出発信仰!   作:もちもち物質@布団

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原始の祈り*5

 ……スケルトンに無理をしてもらうよりは、こっちの方がいいだろう。ということで、澪とナビスは鉱夫達に相談してみることにした。

 のだが。

「というわけなんだけれど、骨と一緒の職場はやっぱ嫌?」

「ちょ、ちょっと待ってくれミオちゃん!なんだって!?なんかとんでもねえ話が出てこなかったか!?」

「えーと、スケルトンが最近交換日記始めたってとこ?まあなー、骨だし、元々鉱夫のおにーちゃんだった人達が可愛い交換日記してるってなったら、なんか驚くよね」

「いやいやいやいやその前!その前から!全部!」

 ……鉱夫達は、混乱した。

 当然といえば、当然である。

 

「……まあ、そういうわけで、あの鉱山地下3階にいるスケルトンの皆さんって、元々鉱夫だったホネホネボーンらしいんだよね」

「ほねほねぼーん」

「うん。まあ、そういうわけで、多分和解したものの、彼らには聖銀が採掘できないから、鉱夫のおにーさん達にも地下3階に入ってもらうのがいいかなー、って思ったんだけど」

 澪は一通り説明した。説明した結果、鉱夫達は最早、呆気に取られて何も言えなくなっている。

 ……これが、世間一般の感覚なのかもしれない。とすると、ナビスは順応が早い方だったのだろう。流石は強くて可愛い最高の聖女様である。

「えーと……その、スケルトンを働かせとくと、何かいいことがあるのかい?人手が足りないってんなら、メルカッタでまだ募集してみりゃ応募があるだろうし、それで足りなきゃ、レギナにでもカステルミアにでも話を持ってきゃいいだろ?」

「そうそう。何も、わざわざスケルトンを働かせなくても……」

 鉱夫達の反応は、芳しくない。彼らは元々戦士であり、魔物と戦うことを生業としてきた。それだけに、魔物が理性ある友好的な存在となって共に働く、ということには、抵抗があるのだろう。

「……彼らは、ポルタナの民なのです」

 だが、ナビスは尚も言葉を続ける。

「彼らを救済することは、私にとって悲願でもあります。……まさか、こういう風に救済できることになるとは、思ってもみませんでしたが」

 これは、ナビスにとっても大切なことなのだ。だって、ナビスはポルタナを救いたい。ナビスが救いたいポルタナの中には、過去のポルタナ……そこで死んでいった人々もまた、含まれるのである。

 未来を切り開いていくと同時に、過去を見捨てることはしない。仕方のなかったことだったとしても、諦めずに済む方法があれば、当然、それを選びたいのである。

「もし、皆さんがスケルトン達と共に働けないようでしたら、区画を分けようかと思います。或いは、鉱山地下4階を早急に攻略し、スケルトン達にはそこで採掘を行ってもらうか……」

「お、おお……しかし、地下4階ってえと、流石にナビス様とミオちゃんでも厳しいんじゃないのかい?」

「ええ、恐らくはそうでしょう。厳しいと思います。ですが……」

 地下4階の攻略、となると、流石に容易ではないだろう。何せ、地下4階は大分昔に閉鎖された階層だ。地下3階までとは、まるで異なる領域の話になってくる。

 だが、そうしてでも、澪とナビスはスケルトン達を諦めたくない。

 救えそうな人達を救うために、限界まで、手を伸ばし続けたいのだ。

「ねえ、お願い!私達、それでも諦めたくないんだよ。お酒と串焼き肉を楽しんだり、採掘の歌に合わせてつるはし振るってたり、ナビスの歌に合わせてカタカタ鳴ったり……そういうスケルトンとなら、共存できるって信じてる!」

 澪が声を上げれば、鉱夫達は顔を見合わせた。

 彼らの顔にあるのは困惑だ。同時に、『何を言っているんだ』というような、理解できないものへの嫌悪も混じっているのかもしれない。

 澪は不安になる。ナビスもまた、不安そうな顔をしている。

 だが、2人は退かないまま、じっと鉱夫達を見つめて……。

 

「……わーった。そのスケルトンってのは、本当に、安全なんだろうな?」

 やがて、鉱夫の1人がそう言った。

「俺は参加してもいい。ナビス様とミオちゃんには、戦士仲間を救われた恩があるからな。……他に参加してもいいって奴が居たら、集めとく」

 

 

 

