのだろう。

 

「お名前は?」

 

「えっと、ブリジット・エヴァンス・高坂で登録してあった…あ、俺は保護者で…」

 

「はい…ブリジットさんですね。17番です。奥に進めば仕切り付きの控室がございますのでそちらをご利用ください」

 

「はい」

 

ふぅ…エントリーは大丈夫っと、ここまで来て引き返すのはちょっとなぁ。

 

「あ、それからその、申し訳ないのですが、今回出場者は女性の方限定ということですので、男の方はこれ以上先へは…」

 

「へ!?あ、あぁ、そうっすね。あはは」

 

そ、そりゃそうだよな。

しかし、その言葉を聞いて、ブリジットはあ…と不安そうな声を出して、ズボンをつまむ。眉は八の字になって、青い瞳は揺らいでいる。

 

「そんな顔するなって。ほら、さっさと優勝してこい」

 

衣装の入っていたカバンを持たせて、ぽんと頭に手を置いてやると、うん!と笑顔で頷き、奥へと走って行った。さぁて、俺は観客席から妹の勇姿でも見守るか……って、あれは!?

 

「黒猫!」

 

そう声を掛けると、俺の声に気が付いた黒猫がこちらに振り向いた。いつもと変わらない、黒いドレスに赤いカラーコンタクト。それにこれだけ野郎だらけの会場だとあの長い綺麗な黒髪は目立ってしょうがない。

 

「来てくれたんだな」

 

「…言った通りでしょう。メルルのコスプレ大会の観客何て成人男性ばかりだと…」

 

「あぁ…来てびっくりしたぜ…」

 

「ふん、所詮メルルなんて見ているのはおつむの緩いお子様脳の大人ばかりということよ。こんな駄作アニメがあるから…」

 

お、おい。お前、その大人たちの本拠地みたいなところで、よくそんなに堂々と毒舌が…

 

「ッチ。ちょっとあんた、さっきから後ろでごちゃごちゃごちゃごちゃと!」

 

み、見ろ。前に居たピンク色の大きくメルル命と書かれたハッピを着た…あれ、女?がこちらに向ってけんか腰で声を掛けてきた。モデルみたいなおしゃれな服に、染めた茶髪。こ、こんなやつもオタクなのか。周りのいかにも、って感じのやつらとは少し違ったオーラがあって、何て言うか、世の中わからないもんだ。

 

「あら?私は事実を述べていただけよ。そもそも子供向けアニメと銘うっているのにこの会場には子供は一人として見当たらない、猛った雄が醜い欲望のはけ口にしているとしか思えないわね。」

 

ちょー!黒猫さん!?なんでまた煽りに行っているんだよ!こいつ、良い奴のはずなのに、メルルに対しては親の仇のように厳しい気が…

 

「はぁ?キモ!ありえないし!!

あんたにメルルの何がわかんの?大体何?その流行おくれのコスプレ?水銀燈のつもり?似てないし」

 

こ、こいつはこいつで何なんだ一体!?見ず知らずの俺たちに対して凄まじい攻勢に出て来るハッピ女。俺だって、初め黒猫がこんな恰好をしていたら話しかける気にもならなかっただろうに、そんなことはものともせずに率直な言葉をぶつけてくる。

 

「は?どこに目を付けているの?これはマスケラのクイーンオブナイトメアよ」

 

「マスケラ?あぁ、あのメルルの裏番?オサレ系中二病アニメの」

 

「!?…き、聞き捨てならない事を言うわねあなた。視聴率的にもそっちが裏番じゃない。大体、ストーリーも演出もからっぽのキッズアニメにマスケラのような作品の本質を求めることこそ間違いないのかもしれないけれど?」

 

「はぁ!?邪気眼中二病電波で小難しい言葉ばっかり並べてるあのアニメの本質ぅ?ありえないし、大体あんた、本当にメルルみたことあるの?1期のラストバトルなんて、めちゃくちゃぬるぬる動く映像と燃える挿入歌でめちゃくちゃ熱いのに!」

 

「お、落ち着けお前ら!いい加減!」

 

「「っチ!」」

 

反発しあう磁極のように、同時に舌打ちをすると腕を組んで視線を外す二人。周りの目がやばいほどに集まっている。こ、こいつら周りがまるで見えてねぇ!どんだけ頭が熱くなってんだよ!

