勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜   作:といα

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第10話 責任を

 冒険者ギルド、『エルトリンデ』本部。

 ギルド長室。

 

「周囲の反応と証言から、どちらが悪いかは既に理解している。君たちのことは当然罰しない」

 

 椅子に座る、ギルド長ファーバ。彼はそう結論付けた。

 

「ノールさんっ」

 

 机を挟んで対面に座るアベルは、隣に座るノールを見つめて安堵する。

 

「君、確か名前はアベルだったね。ここへ呼び出したのは、君についてだ」

 

「え、あ、はい‥‥‥」

 

 アベルは声が上擦る。

 冒険者ギルドという、大きな建物を運営する相手に見つめられて。

 

「あれほど体格差があるにも関わらず、相手を蹴り飛ばしたという君の身体強化術‥‥‥正直言って驚いた。ノール君、この子は何歳だね」

 

「まだ9歳です。私も初めて会ったときは、本当に驚きました」

 

 ノールは一人称を私に変え、丁寧に返事をする。

 

「9歳、か‥‥‥確かに君や仲間たちが、この子を冒険者に推す気持ちは分かる」

 

 ファーバは両腕を組みながら、アベルをじっと見つめていた。

 

「しかしこの子は、あまりにも幼い。B級冒険者の君と共に任務へ向かうのは、無謀ではないかね」

 

 ファーバの言い分は最もだった。

 どれだけ力があったとしても、アベルは9歳の子供。背も当然低いし、身体も小さい。

 

「それに何より、この子の力に対する執着。9歳の魔力総量と身体強化術ではない」

 

 ファーバが、一息付いて目を細める。

 

「はっきり言って‥‥‥異常だ」

 

「っ」

 

 アベルは息を詰まり、胸が苦しくなる。大人の意見と視線が、怖い。

 

「ギルド長のお気持ちは、もちろん分かります。ですが私たちがアベルを見つけた時、彼は1人で森にいました。それも武器も一切持たず、服もただの布」

 

 だが、ノールが真正面から対峙する。少しの気後れも無く、はっきりと見つめ返す。

 そして、アベルは彼を見続けていた。

 

(あの日、ノールさんたちと出会えて良かった‥‥‥)

 

 魔物初討伐の達成感と、ノールたちとの出会い。アベルは目頭が熱くなるのを感じながら、鼻を啜(すす)ってノールを見つめる。

 

「魔力の身体強化だけで、D級相当のウェアウルフを討伐していたのです」

 

「ウェアウルフを? この子がたった1人で‥‥‥なんということだ」

 

「そして、アベル自身もまだ満足していないんです。彼はフィーアに言っていました。『強くなりたいから魔術を教えてください』と」

 

 ノールの声は真剣そのものだった。その態度と口調から、一切の邪念が感じられない。

 

「ノールさん‥‥‥」

 

 アベルは無意識に声を漏らす。自分のために、ここまでしてくれている事が本当に嬉しかった。

 

「‥‥‥なあ、アベル君。既に9歳の域を超えている君が、まだ強さを求める理由は何だね。並外れた理由じゃないはすだ」

 

 ファーバが前のめりに座り直して、両手を重ねて握り締める。ギルド長である彼の圧は、ノールですら冷や汗をかくほどだった。

 

「‥‥‥それは、言えません。言いたくありません」

 

 その圧は当然アベルも感じていたが、深呼吸をして言葉を返す。

 強くなる事と、王立学院への入学が脳裏をよぎる。

 

 

      『セリカと、もう一度会いたい』

 

 

 そしてこの誓いを、初めて会った相手に知られたくなかった。

 

「でも、僕はもっと強くなって、自分でお金を稼げるようになりたい。願いを叶えるためには、止まっていられません」

 

「それは虫が良すぎではないかね? もし君が力の使い道を誤ったり、暴虐の限りを尽くすようになったりしたら?」

 

 またしても、ファーバの言い分は最もだった。性根が分からない子どもに、力を貸す義理は無いと。

 

「ノールくん。君はこの子の目的が何か知っているのか?」

 

「いえ。全ては知りません」

 

「それなのに、この子を助けるというのか」

 

 ファーバの追求は厳しく、鋭い。

 

「ーーーいいえ。支え合います」

 

 だが、ノールは少しも引かない。

 

「どうして、そこまで信じられる。この子の目的は完全には知らないのだろう?」

 

 ファーバの追及が飛ぶ。

 

「アベルの目を見れば分かります」

 

 ノールは即答した。

 

「話せないのは悪い目的ではなく、覚悟を持っているから。気軽に話せば、その気持ちがブレるからだと俺は思ってます」

 

