俺の妹がコスプレに目覚めるわけがない!   作:雨あられ

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第9話

そう、それは運命の始まり……

 

幾度となく転生を繰り返し、輪廻の渦で導かれた魂……

 

彼の者たちは囁き合う…運命の記述(デスティニー・レコード)は改竄された……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガンダム?」

 

「えぇ、あなたも知っているであろう、あのガンダムよ」

 

オレンジ色の夕焼けを体に受けながら、俺と黒猫はいつもの公園のベンチに座っていた。

今日も今日とて、真っ黒いゴスロリ服に身を包み、赤いカラーコンタクトを入れた彼女は、普段よりも少し真剣な目をしていた気がした。

 

「じゃあ、人生相談ってのは」

 

「…有体に言えば、ガンダムの、今度あるゲーム大会で優勝することよ」

 

この黒猫。

出会ったのがゲーセンであることを考えれば大体想像つくかもしれないが、実はゲームがめちゃくちゃ上手い。漆黒の魔眼。とやらの力らしいが、要は動体視力がめちゃくちゃ良いのだ。目押しの精度が異常なほどで、何度か俺も挑んだことがあったが……コンボを決められるだけのトレーニングモードみたいなもんだった。

いや待てよ、ってことはなんで俺に相談なんだ?

 

「ふぅ、大方、私一人で出て、適当に優勝すればいいんじゃないか、と考えているようね」

 

「うっ、そりゃお前、俺よりゲームうまいじゃん」

 

「察しが悪いわね…今回のゲーム大会は2対2のタッグ戦なのよ」

 

「タッグ戦?」

 

「そう。そして、さらに不可解なことに、今回の大会は団体戦……3人以上でチームを組まないと参加できないのよ」

 

はぁと、額に手をやってため息をつく黒猫。

なるほど、それなら納得がいく。黒猫と桐乃と俺、3人でチームを組み……実際にゲームをするのはあいつら二人。んでもって、俺は、数合わせで呼ばれたってわけか。

 

「まぁ、数合わせくらいなら俺でも……」

 

「あら、何を勘違いしているのかしら?」

 

にやりと不敵な笑みを浮かべる黒猫。

ベンチから立ち上がると、夕日の光を受けながら、まるでダンスの誘いをするように手をこちらへと差し向ける。

 

「私はあなたと、タッグを組んで出場するつもりなのよ?……兄さん?」

 

「な!?……俺?」

 

「えぇ、そうよ。あなたは選ばれたの、私の隣に立つ……闇の眷属として……」

 

そういって、言葉を続ける黒猫。

……いや、しかし、わからねぇ。

 

「いやいや、俺とじゃなくて、桐乃のやつと組めばよかったんじゃねーか?俺、知っての通りそんなにゲーム上手くねーし」

 

「……ッチ」

 

こわ!!?

黒いオーラを身にまとった黒猫は何も説明してくれなかったが、その舌打ち一つで何があったのかは大体想像がつく。サルと犬ならぬ、ギャルと中二病だ。きっと俺が誘われる前に、何かひと悶着あったのだろう。想像するだけで恐ろしい。

 

「それで、兄さん。出るの?出ないの?」

 

「お前その兄さんて……まぁ良いぜ。黒猫が出たいっていうなら」

 

「ほ、本当!?」「嘘ついてどうするんだよ」

 

本当は、断ってもよかったんだが……最近何かとこの黒猫には世話になっているしな。それに、ここのところ、ブリジット関係で特に世話を焼くこともないし……。

 

「一緒に出て優勝しちまおうぜ、黒猫」

 

そういって小さな手を握手するように握ると。黒猫はピンとつま先を伸ばして顔を赤くする。

 

「そ、そうね、ええ……せいぜい足を引っ張らないでちょうだい」

 

笑顔を見せた黒猫が、つないだ手を更に強く握り返してきて、堅い握手を交わすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンダム。なんてものは、あいにくテレビCMやら、アニメ名場面集とかの特集でアムロ、いきまーす!の部分くらいしかしらない。興味もなかったし、別段、周りでそういうものを見るやつもいなかった。まぁ、ガンダムSEEDだったかのゲームは、昔、とある友人と一緒にやったことはあったが…

 

「あなたのやったことがあると言っていたのは連合VSザフトね、通称連ザ。明らかにバランスの取れていない機体もあったけれど、重厚な機械らしさが出ていたあの連ザは今でも一部で熱狂的な信者がいるわ。それに、システムや操作性は当時のシステムを派生、進化させたもの。今のVSシリーズの礎を築いたと言っても良い作品ね」

 

「へぇ、そうなのか。しかし、色んなガンダムがあるんだな」

 

「あまりじっくり見ている暇はないわ。時間制限に気をつけなさい」

 

「あ、あぁ」

 

