勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜 作:といα
冒険者ギルド、『エルトリンデ』本部。
ギルド長室。
「周囲の反応と証言から、どちらが悪いかは既に理解している。君たちのことは当然罰しない」
椅子に座る、ギルド長ファーバ。彼はそう結論付けた。
「ノールさんっ」
机を挟んで対面に座るアベルは、隣に座るノールを見つめて安堵する。
「君、確か名前はアベルだったね。ここへ呼び出したのは、君についてだ」
「え、あ、はい‥‥‥」
アベルは声が上擦る。
冒険者ギルドという、大きな建物を運営する相手に見つめられて。
「あれほど体格差があるにも関わらず、相手を蹴り飛ばしたという君の身体強化術‥‥‥正直言って驚いた。ノール君、この子は何歳だね」
「まだ9歳です。私も初めて会ったときは、本当に驚きました」
ノールは一人称を私に変え、丁寧に返事をする。
「9歳、か‥‥‥確かに君や仲間たちが、この子を冒険者に推す気持ちは分かる」
ファーバは両腕を組みながら、アベルをじっと見つめていた。
「しかしこの子は、あまりにも幼い。B級冒険者の君と共に任務へ向かうのは、無謀ではないかね」
ファーバの言い分は最もだった。
どれだけ力があったとしても、アベルは9歳の子供。背も当然低いし、身体も小さい。
「それに何より、この子の力に対する執着。9歳の魔力総量と身体強化術ではない」
ファーバが、一息付いて目を細める。
「はっきり言って‥‥‥異常だ」
「っ」
アベルは息を詰まり、胸が苦しくなる。大人の意見と視線が、怖い。
「ギルド長のお気持ちは、もちろん分かります。ですが私たちがアベルを見つけた時、彼は1人で森にいました。それも武器も一切持たず、服もただの布」
だが、ノールが真正面から対峙する。少しの気後れも無く、はっきりと見つめ返す。
そして、アベルは彼を見続けていた。
(あの日、ノールさんたちと出会えて良かった‥‥‥)
魔物初討伐の達成感と、ノールたちとの出会い。アベルは目頭が熱くなるのを感じながら、鼻を啜(すす)ってノールを見つめる。
「魔力の身体強化だけで、D級相当のウェアウルフを討伐していたのです」
「ウェアウルフを? この子がたった1人で‥‥‥なんということだ」
「そして、アベル自身もまだ満足していないんです。彼はフィーアに言っていました。『強くなりたいから魔術を教えてください』と」
ノールの声は真剣そのものだった。その態度と口調から、一切の邪念が感じられない。
「ノールさん‥‥‥」
アベルは無意識に声を漏らす。自分のために、ここまでしてくれている事が本当に嬉しかった。
「‥‥‥なあ、アベル君。既に9歳の域を超えている君が、まだ強さを求める理由は何だね。並外れた理由じゃないはすだ」
ファーバが前のめりに座り直して、両手を重ねて握り締める。ギルド長である彼の圧は、ノールですら冷や汗をかくほどだった。
「‥‥‥それは、言えません。言いたくありません」
その圧は当然アベルも感じていたが、深呼吸をして言葉を返す。
強くなる事と、王立学院への入学が脳裏をよぎる。
『セリカと、もう一度会いたい』
そしてこの誓いを、初めて会った相手に知られたくなかった。
「でも、僕はもっと強くなって、自分でお金を稼げるようになりたい。願いを叶えるためには、止まっていられません」
「それは虫が良すぎではないかね? もし君が力の使い道を誤ったり、暴虐の限りを尽くすようになったりしたら?」
またしても、ファーバの言い分は最もだった。性根が分からない子どもに、力を貸す義理は無いと。
「ノールくん。君はこの子の目的が何か知っているのか?」
「いえ。全ては知りません」
「それなのに、この子を助けるというのか」
ファーバの追求は厳しく、鋭い。
「ーーーいいえ。支え合います」
だが、ノールは少しも引かない。
「どうして、そこまで信じられる。この子の目的は完全には知らないのだろう?」
ファーバの追及が飛ぶ。
「アベルの目を見れば分かります」
