「ねぇねぇ!この前、駅前にオシャレなスイーツの店出来たの知ってるー!?」
「うん、見たことあるよ。桐乃も気になってたんだ!」
彼女は桐乃。成績優秀、容姿端麗、リーダーシップもあって、友達もたくさんいて部活動でも大活躍の、私の親友。今日も、授業が終わるとムードメーカーの彼女は私たちを楽しい放課後の時間へと誘ってくれる。そっか、あの店、桐乃もチェックしてたんだ。
「あやせも!?通りかかっただけなんだけど、すっごく良い雰囲気だったよね!開店記念限定パフェとかだしちゃうらしーし!今日の帰りに寄ってかない!?」
「もちろん、良いよ!加奈子も行くよね?」
「ん……あー、加奈子はパス」
「「ええ!?」」
気怠そうに机から顔を上げた加奈子の一言に、思わず桐乃と顔を合わせて驚いてしまう。新しいお店、限定スイーツ、加奈子はそう言った単語にめっぽう弱い。例え何か用事があっても、気にせずに食い付くと言うのに。
「あ、加奈子もしかして今月ヤバい感じ?にひひ、ま、今、私の財布けっこー潤ってるしー、たまにはおごったげても良いけど」
「え?嘘!?マジで!?嘘じゃねぇだろうな!?」
「マジマジ!行くっしょ?」
「……あー、でもやっぱ良い。今日は帰んべ」
「「え、えええええええ!?」」
う、嘘、嘘嘘嘘!?あの加奈子が、桐乃の、「桐乃」のおごりに食いつかないなんて。しかも、よくよく見てみたら、加奈子、いつもは置き勉している教科書を、鞄に詰めている!?教科書なんて枕代わりの彼女が何故!?
「な、何か用事なの、加奈子?」
「ん~?何かしんねぇけどさぁ、姉貴が勝手にカテキョなんか雇ってたんだよねぇ。行きたくねーけど、一応小遣いもらってる身としては姉貴に逆らえねーって言うかぁ…」
「家庭教師!」
加奈子のお姉さんが家庭教師を…。「桐乃」のおごりよりも、お小遣いがなくなってしまうことの方が加奈子の中で痛いと判断したのだろう。それに、不真面目なように見えて加奈子は、こういう所、義理堅いから、すぐに納得がいった。
「ふ~ん、ね、どんな家庭教師~?」
「それがさぁ、何か冴えない感じのふっつ~の高校生何だよねぇ。将来ふつ~のサラリーマンして~、カチョーとかやってそうな~。折角ならもっとイケてるやつ連れて来いって感じでー!そのくせ、加奈子に向かってガンガンため口聞いてくっし、微塵も遠慮しねー奴で…」
そう言って帰り支度をしながら悪口を言う加奈子の顔は、辛辣な言葉とは裏腹に何処か、機嫌が良さそうに見える。
「つーわけでぇ、加奈子ぉ、遅刻したらまたセンセにどやされっから、先帰るわ!んじゃ」
ヒラヒラと手を振って教室を出て行ってしまった加奈子を、ぽかんと口を開けた桐乃と二人で見送る。あの加奈子がお小遣いのためとはいえ勉強のために急いで帰るなんて…一体どんな人なのだろう、加奈子の家庭教師って。あ、そう言えば、加奈子が居ないってことは…
「ど、どうする桐乃?二人で…行く?」
桐乃と二人っきり…
「ううん、また加奈子の空いてる日にしたら良いじゃん」
「そ、そうだね」
やっぱり、やっぱり桐乃って優しい!
それにしても、加奈子の家庭教師…少し、気になる、かな?
俺は今日も家庭教師の仕事を遂行すべく、ここ、来栖家のマンションへとやって来ていた。少しばかり数をこなしたからと言って、この友達でもない人様の家を訪れると言うのは、どうにも緊張してしまって慣れないものだ。
「はーい」
背筋を伸ばすと今日も、彼方さんに出迎えられて…
「いらっしゃーい。あら…どなた?」
「へ?」
め、メイド!?
