俺の妹がコスプレに目覚めるわけがない!   作:雨あられ

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第4話

「はい、そこまで」

 

「うへ~…ちかれた~」

 

「お疲れ様です」

 

お前、まだ30分も勉強してねーぞ…って、何だよこの答え!

 

「へへ、全問正解だべ?」

 

簡単の反対語は簡単じゃない、りんごの英訳がRingo、アメリカ大陸を初めて発見した人物は、どこかのおっさん……

 

「あ、あはは、ちょっと間違いが多いかなぁ」

 

「え~!マジ!?うっそだー」

 

おっかしーなーと頭を抱えているのはブリジットよりも小柄で、染めた髪をツインテールにした幼児体型の中学生ギャル……来栖加奈子。

くそ~…頭を抱えたくなるのはこっちの方だってのに……多いどころか全問間違ってるじゃねぇか!本当になんでこんなアルバイト……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きっかけは、何だったか。些細なことではある。

 

 

 

 

「あーなーたーのむーねにーとびこんでゆくーのー♪」

 

俺の目の前にはご機嫌でメルルのオープニングを見ながら魔法のステッキを振り回すブリジットの姿がある。

 

「いーんせきよりも~キラ!きょだいなパワーで~キラ!」

 

普段は声を張り上げて騒ぐことのないブリジットも、このアニメを見るときだけはこのテンションである。この前のコスプレ大会でゲットしたフィギュアは、部屋の押し入れにキリノに買ってもらったショーケースと一緒に大切に保管してある。今では俺と黒猫が作ってやったコスプレ衣装同様、ブリジットの大切な宝物だと言う。

 

「だ・か・ら!わたしのぜんりょく~ぜんかい~」

 

あれから桐乃と黒猫と何回か秋葉原に行くのにつき合わされたり、家に突然遊びに来たりと…まぁまぁ良くも悪くも不思議な縁が続いていた。おかげで、今では多少?なりともオタクっぽい話に抵抗がなくなりつつあるので、良いのか悪いのか…

 

「めーるめるめるめるめるめるめ!」

 

歌を歌いきると、しゅたっと、正座してテレビの前でならうブリジット。まぁ変な知り合いは出来ちまったが、これで、案外悪くないんじゃないかって、思ってる。そう考えていた矢先の事だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

『今度!実は大規模なメルルフェスティバルが開かれるんだ!』

 

「ええ!!!?」

 

うとうとと、ソファで半分寝ていた所にきーんとブリジットの声が耳に響いてくる。なんだ、とぼやけた両目で画面を見ていると、答えが何となくわかってきた…

メルルフェスティバル…メルフェス?ちっこいメルルとお供のペットが本編が終わった後に告知のようなものをし始めたようだ。ブリジットも、正座をといて立ち上がって画面にくぎ付けになっていた。

 

『ここでしか手に入らない、オリジナルグッズ。ここでしか手に入らないオリジナルDVD!』

 

「す、すごい…」

 

『そして、新キャラである…おおっと、ここから先は会場に行って、君の目で直接確かめてくれ!』

 

『みんな~!待ってるよ~!あ!?いっけない!でもそのメルフェスの開催地って!?』

 

「ちば!ちば!」

 

『今回は、待望の関西ファンには嬉しい大阪!!』

 

「あ、あぁ…」

 

大阪、こりゃまた遠いな。ここからだと新幹線にでも乗ってかないとだろうし…案の定、ブリジットはテレビを凝視しながら悲痛な声を漏らす

 

『みんなー!大阪に乗り込め―!』

 

と、そこで提供の映像が流れて、告知も終了してしまった。開催日は来月の日曜か、こりゃ無理だ……!?