 その言葉は、ファーバの目を見開かせる。

 そしてアベルは、息をするのを忘れてノールを見つめた。自分を信じてくれる、彼の事を。

 

「ギルド長。ここにアベルを連れてきたのは、俺です」

 

 ノールが言葉を続ける。

 ファーバが何も言わず見つめていたため、ノールは心置きなく話す。

 

「アベルの人柄、境遇‥‥‥それらを知った上で、俺はここに連れてきた。だから彼の責任は‥‥‥全て俺の責任です」

 

「ノールさんっ‥‥‥」

 

 アベルは思わず名前を呼ぶが、彼の話は終わらない。

 

「俺が、責任を持って育てます。もしアベルが道を踏み外したら‥‥‥俺が全て背負います」

 

 ノールは堂々と宣言した。

 

「ノールさんっ‥‥‥!」

 

 アベルは嬉しさのあまり、涙が溢れていた。

 自分を信じてくれる事が、ここまで嬉しいとは思ってなかった。

 

「そうか‥‥‥覚悟は分かった。じゃあ、なぜこの子をここまで信じられる」

 

「それは‥‥‥昔の自分を思い出したからです。力だけで這いあがろうとした自分を‥‥‥まあ、ここまで極端では無かったですけどね」

 

 ファーバの質問に対し、ノールは苦笑いを浮かべて声を漏らした。アベルは彼の言葉を強く噛み締め、下を向いた。

 

「‥‥‥そうか。確かに、昔の君に少し似ているかもしれないな」

 

 ファーバはどこか嬉しそうに笑う。そして、机の引き出しから書類を取り出す。

 

「この子が‥‥‥君のように成長してくれることを祈る」

 

 アベルの前に置かれたそれは‥‥‥冒険者認定試験の要項だった。アベルとノールは、互いの顔を見つめる。

 

「やったなアベル!!」

 

「うんっ!!」

 

 アベルは両手を出して、ノールと叩き合う。

 そんな2人に対し、ファーバが水を差すように咳をした。

 

「‥‥‥まだ決まったわけじゃないぞ。試験に合格して、ちゃんと周囲に認められるんだ」

 

「ーーーはいっ!!」

 

 アベルは、今日一番の笑顔で返事した。

 

 

 そして2人は、ギルド長室を後にする。

 

「ファーバさんとは、昔からの知り合いなの?」

 

「‥‥‥そうだな」

 

 躊躇なく質問すると、ノールが苦笑いを浮かべる。珍しく歯切れの悪い反応に、アベルは首を傾げる。

 

「昔のノールさんかぁ‥‥‥知りたいなぁ」

 

「この話やめよっか!?」

 

 二人は楽しく(?)会話しつつ、廊下を歩き出した。

 

 

 

 それから数日後。

 ギルド本部で開催された、冒険者認定試験。

 

「なにこの成績‥‥‥極端だわ」

 

 B級冒険者フィーアが、声を漏らしながら試験の結果を眺める。

 

 

       受験者アベル‥‥‥合格。

         そして、詳細。

 

 

「知識はまあ、詰め込んだだけだから仕方ねえだろ。でも9歳で、この点数は普通取れねえぜ。魔力の身体強化の所なんて、ほぼ満点だしな」

 

 C級冒険者バンギネスが、両手を組みながら話す。

 

「色々話したい事はあるだろうけど、最初に言うことがあるだろ。アベル‥‥‥試験合格おめでとう!」

 

 そしてB級冒険者ノールがニカッと笑い、嬉しそうに言い放った。

 

「アベル、おめでと!!」

 

「‥‥‥認めるしかねえな」

 

 フィーアとバンギネスも、それぞれ別々に言葉を贈る。三人の視線は、認定試験に合格した金髪少年へ集まっている。

 

「みんな‥‥‥本当に、ありがとう!」

 

 アベルは涙を流すも、満面の笑みを見せる。

 誰かに褒められた事が久々で、慣れない嬉しさが込み上げる。

 

「まだF級で駆け出し冒険者だけど、これからもよろしくおねがいしますっ!」

 

 こうしてアベルは‥‥‥冒険者ギルド『エルトリンデ』史上、最年少冒険者となった。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 アストリア城。

 

「お前と同じ年で、しかも最年少。ふっ、よかったじゃないか似たような奴がいて。なあ?」

 

 第二王子、ジーク・アストリア。

 彼がわざとらしい声を出す。

 

「‥‥‥私には関係ない事です。そんな記事、心底どうでもいい」

 

 そして‥‥‥素っ気なく言葉を返して、外へ出ていく少女。

 

「何が勇者よ‥‥‥」

 

 彼女は鏡に映った自分を睨んだ後、窓の外を眺めて目を細めた。

 そして懐には‥‥‥青薔薇の栞が入っていた。

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