がちゃりと、ドアが開いたと思ったらそこに居たのは黒くてふんわりとしたツインテールに、所謂、白と黒の少し露出のあるメイド服というやつを着た、どっかで見たことのあるような、ないような容姿をした…知らない女の人だった。
「す、すんません、家、間違えました。」
「あー!きょーすけくん、入って入って」
奥から聞こえてきた声は、間違いなく彼方さんのもの。ってことは、家はやっぱり間違ってなかったってことか?
黒髪ツインテのメイドさんはにっこりと俺の方を向いて微笑むと。
「おかえりなさいませ、ご主人様?」
「はぁ!?ゴホッゴホ!?」
そう言ってお辞儀をして出迎えてくれた。な、なんだ、このぞわぞわーって感じは!!黒猫と言い、この人と良い、ブリジットと言い、女の子ってコスプレ好きなのか?
メイドさんに連れられて部屋に入ると、彼方さんは何やら頭に鉢巻を巻いてカリカリカリと凄まじいスピードで原稿にペンを走らせていた。ちょっと待ってねー。と言いながらもペンを動かすのをやめず、シャっと最後の一コマを描き切ると、んふー。と満足そうに鼻から息を漏らして、こちらへと振り向いた。
「あ、きょーすけくん、ごめんねー、今手が離せなくって……むむむ?」
彼方さんは椅子から飛び降りて俺の方へと一息に近づくと、じろじろと俺を下から見たり、背伸びしてみたり、回り込んでみたりして舐め回すように俺を見る。
「な、なんっすか?」
「んん…ちょっと、きょーすけくん、右手をこう、ばーっと前に向けて立ってくんない?ときはなてー!みたいな!」
「は、はぁ。こうっすか?」
特に断る理由もないので、彼方さんに言われた通り、手を前へと突き出す。しかし、彼方さんだけならともかく、メイドさんもこちらを凝視しているものだから、何だか気恥ずかしくて仕方がない。彼方さんは俺のポーズをちょこちょこっと修正するとうんうん!と言って、机に向って行った。なんだかよくわからんが、モデルにされているらしい。彼方さんだけじゃなくて、メイドさんも机に座ってカリカリとペンを走らせ作業を始めた。
彼女、来栖彼方は本棚や机を見て分かる通り、漫画家さんらしい。加奈子のやつが遅れて帰ってくるのを待つ間。何度かトーンを張るのを手伝ったり、セリフに使うためなのか、単語の意味を質問されたりした。今日もそんな感じだろう。
「良いね良いね~!!じゃあじゃあ、次は顔をこーんな感じで、手は軽く顔を隠して、「ふ、闇にのまれよ」って言って~!」
「えぇ~……な、なんか流石にそれは恥ずかしいような…」
「だいじょーぶだいじょうぶ!きょーすけくん、かっこい「あーー!何やってんだよ、姉貴!」」
と、そこへ、部屋の中から現れたのは少し不機嫌な顔を作っている来栖加奈子。俺の現在担当している生徒様である。
ずんずんと俺の方へと大股で近寄ってくると、指を差したまま、1、2回と俺の胸をつついて怒る。
「お前もお前だよな!来てたんなら、すぐに加奈子の部屋に来いっての」
「ちぇー、かなちゃん最近帰ってくるのはやくなーい?私もきょーすけくんともっと触れ合いたいー!」
「ば、ばっか!べんきょーのためじゃん?」
「デュフwwだから、嘘乙www」
「あーもう!兎に角、来いよな」
「おい、引っ張るなよ」
ぐいぐいと小さなぷにぷにの手を引かれて、加奈子様の言われるがままに俺は部屋の中へと入って行くのだった。
「いや~、かなちゃんもか~」
「え?なんですか?」
「ん~、やっぱり姉妹だから好みも似るのかな?ね、ほっしー?」
「?」