ブリジットが突然走り出した。そのまま凄い勢いで階段を上って行った音が聞こえる。俺もその異常とも思えるような突発的な行動を見て思わず体を起こす。

そうした瞬間、ブリジットはすぐに滑るように階段を降りてきた、ばーん!とリビングのドアを開けると、俺の前にはめるるのマスコットが描かれた小さな財布。

 

「おにいちゃん!こ、これでおおさかに、いけるでしょうか?」

 

財布をひっくり返して、じゃらじゃらと、俺の前にお金を落として並べるブリジット、小銭が多いし、札もその、どちらかと言えば頼りない野口さんが折りたたまれて控えめに鎮座しているだけだった。

突然の事に、自分の目と耳を疑う。

 

「えーっと、ブリジット。お前、大阪がどこにあるか、知ってるか?」

 

「え、えっと、ずっと向こうのほう?」

 

多分、なんとなくで指差した方みたいだが、確かにそっちは西。それに遠いってこともわかってるらしい。

 

「あ~…そうだなぁ…」

 

「あの、あの、これじゃ、た、足りませんか?」

 

今にもあふれ出しそうな瞳で俺を見ているブリジットの青い目に、俺は、もうなんていうか、行けるに決まってるだろこんちきしょー!と言う勢いで、俺に任せろ、と言って立ち上がるほかなかった。

ぱぁああっと顔を輝かせて、やったーやったー!とくるくる回って喜びを表現しているブリジットを見ていると、俺は、黒猫たちが言う様に本当にシスコンなのでは?と思えてきてしまった。

っていうか、しょうがないだろ。お袋も親父も、アニメイベントのためになんて、絶対大阪何て連れてってくんねーんだから……

 

俺が、俺が何とか、してやんねーと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっかぁ、きょうちゃん、あるばいとをはじめたいんだぁ」

 

「あぁ、ちょっと、来月までに何とかお金を貯めたくてな」

 

ニコニコといつも通りの笑みを浮かべながら歩く麻奈実に早速事態を報告する。情けない話、大阪まで二人となると、俺の持っている予算ではちょっとだけ足りない。おふくろに小遣いの前借を頼んでも、それでも足りない額だ。調べたけれど意外と金がかかる、大阪まで。それに、向こうについて何か食べたり、グッズ買ったりするお金も居るだろうし…

 

「じゃあきょうちゃん。家庭教師をはじめてみるって言うのは、どうかな?」

 

「家庭教師~?そんなの俺には向いてねぇっての。俺、そんなに頭良くねーし」

 

「ううん、そんなことないよ~。それに、きょうちゃんは一個一個丁寧に解いていくタイプだから、人に教えてあげるのも得意だと思うなぁ」

 

「家庭教師ねぇ…」

 

確かに、何の資格もいらない家庭教師なら、俺にだって出来るだろう。コンビニや居酒屋と違って、多くの人の目に留まらないから親父たちにばれることもないだろうし……

 

「わかった。サンキュな、麻奈実」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日、麻奈実と一緒に家庭教師募集の求人広告を見て、俺はあるアパートのドアの前にやって来ていた。電話したら、明日から、来られたらすぐにでも来てくれ~という返事があったからだ。

とりあえず一回家庭教師をやってみて、それで判断するという感じらしい。麻奈実もそれが良いよ~っと頷いていた。

 

話を聞いてみたら、今日教えることになるのは中学2年生で、しかも女の子だっていうから少なからず緊張して、怖くなって、どこかでほんのわずかに、期待もしていた。あまりの緊張で心臓の音が早くなりながらも、ドアの横に備え付けられているインターホンのボタンを押す。

第1印象が大事、だよな。軽く身だしなみを整えて、しばらくするとドアが開いた。

 

「はーい」

 

「こんにちは、あの、家庭教師の件でお伺いした高坂と申します…が…」

 

ち、ちっさ!?ぺたぺたとスリッパをならして俺を出迎えてくれたのは、ツインテールを揺らした、ラフなシャツとジーンズ姿のブリジットよりも小さな女の子。まさか子供さんが出るなんて。でも、この高い独特の声、確かに電話で聞いた声のような…

 

「ああ!君がこうさかきょーすけくん!あがってあがって!ごめんねー、まだかなちゃんかえってこなくってー!」

 