 

「マスケラなんて打ち切り寸前の腐向けアニメじゃない…」

 

「!?とうとう言ってはならないことを口にしたわね。メルルだって…」

 

ぼそりと、ハッピ女が呟いた一言に、怒りで言葉と拳が震えだした黒猫。た、頼むからどっちも黙ってくれぇ!周りの目が、注目がッ!?

と、その時、どこからか音楽がかかって来て

 

『ほーしくずウィッチめるる!はーじまーるよー!』

 

「あなた「キタアアアアア!!!キタキタキタクララちゃんキタアアアア!」」

 

壇上でメルルと同じ声が聞こえてきたと思ったら、さっきまで険悪だったハッピ女の表情が一転、意味不明な奇声を発して、持っていた白いマスコットの描かれた団扇を振り回して狂気乱舞しはじめた。俺も黒猫も、あまりの女の変わり身に一瞬気後れしてしまう。

 

『今回は総勢17人の女の子が、メルルのコスプレをして集まってくれましたー!!』

 

うおおおおおおおおおおおお!!っと会場全体が野太い男の声で震える。そして、その声の中には目の前のハッピ女の声も当然入っている。

 

「うははは!キタキター!クララちゃーん!やっば、超たのしみー!!!」

 

「お、おぞましい光景ね」

 

「あ、あぁ…」

 

俺と黒猫は、まるで戦前の兵士たちの詰所に放り込まれた一般人の気分だ。そんな俺たちはそっちのけに、エントリーナンバー1番の方から―と、メルル声の司会が話を進めて行ってしまう。ブリジットはこんな空気で平気だろうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたの妹はまだ出ないのかしら?」

 

「そうだなぁ、確か、17番だったから一番最後だな」

 

「!あ、あんたの妹出んの?てか妹いるの!?」

 

「じゃなきゃこんなところにはこねーよ」

 

「ふぅん。ひひ、つってもあんたの冴えない顔を考えたら。優勝は12番のメルル着てた子かなー!あーちきしょー!私に似ているキャラが居ればなー!」

 

「失礼な奴だな」

 

『それでは、最後にエントリーナンバー17番!ブリジットちゃんでぇす!』

 

「は、はい!」

 

う、うげ!?カッチコッチに固まったブリジットがぎこちない動きでゆっくりとステージの真ん中へと歩いている。俯いてて、おどおどしてて、相当緊張してやがんな、あいつ。

 

「あ、あいつ緊張しす「ふおおおおおおおお!!??え?え?うそでしょ!?本物のアルちゃん!!?うはああああ!!金髪幼女キタコレ!!って、えええ!?

あ、あんたの妹!?アルちゃんが!?」………そうだよ」

 

「見ればみるほど似てないわね…」

 

「うっせぇ、ほっとけよ」

 

鼻の穴を広げて大興奮のハッピ女と黒猫の毒舌を躱しながらも、頭の中は目の前のブリジットのことでいっぱいだった。大丈夫か?あいつ。

 

「えっと、ええと、きょ!は!あ!」

 

か、噛みやがった。かあっと赤面して、その場で立ち尽くすブリジット。男たちはそれを見てうおおおおおおお!!と一層声を上げるが…くそ、しょうがねぇ…

 

「借りるぞ!」

 

「え!?あ、ちょっとー!」

 

ハッピ女の持っていた団扇をひったくると、ごった返している前の方の人々を押しのけてぐいぐいと前の方へと無理やり出る。そして一番前にやってくると

 

「ブリジットー!いつものやれー!」

 

団扇を掲げながら、腹の底から思いっきり声を上げる。すると、それに気が付いたブリジットが、一転輝いた顔になって、前に向き直るとキッと真剣な面持ちになる。

 

「……みよ!わがけんぎーッ!」

 

杖を構えると、それと同時にスタッフがメルルの戦闘BGMを流し始める。

先ほどまで騒がしかったギャラリーも、「アニメを何度も見て覚えた」完璧なブリジットの……アルファ・オメガの乱舞をみて、ウオォ!と興奮したような声が上がる。

 