しっかし、最近の加奈子様はやる気だよなぁ。今までは俺が来たところで、こいつは寄り道したり、補修させられたりで中々予定の時間に勉強を始められなかったと言うのに、3週間経った今では、このように教科書まできちんと揃えて準備だけは万端なのだ!準備だけは。
「ははは、えらいぞ~加奈子~」
「うえ!?が、ガキ扱いすんな!良いから、さっさとはじめろヨ、せんせ」
ポンポンと軽く頭を叩くと歯をむき出しにして顔を赤くする加奈子。ま、中学生ってそう言うお年頃だよな。ブリジットだったら褒めてあげたら超喜ぶのに。
「おう。んじゃ、とりあえず、この問題やってみてくれ、それで、わかんないところあったら俺に…」
「ん~わかった、わかんね!」
「ど、どういう意味だ?」
「わかんないところがあったら、せんせーを呼ぶってのはわかったけど~、1問目からわかんないんだよねww」
…こいつは…本当に。
全く悪びれた様子もなくケラケラと笑う加奈子の姿を見ていると呆れを通り越してその潔さに感服する。
「つっかさ、数学って、ぶっちゃけいらなくね?れんりつほうていしき?とかいうのって、生活で使うわけ?」
「今度のテストで使うじゃねーか。で、どの辺がわかんねーの?」
「どのへんってか…この辺?」
そう言って、ばんばんとプリント全体を手の平で叩く加奈子。
「全部じゃねーか!…はぁ、しゃーねぇ。じゃあ、一個ずつやってくか」
加奈子の学校の期末テストがあるまで残り一週間弱と言ったところだ。ところが、その肝心の加奈子の学力はと言うと…
はっきり言って、まるで成長していない…!
安西先生も真っ青な感じの成長具合だった。例えば今やっている数学。こいつは中1時代の公式も全て忘れてしまっている(てかそもそも覚えてない)からそこから教える羽目になったのだが、今作ってきたプリントが全部わからないところを見るに、その場で覚えてもすぐに忘れてしまう鳥頭タイプだ、こいつは。
とりあえず、根気よく教えてやるしかないか…
「良いか?ここで、下の式を、上の式に代入するだろう?すると…」
「…-なー?センセってー、彼女とかいんの?」
「こら…今そう言う話は関係ねーだろ、前向け、前」
「ま、居るわけないか、センセ、地味だしww」
「う、うっせーほっとけや!それより今は「え?マジでいないの?へーw」あのな…」
勉強に飽きると、加奈子はこうしてすぐに話を逸らそうとする。集中力が持つのは開始からわずか5分。そりゃ成績も悪くなるってもんだ……。
…まずいよなぁ、こんだけ勉強教えといて、全く成績上げられなかっただなんて、高い給料をもらう資格がない。せめて赤点回避できるくらいは何とか下駄履かせてやりたかったんだが…この調子じゃ1点取れるかも怪しい…この1週間で、な、何とかしねーと…!
「ただいまー…!」
夕方。結局、加奈子に碌な事を教えられないままに家に帰ってきてしまった。くそー、あいつ、本当にやる気がないからなぁ。それを何とかしないと…?
「ん?」
何やら、家の中の空気がおかしいことに気が付いた。リビングのドアを開けると、中には腕組みをした仏頂面の親父がソファの上に座っていて、ブリジットは、その対面に座って小さく縮こまって、顔を伏せている。親父は俺と目が合うと、いつも、怒ったときにする睨みを利かせてから、ブリジットに、部屋にいって反省してなさい。と声をかけた。
そして、気が付く。
ブリジットと、親父の間に挟まれた机の上には、雑誌…!?そう、ブリジットが、アルファのコスプレを着た時の写真が載った雑誌が置いてあったのだ。
「…!」
ブリジットは音もなく立ち上がると、弾けるように駆けだした。俺の顔を見もせずに横をすり抜けていく!な、泣いてる!?
