出発信仰!   作:もちもち物質@布団

61 / 61
信者争奪戦*6

 町へ出てみると、未だ、人々は『魔物襲来』の報を聞いていないのか、然程慌てていなかった。一部の者が慌てていても、『でもうちには聖女様が7人も居るし』と落ち着いたものである。……確かに、聖女が7人もいる町となれば、難攻不落ぶりは間違いないだろう。納得の安心感である。

 だが、澪もナビスも焦っている。

 それは、『絶対に何かある』と確信しているからだ。

 

 2人の予想は当たっていたようだ。町の外へ向かって走っていくにつれて、慌てている人が増えていく。

 また、町の外からは何やら、魔物の唸り声や叫びが聞こえてくるのである。……どう考えても、まずい。

 多分そうだろうなあ、と思いながら澪とナビスが門まで走っていけば、そこで衛兵達が『今外に出るのは危険です!』と止めにかかってくる。彼らの表情にもまた、焦りが見られた。

「いいえ、通してください!私はポルタナの聖女ナビス!お力添えいたします!」

 だがナビスは退かない。澪もナビスの隣に立って、衛兵達に笑いかける。

「ま、そういうこと。だから通して」

 安心してね、という意図を以てして向けた笑顔は、しかし、衛兵達の困惑によって受け止められた。

「し、しかし、門はすぐに閉めるように、と伝令が……」

 そして彼らは、しどろもどろにそう、答えるのだ。……その様子を見て、澪は、ピンときた。

「ふーん。それ、誰から?聖女トゥリシア様?」

「え?ええ……」

「そっか。なら大丈夫。私達が出たらすぐ、門閉めちゃっていいから」

 へーきへーき、と澪が尚も明るく笑いかければ、衛兵達は『ここまで言うなら大丈夫だろう』と、安堵の表情を見せる。その一方、澪とナビスは内心で表情が引き締まるような思いだったが、その内心は、わずかに開いてもらえた門を通り抜けてしまうまで、表情に出さなかった。

 

「……マルちゃんと、もう1人だっけ。あの人達が出たら閉めろ、って、命令が出てたんだよね?」

「ええ。『聖女達の力を信じて、町への被害を最小限に留める処置』としては、間違いのないことです。しかし……『聖女達の退路を断ち、魔物が蠢く中に取り残されるよう仕向ける』という策だとも、言えます」

 澪とナビスはそれぞれ緊張に表情を引き締めて、背後で閉まる門の音を聞く。

 ……そして。

「ま、とりあえず広範囲の魔除けも、私達にかかればイッパツ、ってね!」

「はい!まずは魔除けを行いましょう!」

 澪とナビスはそれぞれに、ラッパや聖水を取り出したのであった。

 ……2人の目の前には、ゴブリンの群れが居る。

 

 

 

 澪が高らかに聖銀のラッパを吹き鳴らすと、たちまちの内にゴブリン達が苦しみだし、そして、ナビスが施した魔除けによって、魔物は皆、浄化されて消えていく。

 辺りには、澪とナビスによる魔除けの光がほわほわと浮かぶようになり、たちまち、魔物達が怯む様子が分かった。

「よし、じゃ、残りも片付けていこっか!」

「はい!右は私が!左をお願いします!」

「オッケー!任せて!」

 ナビスが剣を抜き、澪がナイフを抜いて……2人はそれぞれに、魔除けの光に耐えて生き残っているゴブリンロードへと襲い掛かっていく。

 鉱山地下1階で倒した相手だ。特に戸惑いも躊躇いも無く、澪はどすり、とゴブリンロードの心臓を一撃でやってみせた。

 一方、ナビスは多少、苦戦していたかもしれない。間合いを取って、慎重に剣を構え、じりじりと見合っていた。そして、ゴブリンロードが隙を見せたその瞬間、一気に突っ込んでいって喉を刺し貫く。更に、1体目を片付けた澪が加勢してしまえば、こちらも一丁上がりだ。

「よーし!とりあえず門のすぐそばは大丈夫かな。後は……」

 ナイフに付着した血を払いつつ、澪は周囲を見回して……そして、向こうの方から聞き覚えのある声のようなものを聞く。

「……あっちの方、かな?」

「ええ。そのようです。急ぎましょう!」

 そうして澪とナビスは、恐らく聖女マルガリートが戦っているであろう方に向けて、また走っていくのであった。

 

 

 

 そうして澪とナビスが辿り着いた先にあったのは……酷い光景であった。

 幾多のゴブリンの死体。そして、傷つき気絶しているのであろう7人目の聖女と、その聖女の傍らで錫杖を手に、ゴブリンを睨んでいる聖女マルガリート。傍らで、傷を負いながらも凛々しく剣と槍を構えているのは、彼女らの勇者だろう。

