「「「いっち、に〜、さ〜ん、し、ご〜」」」
「晴れた午後の運動場に響くかけ声、平和ですねぇ。」
運動場に響き渡る生徒達の元気な声、中学生らしくほのぼのとした体育の時間。
そう
「生徒の武器エモノが無ければですが…」
「八方向からナイフを正しく振れるように!!どんな体勢でもバランスを崩さない!!」
生徒達は手に対先生ナイフを握り、烏間先生の檄が飛ぶ中でナイフの素振りをしている。
ただ突っ立ってナイフを振る分には素人にも出来るが、しっかりと構えを取り八方向から振るというのは中々に難しい。
(やっぱり慣れない武器は、使いづらいな)
ナイフの扱いに苦戦をしていると真司の耳に烏間先生達の会話が聞こえた。
「この時間はどっか行ってろと言ったろう。体育の時間は今日から俺の受け持ちだ、…追い払っても無駄だろうがな。せいぜいそこの砂場で遊んでろ。」
「ひどいですよ烏間さ…烏間先生。私の体育は生徒に評判良かったのに…」
「うそつけよ殺せんせー。」
律儀に砂場に座り、砂の山を積み始めた殺せんせーに向かい菅谷がツッコむ。
「身体能力が違いすぎるんだよ。この前もさぁ…」
思い返す殺せんせーの体育の時間
『反復横跳びをやってみましょう。まずは先生が見本を見せます。』
と反復横跳びが始まったかと思えば、分身を作りながら
『まずは基本の視覚分散から、慣れてきたらあやとりも混ぜましょう。』
『『『できるかぁ!!』』』
殺せんせーは生徒達に一体何を求めているのかわからない指導をして来たのだ。
そんなこんな烏間先生就任まで続き…
「異次元すぎてね〜…」
「体育は人間の先生に教わりたいわ。」
「てか暗殺大会で殺せんせー『基本性能が違うんですよ!バーカ!バーカ!』って言ってたからスペック差あるのわかってたのにあの授業してたの?」
中村、杉野、真司が口々に呟く。
生徒の反応が予想外だったのかショックを受けた殺せんせーはしくしくと1人砂遊びを再開した。
「…やっと暗殺対象ターゲットを追い払えた。授業を続けるぞ。」
殺せんせーにだいぶ手を焼かされてるであろう烏間先生は深く息を吐く。
そこに前原が烏間先生に向かい一歩踏み出した。
「でも烏間先生こんな訓練意味あんスか?しかも当の暗殺対象ターゲットがいる前でさ。」
前原が言わんとする事はわかる。
マッハで動く殺せんせーに正しい姿勢でナイフを振れただけでどうにかなるものなのかと。
そこに烏間先生はバッサリと言い放つ。
「勉強も暗殺も同じ事だ、基礎は身につけるほど役に立つ。」
「基礎…か。」
手の中のナイフを見る。
烏間先生の言う事もわかる、真司自身も勉強ができるのは基礎が根底にあるからだ。
でもそれは人間の範疇の話、相手は埒外の怪物である。
「例えば…そうだな。磯貝君、前原君、そのナイフを俺に当ててみろ。」
「え…いいんですか?2人がかりで?」
「対先生そのナイフなら俺達人間に怪我は無い。かすりでもすれば今日の授業は終わりでいい。」
そう言うと烏間先生はネクタイを少し緩め磯貝達の前に立つ。
一方、磯貝と前原は困惑しながら構えをとる。
そして始まった模擬戦は衝撃の一言だった。
(マジかよ…)
磯貝と前原の連続攻撃を軽々と避けているだけでなく、弾き、いなし、2体1という不利を感じさせない立ち回り。
烏間先生の防御技術を見ていると白利は気づいた。
(烏間先生、ナイフしか見てない…?)
烏間先生の視線は磯貝と前原本人では無く、その手に持つナイフにしか注がれていない。
(てか、2人がナイフにしか意識を集中していない…?)