「……ありがとう!ありがとう!」

 澪は思わず、鉱夫に飛びついた。

「ありがとうございます!ああ、嬉しい!」

 そしてナビスも飛びついた。これには鉱夫もびっくりである。

 だが、この喜びはどうにも止められない。……だって、かつて澪とナビスがやってきたことが今、信頼という形を成して、ここで澪とナビスを助けてくれたのだから。

 自分達がやってきたことが実を結ぶ瞬間というのは、いつだって嬉しいものなのだ。

「嬉しい……ああ、これで彼らを本当の意味で救うことができるのかもしれません!」

「ね!浄化しちゃってハイお終い、なんて、そんな無責任なこと、私もしたくなかったんだー!」

 びっくりした鉱夫を囲んで、澪とナビスはぴょこぴょこ飛び跳ねる。……そうしていると、やがて、びっくりから戻ってきた鉱夫は、にやり、と笑って胸を張る。

「ま、聖銀が採れるようになったら、安く俺達にも卸してくれるだろ?そうしたら憧れの聖銀の剣も買えるかもしれねえしな!」

「あー、そりゃ確かに魅力的な話かあ……」

「うむ。聖銀の剣は、全ての戦士の憧れ……」

 元々戦士達は、明日の命の保証も無い者達だった。魔物と戦うのは常に危険と隣り合わせだ。だからこそ、彼らは非常に勇敢であって、そして、勇敢をよしとする風潮の中に生きている。

 元々戦士である鉱夫達とは、『聖銀が採れる』という点において利が一致するらしい。彼らにとって、最高の剣が『聖銀の剣』なのだから無理もない。

「ま、そういう訳だ。その骨んとこにはいつから行けばいい?明日か?」

「ええ。明日……明日の朝に、顔合わせを、してみましょう。それで、可能であればそのまま、地下3階での勤務をお願いします」

「明日は1日、私達も地下3階に居るからさ!よろしく!」

 まとまった話は、澪とナビスを笑顔にした。鉱夫達も『まあ、聖銀の為だし……』『骨ってのも、まあ、言ってみれば俺達の先輩らしいし……』『変な骨、見てみたい気もする……』と、徐々に乗り気になってきた。

 ……もし、これで上手くいくようなら、スケルトン達と人間の共存の道が拓ける。もしかすると、スケルトンが人間の商店で買い物をしたり、人間と同じ卓で飲み食いしたりする日が来るのかもしれない……。

 

 

 

 そうして翌日。

「……こいつはたまげた」

 鉱夫達が唖然とする目の前で、スケルトン達が『かんげい!』と書かれた旗を振っていたのであった。

 

 それからは、非常に話が早かった。

 人間よりもスケルトンの方が積極的に働くものだから、人間の鉱夫達もつられて働くようになる。

 夜光石はスケルトンが掘り進め、そして聖銀が出てきたら、人間の鉱夫達と交代する。聖銀鉱石を目の前にした鉱夫達は歓声を上げた。そしてその興奮のままに作業を進めていけば、スケルトン達からは『元気のいい働き者の後輩たちが入ってきたものだ』というように好評を博した。

 ……勿論、一緒に仕事をし始めたとはいえ、人間の鉱夫達からしてみればスケルトンは不気味で恐ろしい魔物である。うっかり、振り向いた時にスケルトンが居たりすると悲鳴が上がることもままある。今も『びっくりした!』と半泣きになりながら駆け回る鉱夫を、おろおろしたスケルトン達が宥めているところだ。

 そうして、人間とスケルトンの共存が垣間見えると同時、人間とスケルトンの壁もが、はっきりとしていく。

 澪とナビスは初めからずっと、スケルトン達に好意的であった。びっくりすることがあっても、それを態度に出すことはしなかった。

 それだけに、今の鉱夫達の反応は、スケルトン達を少々しょんぼりさせてもいた。……だが、これはこれで、よかったのだろう。『自分、魔物なんだった!』と自覚し、自身がホネホネボーンであることを受容していくことは、スケルトン達の理性をまた一歩、前へと進める。

 実際、今まで多少靄がかかったようであった動作が、はっきりとしてきた。現実を突きつけられて、自覚して、そうして初めて、本当の意味で動き出せる。……裏を返せば、それができるほどに、今のスケルトン達は理性的ということなのだろう。自らの現状に絶望するだけでなく、その上で動こうとしているのだから。

 

 ……そうして、夕方まで人間とスケルトンの共同作業は続いた。

「ミオ様。そろそろです」

「了解!」

 そわそわと楽しそうなナビスに促されて、澪は合図のラッパを吹く。『終業!』と知らせる力強いラッパは、スケルトンや人間の鉱夫達の作業を止めさせる。

 そして作業が終わったなら、次はお楽しみの時間だ。

「皆ー!今日も一日、お疲れ様!」

 澪が声を張り上げれば、これがすっかりおなじみとなったスケルトン達は、カラカラカラ、と体を鳴らして答えてくれる。これにも人間の鉱夫達はびっくりしていたが。

「じゃあ皆、準備はいいかなー!?」

 更に、カラカラカラ、と骨が鳴る。拳を突き上げるスケルトン達に合わせて、人間の鉱夫達も、『お、おー……?』と返事をして……。

 ……そこから、澪が太鼓を鳴らし始める。途端にスケルトン達はノリのいいオーディエンスと化して、カラカラカラ、カラカラカラ、とリズミカルに鳴りながら体を揺らし始める。