黒猫のやつに協力をするとは言ったものの、これはなかなか難しそうだ。

俺が黒猫と出るというゲームはこの、ガンダムVSガンダムという3D格闘ゲームだった。ガンダムの主役機やライバル機など、いろいろなシリーズの作品が一堂に会したお祭りゲーだ。実際に機体をフィールド上で動かし、ビームサーベルやらライフルやらで原作のガンダムを操作して敵を倒しているような感覚を味わえるのが売りのようだが、この2対2という協力することで奥深さが出るのが受けている理由ではないかと黒猫は言っていた。

 

試合は2週間後。あまり時間がないからと、黒猫と早速特訓に来たのだが…

機体もキャラも全然わからん。

 

「ガンダムZZ(ゼットゼット)?」

 

「ガンダムZZ(ダブルゼータ)」

 

「ガンダムOO(オーオー)?」

 

「ガンダムOO(ダブルオー)よ」

 

なんでこんなややこしい読み方が多いんだ。

かしゃんかしゃんと、キャラ表示を切り替えながらざっと画面を見ているが。どれがいいのかさっぱりわからん。黒猫はなんか黒い、女がパイロットの機体を選んでいるが、うーむ、何がいいんだ?…ってあれ。このキャラ。

 

「クワトロ…バジーナ?」

 

「シャアよ」

 

「え!?こいつシャアなの?」

 

「それより時間がないわ。百式にするの?」

 

「ま、まて」

 

壮大なネタバレを食らった気がする。しかし、バジーナ…バジーナどっかで聞いたような…カシャカシャとキャラクターを選びながら何かが引っ掛かる。やべ、時間が、こうなったら、ちっとは知っているガンダムSEEDのキャラで…って!

 

『君の視線をくぎ付けにする!』

 

「うわ、時間切れちまった」

 

「…スサノオね、悪い機体ではないけれど、初心者のあなたには難しいかもしれないわ」

 

黒いクワガタが、グラサンをかけたみたいな変な機体を選んでしまった。乗ってるパイロットも、ミスターブシドーって…一体どういうキャラなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『乙女座の私には、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられない』

 

『もはや愛を超え、憎しみを超越し、宿命となった!』

 

『今日の私は阿修羅すら凌駕した存在だ!!』

 

うるせーなこいつ!

このキャラクターは、ビームボタンを押すと、射撃や格闘攻撃を強化できる機体らしいのだが、ビームボタンを押すたびに、セリフを喋る。それが、いちいちうるさいのなんの。

 

「兄さん?静かにしてちょうだい」

 

「いや、俺が言ってるわけじゃねーから!」

 

『逢いたかった……逢いたかったぞ……!!』

 

「兄さん?」

 

「だから、俺じゃなくてこいつがだな!」

 

と横で超絶テクを披露している黒猫の方をちらりと横目見ると、黒猫は冗談っぽくくすくすと笑っていて本気で言っているわけではなさそうだ。どうやら、こいつと俺の声が似ている(らしい)のでそれをネタにしているようだった。さっきまで、ゲーム画面にくぎ付けになっていたために、本気で黒猫にうるさいうるさいと言われていたのだと思った。と

 

WINと、最後だったらしいCPUを倒したことで勝利画面が表示される。ふぅと、スティックやボタンから目を離し、黒猫の方とお互い上手くいったなといった感じで目を合わせる。一番簡単なコースを選んだ一番初めの面にしろ、達成感で自然とうれしさがこみあげてくる。

 

「あなた、思ったよりも上手ね」

 

「へ、そりゃどうも。にしても、わけわかんねーかと思ったけど。結構わかりやすいな」

 

画面がごちゃごちゃしていて、見ているときはなんだかわからなかったが。やってみると意外と直感でプレイ出来て遊びやすい。

 

「そうね……まぁ、難しいことは後から覚えればいいわ。それよりも、どうかしら」

 

「どうって」

 

「その機体、難しいんじゃないかしら。初心者は素直にビームとバズーカがそろったような万能機がオススメなのだけれど」

 

「あぁ…それなんだが…もうちょっと、このキャラ使ってみるわ」

 

「そう」

 

なんかこう、五月蠅い五月蠅いと黒猫に言われながらやっていたせいもあるかもしれないが、二人で連携してプレイするのが楽しくて仕方がなかった。それにビームを掻い潜ってがきんがきんと格闘が決まった時の爽快感がやばい。

 

「それに、俺がこいつ使えば、お前の黒い機体とで黒チームになるじゃねーか」

 

「…馬鹿ね、機体の色でチーム分けしてるわけじゃないのよ」

 

呆れながらも、黒猫はなぜかうれしそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の大会ってなんか景品でも出るのか?」

 

3,4面くらいクリアしたころだろうか、WINのリザルト画面が出ている間に、黒猫にそう尋ねてみると、ピクリと、彼女の体が震える。

 

「ええ。もちろん。確か…図書券1000円分ね」

 

「ふーん」

 

すげーが、なんかいまいちピンとこないな。まぁ地元のゲーセンの大会に景品があるだけでもましなのか?