続いて攻撃側の2人を見ると、攻撃の始点であるナイフを持つ腕しか大きく動いていない。
恐らく烏間先生はこの事に気づき、ナイフの動きだけに注視しているのだろう。
(なるほど、これが基礎…攻撃の意識だけじゃ無くて相手を見る意識…か。)
「このように多少の心得があれば、素人2人のナイフ位は俺でも捌ける。」
「「くッそ!!」」
ナイフが当たらず焦った2人は単調な攻撃を繰り出してしまう。
烏間先生はそれを見逃すはずもなく、2人の腕を掴んでまとめて地面に転がした。
「俺に当たらないようでは、マッハ20の奴に当たる確率の低さがわかるだろう。さて、鷲見くんは何かを掴めたようだな?」
「えっ」
(この人捌きながらこっち見てたのかよ…)と烏間先生のスペックの高さに驚く真司。
「学びに必要なのはアウトプットだ。掴んだものを不格好でもいい、やってみる事が大切だ。」
「わかりました…」
渋々烏間先生の元へ歩いて行くと、立ち上がった磯貝と前原に肩を叩かれる。
「頑張れよ鷲見。」
「転がされても大丈夫だ、転がりトリオの末弟として迎えるぜ…」
「嬉しかねぇよ。」
流石に転がりトリオの末弟にはなりたく無いので、真剣に烏間先生に向き合い構えを取る。
「(教えた構えよりやや低重心…持ち前の脚力をどう活かすか)さぁ、いつでも来い。」
「…行きます!」
一気に踏み込み、烏間の顔に向かいナイフを突き出す
(速いな、それに簡単に崩されないように姿勢を安定させている。)
烏間は焦る事なく顔を横に動かし避け、真司の手を弾く。
対して真司は弾かれた手を打ち側に捻り烏丸の腹部にナイフを振るうが烏丸は少しだけ体を引いて躱すと真司はナイフを右斜め上に切り払う烏丸は同じ様に躱す。真司は左斜め下に切り下ろすが烏丸はそれも躱す。真司はその後も途切れること無く烏丸にナイフを振り続ける。烏丸はその攻撃を回避。または真司の手首を弾いて軌道を逸らすが真司の猛攻は一切止まらない
(烏間先生…腕も確かだが、何よりその身軽さ!鍛えられた肉体にそれを支えるスピード、両立出来るものなのか…普通?)
(躱しても弾いてもまるでなんとも無かったかの様に切り返して来る。だが、こちらが手を出す可能性もしっかりと考慮していつでも回避出来る様に最適なポジションに足を配置している。本当に何者なんだこの子は?あまりにも戦い慣れすぎている!)
素早くナイフを振るい続ける真司とそれを捌き続ける烏間先生の攻防。
真司は烏間に決定打になる一撃は振るえず、烏丸もまた真司のナイフを奪い取る隙を見つけられずにいた。
(しかし、どうにも攻撃の節々に独特の癖がある。まるで人間と言うよりもっと別の物と戦い慣れている様な)
「ッ!!」
ナイフを持った右手を烏間先生は左手で弾くと、真司の体勢が右後方に崩れる。が、
「シッ!」
軸足が左足だった事が幸いし、勢いそのままに回転切りを仕掛けるが烏間先生は腰をやや逸らし回避をする。
(先ほどと同じ胴体への横薙ぎ…では無い!?ナイフの攻撃はブラフ…!?回避を誘ったのか!)
さらに回転の勢いを増したままもう一回転し、そのまま跳躍。空中で体を捻りながら右足で烏丸の左肩にかかと落としを決める。更に左足を烏丸の右肩に乗せると烏丸の首を両足で挟んで固定。そのまま全体重を後ろにかけて烏丸を前のめりに倒そうとするが
「…え?」
烏丸は腰を落として両足と首の筋力で真司を持ちあげていた
「中々の一撃だったが…」
「うわっ!」
烏間に両足を掴まれて逆さ吊りにされると、驚きのあまりナイフを手放してしまった
逆さになったせいで体操着が腹から捲れてしまっている。
「今の技はフランケンシュタイナーだな?もう少し気づくのが遅ければ俺がやられていたよ。その調子で励みたまえ」
「…はぁい。」
降ろして貰い、真司はその場に座り込む。
あまりにも、あまりにも開いている差を思い知らされた。
「さて、鷲見君は一体何を掴んだか説明できるか?」
「磯貝と前原は『ナイフを当てる事』に集中し過ぎていたと、見ていて思いました。対して烏間先生はそれに気づきナイフにしか注視していなかった。…だから俺は烏丸先生にナイフに集中していると思い込ませてその後押さえ込んでナイフで…と。」
「よく気づいたな。2人はナイフで『殺す』ことに意識を割きすぎたが、月乃君は『殺す為の手段』を仕掛けるブラフとしてナイフを振っていた。動きを習った上でセオリーを崩すその柔軟性、今後の暗殺でも活かせる場面があるだろう。」