「ひっさつー!めておすまっしゃーーっ!はーーっ!」

 

アルファ・オメガの必殺技である、メテオスマッシャーの構えをすると、杖を振って、いつものように憧れのアルちゃんになりきってフィニッシュを決めるブリジット。さながらアニメから直接出て来たような迫力を見せつけると、姿勢を正して、「俺」の方を見て、笑顔を見せる。

演技を仕切ったその姿を見て、観客たちがシンとした静寂の後に、うおおおおおおおお!!と一斉に湧いた!

 

『はーい、とっても元気な演技、ありがとうございましたー!では早速得点を見てみましょうー!』

 

100点満点中、95点以上取ればブリジットの勝ちだ。ドルルルとドラムロールが聞こえて来て、何かを話し合う審査員と不安そうな面持ちのブリジット…そして……ジャーン!!という効果音と共に得点表には…!

 

『100点満点!出ちゃいましたー!』

 

うわあああああ!!っと再び熱気に包まれる会場、恥ずかしそうに手を振る魔法少女姿のブリジット。し、信じらんねーけど、本当に、優勝しちまった。でも、考えてみれば当然だ、だって、メルルが大好きな心は今日出ていた誰にも負けていないんだから。…その可愛さもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おにいちゃん!」

 

嬉しそうに、優勝賞品であるスペシャルメルルフィギュアを持ったまま、関係者口のすぐそばに来ていた俺に近づいてくるブリジット。

 

「凄いなブリジット!優勝しちまうなんて」

 

「うん!……あ……」

 

ん?あぁ、近くに立って居たコスプレした黒猫と興奮して涎を垂らしそうなハッピ女を見て怯えているのか。

 

「こいつは黒猫。ほら、お前の衣装を作るの手伝ってくれたのも、こいつなんだ。こんな恰好だけど、スゲーいい奴だからよ」

 

「こんな恰好?これは由緒正しい闇の悪魔のみが着ることの許された…」

 

「はいはい、中二病は良いから。私は桐乃!ねぇねぇブリジットちゃあん!一回だけ、一回だけで良いから…ぎゅーってして髪の毛くんかくんかして良い?」

 

「だ、駄目に決まってんだろー!お前は一体何を言ってやがるんだ!!」

 

「ッチ、うっさいわね。あんたには聞いてないわよ」

 

「お、おにいちゃんをいじめるのは…やめてください…」

 

「うはあ!?健気っ子妹キターー!!?やばい、やばい!鼻血でそう…」

 

「こ、ここまで度を越えた変態だったなんて、想像以上よ…」

 

「おにいちゃん…」

 

こいつら、フリーダムすぎんだろ!ってか、ここに居ると、優勝したコスプレ姿のブリジットも居るからかスゲー目立つ……さ、さっさと帰らないと。

 

「帰るぞ、ブリジット。黒猫」

 

「え…うん!」

 

「そうね、これ以上にここに居ると穢れてしまうわ…」

 

「ああん、まってー!そだ、アキバのメルルグッズ売ってる店、色々案内してあげるからー!!」

 

「!…お、おにいちゃん…」

 

桐乃がそう叫ぶとわかりやすいくらいぴたりと動きの止まるブリジット。そして、目をぱちぱちさせて、懇願するように目を揺らしてこちらを見上げる。あーくそ、出来ればあいつとはもう関わりたくないってのに…黒猫にちらっと目線を向けると、はぁやれやれね、と視線を外した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お前は俺の妹をなんて所へ連れて来るんだ!」

 

「え?」

 

思いっきりここ18禁のコーナーじゃねぇか!チラっと周りを見てみると、どこもかしこも如何わしい感じの触手や首輪が書かれていたり、メルルやアルファの服がそもそもなかったりしている。ブリジットは、あうあうと両手で顔を覆って、指の隙間からちらちらと周りを見ていた。

 

「ふん、やっぱりメルルなんて低俗な男たちの欲望のはけ口でしかないのよ」

 

「はぁ?あんたのマスケラだって、見て見なさいよ、ほとんどがBLコーナーに山積みよ!?」

 