凄く、ハイテンションな人だ。それに何かアニメのヒロインみたいな独特の声。この家の事を掌握している感じからして、雇い主で間違いないんだろうけれど、何だろう、少なくとも俺より年上?と思うと人体の神秘すら感じる……お邪魔します、と靴をそろえて中に遠慮しながら上がると…

 

うお!?ずらっと並んだ本棚。そこには漫画やら雑誌やら、最近知った、同人誌とかが壁一体に陳列している。それに、あれは黒猫の好きな…マスケラ?それにメルルも?桐乃や黒猫が見たら喜びそうなフィギュアがたくさん並んでいる。

 

「あ、座って座って」

 

「はい、失礼します」

 

すっと椅子を引いて席に座ると、彼方さんがぱたぱたとお茶を入れて運んでくれた。入れてくれたのはレモンティーみたいで、さわやかな匂いを嗅ぐと少しだけ緊張が和らいだ。

 

「改めまして!わたしの名前は来栖彼方!よろしくね、きょーすけくん!」

 

「はい、よろしくお願いします…来栖さん」

 

「もう、かたいなー!」

 

いやどうしろっていうんですかい。注いでもらったレモンティーを口に運んで、それから一つ深呼吸をしてこの変わった依頼主に雇ってもらえるように自分を売り込まないと。

 

 

 

 

 

30分、彼方さんと今日俺が勉強を見ることになるらしい、妹の来栖加奈子について様々な話をする。

 

どうやら今度の学校で期末テストがあるらしく。彼方さんとしては何としてでも点数を上げたいらしい。というのも、加奈子ちゃんという子はどうにも頭が、その、よろしくないらしい。

いつも赤点でそろそろ留年が本気で心配なるくらいってんだから相当だ。それで、今回は緊急で家庭教師を募集することにしたらしい。

 

教えてもらった必要な情報をメモに取り、それからこちらもいくつかどういう方針で勉強を教えるかの相談と何点を目標にするかの相談…あぁ、まじで麻奈実に教えてもらった段取りが役に立つ……感謝だ!お婆ちゃんの知恵袋!

 

「では、えーっと、とりあえず、今日はバイトとして雇ってもらえるかという試運転と言いますか、様子見ということで。それで妹さんの進行状況に合わせまして「あー!大丈夫大丈夫!」」

 

ぶんぶんと顔の前で手を振ると、びしっと俺の方に指を突き刺し

 

「きみ、採用!!だから、全部おまかせ!がんがんいこうぜ!」

 

にこっと笑って、えらくあっさりそう言った。って、え?まじで?なんで?と口が空いたままぽかんとしていると

 

「ただいまー」

 

先ほど入ってきた入り口、玄関からだれかが声を出して入ってきたではないか。

 

「おっそーい!かなちゃん今日は早く帰ってきてって言ったのにー!」

 

「うっせーなぁ、ほっとけや。勉強してきたんだよ、べんきょー」

 

「うはw嘘乙ww」

 

?ウソオツ?良くわからない言葉を発して、ケラケラと笑う彼方さんと、部屋に入ってきたのは……この見かけ彼方さんにそっくりな、しかしどこか不良ギャルっぽい制服姿の少女。まさか、この生意気でアホそうなのが、俺の…。

 

「ん?だれだよ、こいつ」

 

「あーっと俺はー」

 

「じゃあ、きょーすけくん!かなちゃんにビシバシお願いね~!」

 

「へ?あの…」

 

「ちょ、姉貴!?」

 

二人まとめて、何処か、てか、多分このちんちくりんの少女の部屋に押し込められる。ばたんとしまった、部屋。少しだけ夕焼けを感じさせる薄暗い部屋。

 

「あー、俺は高坂京介、です。よろしくお願いします。加奈子、ちゃん」

 

「はぁ?馴れ馴れしく名前呼ばないでくれる~?」

 

こ、このやろう!なんつー生意気な…

 