満足そうな烏間先生の手を取り、立たせてもらう。
「クラス全員が俺に当てられる位になれば、少なくとも暗殺の成功率は格段に上がる。ナイフや狙撃、暗殺に必要な基礎の数々、体育の時間で俺から教えさせてもらう!」
こうして烏間先生初めての体育の授業は終わった。
「お疲れ真司くん。惜しかったね。」
「有希子ちゃん。ダメだ実力差があり過ぎる。」
国から殺せんせーの事を託されていたり、暗殺の事を教える立場なのだから強いのは当然なのだが、いくらなんでも規格外すぎやしないかと思う。
人を腕力だけで持ち上げるってどんな筋力をしているのか。
「烏間先生、ちょっと怖いけどカッコいいよね。」
「わかる、無骨なカッコよさって言うか、武人って感じがする。力を誇示しない所がいいよな。」
有希子ちゃんと話しながら校舎に戻ろうと歩を進めていると、運動場を見下ろしている人物がいる事に気づく。
「渚君、久しぶり〜あれが例の殺せんせー?すっげ本トにタコみたいだ。」
「赤羽業君…ですね、今日から停学明けと聞いてました。初日から遅刻はいけませんねぇ。」
「あはは…生活リズム戻らなくて。下の名前で気安く呼んでよ、とりあえずよろしく先生!!」
「こちらこそ、楽しい1年にしていきましょう。」
カルマが差し出した手を、殺せんせーが握り返す。
瞬間、手を取った殺せんせーの触手がドロリと溶け、続けてカルマは袖から出したナイフを突き出す。
殺せんせーはナイフを避けすぐさま距離を取った。
「…へー本トに速いし本トに効くんだ対先生このナイフ、細かく切って貼ったけてみたんだけど。」
「こんな単純な『手』に引っかかったり、そこまで飛び退くなんてビビりすぎじゃね?もしかして…せんせーひょっとしてチョロい?」
その後の6時間目の小テスト中でも殺せんせーはカルマにしてやられていた。
おやつのジェラートを奪われ、取り戻そうとして対先生BB弾を踏んでしまったりと散々だった。
そんな赤羽カルマが教室から出ていく様子を真司は見つめていた。しかしその視線は軽蔑では無く哀れみの視線だった
その日の授業も終わり、真司は帰り支度をしていた。そんな時
「やぁ、どうも初めまして。転校して来た鷲見真司くんだったよね?」
赤羽が真司に話しかけて来た
「あぁ、初めまして鷲見真司だ。少し前に転校して来た。赤羽業くん、渚から話は聞いてるよ」
「そっかそっか、俺も渚くんからさっき聞いたばっかでさ。ちょっと話してみたくなったんだ〜♪あっ俺のことはカルマって呼んでいいよ?」
「じゃあ俺のことも真司と呼んでくれ。改めてよろしく、カルマ」
「うん、よろしく真司くん」
そんな感じにカルマと交流を重ねる。そのままカルマとは途中まで帰ることになり。道すがら話をしながら歩く。途中で渚が本校舎の生徒2人に絡まれていたところをカルマが助けたりとちょっとしたトラブルがありながらも渚が加わった所で真司がカルマと渚に声をかける
「カルマ、渚。この後、時間ある?」
「え?真司くん?僕は大丈夫だよ?」
「俺も問題無いよ〜」
「じゃあ少し付き合ってくれ。近くに良い喫茶店があるんだ」
2人は真司の後に続き歩き続ける。しばらくすると花鶏の看板が見えて来た
「ここだよ。俺のお気に入りの店だ」
「へ〜。こんなところに喫茶店なんてあったんだ。でも、蔦とかがすごいね」
「俺も初めて来たな〜。こっちには来たこと無かったからさ」
「俺の知り合いがやってる店なんだ。味は保証するからさ」
そんなことを話しながら真司達3人は花鶏の扉を開ける
カランカラン
「いらっしゃいませ!あ、真司くん!また来てくれたんだ!」
「こんにちは、優衣さん。今日はクラスメイトを連れて来たよ。こちら、この店のオーナーの姪っ子さんで神崎優衣さん。で、こっちがクラスメイトの潮田渚と赤羽業」
「初めまして、潮田渚です」
「赤羽業です。お姉さんよろしくね〜」
「初めまして、神崎優衣です。さっ座って」
真司達3人はカウンター席に座り、優衣はカウンターの中に戻る
「ご注文は何にしますか?」
「俺はいつものオリジナルブレンドで。2人はどうする?」
「えっと。じゃあ、僕も真司くんと同じのを」
「俺も同じのでお願い。でもさお姉さん、喫茶店なのにメニューにコーヒーがひとつも無いんだけど」
「叔母さんのこだわりでね。紅茶しか置いてないんだ」
「でもその分、紅茶は他の店とは一味違うから。一度飲んでみたら分かるよ」
そんな会話をかわしながら紅茶を待つ