 ……だが、明らかに、劣勢である。彼らを取り囲むのは、ゴブリンの死体でもあり……その先に更に控えている、複数のゴブリンロード達なのだから。

「マルちゃん!助けに来たよ!」

 だから、そこへ澪は飛び込んでいく。

 聖女マルガリートも、勇者達も、驚いたように澪とナビスを見たが、迷うことなく、澪はマルガリートを守る位置に立つ。

「ナビス!すぐ、癒しの術使える?」

「ええ、お任せください!」

 そして、ナビスはすぐ、倒れた7人目の聖女の傍に膝をつき、彼女の為に祈り始めた。ナビスの体が淡く金色に輝いて、信仰心が神の力へと変わり、聖女を癒していく。

 これなら大丈夫だろう。澪は安堵の息を吐きつつ、ドラゴン牙のナイフを構える。

 だが。

「な、何を仰るの!?助けなど不要よ!邪魔しないで!」

 聖女マルガリートは、半ば混乱しながらではあったが、そう、言った。

「いや絶対要るでしょ!この状況!マルちゃんと勇者さん達だけじゃ、どうにもできないんじゃない?」

 澪はすかさず反論したが……ふと、マルガリートの表情の中に、困惑だけでなく、怯えのようなものを見つける。

「し、しかし……」

 尚も迷うマルガリートに、澪は、笑いかけた。

「大丈夫だよ、マルちゃん。私達、上手くやるからさ。マルちゃんの支持が落ちるようなことには、絶対にさせない」

「えっ」

 顔を上げたマルガリートは、ふと、縋るような目で澪を見る。気の強そうな彼女には似つかわしくない表情だが、澪はそんなこと、気にしない。

「ね?信じて?」

 澪が手を差し出せば、隣から、ナビスも手を差し出す。

「マルガリート様。もしよろしければ、今後とも友好関係であれるよう、望んでおります」

 ナビスの表情は、優しくありながら凛々しく、美しい。

「さあ。共にこの状況を打破しましょう!」

 

 マルガリートは暫し、迷っていた。

 だが。

「……助力感謝致しますわ、聖女ナビス様、勇者ミオ様!」

 すぐに意を決したらしい彼女はそう言うと、傷つき汚れた姿でも尚凛々しく美しく、ぴしり、と一礼してみせた。

「私、聖女マルガリート・スカラ!貴女方に、祈りを捧げます!」

 そして彼女はそう言うと……辺りに、ふわり、と光の波が広がったのである。

 

 

 

 光の波は、マルガリートの性格に似つかわしくないかもしれない。それほどに、優しく、温かい。

 ……だが、この光の波のような優しさや温かさこそが、マルガリートの本来の心根なのかもしれない、とも思わされた。

「……なんか力が湧いてくるような」

「ええ、ミオ様!参りましょう!」

 光の波を浴びた澪とナビスは、そのまま、ゴブリンロード達へと走っていく。

 そして。

「えっなにこれ!?私、強くない!?」

 すぱっ、と、ナイフの一振りで、ゴブリンロードの腕を、斬り落とせてしまった。澪は『あれっ!?なんかおかしくない!?もしかしてこのゴブリン、骨なし加工済みだった!?』と焦るが、断面を見るとちゃんと骨がある。成程。おかしいのはゴブリンロードではなく澪であるらしい。

「ミオ様!これがマルガリート様のお力なのです!」

「こんなんなるもんなの!?」

「ええ!マルガリート様は私よりずっと、強化の術がお得意でいらっしゃいますから!」

 ナビスの方も、すぱんすぱんと凄まじい速度でゴブリンロードを薙ぎ倒している。……ナビスの見た目とのギャップが、すごい。

 だが、このいっそ現実味が無いほどの戦闘力が、澪とナビスの士気をより一層高めた。

「すごい!これすごい!マルちゃーん!これすごいよー!いけるよー!」

「そ、その『マルちゃん』というのは何なんですの!?」

 本来ならば、間違いなく苦戦するであろう相手と数だったが、澪もナビスも、悠々と戦っている。これはマルちゃん様様だ!と澪は歌いだしたいような気分で、次々にゴブリンロードを屠っていく。

「わ、我々も……」

「いや、おにーさん達は休んでて!」

「ええ!この後にも軍勢が来ないとも限りません!あなた方は、マルガリート様とパディエーラ様の護衛を!」

 ……だがやはり、勇者達が傷つき休養を必要としている様子を見ると、どうも、マルちゃん様様であると同時に、ナビス様様なのだろうなあ、とも、澪は思う。

 今、澪を強化している物はマルガリートの術であり、同時に、ナビスが集めた信仰心による神の力の強化である。

 そんな澪は、他の勇者よりも悠々と、戦えている。……つまり。

「ナビスってすごいんだねえ……」

「えっ!?あの、ミオ様、どうなさいましたか!?」

 ナビスって、すごいのである。他の聖女達に引けを取らない、すごい聖女なのである!

