出発信仰!   作:もちもち物質@布団

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キャンペーンガール*1

「町?」

「ええ。ポルタナの北西には、少し大きな町があります」

 澪の頭の中には、『そっか、この世界ってポルタナだけじゃないんだもんなー』と至極当たり前なことが浮かんでいた。そう。世界は広いのだ。ポルタナはこじんまりとしているが……町、ともなると、もっと大勢の人が居るのだろう。人を探すにはもってこいだ。

「前回得たドラゴン皮や他の素材を売ってお金にする必要もありますし、そもそも、ミオ様のお召し物などが必要なのではないかと」

 澪は言われてようやく『あっ、そういや着替えの類、もうちょっと欲しいなあ』と思い出した。今は教会の倉庫にあったものを着用しているが、着替えが然程無い上、靴のサイズは微妙に合っていない。確かに、着替えがちゃんと欲しい。

「確かに。他の町の様子、見てみたい。もし、他の聖女がどういう風にやってるかとか、分かれば参考になるだろうし……うん、是非、町に行ってみたい!」

 そして何より、この世界のことは早めに知っておきたかった。

 この先、ナビスに信仰心を集めていくとなると、信者を巡って他の聖女との争いにもなりかねない。先手を打てるように、情報は必要だ。

「では、二日ほど留守にすることになるでしょうか。その間はシベッドに村の守りを頼んでいくとして……うーん、今晩にでもすぐ、村に念のため、魔除けを行ってから出発しましょう。明日の出発にしましょうか」

 ナビスは嬉々として計画を立てているが……澪は一瞬、聞き捨てならないことを聞いたような気がして確認する。

「えっ、ちょっと待ってナビス。町までって、泊まりになるの?」

 ナビスは、『二日ほど留守にする』と言った。そう。二日、である。

 澪が妙な緊張と共にナビスの返答を待つと……ナビスはきょとん、として答えてくれた。

「はい。最寄りの町までは半日以上かかりますし、街道も然程整備されていませんから……」

 ……澪は、思った。

 いつか、インフラ整備もしたい。やるべきことは、山積みである!

 

 

 

 その日の夜、澪とナビスはまた、礼拝式を開いた。信仰心をまた集めるためだけではなく、今回手に入った宝石の類やゴブリンロードの牙といったものを村人達に見せ、そして、これからの方針を話して聞かせるための会でもある。

「鉱山の地下1階が解放されました。これでまた、鉄や水晶を採ることができるはずです!」

 ナビスの言葉に、村人達は大いに歓声を上げた。取り戻されて行く村の機能を喜び、期待に胸を躍らせて、村人達の盛り上がりは中々のものである。

「そこで、明日は早速、町へ出向いて鉱夫の募集を掛けてこようかと思います。人が戻れば村の機能も増えていくかと……」

 村人達はまた歓声を上げる。そのついでに誰かが『ナビス様はー!?』と声を上げた。それに合わせて『さいこーう!』とまた誰かが声を上げる。……非常に学習能力の高い村人達に、澪は思わず満面の笑みである。ナビスは恥ずかしがっていたが。

「もし必要なものがあれば、教えてください。町へ行くついでに買い出しも行ってまいります。それから、私が不在の間の村の安全を願って、魔除けを施していきます。皆も共に祈ってくださいね」

 ナビスの言葉に、村人達は『買い出しにも行ってくださるのか!』『ならそろそろ小麦をお願いしたいなあ』といった囁きを交わし、『ヨシ!祈るぞ!』『ナビス様はやっぱり最高だ!』と笑顔になる。

「では、ミオ様。お願いします」

「えっ私!?」

 そして急に振られた澪は、大いに慌てた。『どうぞ』と聖銀のラッパを差し出されて受け取ってしまったが、本当に澪でいいのだろうか。

「あの、ナビスが歌った方がいいんじゃ……?」

「私の歌でも魔除けは行えますが、きっとミオ様のラッパの方が、より広く魔除けを届けることができますので」

 澪としては、信仰心をナビスに集めるためにもナビスが歌った方がよいのではないかと思った。だが、ナビスが『お願いします!』と目を輝かせているのを見たら、反論などできない。