「お、おいブリジット」
「京介!…座れ」
「!……」
そうだ、ブリジットの様子は気になったが、まずは、この今、直面している問題に、立ち向かわねーと。いつかは、ばれるんじゃないかとは思っていた。親父のやつは、ブリジットがコスプレ大会に出たのをどこかしらで知ったのだ。
「京介、これが何か、説明してもらおうか」
とんとんと、親父が指で叩いた雑誌には、この前の、秋葉原UDXで開かれたメルルのコスプレイベントの情報がデカデカと掲載されていた、優勝したブリジットは、当然一番大きな切抜きでどどんと名前付きで載っているわけで、言い訳が通じるものではないだろう。
「メルルの、イベント…だな」
「そうだ…大体の事情は本人から聞いた、お前が、連れて行ったそうじゃないか」
「…」
もしかしたら、ばれるかもしれない。とも思っていた。しかし、実際どうする?
親父に素直に言うべきなのか?俺が怒られるとか、殴られるのとか、そんなことはどうでもいい。しかし、今の受け答えによって、妹が、ブリジットがやりたいことをやらせてもらえないんじゃないかってのは、問題だった。
アニメを見るくらいなら、ギリギリ黙認してくれていた親父だが、コスプレとなると話は変わってくるはずだ。
「答えろ、京介。お前が連れて行ったんだな?」
「…そうだ」
親父が、ブリジットからメルルを奪うかもしれない。テレビを見るのも、グッズを集めるのも、コスプレするのも禁止されるかもしれない…。慎重に、受け答えをすすめないと…
「今日、このイベントの関係者とやらから家に電話があった。また、コスプレをしてメルルのイベントに出てくれと言うブリジットに対する、依頼の電話がな……」
「え?」
い、依頼?そうか!大会に出た時に送った電話番号。あれでばれたのか!?
「京介、お前、こういった格好をする奴らが、世間にどういった目で見られるかは知っているだろう?」
「それは…」
知っている。多くの人が、コスプレと言う趣味を冷ややかな目で見ることだろう。いや、俺だってそうだった。理解できない異形な存在。頭のネジがずれている、変なやつ。関わりたくないと、そう思っていた。
「アニメにしろ、この衣装にしろ、今はまだ良いかもしれん。ブリジットも子供だからな…」
続けて、親父はくわっと目を見開くと
「だが!だからこそ今の内にしっかりとした常識と言うものを身に着けなければならん。お前は良かれと思って連れて行ってやったのかもしれんが、それはブリジットの将来を考えていない軽率な行動だ!」
ビシャっと、冷や水をぶっかけられたように、後頭部が真っ白になった。俺がしてやったこと、それは、ブリジットのためにはならなかったって言うのか?
「こういったアニメを見るようなおかしな大人が、ウチのブリジットに目をつけないとも限らん。お前は本来、兄としてそう言った行動を嗜めるか、矯正してやるべきだったんじゃないのか、京介!」
「…で、でもよ、ブリジットはあんなにメルルのことが…」
「…俺もあのアニメを見るなとは言わん。だが、コレは別だ。ブリジットももうすぐ10になる。物事の分別くらいはつけていかねばならん。それが、躾というものだ」
「…」
コスプレを着たブリジットを指して、コレ、と呼ぶ親父の言葉に、押し黙る。
「今後、ブリジットがこう言う物を着たがったら、きちんと説明して、お前からも諭してやれ。良いな、京介?」
……最悪の結末は免れている。想定していたメルル禁止とまでは言っていないが…やっぱり、コスプレは禁止される方向に向かっている。そんなのは、
「なぁ、親父」
「なんだ?」
「確かに、ブリジットがコスプレしてこんな大会に出てたら、おかしな大人に目を付けられたりしてしまうかもしれねぇ。大きくなっても続けるかはわからねぇけど、趣味としてつづけたら、冷ややかな目で見られるのも確かだ」
「…」
携帯を取り出し、待ち受け画面を、親父に付きつけてやる。
「む…」
「けどな!見ろよ!このブリジットの笑顔をよ!ブリジットが家で大人しくめるるを見てるときだってこんな満面の笑みをうかべたことはないぜ!」
大会で優勝して、緊張しながらも、本当に嬉しそうにトロフィーを掲げるブリジットの写真を見せる。親父は、それを見てもなお、眉ひとつ動かさない…。だけど!