 

 

 

 そうしてゴブリンロードは、あっさりと片付いた。

 だが、ゴブリンロードを片付けて少しすると、マルガリートの術が解けたらしい。急に体が重くなるような感覚に、澪もナビスも驚く。

「うわ、プールから出た時の感覚だ……」

「術で体が軽かった分、術が解けると反動が来ますね……」

 2人は『体が重いー』とやりつつも、まったくの無傷でマルガリート達の元へと戻る。

「……そ、その、聖女ナビス、勇者ミオ。あなた方の御助力で、この窮地を脱することができましたこと、お礼申し上げますわ」

「いいっていいって。こっちこそ、ありがとね。マルちゃんのおかげで戦うの、大分楽になったよー」

「助け合うのが聖女の務めですから。どうか、お気になさらず」

 少々気まずげなマルガリートに2人で笑いかけると、マルガリートは少々、戸惑うような様子で、もじ、としていたが……。

「さて、マルちゃん。そろそろ態勢、立て直そっか」

 澪がそう声を掛けると、きょとん、としてマルガリートは澪を見つめる。

「だって、聖女トゥリシアが何かしてることは間違いないっしょ?これ、このままここに居てもいいことないんじゃない?」

 澪の言葉に、マルガリートははっとした。

 ……そう。ここはまだ、聖女トゥリシアの掌の上。ここでマルガリート達が魔物に殺される未来は回避できたが、それまででしかない。

「ほら、マルちゃんってさ、『ただ無事』だけで済ます気、なさそーじゃん?」

 そして澪は、思うのだ。『多分、マルちゃんってこういうの許さないタイプでしょ』と。

 

「……そうね」

 案の定、マルガリートは、にっ、と、高慢な笑みを浮かべた。魔物に囲まれていた時の怯えなど、最早欠片たりとも見当たらない。

「してくださったことへの意趣返しくらいは、して差し上げなくては失礼にあたりますわね!」

 凛として、復讐に燃える聖女マルガリートは、澪に『あっこれこれ!これでこそマルちゃん!』と安心感をもたらしたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

頭脳と異能に筋肉で勝利するデスゲーム<Ⅱ>(作者:もちもち物質@布団)(オリジナルファンタジー/コメディ)

あのデスゲームに、使命を背負ったバカが帰ってきた!▼これは、参加者が異能と頭脳を駆使して、時に裏切り、時に争い、そして殺し合うデスゲーム。だが、このゲームは今回も、筋肉バカによって破壊されていく運命にあるのだった!▼しかし悪魔の罠は、既にバカを捕えていたのである……!▼この話は、頭脳も異能も、そして時間さえもぶっ飛ばして勝利するバカと愉快な仲間達の話です。▼…


総合評価:1851/評価:9.07/連載:156話/更新日時:2026年05月24日(日) 20:20 小説情報

没落令嬢の悪党賛歌(作者:もちもち物質@布団)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

成金貴族の令嬢ヴァイオリアは、婚約者でもある王子の暗殺未遂容疑を掛けられてしまう。更に屋敷は燃え、家族の行方は知れず、更に王子からは婚約破棄を言い渡されて全てを失った。▼その結果、色々ぶっ飛んだ没落令嬢が爆誕。倫理と道徳とお上品さを置き去りに、自分を陥れた貴族達に復讐することを決意。数々の犯罪行為に手を染めながら、明るく楽しくぶっ飛びつつ、裏社会を突き進んで…


総合評価:924/評価:8.52/完結:178話/更新日時:2026年07月15日(水) 23:20 小説情報

ディストピアのネット友達が優秀すぎる(作者:名無しのペロリスト)(オリジナルSF/文芸)

ディストピア世界に転生した、元オタクOLは絶望した。▼飯がクソ不味いだけでなく、前世にあったサブカルチャーが絶滅していたのだ。▼それに都市に貢献しない者を生かしておくほど、アバシリシティは甘くない。▼だからと言って過酷な労働はしたくはないので、せめて身の回りの環境を改善するために仮想空間で色々していると、何故か上級市民のお嬢様がログインしてきて──。


総合評価:4168/評価:8.55/完結:28話/更新日時:2026年06月07日(日) 00:00 小説情報

【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~(作者:パンダプリン)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

女神さまにハズレ扱いされた俺は、ラスボスの魔王が超高難易度で有名なとあるゲームの世界へ転生させられてしまった。▼スキルはダンジョンマスター。種族は魔族。どう見ても主人公側ではなく、敵側としてだ……。▼途方に暮れていたところ、明らかに格上の存在と出会ってしまったが、あなたが魔王……?▼勇者たちを倒したはいいけど、部下もダンジョンも失ってやる気がない……?▼俺、…


総合評価:1258/評価:8.17/連載:249話/更新日時:2026年07月16日(木) 17:50 小説情報

カスレアクロニクル(作者:すばみずる)(オリジナル現代/コメディ)

【平日更新中:昼12時】▼カスレアのカードの精霊が出てくる話。▼かつてカードゲームを愛好していた主人公は、生活苦から手持ちのカードを売ろうとしていた。そんな時、相棒だと思っていたポンコツ美少女カードが突如として実体化してしまい、彼の腐っていた人生が動き始める。▼待ち構えるのは合法ロリ店長や腹黒聖女、厄介な常連客たちとろくでなしの精霊たち。▼ラブコメじみたドタ…


総合評価:4102/評価:8.73/連載:183話/更新日時:2026年07月16日(木) 12:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>