勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜 作:といα
平穏は、脅かされてこそ価値を理解できる。
幸せは簡単に、人を縛り付ける呪いへ変わる。
「元気でね‥‥‥アベルっ」
彼女の涙が、脳裏に焼き付いて離れない。ふとした時に、思い出す事になるだろう。
過去の平穏と幸せは、無意識に何度も噛み締めてしまうものだ。
「待ってセリカっ‥‥‥セリカぁぁぁぁぁ!!!」
6歳の少年なら、尚更だ。
自分の無力を嘆き、苦しむ。
それでも、人生は始まったばかり。
ポッカリと空いた心の隙間に、悲しみが入り込んでくる。
「くそっ‥‥‥なんで、こんな事にっ‥‥‥!!」
この顛末は‥‥‥ある場所から始まった。
平穏は壊され、幸せが過ぎ去っていったのは‥‥‥彼女が好きだった場所。
「ゔぁッ‥‥‥!!?」
燃えるように熱くなる、左肩。
少年は蹲り、何度も地べたを這いずる。
襟元からは、微かに赤くなった包帯を覗かせている。
「ーーー辛いよな。到底、受け入れられないよな」
少年の耳に届くのは、見下ろしてくる男の声。
「この世界は、強い奴が全てを奪っていく。それが真実だ、少年」
その言葉は、少年の境遇を代弁しているようだった。
「強い奴が‥‥‥全てをっ‥‥‥」
少年は前を向く。
うつ伏せに寝たままの状態で、去っていた彼女を追いかけるように手を伸ばす。
すると、男は何も言わずに歩いていく。彼女が去っていった方へ、淡々と。
「強く、なるんだっ‥‥‥誰にも奪われないように、誰よりも強くッ‥‥‥!!」
少年は決意する。
去っていった、最愛の少女。
「ぼくは絶対っ、君のもとまでッ‥‥‥!!!」
その隣に立つために、自分の人生を懸ける覚悟を。
「い、く‥‥‥」
全ては、あの場所から始まった。
◆◇◆◇
広大なノヴァリア大陸。
そこから南にある孤島‥‥‥魔大陸。
ノヴァリア大陸では人間やエルフ、獣人族など様々な種族が共存し、多くの国が形成されている。
文化の違いは当然あるが、お互いの生命を最低限尊重している。
「この世界は魔王様のものだァァァァ!!!」
だが、魔大陸は違った。
ゴブリンやオークなどの魔物、そして魔族。
その大多数が魔王を崇拝し、認めない他の生物は決して許さない。皆殺しにしてでも、反対する勢力は消す。
その集団を、魔王軍と呼ぶ。目的意識の無い野良の魔物も、しばしば現れはするが。
「昨日はいなかったのに、どうしてっ!!」
そして、魔王の力か世界の神秘か。
魔物はノヴァリア大陸の各方面で出現する。その方法は、明らかになっていない。
それは大陸の北側に位置する、アストリア王国でも同じだった。
「ーーー痴れ者が」
王国側は当然、魔王軍の侵略を許さない。
アストリア王国は、戦う力を有する軍を所有している。
「あ、あの紋章はっ!!」
「王国騎士団だっ!! 助けに来てくれたぞ!!」
そして王国屈指の実力者で構成された、王国軍の上澄み‥‥‥アストリア王国騎士団。
「さすが団長だな。そう思うだろ、ハーティア」
「‥‥‥ああ、そうだな」
力には力。
力で支配してくるものには、力で迎え撃つ。
実力主義の群雄割拠。そんな時代が長く続いていた。
ーーーだが、それを知らない者は当然いる。
戦う事も、争いも知らない、純粋無垢な子どもたち。
「待ってよセリカ〜!」
「もう、遅いよアベル〜!」
小さな森の近くにある、孤児院。
そこで暮らす少年少女は、何も知らなかった。
利己的な争いも、魔王軍の侵略も。
そして、平穏や幸せは簡単に壊れていくことも。
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