 仕方なく、数回唇を震わせて準備をして……澪は、聖銀のラッパを吹き鳴らし始めるのだった。

 

 ラッパの音は高らかに夜空に響き渡る。涼やかな海の風と、満天の星。そこに広がるラッパの音に、澪は何とも言えない満足感を得た。

 当然ながら、澪の世界では夜にトランペットの演奏などできない。こういう風に屋外で演奏することも、まず無い。風と星、そして人々に囲まれた演奏を終えて、澪はその余韻を味わい……それから、鳴り響く拍手に、戸惑う。

「いやあ、いい音だったよ!」

「成程なあ、ラッパはミオさんが吹いてたんだな!」

「ナビス様の力をラッパに乗せて、魔を祓ってくれてるのかな?」

 人々の態度は、極めて好意的である。澪が少々戸惑っていると、ナビスがにこにことやってきて、澪の手を取って『ありがとうございます。とても綺麗です』と喜ぶ。

 ポルタナの夜は、澪のラッパによって生じた光の玉に彩られる。金色の光が地面から湧き上がっては、ぽわ、と浮き上がり、ふわふわと夜空を彩って、やがて消えていく。

 鉱山ダンジョンの中で見た光景だったが、それが地上で行われると、また何とも綺麗なのだ。澪は自分が起こした現象だということも忘れて、『きれーい……』と目を瞠った。

 しばらく、村人達も澪もナビスも、皆で魔除けの光を見つめていた。

 

 その後も礼拝式は恙なく進んだ。

 式は、澪が最初に見た礼拝式よりは、鉱山地上部を攻略した後の祭りの時に近い様子だった。

 要は、皆が楽しみ、騒ぎ、喜び合うための式なのである。

 澪の魔除けに盛り上がった村人達は、続いたナビスの歌にまた盛大な拍手を送り、澪の扇動によって『ナビス!ナビス!』と歓声を上げることになる。

 そして皆が共に祈った。『ポルタナがこれから発展していくように』と。

 ……澪とナビスが感じている希望を、村の皆も、感じているらしい。皆の表情は明るく、見ている澪もナビスも、なんとも幸せな気分になった。

 

 

 

 そうして賑やかな礼拝式が終わった、翌日。

「よーし、ドラゴン皮オーケー。テスタおじいちゃんが作ってくれたコボルドの牙細工も詰めた。あと、アクセサリーたくさん!これもオーケー!」

 澪が背負う荷物は、前回と今回の戦果の一部である。

 魔物の牙や爪はテスタ老に加工してもらってから売った方が良い値になるとのことなので、加工が終わったものだけ持って行く。ドラゴンの皮は、村の中で加工するより大きな町の職人に預けてしまった方が良いとのことで、これはこのまま町へ持って行く。

 そして今回手に入れた宝石の類は、既に加工されているアクセサリーの一部だけを持って行くことにした。

 ……というのも、宝石は何かと使い道があるから、とのことである。加工してから売ることもできるし、道具の材料になることもあるらしい。一方、装飾品の形になってしまっているものは、澪が見て『これはナビスに似合いそう!』と思われるもの以外全てを売却してしまう予定である。

「それに、皆からのお買い物リストもオーケー!準備万端!」

「では早速参りましょう!」

 2人は早速、ポルタナの村を出発する。

 空は青く澄み渡り、太陽の光は眩しく、そして、雲がはっきりとした形をしている。夏の空の下、やや強い風にさわさわと揺れる草を踏みしめながら、2人は歩き出すのだった。

 

 町までは、ひたすら歩く。とにかく、歩く。荷物を運ぶために馬を1頭借りてきているが、それだけである。

 それでも然程辛くないのは、この世界の夏が然程暑くないことと、周りの景色が美しいからだろうか。

「うわー、綺麗」

 ポルタナの村から町へ向かう道は、緩やかな丘陵地帯だ。風に揺れる緑の草が波のように揺れて光って、それがどこまでも続いている。遠くには森らしい木々の茂みや山の姿が見えていた。