ノールは即答した。
「話せないのは悪い目的ではなく、覚悟を持っているから。気軽に話せば、その気持ちがブレるからだと俺は思ってます」
その言葉は、ファーバの目を見開かせる。
そしてアベルは、息をするのを忘れてノールを見つめた。自分を信じてくれる、彼の事を。
「ギルド長。ここにアベルを連れてきたのは、俺です」
ノールが言葉を続ける。
ファーバが何も言わず見つめていたため、ノールは心置きなく話す。
「アベルの人柄、境遇‥‥‥それらを知った上で、俺はここに連れてきた。だから彼の責任は‥‥‥全て俺の責任です」
「ノールさんっ‥‥‥」
アベルは思わず名前を呼ぶが、彼の話は終わらない。
「俺が、責任を持って育てます。もしアベルが道を踏み外したら‥‥‥俺が全て背負います」
ノールは堂々と宣言した。
「ノールさんっ‥‥‥!」
アベルは嬉しさのあまり、涙が溢れていた。
自分を信じてくれる事が、ここまで嬉しいとは思ってなかった。
「そうか‥‥‥覚悟は分かった。じゃあ、なぜこの子をここまで信じられる」
「それは‥‥‥昔の自分を思い出したからです。力だけで這いあがろうとした自分を‥‥‥まあ、ここまで極端では無かったですけどね」
ファーバの質問に対し、ノールは苦笑いを浮かべて声を漏らした。アベルは彼の言葉を強く噛み締め、下を向いた。
「‥‥‥そうか。確かに、昔の君に少し似ているかもしれないな」
ファーバはどこか嬉しそうに笑う。そして、机の引き出しから書類を取り出す。
「この子が‥‥‥君のように成長してくれることを祈る」
アベルの前に置かれたそれは‥‥‥冒険者認定試験の要項だった。アベルとノールは、互いの顔を見つめる。
「やったなアベル!!」
「うんっ!!」
アベルは両手を出して、ノールと叩き合う。
そんな2人に対し、ファーバが水を差すように咳をした。
「‥‥‥まだ決まったわけじゃないぞ。試験に合格して、ちゃんと周囲に認められるんだ」
「ーーーはいっ!!」
アベルは、今日一番の笑顔で返事した。
そして2人は、ギルド長室を後にする。
「ファーバさんとは、昔からの知り合いなの?」
「‥‥‥そうだな」
躊躇なく質問すると、ノールが苦笑いを浮かべる。珍しく歯切れの悪い反応に、アベルは首を傾げる。
「昔のノールさんかぁ‥‥‥知りたいなぁ」
「この話やめよっか!?」
二人は楽しく(?)会話しつつ、廊下を歩き出した。
それから数日後。
ギルド本部で開催された、冒険者認定試験。
「なにこの成績‥‥‥極端だわ」
B級冒険者フィーアが、声を漏らしながら試験の結果を眺める。
受験者アベル‥‥‥合格。
そして、詳細。
「知識はまあ、詰め込んだだけだから仕方ねえだろ。でも9歳で、この点数は普通取れねえぜ。魔力の身体強化の所なんて、ほぼ満点だしな」
C級冒険者バンギネスが、両手を組みながら話す。
「色々話したい事はあるだろうけど、最初に言うことがあるだろ。アベル‥‥‥試験合格おめでとう!」
そしてB級冒険者ノールがニカッと笑い、嬉しそうに言い放った。
「アベル、おめでと!!」
「‥‥‥認めるしかねえな」
フィーアとバンギネスも、それぞれ別々に言葉を贈る。三人の視線は、認定試験に合格した金髪少年へ集まっている。
「みんな‥‥‥本当に、ありがとう!」
アベルは涙を流すも、満面の笑みを見せる。
誰かに褒められた事が久々で、慣れない嬉しさが込み上げる。
「まだF級で駆け出し冒険者だけど、これからもよろしくおねがいしますっ!」
こうしてアベルは‥‥‥冒険者ギルド『エルトリンデ』史上、最年少冒険者となった。
◆◇◆◇
アストリア城。
「お前と同じ年で、しかも最年少。ふっ、よかったじゃないか似たような奴がいて。なあ?」
第二王子、ジーク・アストリア。
彼がわざとらしい声を出す。
「‥‥‥私には関係ない事です。そんな記事、心底どうでもいい」
そして‥‥‥素っ気なく言葉を返して、外へ出ていく少女。
「何が勇者よ‥‥‥」
彼女は鏡に映った自分を睨んだ後、窓の外を眺めて目を細めた。
そして懐には‥‥‥青薔薇の栞が入っていた。