とりあえず、乗り気ではない加奈子をほこりの被った勉強机に座らせて参考書を取り出す。今日は、麻奈実に言われた通り、学力テストのようなものを作ってきた。それをやらせてみてどのくらい出来るのか、いや、駄目なのかを見極めないと……

 

 

 

 

そして今に至る。

 

こいつはどうやら、勉強大嫌いな、典型的なギャル風女子中学生らしくて、今も、俺が採点をしてるというのに、悪びれもせずに携帯を取り出して、ぴこぴこといじりはじめた。かと言って、初めてだし大きな声でやめろと言う気にもなれない。

まぁ採点もそろそろ終わる、全部、間違いだし。こういう時、何て切り出せばいいんだ?えーっと、、そうだなぁ、麻奈実なら…

 

「うーん、そうだなぁ、加奈子ちゃん。わかりづらかった問題とか、あったかな?」

 

こんな感じで優しく聞いてあげるだろうな。うん。そんで相手の得意科目、苦手科目とか冷静に分析して少しづつやる気を…

 

「全部よゆーだったし。てか、もうあたし疲れたから寝てて良い~?」

 

「へ?」

 

「あんたも時間来るまで携帯なりいじってていいからさ~。、楽な仕事で良いだろ~?」

 

こいつ!?

 

「…ってことで、おやすみー「まてよ」」

 

もうあったまきた!

椅子から逃げ出そうとした加奈子の腕を思わず握って引き留める。

俺の中で何かが湧きたっている!

 

「なぁ、さっきのお前がやった小テストの点数、当てて見ろよ?」

 

「な、なんだヨ…突然……」

 

「良いから、いくつだと思う?」

 

「…80点くらい?」

 

「0点だよ!コンチキショー!さっきの全部!

いくつか小学生の問題も混ぜておいたのにそれすら解けてねーんだよお前は!」

 

「…だ、だからなんだってんだよ」

 

「良いか?はっきり言ってお前は、馬鹿だ!」

 

「はぁ!?」

 

「そんで、何で馬鹿かって言うと、お前に勉強する気が微塵もねーから、自然とそうなるんだよ!

寝てるだけで成績何て、上がるわけないだろ」

 

「……っせーなぁ…たかがカテキョのバイトの癖に。それに~?加奈子ってばアイドルになるから?別にべんきょーなんてできなくてもいいしぃ」

 

こいつ、世の中なめきってるな!?

冗談とかではなく、本気でそう言っているのはもうここまでのやり取りでなんとなくわかっていた。落ち着け、こいつが勉強したくなるように、勉強したくなるように…そうだ。

 

「ふーん、だったら、なおさら勉強しないといけねーじゃねーか」

 

「え~!?どうしてだよ」

 

「アイドルってことは、お前も働いて給料もらうわけだ?そん時に、お金ちょろまかされてたり、勘定の計算も出来ないようだったらお前一生ただ働きさせられるぞ。それに、ある程度常識つけとかないと、業界に入ってからも苦労すんじゃねーの?」

 

「…はぁ?要するに…どういうこと?」

 

……やばい、まじで頭いたい…

頭にいっぱい疑問符を浮かべる様に首を傾げて俺に訪ねてくる加奈子を見ていると怒りを通り越して悲しみがどっと溢れだしてくる。本当に、馬鹿なんだ…こいつ…

 

「つまりだな、アイドルも勉強出来ないとなめられるって話だ!」

 

「あ~!!ならそう言えよ、わかりにきーんだヨ!ごちゃごちゃと~!」

 

満足したように笑う加奈子を見てひきつった笑みを浮かべてしまう。

ここまで来ると、もはや尊敬の念すら覚えるぜ…

 

「てゆ~か~、さっきから口調変わりすぎじゃね?