バチバチと火花を散らす二人に対して、俺はもう素直に帰りたいと思ったよ。本当。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れ、電車の中で揺られる俺たち4人。

どうやら、このキリノのやつも千葉に住んでるらしくて、切符を買う時に同じ駅で思わずうげ、何て声を出してしまった。当然、俺に対しては厳しいキリノはヒールで足を踏んずけてきて、私だってあんたと一緒に帰るなんて願い下げ!と返してきたわりに、ブリジットちゃん一緒に座ろーえへへ~!なんて言ってデレデレしている。こいつは、本当に…

 

夕暮れの光を背中に感じる。歩き疲れたのと、電車独特のリズムが何とも言えない眠気を引き寄せる。現に

 

「寝ちゃったの?」

 

「あぁ、色々あって、疲れたんだろうよ」

 

俺にもたれ掛って、すぅすぅと規則正しい呼吸で身体を上下させるブリジット。本当、今日は色々あったよ…あの後ゲーセンに行ってプリクラとらされたり、フィギュアショップに行ってまた口論になったり……それでも、ブリジットのやつも楽しそうに笑っていた。手にはいまだに優勝賞品のメルルのフィギュアを抱えていて、メルル…なんて寝言まで聞こえてきて、自然と口元が緩む。

 

「ねぇ、あんたって、重度のシスコンだよねぇ」

 

「はぁ?」

 

「さっき黒いのに聞いたけど、衣装まで自分で用意したんでしょ?妹のために必死過ぎっていうかぁ。」

 

「ほっとけ……兄妹なんだから、仕方がないだろうよ」

 

「良いお兄さんね」

 

黒猫の優しい言葉に、思わず胸を撃たれる。くそ、それに比べてキリノのやつ…は…?

 

「お前、なんでそんな顔してんの」

 

「っ!?」

 

何か、オレンジ色の光を浴びて、じーっと間抜けにも口を半開きにして、俺の事を見ていたキリノはなんていうか、良いなーって顔をしてるブリジットと全く同じ顔をしていた、違うのは、こいつは妹じゃないってことと、八重歯が良く見えるってことくらいだ。

 

「くくく、羨ましいの?兄さんが?」

 

「~!っち違うし!誰がこんな冴えない変態シスコン男のこと!そもそも何よ、その兄さんって!?」

 

「静かにしなさい、起きるでしょ」

 

はっとしたようにして、フンっと鼻息荒く正面に向き直る桐乃。こいつに限ってそんなわけないだろ絶対。例え俺がこいつの兄貴がだったとしても、絶対その辺のゴミみたいに扱われるんだぜ、きっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあな。今日はありがとう」

 

ブリジットを背負いながら、目の前の二人に礼を言う。3人ともここから家へは道が一緒じゃないみたいだし、今日送っていくのはちょっと無理そうだ。まだ暗く成りきってないし大丈夫だろうけど。

 

「別に、ブリジットちゃんとお近づきになりたかっただけで、あんたたちとは…」

 

「ええそうね、私もまさかアキバに行ったのにこんなビッチと行動しなければいけないなんて思いもよらなかったわ」

 

「はぁ?ッチ……ん。携帯」

 

「え?」

 

「電話番号とメアド、登録」

 

「え、ええ…わかったわ」

 

…驚いた。

あれだけぶつかりあっていた二人が、なんだかんだ言って連絡先を交換する仲にまで発展しているのだから、世の中わからない。肩を並べて、赤外線、行ける?とか聞いてる桐乃も、ええ、この前初めて使って…と答える黒猫も普通の友達って感じに見える。

 

「なにぼさっと突っ立ってんの。あんたも、携帯!」

 

「へ?」

 

お、俺もか?

 

「キモ。デレデレすんな。勘違いしないでよね、あんたの連絡先わかんなきゃ、ブリジットちゃんと連絡とれないじゃないの」

 

「何だよ、そういうことかよ」

 

こうして、俺が出会った、桐乃という、普通の中学生なのに変わった趣味を持つ少女のせいで、俺の人生は更に混沌としたものになってしまうのだった…

 


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