「あいつは、あいつは、ずっと我慢してたんだ、好きなものをやりたいことを、俺たちに遠慮してずっとずっと!
だから、例え、危ない趣味に走ろうが、妹の本当にやりたいことを手伝ってやる!認めてやる!それが、それがアニキってもんじゃないのかよ!」
「…わからんやつめ!」
「や、やめて!やめてーーー!!」
俺と親父が立ち上がって、一触即発と言う所で、聞き覚えのある、声。
そちらに振り向くと、問題となっている、そう、青いアルファオメガのコスプレを着た、金色のポニーテールを揺らした…ブリジットの姿が。
「お、おにいちゃんをいじめちゃ、い、いや!」
俺と親父の間に割って入ると、ブリジットは、震える身体で泣きながら親父にそう言った。カチカチと杖は震えているのに、目は、しっかりと親父を見ている。
「ぶ、ブリジット…」
「わ、わたしがわるいんです。だから、だからお兄ちゃんは」
「む、むぅ…」
ブリジット、お前…
「ぐ、ぐわああ」
へ?
次に起こった出来事に、俺もブリジットも一瞬驚いた。だって、あの親父が、突然大きな呻き声を出して、胸を押さえて苦しみ始めたのだから。
「お、お父さん!?」
「ど、どうやら、俺は悪い奴らに心を操られていたらしい」
「ええ!?」
ええええ!?声にこそ出さないが、俺も叫びたいくらい驚いている。
あの、あの超が付くほど真面目な親父がまさか、まさかこんな下手な演技を?
倒れ込んだ親父に駆け寄ったブリジットは、すっかり演技と言うことに気が付かず、親父の作り出した世界観にのめり込んでいる。
「だ、大丈夫だ。ブリジット、いや、アルファオメガ、…お前のおかげで、俺はどうやら善の心を取り戻した…」
「そ、そうなんですか?お、おとうさんがぶじでよかった」
「うむ」
やばい。吹き出しそうだ。しかし、今笑ったら親父に何をされるかわからないので、無理やり声を殺して、顔を引きつらせる。でもやばいって、これ。
「じゃ、じゃあ、おにいちゃんともう、けんか、しませんか?」
「うむ」
「じゃ、じゃあコスプレ大会に出ても良い!?」
「うむ……む?ま、まてまて、それは…」
「だ、だめ…ですか?」
うるうると、目を揺らすブリジットを前に
「…好きにしろ」
「お、おとうさん…う、ううん、パパ!」
「ぱ、ぱぱ!?」
ブリジットに抱き着かれると、親父は顔を真っ赤にして凄まじく照れている。マジかよ、俺が全然説得できそうになかった親父を、たった1言で…
「ぐうう、きょ、京介、お前が絶対についていてやれ。良いな」
「お…おう」
「俺は、今日は寝る。少し、何だ、悪の心のせいで疲れたからな」
親父は俺に指を指してそう言いつけると、ブリジットを引きはがして、本当に寝室の方へと向かって行った。飯も食べずに、もう寝るのか?
「あら、あなた、ご飯は?」
「いらん!」
お袋、居たのか…。ずんずんと、親父はリビングのドアを閉めて出ていってしまった。それと同時に、さっきまで親父の居たところに突っ立っていた、ブリジットとも、目が合う。
「お、おにいちゃん!」
「あ、ああ。助かったぜ、ブリジット。流石、アルファ・オメガだぜ」
「うん!」
さっきまでの泣きそうな顔はどこへ行ったのか。目元を拭って、屈託のない笑みを浮かべたブリジットは、そのまま杖を置いて俺の膝元に抱き着いてきた。
何はともあれ、これで、家でのコスプレ発覚事件は幕を閉じたのだが……
「京介、お父さんがもしもコスプレ大会に行くならこれを持って行けって」
「まじかよ、親父…」
次の日の朝、高級そうな1眼レフのカメラが俺の物となった。