……こちとらお金払ってる生徒様なんだけど?」

 

「はぁ?」

 

「んなこと言ってさ~、どうせ金目当てなら加奈子の言うこと初めみたいに聞いてニコニコしておけよな~。姉貴には、色々教えてくれたけど~難しくてわかんなかった~って言っといてやるからヨw」

 

悪びれもせずにそういう加奈子に対して俺は少し面食らったが、頭に血を上らせたまま真剣な顔で返す。

 

「いや……俺はお前の点数が上がらなきゃ、金を受け取るつもりはねぇ!」

 

「は、はぁ!?」

 

今度面食らったのは加奈子の方だった。

 

「んなの、オマエに何の得が……」

 

「いいか、加奈子。確かに、俺は金が欲しくて家庭教師のバイトを始めた。それは本当だし、否定するつもりもねぇ。だがな!んなキタねぇことして手に入れた金を、使おうだなんて気持ちで教えに来てねぇんだよ!」

 

サボってもらった金なんかであいつが、ブリジットが喜ぶわけがねぇ!

 

「だから加奈子、俺は結果が出なけりゃ金を貰うつもりはねぇし。もちろん、ため口利いてて気にくわねぇってんなら、彼方さんに言ってこれっきりクビにしてもらっても良い」

 

「……」

 

「だがな、お前が俺を信じて勉強するってんなら……俺は、お前のテストの点数を出来る限り上げてやる!それに、馬鹿だからって絶対に途中で見捨てたりしねぇ」

 

「……」

 

珍しく、俺の言うことを黙って聞いていた加奈子が俺と目を合わせたまま固まってしまう。そして……

 

「……ふーん、あっそ。勝手にしろよな」

 

と、怒った様子もなくカラカラと歯を出して笑う加奈子。てっきり、何か反論してくると思ったのだが、そうではないらしい。

こうもあっさり認められるとなーんか、拍子抜けしちまうって言うか一方的に熱くなってた自分が恥ずかしいっていうか…って、あ!

 

「おい!もうこんな時間じゃねーか!さてはお喋りばっかして、勉強しないつもりだったろ、お前!」

 

「あ、ばれた?」

 

「当たり前だ!」

 

ちくしょー…麻奈実…恨むぜ…自分で言い出したことだが本当にこんなやつの成績何てあげられるのか!?俺は!?

 

「兎に角、今日は間違ったところ一つずつやってくぞ。ほら、ペン持て、ペン」

 

「え~、もう良いんじゃね、今日はさぁ」

 

一応、こいつにも口で説明すれば何とかなるんじゃないか。と、そう思い、隣で解説をしていくのだが…こいつはことあるごとに屁理屈をこねまわして、雑談に話を持っていこうとするし、隙あらば寝ようとしたり、俺の持っている答えを盗み見ようとしたりと、まともに勉強する気がねぇ!

 

そうこうしている内にたった3問ほど解いてあっという間に今日の分の時間は終わってしまった。……くそぉ~こんなんじゃ、テストの点をあげるどころか、今日限りでクビ確定だろうな……

 

「あ~、こうすんのか!こんなの教科書の書いてることがわるいべ」

 

「ま、教科書ってなんでかわかりにくい書き方してることもあっからな……よし、まぁこんなもんか。解けた問題は少ないけど、しっかり手順は理解できたみたいだし、後は復習を重ねてけばその手のタイプの問題は解けるようになるはずだぜ。頑張れよ」

 

「はぁ?オマエ、何他人事みたいに言ってんの?」

 

「あん?だから今日でクビだろ?俺?だから、少しでも……」

 

「だったらさっきの時点でとっくに帰らせてるっつーの」

 

「へ?」

 

不満そうに腕を組む加奈子。

 

「じゃあ……」

 

「……オマエの事、少しは信じてやるってこと……ひひ、ま、せいぜい加奈子様に愛想つかされないようにしろよな!センセ?」

 

などと、加奈子の奴は口を釣り上げて楽しそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

ちっちゃな彼方さんに手を振られながら見送られて、来栖家を後にすると、次には言い知れない疲労感が体中に溢れてきた。

 

そのまま暗くなった夜道を重い足取りで家を目指しているとき、ふと空を見上げると一番星が見えた。


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