「にしても随分と年季が入った建物だね〜。外からみたらまるでお化け屋敷みたいじゃん」
「カ、カルマくん!流石に失礼だよ‼︎」
「大丈夫だよ、渚くん。私もそう思ってるから」
「え?そうなんですか?」
「うん。それにしても真司くんが有希子ちゃん以外の友達を連れて来るなんてね」
「有希子ちゃん?もしかして神崎有希子?そう言えばお姉さんの苗字も神崎だったよね?もしかして姉妹とか?」
「あ、そう言えば!」
「ううん。有希子ちゃんとは親戚とかでも無いから。ただの偶然だよ」
「にしてもさ、クラスのマドンナの神崎さんが男子と喫茶店に来るなんて。これはちょっとしたスキャンダルじゃない?」
カルマはニヤニヤと笑いながら真司の方を見る。
「まあ、確かに有希子ちゃんは可愛いよ。性格もお淑やかだし。でも、俺は彼女をそう言う風に見たことは無いかな?有希子ちゃんと知り合ったのも偶々塾でペアを組んだからだし」
「なーんだつまんないの。もっと狼狽えると思ったのにさ〜」
「カルマくん!流石にからかい過ぎだよ⁉︎真司くんもそんな正直に答えなくても...」
「?渚、何を言ってるんだ?有希子ちゃんが素晴らしい女性なのは確かだろ?それを褒めて何か問題があるのか?」
「おぉ、なんか恥ずかしがってた僕の方が恥ずかしい///」
渚は顔を赤くして下を向いてしまう。縮こまると中性的な顔と小柄な体格も相まって女の子にしか見えない。カルマはそんな渚をニヤニヤしながら携帯の写真に撮っている。そんな話をしている内に優衣がカウンターに紅茶のカップを差し出した
「はい、お待たせしました。花鶏のオリジナルブレンドです。こっちはサービスのバタークッキーだよ」
「あ、ありがとうございます。良いんですか?クッキーまで貰っちゃって?」
「良いの、良いの。真司くんの友達なんだから。これくらいサービスさせてよ」
「へぇー。紅茶ってあんまり頼んだこと無いけど。香りが凄い爽やかだねー」
「だから言ったろ。一味違うって、味も保証するから飲んでみて」
「いただきます。っ、すごい紅茶ってこんな美味しかったんだ‼︎」
「うん。余計な雑味が全く無いね。アムっ、ズズッ。っ‼︎へー、確かに美味いね。クッキーとも合うし、紅茶も捨てたもんじゃ無いな」
「ふふっ、ありがとう。そう言ってもらえるのが1番嬉しいよ。おかわり欲しかったら言ってね」
(渚もカルマも優衣さんの紅茶とクッキーを気に入った様だ。やはり自分の好きな物が褒められるのは嬉しい物だな)
そんな2人の声をbgmにしながら真司は紅茶とクッキーを楽しむのだった
「はぁ〜、美味しかった〜。僕、こんなに紅茶で満足したの初めてだよ」
「うん。これは確かに来る価値があるね。クッキーとの相性も良いし」
「優衣さん。ごちそうさまでした。いつもありがとうございます」
「えへへ。こっちこそありがとう。私も真司くんが友達連れて来てくれて嬉しかったよ」
「じゃあ、そろそろ帰ろうか。お姉さん、お代いくら?」
「あ、良いよ。無料で」
「え?でもこんなに美味しい紅茶なのに。それにクッキーまで貰っちゃって」
「良いの、良いの。子供の内は甘えときなって」
「良いの〜?そんなこと言うんだったら。俺、しょっちゅう来ちゃうけど〜?こんな良いとこ知ったらね〜」
「ふふっ。別に構わないよ。真司くんの紹介した子達なら信用出来るし」
「なっ。う〜ん、調子狂うな。まあ、またその内来させてもらうよ。優衣お姉さん」
「あははは、カルマくんがタジタジだよ。僕もまた来ますね、優衣さん!このお店、気に入りました!」
「ありがとうね。今まで真司くんと有希子ちゃんくらいしか歳の近い子。来なかったから、私も嬉しいんだ♪」
「歳が近いって。優衣さん、いくつなんですか?」
「え?私?19だけど」
「「....」」
「あははは...」
「?」
優衣の年齢が自分達と対して変わらないことに驚く渚とカルマ。そんな2人に苦笑いを浮かべる真司。首を傾げる優衣。なんとも微妙な時間が流れていた。その後、やはりお金を払おうとしても優衣には受け取ってもらえず。3人は花鶏を後にして帰路に着いた
感想、評価お待ちしております。アンケートにもご協力お願いします。
真司のヒロインは誰が良い?(律は物理的に無理なので除外)
-
神崎有希子
-
茅野カエデ
-
岡野ひなた
-
倉橋陽菜乃
-
片岡メグ
-
狭間綺羅々
-
矢田桃花
-
原寿美鈴
-
速水凛香
-
不破優月
-
奥田愛美
-
中村莉桜