 この不思議な光景を前に、人間の鉱夫達はすっかり戸惑っていたが、戸惑ってばかりも居られない。

 だって、ナビスの歌が始まる。

 ナビスの歌と澪の太鼓は、原始の祈りだ。『どうか楽しくあれ!』という、至極単純で、ずっと昔から皆が祈ってきたもの。

 それだけに、人間の鉱夫達が順応するのも早かった。ノリノリのスケルトン達につられるようにして音楽を楽しみ始め、そして、じきに彼らもスケルトンに混じって盛り上がっていく。

 音楽の力は、偉大なのだ。古来から人々の娯楽であって儀式でもあった音楽は、やはり、偉大なのである。

 

 そうして澪とナビスの地下ライブが終わる頃には、戦士達はスケルトン達とそれなりに打ち解けていた。

 同じものを楽しみ、同じものを好きでいてくれる相手を警戒し続けては居られない。『聖女様のライブ、いいよね!』という共通の趣味を持つ同士である彼らの間には、今朝のような壁はもう、無かった。

 

 

 +

 

 

 今目の前にある光景は、ついこの間まで望むことすらできなかった光景だ。

 今のポルタナは、かつて栄えていた頃の繁栄を取り戻しつつあるし、かつてのポルタナ以上の懐の広さと発展の可能性を持ってもいる。

 聖銀が産出するようになり……そして、魔物とも、心を通わせられるほどになった。

「ミオ様」

 そんな光景を見つめて、ナビスはそっと、恐々と、零す。

「……世界中で、こうなればいいな、と、思ってしまいました。救えなかったはずのものを、私達なら、救えるかもしれない、と」

 

 大それたことを、と思う。極めて傲慢だ、とも。

『自分達になら救えるものがある』というのは、今居る、他の聖女達を否定することでもある。こんな、ちっぽけなポルタナすら1人で守れなかったナビスが、そんな傲慢なことを言うなど、きっと許されない。

 ……だが、ミオならきっと、許してくれるのだろうとも、思うのだ。

 そう、信じている。

「……なら、さあ。本当に、目指しちゃう?」

 そしてやっぱり、ミオはそう言って、にや、と笑うのだ。

「世界のてっぺん。目指してみない?それでさ……」

 ミオの笑みは、野心的でもあり、悪戯っぽくもあり……そしてどこまでも、優しい。

「……全員、幸せになれるといいよねえ」

「……はい!」

 奇跡のようなことだって、きっと、起こせる。だって現に、ここでは起こせた。

 ここにあるような奇跡を、他でも起こしたい。望む者がいる限り、世界中の、救われぬものを救って、そして……皆、幸せに、なれたらいい。

 それが聖女の務めであり、ナビス個人の願いでもある。

 

「さーて、明日から忙しくなるぞー」

 ミオは、ぐぐ、と伸びをしてその背を更に伸ばしつつそう言って……伸びから戻ってくると同時、太陽のような笑みを浮かべる。明るくて、希望に満ちて……ナビスもまた、希望に燃え始める。

「ええ。聖銀が産出するようになったとなれば、いよいよ世界中の鍛冶師を呼び集めなければ。炉を増設することも考えなければならないかもしれませんね」

「うん!それに、近海の魔除けもバッチリやって、お魚だけでもしっかり食料供給源にしたい!」

 やらねばならないことは、沢山ある。波を超えた先にあるのは波だ。果てが無いようにも見える道程が、ナビスの前に延びている。

 だが、それが楽しい。不思議と、楽しいと思えるのだ。

「それに……いよいよ、他の都市に進出、かな!」

「はい!頑張ります!」

 困難な道が楽しく思えるのは、ナビスと共に歩んでくれるミオが居るから。彼女とならば、きっと、どんな波も越えて行けるだろうと、ナビスは笑う。

 

「じゃあ、まずは周辺の村興しから!」

「はい!……え?」

 ……ほら。また、ミオは突拍子もないことを言う。そして、それが楽しいのだ。

 ミオは次にどんな案を出してくるのだろう。ナビスは、わくわくそわそわと待つ。

 話し始めるミオも、それを聞くナビスも、共に、希望に瞳を輝かせていた。

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