「……ところでこのあたり、一応道はあるんだね」

「ええ。かつては鉱物の輸送に使っていましたから」

 丘陵の間を縫うように、土が踏み固められた道がある。澪とナビスは今、そこを歩いているわけなのだが……『かつて』人通りがあった道、と言うのが相応しいような道ではある。要は、舗装されているわけでもなく、整備すら行き届いていない有様なのである。

 だが、ただ歩いて進んでいく分には、然程困らない。固い土の感触を靴の裏に感じながら、澪は楽しく歩いていく。

 

 道沿いに生えている大きな木の下で休憩を取り、また歩き、また程よい所で休憩し……そして夕方。

「ではこのあたりで野営しましょう」

「野宿かあー。まあ、それも楽しいよね」

 2人は野原で野宿することになった。

 

 

 

 小さなテントを張り、その傍で焚火を起こす。

 ぱちぱち、と枯れ枝が爆ぜる音がなんとも心地よい。夜風は柔らかく涼やかに、澪とナビスの髪を靡かせていく。

 そんな2人は焚火に向かい、小さな鍋で干し肉や野草を煮てスープを作ったり、パンを香ばしく焼き直したりして食事を摂っている。

 澪の認識では、これはキャンプである。『大自然の中で食べるキャンプ飯、いいねえ』とのんびり空を見上げれば、そこに輝く数多の星の美しさにため息が漏れる。

「本当なら、このあたりに宿場があるとよいのですが」

「まあ、人の行き来が増えてきたら流石にこれは不便だよねえ」

 ……が、今後のポルタナのことを考えると、キャンプを喜んでばかりもいられない。交通が不便だと、どうしても人の行き来が減る。人が行き来しないと、ナビスの信者を増やすのが大変なのだ。そのあたりを考えると、いずれはこのあたりのインフラ整備にも手を付けていくべきかもしれない。

「ひとまずは、この行き来の不便さを取ってでも鉱夫をやってくれる人を探さなきゃいけないんだよね……」

「そうですね。ポルタナの鉄と水晶の質の良さは有名ですから、ある程度は、人が来てくれると思うのですが……」

 明日のことを思うと、多少、心配ではある。

 戦利品を売ることも、村人達に頼まれたものを買うのも目的の内だが、一番の目的はやはり、鉱夫探しなのだ。

「……やっぱり、人を探すのって難しいよねえ。えーと、具体的にはどうやるんだろ」

「ギルドで依頼すれば、募集が人の目に付きますから。ギルドの食堂などで直接声をかけることもできるでしょうが、そちらはあまり期待できませんね」

「まあ、うん。直接声をかけるってなったら、とにかく数を稼がなきゃいけなくなるよね……」

 ナビスの話を聞く限り、求人広告のようなものを出すことはできそうだが、それだけではあまりに不安である。最悪の場合、1人も鉱夫が来ないかもしれない。

 それでは困るのだ。鉱山を開発してポルタナを発展させてほしいのもそうだが、何よりもまず、できる限り多くの人にナビスの信者となってもらいたい。人が要る。早急に、人が要るのである。

 そんな中で、求人広告への応募をのんびり待つのは少々、受け身に過ぎる気がした。また、ナビスの言うように1人1人に声をかけていくのも、10人足らずで心が折れる気がする。

 ……と、考えていた澪だったが。

「待てよ?つまり、人がいっぱい集まってるところに声かけすれば効率的なんじゃないかな」

 ふと気付いてしまい……次第に表情が明るくなっていく。

「求人を見てもらうだけじゃ、いつ人が集まるか分からない。もっと積極的にやるにしても、1人1人に声をかけていくんじゃ効率が悪い。つまり……大勢の人を集めて、そこで観衆に向けて一気に募集を掛けよう」

「え?……えっ?」

 澪がわくわくし始める一方、ナビスは首を傾げていたが……澪はにっこり笑って、言った。

「ということで、ナビス。街頭ライブやろう!」

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