 

「あ、あとは、おまけ程度なのだけれど」

 

「ああ」

 

「で、ディ○ニーランドの……ペア招待券」

 

「っぶ」

 

……いやいやいやどう考えてもそっちのが目玉だろう!

いくらここが千葉だからって、その扱いは…って、まてよ?

 

「ぺ、ペアチケット?」

 

「ええ」

 

「……」

 

「……」

 

ステージセレクト画面のまま、固まる俺と黒猫。それって、つまりは優勝したら、私と一緒に、ディ○ニーランドに行きませんか?って言われてると思っていいんだよな?いいんだよね!?なんだか無性に恥ずかしくなってきた!!

 

「ば、馬鹿ね。ペアチケットと言っても、それぞれに授与されるのよ。つまりは3人に、1枚づつ」

 

「な、何だよそうだったのか」

 

「一体何を想像したのかしらこの雄は…、ん、それで、あなたの妹さんと、私の妹たちをつれて、どうかしらって、思ったのよ」

 

「なるほど」

 

…読めてきたぜ、なんで黒猫が、ゲーム初心者の俺を誘ってまで大会に出たがったのかを。つまりこいつは、大好きな…

 

 

大好きな妹のためにここまでがんばっているんだ!

 

 

妹をディ○○―ランドに連れていきたいというただその一心で…健気な奴だ!

 

「そうと決まったら、勝つか、黒猫」

 

「ええ、もとよりそのつもりよ、すべて、運命の記述の予定調和…」

 

ブリジットをデ○ズニ―ランドに連れて行ってやりたいのは俺も同じ。よし、勝つぜ、今度の試合。俄然、燃えてきた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だいぶ様になってきたわね。」

 

「そうか?」

 

「ええ、無駄な被弾も少ないし、コンボは…まぁこのゲームにそこまでは不要だわ」

 

3日目の昼、俺は劇的にこのゲームが上手くなっていた(気がする)、少なくとも、CPUのコースをコンティニューなく一人でクリアできるほどにはなっている。前やった事がある連ザとそこまでシステムが変わっていないことと、このうるさいスサノオが妙に俺にマッチしているからだと思う。まぁ大体は黒猫のおかげだが。曰く、俺が被弾さえしなければ、なんとかして見せるとのこと、頼もしい相棒だ。

 

「黒猫の教え方が上手いおかげかもな」

 

「ん!……ま、まぁ当然それはあるでしょうけど……ふふ」

 

「おいおい……そういや、あと一人って、どうするんだ?形なりにも3人ひとチームなんだろ。なんなら、俺の友達でも数合わせで呼ぶか?」

 

基本的に2対2のこのゲームだが、あえて、状況判断の3人目を入れることで、2対2にはない新たな高みを目指そうというのが今回の大会の趣旨らしい。要はパイロット2人とオペレーターみたいな感じにしたいらしい。黒猫曰く、居なくても問題ないとのことだが…やっぱ桐乃のやつに頼んで…。

 

「それなら……あら」

 

「へ」

 

ピピピピ!っアラート音が鳴る。画面には見たことのない、点滅する

 

『未確認機体接近中』

 

の赤い文字。どうやら、誰かが乱入してきたらしい。

 

初めての、対人戦だ。

 

ドクン、ドクンと心臓の音が大きく、早くなっていく。

 

黒猫の方は……特に焦った様子もなく、いつものようにCPUに対して一番ダメージの出る所謂デスコンというものを繰り返している。その様子は普段通りで、いくらか緊張はほぐれたが、うお、それでも緊張するぜ…

 

「なぁ、作戦とか、どうする」

 

「あなたは後ろで適当にビームチャクラでも撃っていてちょうだ……

いえ、前に出てくれるかしら?私は後ろから援護するわ」

 

「わかった」

 

そうこうしている間に、VS画面になり相手の機体が判明する。

相手はマスターガンダムか、格闘機最強クラスの機体だ。何度かCPUとなら戦ったことがあるが、俺の機体なら不用意に近よらなければ何とかなる…しかし、あのムチと火力の高い覚醒には要注意だな…そしてもう一機はCPU?

2対1でよくやるなと、身体を動かし、筐体越しに向こう側を見ると…

 

「……」

 

ゴゴゴゴゴと、黒いオーラが見えそうになっているような人物が中指を立ててこっちをガン見していた!!?

そう、それは、恐ろしいことにこの白昼堂々にゲーセンで茶色いクマさんパジャマを着ているという非常に残念なファッションセンスの持ち主の…

 

「知り合い?」

 

「い、いや、まぁ、知り合いというか…」

 

櫻井秋美(さくらいあきみ)…!俺の中学時代の……クラスメイトである。

 

 

 

 


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